す いかん ない にゅ うと うねん えき 腫瘍。 和漢朗詠集

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す いかん ない にゅ うと うねん えき 腫瘍

『和漢朗詠集』(わかんろうえいしゅう)は、藤原公任撰の歌集。 国風文化の流れを受けて編纂された。 上下二巻で構成。 その名の通り和歌216首と漢詩588詩(日本人の作ったものも含む)の合計804首が収められている。 和歌の作者で最も多いのはの26首、漢詩ではの135詩である。 『』にならった構成で、上巻に春夏秋冬の四季の歌、下巻に雑歌を入れている。 — 「」より。 出典による註:漢詩について、底本では、平仮名による訓み下しと白文とを併記するが、本ファイルでは、この間に漢字仮名まじりの訓読文を加えた。 和漢朗詠集 上巻 春 立春 ( りつしゆん ) かぜをおひてひそかにひらくはうひのときをまたず、 はるをむかへてたちまちへんずまさにうろのおんをこひねがはんとす。 吹 ( かぜ )を 逐 ( お )ひて 潛 ( ひそ )かに 開 ( ひら )く 芳菲 ( はうひ )の 候 ( とき )を 待 ( ま )たず、 春 ( はる )を 迎 ( むか )へて 乍 ( たちま )ち 変 ( へん )ず 将 ( まさ )に 雨露 ( うろ )の 恩 ( おん )を 希 ( こひねが )はんとす。 逐吹潛開不待芳菲之候。 迎春乍変将希雨露之恩。 内宴進花賦 紀淑望 いけのこほりとうとうはかぜわたりてとけ、 まどのうめほくめんはゆきふうじてさむし。 池 ( いけ )の 凍 ( こほり ) 東頭 ( とうとう )は 風 ( かぜ ) 度 ( わた )りて 解 ( と )け、 窓 ( まど )の 梅 ( むめ ) 北面 ( ほくめん )は 雪 ( ゆき ) 封 ( ふう )じて 寒 ( さむ )し。 池凍東頭風度解。 窓梅北面雪封寒。 立春日書懐呈芸閣諸文友 菅篤茂 やなぎにきりよくなくしてえだまづうごき、 いけにはもんありてこほりことごとくひらく。 こんにちしらずたれかけいくわいせん、 しゆんぷうしゆんすゐいちじにきたらんとす、 柳 ( やなぎ )に 気力 ( きりよく )なくして 条 ( えだ ) 先 ( ま )づ 動 ( うご )き、 池 ( いけ )に 波文 ( はもん )ありて 氷 ( こほり ) 尽 ( ことごと )く 開 ( ひら )く。 今日 ( こんにち ) 知 ( し )らず 誰 ( たれ )か 計会 ( けいくわい )せん、 春風 ( しゆんぷう ) 春水 ( しゆんすゐ ) 一時 ( いちじ )に 来 ( きた )らんとす。 柳無気力条先動。 池有波文氷尽開。 今日不知誰計会。 春風春水一時来。 府西池 白居易 よるはざんかうになんなんとしてかんけいつき、 はるはかうくわになりてげうろもゆ。 夜 ( よる )は 残更 ( ざんかう )になんなんとして 寒磬 ( かんけい ) 尽 ( つ )き、 春 ( はる )は 香火 ( かうくわ )に 生 ( な )りて 暁炉 ( げうろ ) 燃 ( も )ゆ。 夜向残更寒磬尽。 春生香火暁炉燃。 山寺立春 良岑春道 古今 としのうちにはるは来にけりひととせを こぞとやいはんことしとやいはん 在原元方 古今 袖ひぢてむすびしみづのこほれるを はるたつけふの 風 ( かぜ )やとくらん 紀貫之 ( きのつらゆき ) 拾遺 はるたつといふばかりにやみよしのの やまもかすみてけさはみゆらん 壬生忠岑 早春 ( さうしゆん ) こほりでんちにきえてろすゐみじかく、 はるはしでうにいりてりうがんひくし、 氷 ( こほり ) 田地 ( でんち )に 消 ( き )えて 蘆錐 ( ろすい ) 短 ( みじか )く、 春 ( はる )は 枝条 ( しでう )に 入 ( い )りて 柳眼 ( りうがん ) 低 ( ひく )し、 氷消田地蘆錐短。 春入枝条柳眼低。 寄楽天 元稹 まづくわふうをしてせうそくをはうぜしめ、 つゞいてていてうをしてらいゆをとかしむ、 先 ( ま )づ 和風 ( くわふう )をして 消息 ( せうそく )を 報 ( はう )ぜしめ、 続 ( つゞ )いて 啼鳥 ( ていてう )をして 来由 ( らいゆ )を 説 ( と )かしむ、 先遣和風報消息。 続教啼鳥説来由 春生 白居易 とうがんせいがんのやなぎ、ちそくおなじからず、 なんしほくしのうめかいらくすでにことなり。 東岸西岸 ( とうがんせいがん )の 柳 ( やなぎ )、 遅速 ( ちそく ) 同 ( おな )じからず、 南枝北枝 ( なんしほくし )の 梅 ( うめ )、 開落 ( かいらく ) 已 ( すで )に 異 ( こと )なり。 東岸西岸之柳。 遅速不同。 南枝北枝之梅。 開落已異。 春生逐地形序 慶滋保胤 しぢんのわかきわらびひとてをにぎり、 へきぎよくのさむきあしきりふくろをだつす。 紫塵 ( しぢん )の 嫩 ( わか )き 蕨 ( わらび ) 人 ( ひと ) 手 ( て )を 拳 ( にぎ )り、 碧玉 ( へきぎよく )の 寒 ( さむ )き 蘆 ( あし ) 錐 ( きり ) 嚢 ( ふくろ )を 脱 ( だつ )す。 紫塵嫩蕨人拳手。 碧玉寒蘆錐脱嚢 和早春晴 小野篁 きはれてはかぜしんりうのかみをくしけづり、こほりきえてはなみきうたいのひげをあらふ。 気 ( き ) 霽 ( は )れては 風 ( かぜ ) 新柳 ( しんりう )の 髪 ( かみ )を 梳 ( くしけづ )り、 氷 ( こほり ) 消 ( き )えては 波 ( なみ ) 旧苔 ( きうたい )の 鬚 ( ひげ )を 洗 ( あら )ふ。 気霽風梳新柳髪。 氷消波洗旧苔鬚。 春暖 都良香 にはにきしよくをませばせいしやみどりなり、 はやしにようきをへんずればしゆくせつくれなゐなり。 庭 ( には ) 気色 ( きしよく )を 増 ( ま )せば 晴沙 ( せいしや ) 緑 ( みどり )なり、 林 ( はやし )に 容輝 ( ようき )を 変 ( へん )ずれば 宿雪 ( しゆくせつ ) 紅 ( くれなゐ )なり。 庭増気色晴沙緑。 林変容輝宿雪紅。 草樹晴迎春 紀長谷雄 古今 いはそそぐたるひのうへのさわらびの もえいづるはるになりにけるかな 志貴皇子 古今 やまかぜにとくるこほりのひまごとに うちいづるなみやはるのはつはな 源正澄 続後撰 みはたせばひらのたかねにゆききえて わかなつむべくのはなりにけり 平兼盛 古今 見わたせばやなぎさくらをこきまぜて 都ぞ春のにしきなりける 素性法師 春興 ( しゆんきよう ) はなのもとにかへることをわするるはびけいによるなり、 たるのまへにゑひをすすむるはこれはるのかぜ、 花 ( はな )の 下 ( もと )に 帰 ( かへ )ることを 忘 ( わす )るるは 美景 ( びけい )に 因 ( よ )るなり、 樽 ( たる )の 前 ( まへ )に 酔 ( ゑ )ひを 勧 ( すす )むるはこれ 春 ( はる )の 風 ( かぜ )。 花下忘帰因美景。 樽前勧酔是春風。 白居易 やさうはうひたりこうきんのち、 いうしれうらんたりへきらのてん、 野草 ( やさう ) 芳菲 ( はうひ )たり 紅錦 ( こうきん )の 地 ( ち )、 遊糸 ( いうし ) 繚乱 ( れうらん )たり 碧羅 ( へきら )の 天 ( てん )。 野草芳菲紅錦地。 遊糸繚乱碧羅天。 劉禹錫 かしゆはいへ 〳 〵はなはところ 〳 〵にあり、 むなしくじやうやうのはるをくわんりやうすることなかれ。 歌酒 ( かしゆ )は 家々 ( いへ 〳 〵 ) 花 ( はな )は 処々 ( ところ 〳 〵 )にあり 空 ( むな )しく 上陽 ( じやうやう )の 春 ( はる )を 管領 ( くわんりやう )することなかれ。 歌酒家家花処処。 莫空管領上陽春。 送令孤尚書趣東郡 白居易 さんたうまたやたう、ひこうきんのはたばりをさらす、 もんりうまたがんりう、かぜきくぢんのいとをわかぬ、 山桃 ( さんたう )また 野桃 ( やたう )、 日 ( ひ ) 紅錦 ( こうきん )の 幅 ( はたばり )を 曝 ( さら )す、 門柳 ( もんりう )また 岸柳 ( がんりう )、 風 ( かぜ ) 麹塵 ( きくぢん )の 糸 ( いと )を 宛 ( わか )ぬ。 山桃復野桃。 日曝紅錦之幅。 門柳復岸柳。 風宛麹塵之糸。 逐処花皆好序 紀斉名 のにつきてのべしけりこうきんしう、 てんにあたつてはいうしきすへきらりよう、 野 ( の )に 著 ( つ )きて 展 ( の )べ 敷 ( し )けり 紅錦繍 ( こうきんしう )、 天 ( てん )に 当 ( あた )つては 遊織 ( いうしき )す 碧羅綾 ( へきらりよう )、 着野展敷紅錦繍。 当天遊織碧羅綾。 春生 小野篁 りんちうのはなのにしきはときにかいらくす、 てんぐわいのいうしはあるひはいうむ、 林中 ( りんちう )の 花 ( はな )の 錦 ( にしき )は 時 ( とき )に 開落 ( かいらく )す、 天外 ( てんぐわい )の 遊糸 ( いうし )は 或 ( あるい )は 有無 ( いうむ ) 林中花錦時開落。 天外遊糸或有無。 上寺聖聚楽 島田忠臣 しやうかのよるのつきいへ 〳 〵のおもひ、 ししゆのはるのかぜところ 〳 〵のなさけ、 笙歌 ( しやうか )の 夜 ( よる )の 月 ( つき ) 家々 ( いへ 〳 〵 )の 思 ( おも )ひ、 詩酒 ( ししゆ )の 春 ( はる )の 風 ( かぜ ) 処々 ( ところ 〳 〵 )の 情 ( なさけ ) 笙歌夜月家家思。 詩酒春風処処情。 悦者衆 菅原文時 新古今 ももしきのおほみや人はいとまあれや さくらかざしてけふもくらしつ 山辺赤人 拾遺 はるはなほわれにてしりぬはなざかり こころのどけきひとはあらじな 壬生忠岑 春夜 ( しゆんや ) ともしびをそむけてはともにあはれむしんやのつき、 はなをふみてはおなじくをしむせうねんのはる、 燭 ( ともしび )を 背 ( そむ )けては 共 ( とも )に 憐 ( あは )れむ 深夜 ( しんや )の 月 ( つき )、 花 ( はな )を 踏 ( ふ )みては 同 ( おな )じく 惜 ( を )しむ 少年 ( せうねん )の 春 ( はる )、 背燭共憐深夜月。 踏花同惜少年春。 春夜与盧四周諒花陽観同居 白居易 古今 はるのよのやみはあやなしうめのはな 色こそみえねかやはかくるる 凡河内躬恒 子日 ( ねのひ )付若菜 しようじゆによりてもつてこしをなづるは、 ふうさうのをかしがたきをならひ、 さいかうをくわしてくちにすするは、 きみのよくととのはんことをきす、 松樹 ( しようじゆ )に 倚 ( よ )りて 以 ( もつ )て 腰 ( こし )を 摩 ( な )づるは、 風霜 ( ふうさう )の 犯 ( をか )し 難 ( がた )きを 習 ( なら )ひ、 菜羹 ( さいかう )を 和 ( くわ )して 口 ( くち )に 啜 ( すす )るは、 気味 ( きみ )の 克 ( よ )く 調 ( ととの )はんことを 期 ( き )す、 倚松樹以摩腰。 習風霜之難犯也。 和菜羹而啜口。 期気味之克調也。 雲林院行幸 菅原道真 しようこんによりてこしをなづれば、 せんねんのみどりてにみてり、 ばいくわををりてかうべにかざせば、 にげつのゆきころもにおつ、 松根 ( しようこん )に 倚 ( よ )りて 腰 ( こし )を 摩 ( な )づれば、 千年 ( せんねん )の 翠 ( みどり ) 手 ( て )に 満 ( み )てり、 梅花 ( ばいくわ )を 折 ( を )りて 頭 ( かうべ )に 挿 ( かざ )せば、 二月 ( にげつ )の 雪 ( ゆき ) 衣 ( ころも )に 落 ( お )つ、 倚松根摩腰。 千年之翠満手。 折梅花挿頭。 二月之雪落衣。 子曰序 橘在列 新古今 ねのひしてしめつる野べのひめこまつ ひかでやちよのかげをまたまし 藤原清正 拾遺 ねのひする野辺にこまつのなかりせば ちよのためしになにをひかまし 壬生忠岑 拾遺 千とせまでかぎれるまつもけふよりは 君にひかれてよろづ世やへん 大中臣能宣 若菜 ( わかな ) やちうにさいをえらぶは、 せじこれをけいしんにおす、 ろかにあつものをくわするは、 ぞくじんこれをていしにしよくす、 野中 ( やちう )に 菜 ( さい )を 芼 ( えら )ぶは、 世事 ( せじ )これを 蕙心 ( けいしん )に 推 ( お )す、 炉下 ( ろか )に 羮 ( あつもの )を 和 ( くわ )するは、 俗人 ( ぞくじん )これを 荑指 ( ていし )に 属 ( しよく )す、 野中芼菜。 世事推之蕙心。 炉下和羮。 俗人属之荑指。 催粧序 菅原道真 拾遺 あすからはわかなつませんかたをかの あしたのはらはけふぞやくめる 柿本人麿 新古今 あすからはわかなつまんとしめし野に きのふもけふもゆきはふりつつ 山部赤人 新古今 ゆきてみぬ人もしのべとはるののの かたみにつめるわかななりけり 紀貫之 三月三日 ( さんぐわつみつか )付桃花 はるきてはあまねくこれたうくわのみづなり、 せんげんをわきまへずいづれのところにかたづねん、 春 ( はる ) 来 ( き )ては 遍 ( あまね )くこれ 桃花 ( たうくわ )の 水 ( みづ )なり、 仙源 ( せんげん )を 弁 ( わきま )へず 何 ( いづ )れの 処 ( ところ )にか 尋 ( たづ )ねん、 春来遍是桃花水。 不弁仙源何処尋。 桃源行 王維 はるのぼげつ、つきのさんてう、てんもはなにゑへるは、たうりさかりなればなり、わがきみいちじつのたく、ばんきのあまり、きよくすゐはるかなりといへども、ゐぢんたえたりといへども、 はじをかきてちせいをしり、ぎぶんをおもひてもつてふうりうをもてあそぶ、けだしこころざしのゆくところ、つゝしみてせうじよをたてまつる、 春 ( はる )の 暮月 ( ぼげつ )、 月 ( つき )の 三朝 ( さんてう )、 天 ( てん ) 花 ( はな )に 酔 ( ゑ )へるは、 桃李 ( たうり ) 盛 ( さか )りなればなり、 我 ( わ )が 后 ( きみ ) 一日 ( いちじつ )の 沢 ( たく )、 万機 ( ばんき )の 余 ( あまり )、 曲水 ( きよくすゐ ) 遥 ( はる )かなりといへども、 遺塵 ( ゐぢん ) 絶 ( た )えたりといへども、 巴 ( は ) 字 ( じ )を 書 ( か )きて 地勢 ( ちせい )を 知 ( し )り、 魏文 ( ぎぶん )を 思 ( おも )ひて 以 ( も )つて 風流 ( ふうりう )を 翫 ( もてあそ )ぶ。 蓋 ( けだ )し 志 ( こころざし )の 之 ( ゆ )く 所 ( ところ )、 謹 ( つゝし )みで 小序 ( せうじよ )を 上 ( たてまつ )る、 春之暮月。 月之三朝。 天酔于花。 桃李盛也。 我后一日之沢。 万機之余。 曲水雖遥。 遺塵雖絶。 書巴字而知地勢。 思魏文以翫風流。 蓋志之所之。 謹上小序。 花時天似酔序 菅原道真 えんかゑんきんまさにどうこなるべし、 たうりのせんしんけんぱいににたり、 煙霞 ( えんか ) 遠近 ( ゑんきん )まさに 同戸 ( どうこ )なるべし、 桃李 ( たうり )の 浅深 ( せんしん ) 勧盃 ( けんぱい )に 似 ( に )たり 煙霞遠近応同戸。 桃李浅深似勧盃。 同題詩 菅原道真 みづははじをなすしよさんのひ、 みなもとしうねんよりおこりてのちにいくしもぞ、 水 ( みづ ) 巴 ( は ) 字 ( じ )を 成 ( な )す 初三 ( しよさん )の 日 ( ひ )、 源 ( みなもと ) 周年 ( しうねん )より 起 ( おこ )りて 後 ( のち )に 幾霜 ( いくしも )ぞ、 水成巴字初三日。 源起周年後幾霜。 縈流送羽觴 菅原篤茂 いしにさはりておそくきたればこゝろひそかにまち、 ながれにひかれてとくすぐればてまづさへぎる、 石 ( いし )に 礙 ( さは )りて 遅 ( おそ )く 来 ( きた )れば 心 ( こゝろ ) 窃 ( ひそ )かに 待 ( ま )ち、 流 ( ながれ )に 牽 ( ひ )かれて 遄 ( と )く 過 ( す )ぐれば 手 ( て ) 先 ( ま )づ 遮 ( さへぎ )る 礙石遅来心窃待。 牽流遄過手先遮。 同 菅原雅規 桃 よるのあめひそかにうるほして、そはのまなこあらたにこびたり、 あかつきのかぜゆるくふきて、ふげんのくちびるまづゑめり、 夜 ( よる )の 雨 ( あめ ) 偸 ( ひそ )かに 湿 ( うるほ )して、 曾波 ( そは )の 眼 ( まなこ ) 新 ( あら )たに 嬌 ( こ )びたり、 暁 ( あかつき )の 風 ( かぜ ) 緩 ( ゆる )く 吹 ( ふ )きて、 不言 ( ふげん )の 唇 ( くちびる ) 先 ( ま )づ 咲 ( ゑ )めり、 夜雨偸湿。 曾波之眼新嬌。 暁風緩吹。 不言之唇先咲。 桃花詩序 紀納言 拾遺 みちとせになるといふもものことしより はなさくはるにあふぞうれしき 凡河内躬恒 暮春 ( ぼしゆん ) みづをはらふりうくわはせんまんてん、 ろうをへだつるあうぜつはりやうさんせい、 水 ( みづ )を 払 ( はら )ふ 柳花 ( りうくわ )は 千万点 ( せんまんてん )、 楼 ( ろう )を 隔 ( へだ )つる 鴬舌 ( あうぜつ )は 両三声 ( りやうさんせい )、 払水柳花千万点。 隔楼鴬舌両三声。 過元魏志襄陽楼口占 元稹 つばさをたるるさおうはうしほのおつるあかつき、 いとをみだすやばはくさのふかきはる、 翅 ( つばさ )を 低 ( た )るる 沙鴎 ( さおう )は 潮 ( うしほ )の 落 ( お )つる 暁 ( あかつき )、 糸 ( いと )を 乱 ( みだ )す 野馬 ( やば )は 草 ( くさ )の 深 ( ふか )き 春 ( はる )。 低翅沙鴎潮落暁。 乱糸野馬草深春。 晩春遊松山館 菅原道真 ひとさらにわかきときなしすべからくをしむべし、 としつねにはるならずさけをむなしくすることなかれ、 人 ( ひと ) 更 ( さら )に 少 ( わか )き 時 ( とき )なしすべからく 惜 ( を )しむべし、 年 ( とし ) 常 ( つね )に 春 ( はる )ならず。 酒 ( さけ )を 空 ( むな )しくすることなかれ。 人無更少時須惜。 年不常春酒莫空。 りうはくもしこんにちのこうなることをしらば、 まさにこのところといふべしいづれとはいはじ、 劉白 ( りうはく ) 若 ( も )し 今日 ( こんにち )の 好 ( こう )なることを 知 ( し )らば、 まさに 此 ( こ )の 処 ( ところ )と 言 ( い )ふべし 何 ( いづ )れとは 言 ( い )はじ、 劉白若知今日好。 応言此処不言何。 家集 いたづらにすぐる月日はおほかれど はなみてくらす春ぞすくなき 藤原興風 三月尽 ( さんぐわつじん ) はるをとゞむれどもはるとゞまらず、はるかへりてひとせきばくたり、 かぜをいとへどもかぜさだまらず、かぜたちてはなせうさくたり 春 ( はる )を 留 ( とゞ )むれども 春 ( はる ) 駐 ( とゞ )まらず、 春 ( はる ) 帰 ( かへ )りて 人 ( ひと ) 寂寞 ( せきばく )たり、 風 ( かぜ )を 厭 ( いと )へども 風 ( かぜ ) 定 ( さだ )まらず、 風 ( かぜ ) 起 ( た )ちて 花 ( はな ) 蕭索 ( せうさく )たり、 留春春不駐。 春帰人寂寞。 厭風風不定。 風起花蕭索。 落花古調詩 白居易 ちくゐんにきみかんにしてえいじつをせうし、 くわていにわれゑひてざんしゆんをおくる、 竹院 ( ちくゐん )に 君 ( きみ ) 閑 ( かん )にして 永日 ( えいじつ )を 銷 ( せう )し、 花亭 ( くわてい )に 我 ( われ ) 酔 ( ゑ )ひて 残春 ( ざんしゆん )を 送 ( おく )る、 竹院君閑銷永日。 花亭我酔送残春。 酬皇甫賓客 同 ちうちやうすはるかへりてとゞまることをえず、 しとうのはなのもとにやうやくくわうこんたり、 惆悵 ( ちうちやう )す 春 ( はる ) 帰 ( かへ )りて 留 ( とゞ )まることを 得 ( え )ず、 紫藤 ( しとう )の 花 ( はな )の 下 ( もと )に 漸 ( やうや )く 黄昏 ( くわうこん )たり、 惆悵春帰留不得。 紫藤花下漸黄昏。 題慈恩寺 同 はるをおくるにしうしやをうごかすことをもちゐず、 たゞざんあうとらくくわとにわかる、 春 ( はる )を 送 ( おく )るに 舟車 ( しうしや )を 動 ( うご )かすことを 用 ( もち )ゐず、 たゞ 残鶯 ( ざんあう )と 落花 ( らくくわ )とに 別 ( わか )る、 送春不用動舟車。 唯別残鴬与落花。 同 もしせうくわうをしてわがこゝろをしらしめば、 こんせうのりよしゆくはしかにあらん、 若 ( も )し 韶光 ( せうくわう )をして 我 ( わ )が 意 ( こゝろ )を 知 ( し )らしめば、 今宵 ( こんせう )の 旅宿 ( りよしゆく )は 詩家 ( しか )に 在 ( あ )らん、 若使韶光知我意。 今宵旅宿在詩家。 送春 菅原道真 はるをとゞむるにくわんじやうのかためをもちゐず、 はなはおちてかぜにしたがひとりはくもにいる、 春 ( はる )を 留 ( とゞ )むるに 関城 ( くわんじやう )の 固 ( かた )めを 用 ( もち )ゐず、 花 ( はな )は 落 ( お )ちて 風 ( かぜ )に 随 ( したが )ひ 鳥 ( とり )は 雲 ( くも )に 入 ( い )る 留春不用関城固。 花落随風鳥入雲。 三月尽 尊敬 古今 けふとのみはるをおもはぬときだにも たつことやすき花のかげかは 凡河内躬恒 拾遺 はなもみなちりぬるやどはゆくはるの ふるさととこそなりぬべらなれ 紀貫之 後撰 またもこんときぞとおもへどたのまれぬ 我身にしあればをしきはるかな 紀貫之 閏三月 ( うるふさんぐわつ ) こんねんのうるふははるさんげつにあり、 あまつさへきんりよういちげつのはなをみる、 今年 ( こんねん )の 閏 ( うるふ )は 春三月 ( はるさんげつ )に 在 ( あ )り、 剰 ( あまつ )さへ 金陵 ( きんりよう ) 一月 ( いちげつ )の 花 ( はな )を 見 ( み )る 今年閏在春三月。 剰見金陵一月花。 送准南李中逐行軍 陸侍郎 たににかへるかあうはさらにこうんのみちにとうりうし、 はやしをじするぶてふはかへつていちげつのはなにへんぽんたり、 谿 ( たに )に 帰 ( かへ )る 歌鴬 ( かあう )は 更 ( さら )に 孤雲 ( こうん )の 路 ( みち )に 逗留 ( とうりう )し、 林 ( はやし )を 辞 ( じ )する 舞蝶 ( ぶてふ )は 還 ( かへ )つて 一月 ( いちげつ )の 花 ( はな )に 翩翻 ( へんぽん )たり、 帰谿歌鴬更逗留於孤雲之路。 辞林舞蝶還翩翻於一月之花。 今年又有春序 源順 はなはねにかへらんことをくゆれどもくゆるにえきなし、 とりはたににいらんことをきすれどもさだめてきをのべん、 花 ( はな )は 根 ( ね )に 帰 ( かへ )らんことを 悔 ( く )ゆれども 悔 ( く )ゆるに 益 ( えき )なし、 鳥 ( とり )は 谷 ( たに )に 入 ( い )らんことを 期 ( き )すれども 定 ( さだ )めて 期 ( き )を 延 ( の )べん、 花悔帰根無益悔。 鳥期入谷定延期。 清原滋藤 古今 さくらばなはるくははれるとしだにも 人のこころにあかれやはする 伊勢 鶯 ( うぐひす ) にはとりすでになきてちゆうしんあしたをまつ、 うぐひすいまだいでずゐけんたににあり、 鶏 ( にはとり ) 既 ( すで )に 鳴 ( な )きて 忠臣 ( ちゆうしん ) 旦 ( あした )を 待 ( ま )つ、 鶯 ( うぐひす )いまだ 出 ( い )でず 遺賢 ( ゐけん ) 谷 ( たに )に 在 ( あ )り、 鶏既鳴兮忠臣待旦。 鶯未出兮遺賢在谷。 鳳為王賦 賈島 たがいへのへきじゆにかうぐひすなきてらまくなほたれ、 いくところのくわどうにゆめさめてしゆれんいまだまかず 誰 ( た )が 家 ( いへ )の 碧樹 ( へきじゆ )にか 鶯 ( うぐひす ) 啼 ( な )きて 羅幕 ( らまく )なほ 垂 ( た )れ、 幾 ( いく ) 処 ( ところ )の 華堂 ( くわどう )に 夢 ( ゆめ ) 覚 ( さ )めて 珠簾 ( しゆれん )いまだ 巻 ( ま )かず、 誰家碧樹鶯啼而羅幕猶垂。 幾処華堂夢覚而珠簾未巻。 春暁鶯賦 謝観或張読 きりにむせぶさんあうはなくことなほまれなり、 いさごをうがつろじゆんははわづかにわかてり、 霧 ( きり )に 咽 ( むせ )ぶ 山鶯 ( さんあう )は 啼 ( な )くことなほ 少 ( まれ )なり、 沙 ( いさご )を 穿 ( うが )つ 蘆笋 ( ろじゆん )は 葉 ( は )わづかに 分 ( わか )てり、 咽霧山鴬啼尚少。 穿沙蘆笋葉纔分。 早春尋李校書 元稹 だいのほとりにさけありてうぐひすきやくをよび、 みづのおもてちりなくしてかぜいけをあらふ、 台 ( だい )の 頭 ( ほとり )に 酒 ( さけ ) 有 ( あ )りて 鶯 ( うぐひす ) 客 ( きやく )を 呼 ( よ )び、 水 ( みづ )の 面 ( おもて ) 塵 ( ちり ) 無 ( な )くして 風 ( かぜ ) 池 ( いけ )を 洗 ( あら )ふ、 台頭有酒鶯呼客。 水面無塵風洗池。 和思黯題南荘 うぐひすのこゑにいういんせられてはなのもとにきたり、 くさのいろにこうりうせられてはみづのほとりにざす、 鶯 ( うぐひす )の 声 ( こゑ )に 誘引 ( いういん )せられて 花 ( はな )の 下 ( もと )に 来 ( きた )り、 草 ( くさ )の 色 ( いろ )に 拘留 ( こうりう )せられては 水 ( みづ )の 辺 ( ほとり )に 座 ( ざ )す、 鶯声誘引来花下。 草色拘留座水辺。 どうるゐをあひもとむるにかんずるは、 りこうきよがんのはるのさへづりにおうずゐあり、 いきをくわいしてつひにこんじて、 りゆうぎんぎよやくのあかつきのなきにともなふとあり、 同類 ( どうるい )を 相求 ( あひもと )むるに 感 ( かん )ずるは、 離鴻去雁 ( りこうきよがん )の 春 ( はる )の 囀 ( さへづ )りに 応 ( おう )ずるあり、 異気 ( いき )を 会 ( くわい )して 終 ( つひ )に 混 ( こん )じて、 龍吟魚躍 ( りゆうぎんぎよやく )の 暁 ( あかつき )の 啼 ( な )きに 伴 ( ともな )ふとあり、 感同類於相求。 離鴻去雁之応春囀。 会異気而終混。 龍吟魚躍之伴暁啼。 鳥声韻管絃序 菅原文時 えんきがそでしばらくをさまりて、れうらんたるをきうはくにそねむ、 しうらうがかんざししきりにうごきて、けんくわんたるをしんくわにかへりみる、 燕姫 ( えんき )が 袖 ( そで )しばらく 収 ( をさ )まりて、 撩乱 ( れうらん )たるを 旧拍 ( きうはく )に 猜 ( そね )み、 周郎 ( しうらう )が 簪 ( かんざし )しきりに 動 ( うご )きて、 間関 ( けんくわん )たるを 新花 ( しんくわ )に 顧 ( かへり )みる、 燕姫之袖暫収。 猜撩乱於旧柏。 周郎之簪頻動。 顧間関於新花。 同題 同 しんろはいましゆくせつをうがつ、 きうさうはのちのためにはるのくもにいらん、 新路 ( しんろ )は 如今 ( いま ) 宿雪 ( しゆくせつ )を 穿 ( うが )つ、 旧巣 ( きうさう )は 後 ( のち )のために 春 ( はる )の 雲 ( くも )に 属 ( い )らん、 新路如今穿宿雪。 旧宿為後属春雲。 鶯出谷 菅原道真 せいろうにつきおちてはなのあひだのきよく、 ちゆうでんにともしびのこりてたけのうちのおと、 西楼 ( せいろう )に 月 ( つき ) 落 ( お )ちて 花 ( はな )の 間 ( あひだ )の 曲 ( きよく )、 中殿 ( ちうでん )に 燈 ( ともしび ) 残 ( のこ )りて 竹 ( たけ )の 裏 ( うち )の 音 ( おと )、 西楼月落花間曲。 中殿燈残竹裏音。 宮鶯囀暁光 菅原文時 拾遺 あらたまのとしたちかへるあしたより またるるものはうぐひすのこゑ 素性法師 栄花物語 あさみどりはるたつそらにうぐひすの はつこゑまたぬ人はあらじな 麗景殿女御 拾遺 うぐひすのこゑなかりせばゆききえぬ 山ざといかで春をしらまし 中務 霞 ( かすみ ) かすみのひかりはあけてのちひよりもあかく、 くさのいろははれきたりてわかくしてけむりににたり、 霞 ( かすみ )の 光 ( ひかり )は 曙 ( あ )けてのち 火 ( ひ )よりも 殷 ( あか )く、 草 ( くさ )の 色 ( いろ )は 晴 ( は )れ 来 ( きた )りて 嫩 ( わか )くして 煙 ( けむり )に 似 ( に )たり、 霞光曙後殷於火。 草色晴来嫩似煙。 早春晴寄蘇洲寄夢得 白居易 いさごをきるくさはたゞさんぶんばかり、 きにまたがるかすみはわづかにはんだんあまり、 沙 ( いさご )を 鑚 ( き )る 草 ( くさ )はたゞ 三分 ( さんぶん )ばかり、 樹 ( き )に 跨 ( またが )る 霞 ( かすみ )はわづかに 半段 ( はんだん ) 余 ( あま )り、 鑚沙草只三分許。 跨樹霞纔半段余。 春浅帯軽寒 菅原道真 万葉 きのふこそとしはくれしかはるがすみ かすがのやまにはやたちにけり 柿本人麿 古今 はるがすみたてるやいづこみよしのの よしのの山にゆきはふりつつ 山部赤人 家集 あさひさすみねのしらゆきむらぎえて はるのかすみはたなびきにけり 平兼盛 雨 ( あめ ) あるひははなのもとにたれて、ひそかにぼくしがかなしみをます、 ときにびんのあひだにまひ、あんにはんらうのおもひをうごかす、 或 ( あるひ )は 花 ( はな )の 下 ( もと )に 垂 ( た )れて、 潛 ( ひそ )かに 墨子 ( ぼくし )が 悲 ( かな )しみを 増 ( ま )す、 時 ( とき )に 鬢 ( びん )の 間 ( あひだ )に 舞 ( ま )ひ、 暗 ( あん )に 潘郎 ( はんらう )の 思 ( おも )ひを 動 ( うご )かす、 或垂花下。 潜増墨子之悲。 時舞鬢間。 暗動潘郎之思。 密雨散加糸序 大江以言或都在中 ちやうらくのかねのこゑははなのそとにつき、 りようちのやなぎのいろはあめのなかにふかし、 長楽 ( ちやうらく )の 鐘 ( かね )の 声 ( こゑ )は 花 ( はな )の 外 ( そと )に 尽 ( つ )き、 龍池 ( りようち )の 柳 ( やなぎ )の 色 ( いろ )は 雨 ( あめ )の 中 ( なか )に 深 ( ふか )し、 長楽鐘声花外尽。 龍池柳色雨中深。 闕舌贈閻舎人 李嶠 やしなひえてはおのづからはなのふぼたり、 あらひきてはむしろくすりのくんしんをわきまへんや、 養 ( やしな )ひ 得 ( え )ては 自 ( おのづか )ら 花 ( はな )の 父母 ( ふぼ )たり、 洗 ( あら )ひ 来 ( き )ては 寧 ( むし )ろ 薬 ( くすり )の 君臣 ( くんしん )を 弁 ( わきま )へんや、 養得自為花父母。 洗来寧弁薬君臣。 仙家春雨 紀長谷雄 はなのあらたにひらくるひしよやううるほへり、 とりおいてかへるときはくぼくもれり、 花 ( はな )の 新 ( あら )たに 開 ( ひら )くる 日 ( ひ ) 初陽 ( しよやう ) 潤 ( うるほ )へり、 鳥 ( とり ) 老 ( お )いて 帰 ( かへ )る 時 ( とき ) 薄暮 ( はくぼ ) 陰 ( くも )れり。 花新開日初陽潤。 鳥老帰時薄暮陰。 春色雨中深 菅原文時 しやきやくはだんぷうのまづあふぐところ、 あんせいはてうじつのいまだはれざるほど、 斜脚 ( しやきやく )は 暖風 ( だんぷう )の 先 ( ま )づ 扇 ( あふ )ぐ 処 ( ところ )、 暗声 ( あんせい )は 朝日 ( てうじつ )のいまだ 晴 ( は )れざる 程 ( ほど )、 斜脚暖風先扇処。 暗声朝日未晴程。 微雨自東来 慶滋保胤 拾遺 さくらがりあめはふりきぬおなじくは ぬるともはなのかげにかくれん 読人不知 新勅撰 あをやぎの枝にかかれるはるさめは いともてぬけるたまかとぞみる 伊勢 梅 ( むめ )付紅梅 はくへんのらくばいはたにのみづにうかび、 くわうせうのしんりうはしろのかきよりいでたり、 白片 ( はくへん )の 落梅 ( らくばい )は 澗 ( たに )の 水 ( みづ )に 浮 ( うか )び、 黄梢 ( くわうせう )の 新柳 ( しんりう )は 城 ( しろ )の 墻 ( かき )より 出 ( い )でたり、 白片落梅浮澗水。 黄梢新柳出城墻。 春至香山寺 白居易 うめのはなゆきをおびてきんじやうにとび、 やなぎのいろはけむりにくわしてしゆちうにいる、 梅 ( うめ )の 花 ( はな ) 雪 ( ゆき )を 帯 ( お )びて 琴上 ( きんじやう )に 飛 ( と )び、 柳 ( やなぎ )の 色 ( いろ )は 煙 ( けむり )に 和 ( くわ )して 酒中 ( しゆちう )に 入 ( い )る 梅花帯雪飛琴上。 柳色和煙入酒中。 早春初晴野宴 章孝標 やうやくかほるらふせつあらたにふうずるうち、 ひそかにほころぶはるのかぜのいまだあふがざるさき、 漸 ( やうや )く 薫 ( かほ )る 臘雪 ( らふせつ ) 新 ( あら )たに 封 ( ふう )ずる 裏 ( うち )、 偸 ( ひそ )かに 綻 ( ほころ )ぶ 春 ( はる )の 風 ( かぜ )のいまだ 扇 ( あふ )がざる 先 ( さき )、 漸薫臘雪新封裏。 偸綻春風未扇先。 寒梅結早花 村上帝御製 せいしくりいだすたうもんのやなぎ はくぎよくよそほひなすゆれいのうむめ、 青糸 ( せいし ) 繰 ( く )り 出 ( いだ )す 陶門 ( たうもん )の 柳 ( やなぎ ) 白玉 ( はくぎよく ) 装 ( よそほ )ひ 成 ( な )す 庾嶺 ( ゆれい )の 梅 ( うめ ) 青糸繰出陶門柳。 白玉装成庾嶺梅。 尋春花 大江朝綱或菅原文時 ごれいさう 〳 〵としてくもわうらいす、 たゞあはれむたいゆまんちうのむめ、 五嶺 ( ごれい ) 蒼々 ( さう 〳 〵 )として 雲 ( くも ) 往来 ( わうらい )す、 たゞ 憐 ( あは )れむ 大庾 ( たいゆ ) 万株 ( まんちう )の 梅 ( うめ )。 五嶺蒼蒼雲往来。 但憐大 大庾 ( たいゆ )万株梅。 同題 菅原文時 たれかいふはるのいろひがしよりいたるとは、 つゆあたたかにしてなんしはなはじめてひらく、 誰 ( たれ )か 言 ( い )ふ 春 ( はる )の 色 ( いろ ) 東 ( ひがし )より 到 ( いた )るとは、 露 ( つゆ ) 暖 ( あたた )かにして 南枝 ( なんし ) 花 ( はな ) 始 ( はじ )めて 開 ( ひら )く、 誰言春色従東到。 露暖南枝花始開。 同 同 けむりはりうしよくをそへてみるになほあさし、 とりはばいくわをふみておつることすでにしきりなり、 烟 ( けむり )は 柳色 ( りうしよく )を 添 ( そ )へて 看 ( み )るに 猶 ( なほ ) 浅 ( あさ )し、 鳥 ( とり )は 梅花 ( ばいくわ )を 踏 ( ふ )みて 落 ( お )つること 已 ( すで )に 頻 ( しき )りなり、 煙添柳色看猶浅。 鳥踏梅花落以頻。 同 同 拾遺 いにしとしねこじてうゑしわがやどの わかきのうめははなさきにけり 安倍広庭 万葉 わがせこに見せんとおもひしうめの花 それともみえずゆきのふれれば 山部赤人 拾遺 香をとめてたれをらざらんうめの花 あやなしかすみたちなかくしそ 凡河内躬恒 紅梅 ( こうばい ) うめはけいぜつをふくみてこうきをかねたり、 えはけいくわをもてあそびてへきぶんをおびたり、 梅 ( うめ )は 鶏舌 ( けいぜつ )を 含 ( ふく )みて 紅気 ( こうき )を 兼 ( か )ねたり、 江 ( え )は 瓊花 ( けいくわ )を 弄 ( もてあそ )びて 碧文 ( へきぶん )を 帯 ( お )びたり、 梅含鶏舌兼紅気。 江弄瓊花帯碧文。 早春尋李校書 元稹 せんこうせんけんたり、せんはうのゆきいろをはづ、 ぢようきやうふんいくたり、ぎろのけむりかをりをゆづる、 浅紅 ( せんこう ) 鮮娟 ( せんけん )たり、 仙方 ( せんはう )の 雪 ( ゆき ) 色 ( いろ )を 愧 ( は )づ、 濃香 ( ぢようきやう ) 芬郁 ( ふんいく )たり、 妓炉 ( ぎろ )の 烟 ( けむり ) 薫 ( かをり )を 譲 ( ゆづ )る、 浅紅鮮娟。 仙方之雪愧色。 濃香芳郁。 妓炉之烟譲薫。 繞簷梅正開詩 橘正通 いろありてわかちやすしざんせつのそこ、 こゝろなくしてわきまへがたしせきやうのうち、 色 ( いろ ) 有 ( あ )りて 分 ( わか )ちやすし 残雪 ( ざんせつ )の 底 ( そこ ) 情 ( こゝろ ) 無 ( な )くして 弁 ( わきま )へがたし 夕陽 ( せきやう )の 中 ( うち )、 有色易分残雪底。 無情難弁夕陽中。 賦庭前紅梅 兼明親王 せんきうにかぜなりてむなしくゆきをひる、 やろにひあたたかにしていまだけむりをあげず、 仙臼 ( せんきう )に 風 ( かぜ ) 生 ( な )りて 空 ( むな )しく 雪 ( ゆき )を 簸 ( ひ )る、 野炉 ( やろ )に 火 ( ひ ) 暖 ( あたた )かにしていまだ 煙 ( けむり )を 揚 ( あ )げず、 仙臼風生空簸雪。 野鑪火暖未揚煙。 紅白梅花 紀斉名 古今 君ならでたれにかみせんうめのはな いろをもかをもしる人ぞしる 紀友則 新古今 色かをばおもひもいれずうめのはな つねならぬ世によそへてぞみる 花山院 柳 ( やなぎ ) りんあうはいづれのところにかことのことぢをぎんじ、 しやうりうはたれがいへにかきくぢんをさらす、 林鶯 ( りんあう )は 何 ( いづ )れの 処 ( ところ )にか 箏 ( こと )の 柱 ( ことぢ )を 吟 ( ぎん )じ、 墻柳 ( しやうりう )は 誰 ( たれ )が 家 ( いへ )にか 麹塵 ( きくぢん )を 曝 ( さら )す、 林鶯何処吟箏柱。 墻柳誰家曝麹塵。 天宮閣早春 白居易 やうやくたのきばのきやくをはらはんとほつす、 いまだおほくろうにのぼるひとをさへぎりえず、 漸 ( やうや )く 他 ( た )の 騎馬 ( きば )の 客 ( きやく )を 払 ( はら )はんと 欲 ( ほつ )す、 いまだ 多 ( おほ )く 楼 ( ろう )に 上 ( のぼ )る 人 ( ひと )を 遮 ( さへぎ )り 得 ( え )ず、 漸欲払他騎馬客。 未多遮得上楼人。 喜小楼西新柳抽条 白居易 ふぢよべうのはなはべによりもくれなゐなり、 せうくんそんのやなぎはまゆよりもみどりなり、 巫女廟 ( ふぢよべう )の 花 ( はな )は 粉 ( べに )より 紅 ( くれなゐ )なり 昭君村 ( せうくんそん )の 柳 ( やなぎ )は 眉 ( まゆ )よりも 翠 ( みどり )なり 巫女廟花紅似粉。 昭君村柳翠於眉。 題峡中石上 同白 まことにしりぬおいさりてふぜいのすくなきことを、 これをみいかでかいつくのしなからん、 誠 ( まこと )に 知 ( し )りぬ 老 ( お )い 去 ( さ )りて 風情 ( ふぜい )の 少 ( すくな )きことを、 此 ( これ )を 見 ( み )いかでか 一句 ( いつく )の 詩 ( し )なからん、 誠知老去風情少。 見此争無一句詩。 与前一首絶句他 同 たいゆれいのうめははやくおつ、 たれかふんさうをとはん、 きやうろざんのあんずはいまだひらけず、 あにこうえんをおはんや、 大庾嶺 ( たいゆれい )の 梅 ( うめ )は 早 ( はや )く 落 ( お )つ、 誰 ( たれ )か 粉粧 ( ふんさう )を 問 ( と )はん、 匡廬山 ( きやうろざん )の 杏 ( あんず )はいまだ 開 ( ひら )けず、 あに 紅艶 ( こうえん )を 趁 ( お )はんや、 大庾嶺之梅早落。 誰問粉粧。 匡廬山之杏未開。 豈趁紅艶。 内宴序停盃看柳色 紀長谷雄或大江音人 くもはこうきようをさゝぐふさうのひ、 はるはくわうしゆをたわますどんりうのかぜ、 雲 ( くも )は 紅鏡 ( こうきやう )を 擎 ( さゝ )ぐ 扶桑 ( ふさう )の 日 ( ひ )、 春 ( はる )は 黄珠 ( くわうしゆ )を 嫋 ( たわ )ます 嫩柳 ( どんりう )の 風 ( かぜ )雲擎 紅鏡扶桑日。 春嫋黄珠嫩柳風。 早春作 田達音 けいたくにはれをむかへてていげつくらく、 りくちにひをおひてすゐえんふかし、 嵆宅 ( けいたく )に 晴 ( はれ )を 迎 ( むか )へて 庭月 ( ていげつ ) 暗 ( くら )く、 陸池 ( りくち )に 日 ( ひ )を 逐 ( お )ひて 水煙 ( すゐえん ) 深 ( ふか )し、 嵆宅迎晴庭月暗。 陸池逐日水煙深。 柳影繁初合詩 具平親王 たんしんにつきうかびてえだをまじふるかつら、 がんこうにかぜきたりてはにこんずるうきくさ、 潭心 ( たんしん )に 月 ( つき ) 泛 ( うか )びて 枝 ( えだ )を 交 ( まじ )ふる 桂 ( かつら )、 岸口 ( がんこう )に 風 ( かぜ ) 来 ( きた )りて 葉 ( は )を 混 ( こん )ずる 蘋 ( うきくさ ) 潭心月泛交枝桂。 岸口風来混葉蘋。 垂柳払緑水詩 菅原文時 古今 あをやぎのいとよりかくるはるしもぞ みだれて花のほころびにける 紀貫之 新千載 あをやぎのまゆにこもれるいとなれば 春のくるにぞいろまさりける 藤原兼輔 花 ( はな ) はなはじやうゑんにあきらかにして、けいけんきうはくのちりにはす、 さるはくうざんにさけびて、しやげつせんがんのみちをみがく、 花 ( はな )は 上苑 ( じやうゑん )に 明 ( あき )らかにして、 軽軒 ( けいけん ) 九陌 ( きうはく )の 塵 ( ちり )に 馳 ( は )す、 猿 ( さる )は 空山 ( くうざん )に 叫 ( さけ )びて、 斜月 ( しやげつ ) 千巌 ( せんがん )の 路 ( みち )を 瑩 ( みが )く、 花明上苑。 軽軒馳九陌之塵。 猿叫空山。 斜月瑩千巌之路。 閑賦 張読 いけのいろはよう 〳 〵ようとしてあゐみづをそむ、 はなのひかりはえん 〳 〵としてひはるをやく、 池 ( いけ )の 色 ( いろ )は 溶々 ( よう 〳 〵 )として 藍水 ( あゐみづ )を 染 ( そ )む、 花 ( はな )の 光 ( ひかり )は 焔々 ( えん 〳 〵 )として 火 ( ひ ) 春 ( はる )を 焼 ( やく )、 池色溶溶藍染水。 花光焔焔火焼春。 早春招張賓客 白居易 はるかにじんかをみてはなあればすなはちいる、 きせんとしんそとをろん)ぜず、 遥 ( はる )かに 人家 ( じんか )を 見 ( み )て 花 ( はな )あればすなはち 入 ( い )る、 貴賤 ( きせん )と 親疎 ( しんそ )とを 論 ( ろん )ぜず、 遥見人家花便入。 不論貴賤与親疎。 尋春題諸家園林 同 ひにみがきかぜにみがく、かうていせんくわばんくわのたま、 えだをそめなみをそむ、へうりいちじゆさいじゆのこう、 日 ( ひ )に 瑩 ( みが )き 風 ( かぜ )に 瑩 ( みが )く、 高低 ( かうてい ) 千顆万顆 ( せんくわばんくわ )の 玉 ( たま )、 枝 ( えだ )を 染 ( そ )め 浪 ( なみ )を 染 ( そ )む、 表裏 ( へうり ) 一入再入 ( いつじゆさいじゆ )の 紅 ( こう ) 瑩日瑩風。 高低千顆万顆之玉。 染枝染浪。 表裏一入再入之紅。 花光浮水上序 菅原文時 たれかいひしみづこころなしと、ぢようえんのぞみてなみいろをへんず、 たれかいひしはなのいはずと、けいやうげきしてかげくちびるをうごかす、 誰 ( たれ )か 謂 ( い )ひし 水 ( みづ ) 心 ( こころ )なしと、 濃艶 ( ぢようえん ) 臨 ( のぞ )んで 波 ( なみ ) 色 ( いろ )を 変 ( へん )ず 誰 ( たれ )か 謂 ( い )つし 花 ( はな )のいはずと、 軽漾 ( けいやう ) 激 ( げき )して 影 ( かげ ) 唇 ( くちびる )を 動 ( うご )かす 誰謂水無心。 濃艶臨兮波変色。 誰謂花不語。 軽漾激兮影動唇。 同上 同 これをみづといはんとすれば、すなはちかんぢよべにをほどこすかゞみせいえいたり、これをはなといはんとほつすれば、またしよくじんあやをあらふにしきさんらんたり、 これを 水 ( みづ )と 謂 ( い )はんとすれば、すなはち 漢女 ( かんぢよ ) 粉 ( べに )を 施 ( ほどこ )す 鏡 ( かゞみ ) 清瑩 ( せいえい )たり、 これを 花 ( はな )と 謂 ( い )はんと 欲 ( ほつ )すれば、また 蜀人 ( しよくじん ) 文 ( あや )を 濯 ( あら )ふ 錦 ( にしき ) 粲爛 ( さんらん )たり、 欲謂之水。 則漢女施粉之鏡清瑩。 欲謂之花。 亦蜀人濯文之錦粲爛。 同題序 源順 おることいづれのいとよりぞたゞゆふべのあめ、 たつことはさだまれるためしなしはるのかぜにまかす、 織 ( お )ること 何 ( いづ )れの 糸 ( いと )よりぞたゞ 暮 ( ゆふべ )の 雨 ( あめ )、 裁 ( た )つことは 定 ( さだ )まれる 様 ( ためし )なし 春 ( はる )の 風 ( かぜ )に 任 ( まか )す、 織自何糸唯暮雨。 裁無定様任春風。 花開如散錦 菅原文時 はなとびてにしきのごとしいくぢようしやうぞ、 おるものははるのかぜいまだはこにたゝまず、 花 ( はな ) 飛 ( と )びて 錦 ( にしき )の 如 ( ごと )し 幾 ( いく ) 濃粧 ( ぢようしやう )ぞ、 織 ( お )るものは 春 ( はる )の 風 ( かぜ )いまだ 箱 ( はこ )に 畳 ( たゝ )まず、 花飛如錦幾濃粧。 織者春風未畳箱。 同題 源英明 はじめをしるはるのかぜのきじやうにたくみなることを、 たゞいろをおるのみにあらずふんはうをもおる、 始 ( はじ )めを 識 ( し )る 春 ( はる )の 風 ( かぜ )の 機上 ( きじやう )に 巧 ( たくみ )なることを、 たゞ 色 ( いろ )を 織 ( お )るのみにあらず 芬芳 ( ふんはう )をも 織 ( お )る、 始識春風機上巧。 非唯織色織芬芳。 同上 同 まなこはしよくぐんにまづしたちのこすにしき、 みゝはしんじやうにうみたりしらべつくすこと、 眼 ( まなこ )は 蜀郡 ( しよくぐん )に 貧 ( まづ )し 裁 ( た )ち 残 ( のこ )す 錦 ( にしき )、 耳 ( みゝ )は 秦城 ( しんじやう )に 倦 ( う )みたり 調 ( しら )べ 尽 ( つく )すこと、 眼貧蜀郡裁残錦。 耳倦秦城調尽箏。 花少鶯稀 源相規 古今 世の中にたえてさくらのなかりせば はるのこゝろはのどけからまし 在原業平 古今 わがやどのはな見がてらにくる人は ちりなん後ぞこひしかるべき 凡河内躬恒 古今 みてのみや人にかたらんやまざくら 手ごとにをりていへづとにせん 素性法師 落花 ( らくくわ ) らくくわものいはずむなしくきをじす、 りうすゐこゝろなくしておのづからいけにいる、 落花 ( らくくわ ) 語 ( ものい )はず 空 ( むな )しく 樹 ( き )を 辞 ( じ )す、 流水 ( りうすゐ ) 心無 ( こゝろな )くして 自 ( おのづか )ら 池 ( いけ )に 入 ( い )る 落花不語空辞樹。 流水無心自入池。 過元家履信宅 白居易 あしたにはらくくわをふみてあひともなひていで、 ゆふべにはひてうにしたがひていちじにかへる、 朝 ( あした )には 落花 ( らくくわ )を 踏 ( ふ )みて 相伴 ( あひともな )ひて 出 ( い )で、 暮 ( ゆふべ )には 飛鳥 ( ひてう )に 随 ( したが )ひて 一時 ( いちじ )に 帰 ( かへ )る、 朝踏落花相伴出。 暮随飛鳥一時帰。 春水頻与李二賓客同廊外同遊因贈長甸 同 はるのはなはめん 〳 〵にかんちやうしむしろにらんにふす、 くれのうぐひすはせい 〳 〵にかうしようのざによさんす、 春 ( はる )の 花 ( はな )は 面々 ( めん 〳 〵 )に 酣暢 ( かんちやう )し 筵 ( むしろ )に 闌入 ( らんにふ )す、 晩 ( くれ )の 鶯 ( うぐひす )は 声々 ( せい 〳 〵 )に 講誦 ( かうしよう )の 座 ( ざ )に 予参 ( よさん )す 春花面面闌入酣暢之筵。 晩鶯声声予参講誦之座。 春日侍前鎮西部督大王読史記序 大江朝綱 らくくわらうぜきたりかぜくるひてのち、 ていてうりようしようたりあめのうつとき、 落花 ( らくくわ ) 狼籍 ( らうぜき )たり 風 ( かぜ ) 狂 ( くる )ひて 後 ( のち ) 啼鳥 ( ていてう ) 龍鐘 ( りようしよう )たり 雨 ( あめ )の 打 ( う )つ 時 ( とき ) 落花狼籍風狂後。 啼鳥龍鐘雨打時。 惜残春 同 かくをはなるるほうのかけりはおばしまによりてまひ、 ろうをくだれるあいのそではきざはしをかへりみてひるがへる、 閤 ( かく )を 離 ( はな )るる 鳳 ( ほう )の 翔 ( かけり )は 檻 ( おばしま )に 憑 ( よ )りて 舞 ( ま )ひ、 楼 ( ろう )を 下 ( くだ )れる 娃 ( あい )の 袖 ( そで )は 階 ( きざはし )を 顧 ( かへり )みて 翻 ( ひるがへ )る、 離閤鳳翔憑檻舞。 下楼娃袖顧階翻。 落花還繞樹詩 菅原文時 拾遺 さくらちるこのしたかぜはさむからで そらにしられぬ雪ぞふりける 紀貫之 拾遺 とのもりのとものみやつここころあらば このはるばかり朝きよめすな 源公忠 躑躅 ( つつじ ) ばんずゐなほひらくこうてきちよく、 あきのはなぶさはじめてむすぶはくふよう、 晩蘂 ( ばんずい )なほ 開 ( ひら )く 紅躑躅 ( こうてきちよく )、 秋 ( あき )の 房 ( はなぶさ ) 初 ( はじ )めて 結 ( むす )ぶ 白芙蓉 ( はくふよう )、 晩蘂尚開紅躑躅。 秋房初結白芙蓉。 題元十八渓居 白居易 やいうのひとはたづねきたりてとらんとほつす、 かんしよくのいへにはまさにをりをえておどろくべし、 夜遊 ( やいう )の 人 ( ひと )は 尋 ( たづ )ね 来 ( きた )りて 把 ( と )らんと 欲 ( ほつ )す、 寒食 ( かんしよく )の 家 ( いへ )にはまさに 折 ( を )り 得 ( え )て 驚 ( おどろ )くべし、 夜遊人欲尋来把。 寒食家応折得驚。 山石榴艶似火 源順 古今 おもひいづるときはのやまのいはつつじ いはねばこそあれこひしきものを 平貞文 款冬 ( やまぶき ) しわうをてんちやくしててんにこゝろあり、 くわんどうあやまりてぼしゆんのかぜにほころぶ、 雌黄 ( しわう )を 点着 ( てんちやく )して 天 ( てん )に 意 ( こゝろ )あり、 款冬 ( くわんどう ) 誤 ( あやま )りて 暮春 ( ぼしゆん )の 風 ( かぜ )に 綻 ( ほころ )ぶ、 点着雌黄天有意。 款冬誤綻暮春風。 藤原実頼 しよさうにまきありてあひしうしふす、 せうしにぶんなくもいまだほうかうせず、 書窓 ( しよさう )に 巻 ( まき ) 有 ( あ )りて 相収拾 ( あひしうしふ )す、 詔紙 ( せうし )に 文 ( ぶん ) 無 ( な )くもいまだ 奉行 ( ほうかう )せず、 書窓有巻相収拾。 詔紙無文未奉行。 題花黄 慶滋保胤 新古今 かはづなく神なびがはに影みえて いまやさくらん山ぶきの花 厚見王 拾遺 わがやどのやへ山吹はひとへだに ちりのこらなむはるのかたみに 平兼盛 藤 ( ふぢ ) じおんにちやうばうすさんげつのつくることを、 しとうのはなおちてとりくわん 〳 〵たり、 慈恩 ( じおん )に 悵望 ( ちやうばう )す 三月 ( さんげつ )の 尽 ( つ )くることを、 紫藤 ( しとう ) 花 ( はな ) 落 ( お )ちて 鳥 ( とり ) 関々 ( くわん 〳 〵 )たり、 悵望慈恩三月尽。 紫藤花落鳥関関 酬元十八三月三十日慈恩寺見寄 白居易 しとうのつゆのそこざんくわのいろ、 すゐちくのけむりのなかぼてうのこゑ、 紫藤 ( しとう )の 露 ( つゆ ) 底 ( そこ ) 残花 ( ざんくわ )の 色 ( いろ )、 翠竹 ( すゐちく )の 煙 ( けむり )の 中 ( なか ) 暮鳥 ( ぼてう )の 声 ( こゑ ) 紫藤露底残花色。 翠竹煙中暮鳥声。 四月有余春詩 源相規 しじようはひとへにあけのころものいろをうばふ、 まさにこれはなのこゝろけんだいをわするべし、 紫茸 ( しじよう )は 偏 ( ひとへ )に 朱衣 ( あけのころも )の 色 ( いろ )を 奪 ( うば )ふ、 まさに 是 ( これ ) 花 ( はな )の 心 ( こゝろ ) 憲台 ( けんだい )を 忘 ( わす )るべし、 紫茸偏奪朱衣色、 応是花心忘憲台、 於御史中丞亭翫藤 源順 拾遺 たごのうらそこさへにほふふぢなみを かざしてゆかんみぬ人のため 柿本人麿 続古今 ときはなるまつのなたてにあやなくも かかれるふぢのさきてちるかな 紀貫之 夏 更衣 ( かうい ) かべにそむけるともしびはよべをふるほのほをのこし、 はこをひらけるころもはとしをへだつるにほひをおびたり、 壁 ( かべ )に 背 ( そむ )ける 燈 ( ともしび )は 宿 ( よべ )を 経 ( ふ )る 焔 ( ほのほ )を 残 ( のこ )し、 箱 ( はこ )を 開 ( ひら )ける 衣 ( ころも )は 年 ( とし )を 隔 ( へだ )つる 香 ( にほひ )を 帯 ( お )びたり、 背壁残燈経宿焔。 開箱衣帯隔年香。 早夏暁興 白居易 せいい(すゞしのきぬ)はかじんをまちてちやくせんとほつす、 しゆくぢやうはまさにいふらうをまねきてたのしむべし、 生衣 ( せいい・すゞしのきぬ )は 家人 ( かじん )を 待 ( ま )ちて 着 ( ちやく )せんと 欲 ( ほつ )す、 宿醸 ( しゆくぢやう )はまさに 邑老 ( いふらう )を 招 ( まね )きて 酣 ( たのしむ )べし、 生衣欲待家人着。 宿醸当招邑老酣。 讚州作 菅原道真 拾遺 はなの色にそめしたもとのをしければ ころもかへうきけふにもあるかな 源重之 首夏 ( しゆか ) もたひのほとりのちくえふははるをへてじゆくし、 はしのもとのしやうびはなつにいりてひらく、 甕 ( もたひ )の 頭 ( ほとり )の 竹葉 ( ちくえふ )は 春 ( はる )を 経 ( へ )て 熟 ( じゆく )し、 階 ( はし )の 底 ( もと )の 薔薇 ( しやうび )は 夏 ( なつ )に 入 ( い )りて 開 ( ひら )く、 甕頭竹葉経春熟。 階底薔薇入夏開。 薔薇正開春酒初熟 白居易 こけせきめんにしやうじてけいいみじかし、 はちすちしんよりいでてせうがいまばらなり、 苔 ( こけ ) 石面 ( せきめん )に 生 ( しやう )じて 軽衣 ( けいい ) 短 ( みじか )し、 荷 ( はちす ) 池心 ( ちしん )より 出 ( い )でて 小蓋 ( せうがい ) 疎 ( まばら )なり、 苔生石面軽衣短。 荷出池心小蓋疎。 首夏作 物部安興 拾遺 わがやどのかきねや春をへだつらん 夏きにけりとみゆるうのはな 源順 夏夜 ( なつのよ ) かぜこぼくふけばはれのそらのあめ、 つきのへいさをてらせばなつのよのしも、 風 ( かぜ ) 枯木 ( こぼく )を 吹 ( ふ )けば 晴 ( はれ )の 天 ( そら )の 雨 ( あめ )、 月 ( つき )の 平沙 ( へいさ )を 照 ( てら )せば 夏 ( なつ )の 夜 ( よ )の 霜 ( しも )、 風吹枯木晴天雨。 月照平沙夏夜霜。 江楼夕望 白居易 かぜたけになるよまどのあひだにふせり、 つきまつをてらすときにうてなのほとりにありく、 風 ( かぜ ) 竹 ( たけ )に 生 ( な )る 夜 ( よ ) 窓 ( まど )の 間 ( あひだ )に 臥 ( ふ )せり、 月 ( つき ) 松 ( まつ )を 照 ( てら )す 時 ( とき )に 台 ( うてな )の 上 ( ほとり )に 行 ( あり )く、 風生竹夜窓間臥。 月照松時台上行。 早夏独居 白居易 くうやまどはしづかなりほたるわたりてのち、 しんかうのきはしろしつきのあきらかなるはじめ、 空夜 ( くうや ) 窓 ( まど )は 閑 ( しづ )かなり 蛍 ( ほたる ) 度 ( わた )りて 後 ( のち )、 深更 ( しんかう ) 軒 ( のき )は 白 ( しろ )し 月 ( つき )の 明 ( あき )らかなる 初 ( はじめ )、 空夜窓閑蛍度後。 深更軒白月明初。 夜陰帰房 紀長谷雄 なつのよをねぬにあけぬといひおきし 人はものをやおもはざりけん 柿本人麿 家集 ほととぎすなくやさつきのみじかよも ひとりしぬればあかしかねつも 柿本人麿 古今 なつのよはふすかとすればほととぎす なくひとこゑにあくるしののめ 端午 ( たんご ) ときありてとにあたりてみをあやぶめてたてり、 こゝろなくしてこゑんにあしにまかせてゆかん、 時 ( とき ) 有 ( あ )りて 戸 ( と )に 当 ( あた )りて 身 ( み )を 危 ( あや )ぶめて 立 ( た )てり、 意 ( こゝろ ) 無 ( な )くして 故園 ( こゑん )に 脚 ( あし )に 任 ( まか )せて 行 ( ゆ )かん。 有時当戸危身立。 無意故園任脚行。 懸艾人 菅原道真 家集 わかこまとけふにあひくるあやめぐさ おひおくるるやまくるなるらん 大中臣頼基 拾遺 きのふまでよそにおもひしあやめぐさ けふわがやどのつまとみるかな 大中臣能宣 納涼 ( なふりやう ) せいたいのちのうへにざんうをけし、 りよくじゆのかげのまへにばんりやうをおふ、 青苔 ( せいたい )の 地 ( ち )の 上 ( うへ )に 残雨 ( ざんう )を 銷 ( け )し、 緑樹 ( りよくじゆ )の 陰 ( かげ )の 前 ( まへ )に 晩涼 ( ばんりやう )を 逐 ( お )ふ、 青苔地上銷残雨。 緑樹陰前逐晩涼。 地上逐涼 白居易 ろてんせいゑいとしてよをむかへてなめらかなり、 ふうきんせうさいとしてあきにさきだちてすずし、 露簟 ( ろてん ) 清瑩 ( せいゑい )として 夜 ( よ )を 迎 ( むか )へて 滑 ( なめ )らかなり、 風襟 ( ふうきん ) 蕭灑 ( せうさい )として 秋 ( あき )に 先 ( さき )だちて 涼 ( すゞ )し、 露簟清瑩迎夜滑。 風襟蕭灑先秋涼。 地上夜境 白居易 これぜんばうにねつのいたることなきあらず、 たゞよくこゝろしづかなればすなはちみもすゞし、 是 ( これ ) 禅房 ( ぜんばう )に 熱 ( ねつ )の 到 ( いた )ること 無 ( な )きあらず、 たゞ 能 ( よ )く 心 ( こゝろ ) 静 ( しづ )かなれば 即 ( すなは )ち 身 ( み )も 涼 ( すゞ )し、 不是禅房無熱到。 但能心静即身涼。 苦熱題桓寂禅師房 白居易 はんせふよがだんせつのあふぎ、がんふうにかはりてながくわすれたり、 えんのせうわうのせうりやうのたまも、さげつにあたりておのづからえたり、 班婕妤 ( はんせふよ )が 団雪 ( だんせつ )の 扇 ( あふぎ )、 岸風 ( がんふう )に 代 ( か )はりて 長 ( なが )く 忘 ( わす )れたり、 燕 ( えん )の 昭王 ( せうわう )の 招涼 ( せうりやう )の 珠 ( たま )も、 沙月 ( さげつ )に 当 ( あた )りて 自 ( おのづか )ら 得 ( え )たり、 班婕妤団雪之扇。 代岸風兮長忘。 燕昭王招涼之珠。 当沙月兮自得。 避暑対水石序 大江匡衡 ふしてはしんとりんすゐのしやうをみ、 ゆきてはこしふなふりやうのしをぎんず、 臥 ( ふ )しては 新図 ( しんと ) 臨水 ( りんすゐ )の 障 ( しやう )を 見 ( み )、 行 ( ゆ )きては 古集 ( こしふ ) 納涼 ( なふりやう )の 詩 ( し )を 吟 ( ぎん )ず、 臥見新図臨水障。 行吟古集納涼詩。 題納涼之画 菅原道真 いけひやゝかにしてみづにさんふくのなつなく、 まつたかくしてかぜにいつせいのあきあり、 池 ( いけ ) 冷 ( ひや )ゝかにして 水 ( みづ )に 三伏 ( さんふく )の 夏 ( なつ )なく、 松 ( まつ ) 高 ( たか )くして 風 ( かぜ )に 一声 ( いつせい )の 秋 ( あき )あり、 池冷水無三伏夏。 松高風有一声秋。 夏日閑避暑 源英明 古今 すずしやと草むらことにたちよれば あつさぞまさるとこなつのはな 紀貫之 新千載 したくぐる水にあきこそかよふらし むすぶいづみの手さへすずしき 中務 拾遺 まつかげのいは井の水をむすびあげて なつなきとしとおもひけるかな 恵慶法師 晩夏 ( ばんか ) ちくていかげあひてひとへになつによろし、 すゐかんかぜすゞしくしてあきをまたず、 竹亭 ( ちくてい ) 陰 ( かげ ) 合 ( あ )ひて 偏 ( ひとへ )に 夏 ( なつ )に 宜 ( よろ )し、 水檻 ( すゐかん ) 風 ( かぜ ) 涼 ( すゞ )しくして 秋 ( あき )を 待 ( ま )たず、 竹亭陰合偏宜夏。 水檻風涼不待秋。 夏日遊永安水亭 白居易 新古今 夏はつるあふぎとあきのしらつゆと いづれかさきにをかんとすらん 拾遺 ねぎごともきかずあらぶる神だにも けふはなごしのはらへなりけり 斎宮 橘花 ( はなたちばな ) ろきつみをたれてさんうおもく、 へいりよはそよぎてすゐふうすゞし、 盧橘 ( ろきつ ) 子 ( み )を 低 ( た )れて 山雨 ( さんう ) 重 ( おも )く、 栟櫚 ( へいりよ ) 葉 ( は ) 戦 ( そよ )ぎて 水風 ( すゐふう ) 涼 ( すゞ )し、 盧橘子低山雨重。 栟櫚葉戦水風涼。 西湖晩帰望孤山寺 白居易 えだにはきんれいをつなぐしゆんうののち、 はなはしゞやにくんずがいふうのほど、 枝 ( えだ )には 金鈴 ( きんれい )を 繋 ( つな )ぐ 春雨 ( しゆんう )の 後 ( のち )、 花 ( はな )は 紫麝 ( しゞや )に 薫 ( くん )ず 凱風 ( がいふう )の 程 ( ほど ) 枝繋金鈴春雨後。 花薫紫麝凱風程。 花橘詩 後中書王 古今 さつきまつはなたちばなのかをかげば むかしの人の袖のかぞする ほととぎすはなたちばなにかをとめて なくはむかしの人やこひしき 貫之 蓮 ( はちす ) ふうかのらうえふはせうでうとしてみどりなり、 すゐれうのざんくわはせきばくとしてくれなゐなり、 風荷 ( ふうか )の 老葉 ( らうえふ )は 蕭条 ( せうでう )として 緑 ( みどり )なり、 水蓼 ( すゐれう )の 残花 ( ざんくわ )は 寂寞 ( せきばく )として 紅 ( くれなゐ )なり、 風荷老葉蕭条緑。 水蓼残花寂寞紅。 県西郊秋寄贈馬造階下 白居易 はのびてかげはひるがへるみぎりにあたるつき、 はなひらきてかはさんじてすだれにいるかぜ、 葉 ( は ) 展 ( の )びて 影 ( かげ )は 翻 ( ひるがへ )る 砌 ( みぎり )に 当 ( あた )る 月 ( つき )、 花 ( はな ) 開 ( ひら )きて 香 ( か )は 散 ( さん )じて 簾 ( すだれ )に 入 ( い )る 風 ( かぜ )、葉展影翻当砌月。 花開香散入簾風。 階下蓮 白居易 けむりすゐせんをひらくせいふうのあかつき、 みづこういをうかぶはくろのあき、 煙 ( けむり ) 翠扇 ( すいせん )を 開 ( ひら )く 清風 ( せいふう )の 暁 ( あかつき )、 水 ( みづ ) 紅衣 ( こうい )を 泛 ( うか )ぶ 白露 ( はくろ )の 秋 ( あき )、 煙開翠扇清風暁。 水泛紅衣白露秋。 題雲陽駅亭蓮 許渾 がんちくえだたれたりまさにとりのやどとなるべく、 たんかはうごくこれうをのあそぶならん、 岸竹 ( がんちく ) 枝 ( えだ ) 低 ( た )れたりまさに 鳥 ( とり )の 宿 ( やどり )となるべく、 潭荷 ( たんか ) 葉 ( は ) 動 ( うご )くこれ 魚 ( うを )の 遊 ( あそ )ぶならん、 岸竹枝低応鳥宿。 潭荷葉動是魚遊。 池亭晩望 紀在昌 なにによりてかさらにござんのくまをもとめん、 すなはちこれわがきみのざかのはななればなり、 何 ( なに )に 縁 ( よ )りてか 更 ( さら )に 呉山 ( ござん )の 曲 ( くま )に 覓 ( もと )めん、 便 ( すなは )ちこれ 吾 ( わ )が 君 ( きみ )の 座下 ( ざか )の 花 ( はな )なればなり、 縁何更覓呉山曲。 便是吾君座下花。 亭子院法皇御賀呉山千葉蓮華屏風詩 醍醐帝御製 きやうにはだいもくたりほとけにはまなこたり、 しりぬなんぢがはなのなかにぜんこんをうゑたることを、 経 ( きやう )には 題目 ( だいもく )たり 仏 ( ほとけ )には 眼 ( まなこ )たり、 知 ( し )りぬ 汝 ( なんぢ )が 花 ( はな )の 中 ( なか )に 善根 ( ぜんこん )を 植 ( う )ゑたることを、 経為題目仏為眼。 知汝花中植善根。 石山寺池蓮 源為憲 古今 はちす葉のにごりにしまぬこころもて なにかは露をたまとあざむく 郭公 ( ほとゝぎす ) いつせいのさんてうはしようんのほか、 ばんてんのすゐけいはしうさうのうち、 一声 ( いつせい )の 山鳥 ( さんてう )は 曙雲 ( しようん )の 外 ( ほか )、 万点 ( ばんてん )の 水蛍 ( すゐけい )は 秋草 ( しうさう )の 中 ( うち )、 一声山鳥曙雲外。 万点水蛍秋草中。 題発幽居将尋同志 許渾 新後拾遺 さつきやみおぼつかなきをほととぎす なくなるこゑのいとどはるけき 明日香皇子 拾遺 ゆきやらで山路くらしつほととぎす いまひとこゑのきかまほしさに 源公忠 拾遺 さよふけてねざめざりせばほととぎす 人づてにこそきくべかりけれ 壬生忠見 蛍 ( ほたる ) けいくわみだれとびてあきすでにちかし、 しんせいはやくかくれてよるはじめてながし、 蛍火 ( けいくわ ) 乱 ( みだ )れ 飛 ( と )びて 秋 ( あき ) 已 ( すで )に 近 ( ちか )し、 辰星 ( しんせい ) 早 ( はや )く 没 ( かく )れて 夜 ( よる ) 初 ( はじ )めて 長 ( なが )し、 蛍火乱飛秋已近。 辰星早没夜初長。 夜座 元稹 けんかみづくらくしてほたるよをしる、 やうりうかぜたかくしてがんあきをおくる、 蒹葭 ( けんか ) 水 ( みづ ) 暗 ( くら )くして 蛍 ( ほたる ) 夜 ( よる )を 知 ( し )る、 楊柳 ( やうりう ) 風 ( かぜ ) 高 ( たか )くして 雁 ( がん ) 秋 ( あき )を 送 ( おく )る、 蒹葭水暗蛍知夜。 楊柳風高鴈送秋。 常州留与楊給事 許渾 めい 〳 〵としてなほあり、たれかつきのひかりををくぢやうにおはんや、 かう 〳 〵としてきえず、あにせつぺんをしやうとうにつまんや、 明々 ( めい 〳 〵 )としてなほ 在 ( あ )り、 誰 ( たれ )か 月 ( つき )の 光 ( ひかり )を 屋上 ( をくぢやう )に 追 ( お )はんや、 皓々 ( かう 〳 〵 )として 消 ( き )えず、あに 雪片 ( せつぺん )を 床頭 ( しやうとう )に 積 ( つ )まんや。 明明仍在。 誰追月光於屋上。 皓皓不消。 豈積雪片於床頭。 秋蛍照帙賦 紀長谷雄 さんきやうのまきのうちにはくきをすぐるかとうたがふ、 かいふのへんのなかにはながれにやどるににたり、 山経 ( さんきやう )の 巻 ( まき )の 裏 ( うち )には 岫 ( くき )を 過 ( す )ぐるかと 疑 ( うたが )ふ、 海賦 ( かいふ )の 篇 ( へん )の 中 ( なか )には 流 ( ながれ )に 宿 ( やど )るに 似 ( に )たり、 山経巻裏疑過岫。 海賦篇中似宿流。 同題 橘直幹 新勅撰 草ふかきあれたるやどのともし火の 風にきえぬはほたるなりけり 山部赤人 後撰 つつめどもかくれぬものはなつむしの 身よりあまれるおもひなりけり 蝉 ( せみ ) ちゝたるはるのひに、たまのいしだゝみあたゝかにしてをんせんみてり、 でう 〳 〵たるあきのかぜに、やまのせみなきてきゆうじゆくれなゐなり、 遅々 ( ちゝ )たる 春 ( はる )の 日 ( ひ )に、 玉 ( たま )の 甃 ( いしだゝみ ) 暖 ( あたゝ )かにして 温泉 ( をんせん ) 溢 ( み )てり、 嫋々 ( でう 〳 〵 )たる 秋 ( あき )の 風 ( かぜ )に、 山 ( やま )の 蝉 ( せみ ) 鳴 ( な )きて 宮樹 ( きゆうじゆ ) 紅 ( くれなゐ )なり、 遅遅兮春日。 玉甃暖兮温泉溢。 嫋嫋兮秋風。 山蝉鳴兮宮樹紅。 驪山宮賦 白居易 せんほうのとりのみちはばいうをふくみ、 ごげつのせみのこゑはばくしうをおくる、 千峯 ( せんほう )の 鳥 ( とり )の 路 ( みち )は 梅雨 ( ばいう )を 含 ( ふく )み、 五月 ( ごげつ )の 蝉 ( せみ )の 声 ( こゑ )は 麦秋 ( ばくしう )を 送 ( おく )る、 千峯鳥路含梅雨。 五月蝉声送麦秋。 発青滋店至長安西渡江 李嘉祐 とりはりよくぶにおりてしんひんしづかなり、 せみはくわうえふになきてかんきゆうあきなり、 鳥 ( とり )は 緑蕪 ( りよくぶ )に 下 ( お )りて 秦苑 ( しんひん ) 静 ( しづ )かなり、 蝉 ( せみ )は 黄葉 ( くわうえふ )に 鳴 ( な )きて 漢宮 ( かんきゆう ) 秋 ( あき )なり、 鳥下緑蕪秦苑静。 蝉鳴黄葉漢宮秋。 題咸陽城東棲 許渾 こんねんはつねよりもことなりてはらはたまづたつ、 これせみのかなしきのみにあらずきやくのこゝろかなしきなり、 今年 ( こんねん )は 例 ( つね )よりも 異 ( こと )なりて 腸 ( はらはた ) 先 ( ま )づ 断 ( た )つ、 これ 蝉 ( せみ )の 悲 ( かな )しきのみにあらず 客 ( きやく )の 意 ( こゝろ ) 悲 ( かな )しきなり、 今年異例腸先断。 不是蝉悲客意悲。 聞新蝉 菅原道真 としさりとしきたりてきけどもへんぜず、 いふことなかれあきののちにつひにくうとならんと、 歳 ( とし ) 去 ( さ )り 歳 ( とし ) 来 ( きた )りて 聴 ( き )けども 変 ( へん )ぜず、 言 ( い )ふことなかれ 秋 ( あき )の 後 ( のち )に 遂 ( つひ )に 空 ( くう )と 為 ( な )らんと、 歳去歳来聴不変。 莫言秋後遂為空。 吟初蝉 紀納言 なつ山のみねのこずゑのたかければ 空にぞせみのこゑはきこゆる 後撰 これをみよ人もとがめぬこひすとて ねをなくむしのなれるすがたを 源重光 扇 ( あふぎ ) せいかにきえざるゆき、としををふるまでつくることなきかぜ、 あきをひきてしゆりにしやうず、つきをざうしてくわいちゆうにいる、 盛夏 ( せいか )に 消 ( き )えざる 雪 ( ゆき )、 年 ( とし )を 終 ( を )ふるまで 尽 ( つ )くること 無 ( な )き 風 ( かぜ )、 秋 ( あき )を 引 ( ひ )きて 手裏 ( しゆり )に 生 ( しやう )ず、 月 ( つき )を 蔵 ( ぞう )して 懐中 ( くわいちゆう )に 入 ( い )る、 盛夏不消雪。 終年無尽風。 引秋生手裏。 蔵月入懐中。 白羽扇 白居易 きせずやろうのはじめてわかるゝのち、 たゞもてあそぶしうふういまだいたらざるさき、 期 ( き )せず 夜漏 ( やろう )の 初 ( はじ )めて 分 ( わか )るゝ 後 ( のち )、 唯 ( たゞ ) 翫 ( もてあそ )ぶ 秋風 ( しうふう )いまだ 到 ( いた )らざる 前 ( さき )、 不期夜漏初分後。 唯翫秋風未到前。 軽扇動明月 菅原文時 拾遺 あまの川川瀬すずしきたなばたに あふぎのかぜをなほやかさまし 中務 拾遺 天の川あふぎのかぜにきりはれて そらすみわたるかささぎのはし 清原元輔 家集 君がてにまかするあきのかぜなれば なびかぬくさもあらじとぞおもふ 中務 秋 立秋 ( りつしう ) せうさつたるりやうふうとすゐびんと、 たれかけいくわいをしていちじにあきならしむる。 蕭颯 ( せうさつ )たる 涼風 ( りやうふう )と 悴鬢 ( すゐびん )と、 誰 ( たれ )か 計会 ( けいくわい )をして 一時 ( いちじ )に 秋 ( あき )ならしむる。 蕭颯涼風与悴鬢。 誰教計会一時秋。 立秋日登楽遊園 白居易 にはとりやうやくさんずるあひだあきのいろすくなし、 こひのつねにはしるところばんのこゑかすかなり、 鶏 ( にはとり ) 漸 ( やうや )く 散 ( さん )ずる 間 ( あひだ ) 秋 ( あき )の 色 ( いろ ) 少 ( すくな )し、 鯉 ( こひ )の 常 ( つね )に 趨 ( はし )る 処 ( ところ ) 晩 ( ばん )の 声 ( こゑ ) 微 ( かす )かなり、 鶏漸散間秋色少。 鯉常趨処晩声微。 於菅師匠旧亭賦一葉落庭時詩 慶滋保胤 古今 あききぬとめにはさやかにみえねども かぜのおとにぞおどろかれぬる 藤原敏行 後撰 うちつけにものぞかなしきこの葉ちる あきのはじめをけふとおもへば 大中臣能宣 早秋 ( さうしう ) たゞしよのさんぷくにしたがひてさることをよろこぶ、 あきのにまうをおくりきたることをしらず 但 ( たゞ ) 暑 ( しよ )の 三伏 ( さんぷく )に 随 ( したが )ひて 去 ( さ )ることを 喜 ( よろこ )ぶ、 秋 ( あき )の 二毛 ( にまう )を 送 ( おく )り 来 ( きた )ることを 知 ( し )らず 但喜暑随三伏去。 不知秋送二毛来。 早秋答蘇六 白居易 くわいくわあめにうるほふしんしうのち、 とうえふかぜすゞしよるならんとほつするてん、 槐花 ( くわいくわ ) 雨 ( あめ )に 潤 ( うるほ )ふ 新秋 ( しんしう )の 地 ( ち )、 桐葉 ( とうえふ ) 風 ( かぜ ) 涼 ( すゞ )し 夜 ( よる )ならんと 欲 ( ほつ )する 天 ( てん )、 槐花雨潤新秋地。 桐葉風涼欲夜天。 秘省後聴 白居易 えんけいあまつさへのこりてころもなほおもし、 ばんりやうひそかにいたりてたかむしろまづしる、 炎景 ( えんけい ) 剰 ( あまつ )さへ 残 ( のこ )りて 衣 ( ころも )なほ 重 ( おも )し、 晩涼 ( ばんりやう ) 潜 ( ひそ )かに 到 ( いた )りて 簟 ( たかむしろ ) 先 ( ま )づ 知 ( し )る、 炎景剰残衣尚重。 晩涼潜到簟先知。 立秋後作 紀長谷雄 万葉 あきたちていくかもあらねどこのねぬる あさけのかぜはたもとすずしも 安貴王 七夕 ( しちせき ) おもひえたりせうねんのながくきつかうすることを、 ちくかんのとうしやうにげんしおほし、 憶 ( おも )ひ 得 ( え )たり 少年 ( せうねん )の 長 ( なが )く 乞巧 ( きつかう )することを、 竹竿 ( ちくかん )の 頭上 ( とうしやう )に 願糸 ( げんし ) 多 ( おほ )し、 憶得少年長乞巧。 竹竿頭上願糸多。 七夕 白居易 にせいたまたまあひて、いまだべつしよのいいたるうらみをのべず、 ごやまさにあけなんとして、しきりにりやうふうのさつさつたるこゑにおどろく 二星 ( にせい )たまたま 逢 ( あ )ひて、いまだ 別緒 ( べつしよ )の 依々 ( いい )たる 恨 ( うら )みを 叙 ( の )べず、 五夜 ( ごや )まさに 明 ( あ )けなんとして、 頻 ( しきり )に 涼風 ( りやうふう )の 颯々 ( さつさつ )たる 声 ( こゑ )に 驚 ( おどろ )く 二星適逢。 未叙別緒依依之恨。 五夜将明。 頻驚涼風颯颯之声。 代牛女惜暁更詩序 小野美材 つゆはまさにわかれのなみだなるべしたまむなしくおつ、 くもはこれざんしやうならんもとゞりいまだならず、 露 ( つゆ )はまさに 別 ( わか )れの 涙 ( なみだ )なるべし 珠 ( たま ) 空 ( むな )しく 落 ( お )つ、 雲 ( くも )はこれ 残粧 ( ざんしやう )ならん 鬟 ( もとゞり )いまだ 成 ( な )らず、 露応別涙珠空落。 雲是残粧鬟未成。 代牛女惜暁更 菅原道真 かぜはさくやよりこゑいよいようらむ、 つゆはみやうてうにおよびてなみだきんぜず、 風 ( かぜ )は 昨夜 ( さくや )より 声 ( こゑ )いよいよ 怨 ( うら )む、 露 ( つゆ )は 明朝 ( みやうてう )に 及 ( およ )びて 涙 ( なみだ ) 禁 ( きん )ぜず、 風従昨夜声弥怨。 露及明朝涙不禁。 代牛女惜暁 大江綱朝 きよいなみにひきてかすみうるほふべし、 かうしよくながれにひたりてつききえなんとほつす、 去衣 ( きよい ) 浪 ( なみ )に 曳 ( ひ )きて 霞 ( かすみ ) 湿 ( うるほ )ふべし、 行燭 ( かうしよく ) 流 ( なが )れに 浸 ( ひた )りて 月 ( つき ) 消 ( き )えなんと 欲 ( ほつ )す、 去衣曳浪霞応湿。 行燭浸流月欲消。 七夕含媚渡河橋詩 菅原文時 ことばはびはにたくしかつやるといへども、 こゝろはへんげつをきしなかだちとせんとほつす、 詞 ( ことば )は 微波 ( びは )に 託 ( たく )しかつ 遣 ( や )るといへども、 心 ( こゝろ )は 片月 ( へんげつ )を 期 ( き )し 媒 ( なかだち )とせんと 欲 ( ほつ )す、 詞託微波雖且遣。 心期片月欲為媒。 代牛女侍夜 菅原輔昭 後撰 あまの川とほきわたりにあらねども きみがふなではとしにこそまて 柿本人丸 拾遺 ひととせにひとよとおもへどたなばたの あひみるあきのかぎりなきかな 紀貫之 拾遺 としごとにあふとはすれどたなばたの ぬるよのかずぞすくなかりける 凡河内躬恒 秋興 ( しうきよう ) りんかんにさけをあたゝめてこうえふをたき、 せきじやうにしをだいしてりよくたいをはらふ、 林間 ( りんかん )に 酒 ( さけ )を 煖 ( あたゝ )めて 紅葉 ( こうえふ )を 焼 ( た )き、 石上 ( せきじやう )に 詩 ( し )を 題 ( だい )して 緑苔 ( りよくたい )を 掃 ( はら )ふ、 林間煖酒焼紅葉。 石上題詩掃緑苔。 題仙遊寺 白居易 そしべうばうとしてうんすいひややかなり、 しやうせいせいぜいとしてくわんげんあきなり、 楚思 ( そし ) 眇茫 ( べうばう )として 雲水 ( うんすい ) 冷 ( ひややか )なり、 商声 ( しやうせい ) 清脆 ( せいぜい )として 管絃 ( くわんげん ) 秋 ( あき )なり、 楚思眇茫雲水冷。 商声清脆管絃秋。 於黄鶴楼宴罷望 白居易 おほむねしゞこゝろすべてくるし、 なかにつきてはらわたたゆるはこれあきのそら 大抵 ( おほむね ) 四時 ( しゞ ) 心 ( こゝろ ) 惣 ( す )べて 苦 ( くる )し、 就中 ( なかにつきて ) 腸 ( はらわた ) 断 ( た )ゆるはこれ 秋 ( あき )の 天 ( そら )。 大抵四時心惣苦。 就中腸断是秋天。 暮立 白居易 もののいろはおのづからかくのこゝろをいたましむるにたへたり、 むべなりうれへのじをもつてあきのこゝろとつくれること 物 ( もの )の 色 ( いろ )は 自 ( おのづか )ら 客 ( かく )の 意 ( こゝろ )を 傷 ( いた )ましむるに 堪 ( た )へたり、 むべなり 愁 ( うれ )への 字 ( じ )をもつて 秋 ( あき )の 心 ( こゝろ )と 作 ( つく )れること 物色自堪傷客意。 宜将愁字作秋心。 客舎秋情 小野篁 もとよりおもひをかんずることはあきのそらにあり、 おほくたうじのせつぶつにひかれたり もとより 思 ( おも )ひを 感 ( かん )ずることは 秋 ( あき )の 天 ( そら )に 在 ( あ )り、 多 ( おほ )く 当時 ( たうじ )の 節物 ( せつぶつ )に 牽 ( ひ )かれたり 由来感思在秋天。 多被当時節物牽。 秋日感懐 島田忠臣 だいゝちこゝろをいたむることはいづれのところかもつともなる、 ちくふうはをならすつきのあきらかなるまへ、 第一 ( だいゝち ) 心 ( こゝろ )を 傷 ( いた )むることは 何 ( いづ )れの 処 ( ところ )か 最 ( もつと )もなる、 竹風 ( ちくふう ) 葉 ( は )を 鳴 ( な )らす 月 ( つき )の 明 ( あき )らかなる 前 ( まへ )、 第一傷心何処最。 竹風鳴葉月明前。 同 島田忠臣 しよくちややうやくふくわのあぢはひをわすれ、 それんはあらたにゆきをうつこゑをつたふ 蜀茶 ( しよくちや ) 漸 ( やうや )く 浮花 ( ふくわ )の 味 ( あぢは )ひを 忘 ( わす )れ、 楚練 ( それん )は 新 ( あら )たに 雪 ( ゆき )を 擣 ( う )つ 声 ( こゑ )を 伝 ( つた )ふ。 蜀茶漸忘浮花味。 楚練新伝擣雪声。 暑往寒来詩 大江音人或源相規 新拾遺 うづらなくいはれののべのあき萩を おもふ人ともみつるけふかな 丹後国人 秋 ( あき )はなほゆふまぐれこそたゞならね をぎのうはかぜはぎのした露 藤原義孝 秋晩 ( しうばん ) あひおもひてゆふべにしようだいにのぼりてたてば、 きり 〳 〵すのおもひせみのこゑみゝにみてるあきなり 相思 ( あひおも )ひて 夕 ( ゆふべ )に 松台 ( しようだい )に 上 ( のぼ )りて 立 ( た )てば、 蛬 ( きり 〳 〵す )の 思 ( おも )ひ 蝉 ( せみ )の 声 ( こゑ ) 耳 ( みゝ )に 満 ( み )てる 秋 ( あき )なり 相思夕上松台立。 蛬思蝉声満耳秋。 題李十一東亭 白居易 やまをのぞめばゆうげつなほかげをかくせり、 みぎりにきけばひせんうたゝこゑをます、 山 ( やま )を 望 ( のぞ )めば 幽月 ( ゆうげつ )なほ 影 ( かげ )を 蔵 ( かく )せり、 砌 ( みぎり )に 聴 ( き )けば 飛泉 ( ひせん )うたゝ 声 ( こゑ )を 倍 ( ま )す、 望山幽月猶蔵影。 聴砌飛泉転倍声。 法輪寺口号 菅原文時 新古今 をぐらやまふもとののべのはなすすき ほのかにみゆるあきの夕ぐれ 紀貫之 秋夜 ( しうや ) あきのよはながし、よながくしてねむることなければてんもあけず、 かうかうたるのこりのともしびかべにそむけるかげ、 せう 〳 〵たるよるのあめはまどをうつこゑあり、 秋 ( あき )の 夜 ( よ )は 長 ( なが )し、 夜 ( よ ) 長 ( なが )くして 睡 ( ねむ )ることなければ 天 ( てん )も 明 ( あ )けず、 耿々 ( かうかう )たる 残 ( のこ )りの 燈 ( ともしび ) 壁 ( かべ )に 背 ( そむ )ける 影 ( かげ )、 蕭々 ( せう 〳 〵 )たる 暗 ( よる )の 雨 ( あめ )は 窓 ( まど )を 打 ( う )つ 声 ( こゑ )あり、 秋夜長。 夜長無睡天不明。 耿耿残燈背壁影。 蕭蕭暗雨打窓声。 上陽白髪人 白居易 ちちたるしようろうはじめてながきよ、 かうかうたるせいかあけなんとほつするてん 遅々 ( ちち )たる 鐘漏 ( しようろう ) 初 ( はじ )めて 長 ( なが )き 夜 ( よ )、 耿々 ( かうかう )たる 星河 ( せいか ) 曙 ( あ )けなんと 欲 ( ほつ )する 天 ( てん )。 遅遅鐘漏初長夜。 耿耿星河欲曙天。 長恨歌 白居易 えんしろうのうちさうげつのよ、 あききたりてはたゞいちにんのためにながし、 燕子楼 ( えんしろう )の 中 ( うち ) 霜月 ( さうげつ )の 夜 ( よ )、 秋 ( あき ) 来 ( きた )りてはたゞ 一人 ( いちにん )のために 長 ( なが )し、 燕子楼中霜月夜。 秋来只為一人長。 燕子楼 白居易 まんさうつゆふかしひとしづまりてのち、 よもすがらくもつきぬつきのあきらかなるまへ、 蔓草 ( まんさう ) 露 ( つゆ ) 深 ( ふか )し 人 ( ひと ) 定 ( しづ )まりて 後 ( のち )、 終宵 ( よもすがら ) 雲 ( くも ) 尽 ( つ )きぬ 月 ( つき )の 明 ( あき )らかなる 前 ( まへ )、 蔓草露深人定後。 終霄雲尽月明前。 秋夜詣祖廟詩 小野篁 けんかしうのうちのこしうのゆめ、 ゆりうえいのほとりばんりのこゝろ、 蒹葭州 ( けんかしう )の 裏 ( うち )の 孤舟 ( こしう )の 夢 ( ゆめ )、 楡柳営 ( ゆりうえい )の 頭 ( ほとり ) 万里 ( ばんり )の 心 ( こゝろ )、 蒹葭州裏孤舟夢。 楡柳営頭万里心。 秋夜雨 紀斎名 拾遺 あしびきのやまどりのをのしだりをの なが 〳 〵しよをひとりかもねん 柿本人丸 古今 むつごともまだつきなくにあけにけり いづらはあきのながしてふよは 凡河内躬恒 八月十五夜 ( はちぐわつじふごや ) 付月 しんてんのいつせんより、りん 〳 〵としてこほりしけり、 かんかのさんじふろくきう、ちようちようとしてふんをかざれり、 秦甸 ( しんてん )の 一千余里 ( いつせんより )、 凛々 ( りん 〳 〵 )として 氷 ( こほり ) 鋪 ( し )けり、 漢家 ( かんか )の 三十六宮 ( さんじふろくきう )、 澄澄 ( ちようちよう )として 粉 ( ふん )を 餝 ( かざ )れり、 秦甸之一千余里。 凛凜氷鋪。 漢家之三十六宮。 澄澄粉餝。 長安十五夜人賦 公乗億 にしきをおるはたのうちにすでにさうしのじをわきまへ、 ころもをうつきぬたのうへににはかにえんべつのこゑをそふ、 錦 ( にしき )を 織 ( お )る 機 ( はた )の 中 ( うち )にすでに 相思 ( さうし )の 字 ( じ )を 弁 ( わきま )へ、 衣 ( ころも )を 擣 ( う )つ 砧 ( きぬた )の 上 ( うへ )に 俄 ( にはか )に 怨別 ( えんべつ )の 声 ( こゑ )を 添 ( そ )ふ、 織錦機中已弁相思之字。 擣衣砧上俄添怨別之声。 同上 公乗億 さんごやちうのしんげつのいろ、 にせんりのほかのこじんのこころ、 三五夜中 ( さんごやちう )の 新月 ( しんげつ )の 色 ( いろ )、 二千里 ( にせんり )の 外 ( ほか )の 故人 ( こじん )の 心 ( こころ )、 三五夜中新月色。 二千里外故人心。 八月十五日夜禁中猶直対月憶元九 白居易 すうざんのへうりせんちやうのゆき、 らくすゐのかうていりやうくわのたま 嵩山 ( すうざん )の 表裏 ( へうり ) 千重 ( せんちやう )の 雪 ( ゆき )、 洛水 ( らくすゐ )の 高低 ( かうてい ) 両顆 ( りやうくわ )の 珠 ( たま ) 嵩山表裏千重雪。 洛水高低両顆珠。 八月十五日夜翫月 同 じふにくわいのうちにこのゆふべのよきにまさるはなし、 せんまんりのほかにみなわがいへのひかりをあらそふ 十二廻 ( じふにくわい )の 中 ( うち )にこの 夕 ( ゆふべ )の 好 ( よ )きに 勝 ( まさ )るは 無 ( な )し、 千万里 ( せんまんり )の 外 ( ほか )に 皆 ( みな )わが 家 ( いへ )の 光 ( ひかり )を 争 ( あらそ )ふ 十二廻中無勝於此夕之好。 千万里外皆争於吾家之光。 天高秋月明房 紀長谷雄 へきらうきんぱはさんごのはじめ、 あきのかぜけいくわいしてくうきよににたり 碧浪 ( へきらう ) 金波 ( きんぱ )は 三五 ( さんご )の 初 ( はじめ )、 秋 ( あき )の 風 ( かぜ ) 計会 ( けいくわい )して 空虚 ( くうきよ )に 似 ( に )たり。 碧浪金波三五初。 秋風計会似空虚。 月影満秋池詩 菅原淳茂 みづからうたがふかえふはしもをこらしてはやきことを、 ひとはいふろくわのあめをすごしてあまれるかと、 自 ( みづか )ら 疑 ( うたが )ふ 荷葉 ( かえふ )は 霜 ( しも )を 凝 ( こ )らして 早 ( はや )きことを、 人 ( ひと )は 道 ( い )ふ 蘆花 ( ろくわ )の 雨 ( あめ )を 過 ( す )ごして 余 ( あま )れるかと、 自疑荷葉凝霜早。 人道蘆花遇雨余。 同 同 きししろくかへりてしようじやうのつるにまよひ、 ふちとほりてはさうちうのうををかぞふべし、 岸 ( きし ) 白 ( しろ )く 還 ( かへ )りて 松上 ( しようじやう )の 鶴 ( つる )に 迷 ( まよ )ひ、 潭 ( ふち ) 融 ( とほ )りては 藻中 ( さうちう )の 魚 ( うを )を 算 ( かぞ )ふべし、 岸白還迷松上鶴。 潭融可弄藻中魚。 同 同 えうちはすなはちこれよのつねのな、 このよのせいめいはたまもしかじ 瑶池 ( えうち )はすなはちこれ 尋常 ( よのつね )の 号 ( な )、 此夜 ( このよ )の 清明 ( せいめい )は 玉 ( たま )も 如 ( し )かじ 瑶池便是尋常号。 此夜清明玉不如。 同 同 きんかういつてきしうふうのつゆ、 ぎよくかうさんかうれいかんのくも、 金膏 ( きんかう ) 一滴 ( いつてき ) 秋風 ( しうふう )の 露 ( つゆ )、 玉匣 ( ぎよくかう ) 三更 ( さんかう ) 冷漢 ( れいかん )の 雲 ( くも )、 金膏一滴秋風露。 玉匣三更冷漢雲。 満月明如鏡 菅原文時 やうきひかへりてたうていのおもひ、 りふじんさりてかんわうのこゝろ、 楊貴妃 ( やうきひ ) 帰 ( かへ )りて 唐帝 ( たうてい )の 思 ( おもひ )、 李夫人 ( りふじん ) 去 ( さ )りて 漢皇 ( かんわう )の 情 ( こゝろ )、 楊貴妃帰唐帝思。 李夫人去漢皇情。 対雨恋月 源順 拾遺 みづのおもにてる月なみをかぞふれば こよひぞあきのもなかなりける 源順 月 ( つき ) たれびとかろうぐわいにひさしくせいじうする、 いづれのところのていぜんにかあらたにべつりする、 誰人 ( たれびと )か 隴外 ( ろうぐわい )に 久 ( ひさ )しく 征戍 ( せいじう )する、 何 ( いづ )れの 処 ( ところ )の 庭前 ( ていぜん )にか 新 ( あら )たに 別離 ( べつり )する、 誰人隴外久征戍。 何処庭前新別離。 秋月 白居易 あきのみづみなぎりきたりてふねのさることすみやかなり、 よるのくもをさまりつくしてつきのゆくことおそし、 秋 ( あき )の 水 ( みづ ) 漲 ( みなぎ )り 来 ( きた )りて 船 ( ふね )の 去 ( さ )ること 速 ( すみや )かなり、 夜 ( よる )の 雲 ( くも ) 収 ( をさ )まり 尽 ( つ )くして 月 ( つき )の 行 ( ゆ )くこと 遅 ( おそ )し、 秋水漲来船去速。 夜雲収尽月行遅。 汴水東帰即事 郢展 きんちうにゑはざればいかでかさることをゑん、 まゐざんのつきはまさにさう 〳 〵たり、 黔中 ( きんちう )に 酔 ( ゑ )はざればいかでか 去 ( さ )ることを 得 ( ゑ )ん、 磨囲山 ( まゐざん )の 月 ( つき )は 正 ( まさ )に 蒼々 ( さう 〳 〵 )たり、 不酔黔中争去得。 磨囲山月正蒼々。 送蕭処士遊黔南 白居易 てんさんにわきまへずいづれのとしのゆきぞ、 がふほにはまさにまよひぬべしきうじつのたまに、 天山 ( てんさん )に 弁 ( わきま )へず 何 ( いづ )れの 年 ( とし )の 雪 ( ゆき )ぞ、 合浦 ( がふほ )にはまさに 迷 ( まよ )ひぬべし 旧日 ( きうじつ )の 珠 ( たま )に、 天山不弁何年雪。 合浦応迷旧日珠。 禁庭翫月 三統理平 ほうれいのかねのこゑにくわせんとほつするやいなや、 それくわていのつるのいましめをいかん、 豊嶺 ( ほうれい )の 鐘 ( かね )の 声 ( こゑ )に 和 ( くわ )せんと 欲 ( ほつ )するや 否 ( いな )や、 それ 華亭 ( くわてい )の 鶴 ( つる )の 警 ( いまし )めを 奈何 ( いかん )、 欲和豊嶺鐘声否。 其奈華亭鶴警何。 夜月似秋霜 兼明親王 きやうるゐすうかうせいじうのきやく、 たうかいつきよくてうぎよのおきな 郷涙 ( きやうるゐ ) 数行 ( すうかう ) 征戍 ( せいじう )の 客 ( きやく )、 棹歌 ( たうか ) 一曲 ( いつきよく ) 釣漁 ( てうぎよ )の 翁 ( おきな ) 郷涙数行征戍客。 棹歌一曲釣漁翁。 山川千里月 慶滋保胤 古今 あまのはらふりさけみればかすがなる みかさの山にいでし月かも 安倍仲満 古今 しら雲にはねうちかはしとぶかりの かずさへみゆるあきのよの月 凡河内躬恒 拾遺 世にふればものおもふとしはなけれども 月にいくたびながめしつらん 具平親王 九日 ( ここのか ) 付菊 つばめはしやじつをしりてすをじしさる、 きくはちようやうのためにあめをおかしてひらく、 燕 ( つばめ )は 社日 ( しやじつ )を 知 ( し )りて 巣 ( す )を 辞 ( じ )し 去 ( さ )る、 菊 ( きく )は 重陽 ( ちようやう )のために 雨 ( あめ )を 冒 ( おか )して 開 ( ひら )く、 燕知社日辞巣去。 菊為重陽冒雨開。 秋日東郊作 皇甫冉 こじをかんぶにとれば、 すなはちせきゆをきうじんのころもにさしはさむ、 きうせきをぎぶんにたづぬれば、 またくわうくわはうそがじゆつをたすく 故事 ( こじ )を 漢武 ( かんぶ )に 採 ( と )れば、 すなはち 赤萸 ( せきゆ )を 宮人 ( きうじん )の 衣 ( ころも )に 挿 ( さしはさ )む、 旧跡 ( きうせき )を 魏文 ( ぎぶん )に 尋 ( たづ )ぬれば、 また 黄花 ( くわうくわ ) 彭祖 ( はうそ )が 術 ( じゆつ )を 助 ( たす )く 採故事於漢武。 則赤萸挿宮人之衣。 尋旧跡於魏文。 亦黄花助彭祖之術。 視賜群臣菊花詩序 紀長谷雄 さんちにさきだちてそのはなをふけば、 あかつきのほしのかかんにてんずるがごとし、 じふぶんにひかへてそのいろをうごかせば、 あきのゆきのらくせんにめぐるかとうたがふ、 三遅 ( さんち )に 先 ( さき )だちてその 花 ( はな )を 吹 ( ふ )けば、 暁 ( あかつき )の 星 ( ほし )の 河漢 ( かかん )に 転 ( てん )ずるがごとし、 十分 ( じふぶん )に 引 ( ひか )へてその 彩 ( いろ )を 蕩 ( うごか )せば、 秋 ( あき )の 雪 ( ゆき )の 洛川 ( らくせん )に 廻 ( めぐ )るかと 疑 ( うたが )ふ、 先三遅兮吹其花。 如暁星之転河漢。 引十分兮蕩其彩。 疑秋雪之廻洛川。 たにのみづにはなをあらへば、 かりうをくみてじやうじゆをえたるもの、さんじふよか ちみやくにあぢをくわすれば、 につせいをくらひてねんがんをとゞめしもの、ごひやくかせい、 谷 ( たに )の 水 ( みづ )に 花 ( はな )を 洗 ( あら )へば、 下流 ( かりう )を 汲 ( く )みて 上寿 ( じやうじゆ )を 得 ( え )たる 者 ( もの )、 三十余家 ( さんじふよか ) 地脈 ( ちみやく )に 味 ( あぢ )を 和 ( くわ )すれば、 日精 ( につせい )を 喰 ( くら )ひて 年顔 ( ねんがん )を 駐 ( とゞ )めし 者 ( もの )、 五百箇歳 ( ごひやくかせい )、 谷水洗花。 汲下流而得上寿者。 三十余家。 地脈和味。 喰日精而駐年顔者。 五百箇歳。 同 同 拾遺 わがやどのきくのしら露けふごとに いく代つもりてふちとなるらん 清原元輔 菊 ( きく ) さうほうのらうびんはさんぶんしろし、 ろきくのしんくわはいつぱんなり 霜蓬 ( さうほう )の 老鬢 ( らうびん )は 三分 ( さんぶん ) 白 ( しろ )し、 露菊 ( ろきく )の 新花 ( しんくわ )は 一半 ( いつぱん ) 黄 ( き )なり 霜蓬老鬢三分白。 露菊新花一半黄。 九月八日酬皇甫十見贈 白居易 これはなのうちにひとへにきくをあいするにはあらず、 このはなひらきてのちさらにはななければなり、 これ 花 ( はな )の 中 ( うち )に 偏 ( ひとへ )に 菊 ( きく )を 愛 ( あい )するにはあらず、 この 花 ( はな ) 開 ( ひら )きて 後 ( のち ) 更 ( さら )に 花 ( はな ) 無 ( な )ければなり、 不是花中偏愛菊。 此花開後更無花。 十日菊花 元稹 らんいんくれなんとほつす、 しようはくののちにしぼまんことをちぎる、 しうけいはやくうつりて、 しらんのまづやぶるることをあざける、 嵐陰 ( らんいん ) 暮 ( く )れなんと 欲 ( ほつ )す、 松柏 ( しようはく )の 後 ( のち )に 凋 ( しぼ )まんことを 契 ( ちぎ )る、 秋景 ( しうけい ) 早 ( はや )く 移 ( うつ )りて、 芝蘭 ( しらん )の 先 ( ま )づ 敗 ( やぶ )るることを 嘲 ( あざけ )る、 嵐陰欲暮。 契松柏之後凋。 秋景早移。 嘲芝蘭之先敗。 翫禁庭残菊 紀長谷雄 れきけんのそんりよはみなをくをうるほす、 たうかのじしはだうにほとりせず、 酈県 ( れきけん )の 村閭 ( そんりよ )は 皆 ( みな ) 屋 ( をく )を 潤 ( うるほ )す、 陶家 ( たうか )の 児子 ( じし )は 堂 ( だう )に 垂 ( ほとり )せず、 酈県村閭皆潤屋。 陶家児子不垂堂。 らんゑんにはみづからぞくこつたることをはぢ、 きんりにはちやうせいあることをしんぜず、 蘭苑 ( らんゑん )には 自 ( みづか )ら 俗骨 ( ぞくこつ )たることを 慙 ( は )ぢ、 槿籬 ( きんり )には 長生 ( ちやうせい )あることを 信 ( しん )ぜず、 蘭苑自慙為俗骨。 槿籬不信有長生。 菊見草中仙 慶滋保胤 らんけいゑんのあらしむらさきをくだきてのち、 ほうらいどうのつきしものてらすうち、 蘭蕙苑 ( らんけいゑん )の 嵐 ( あらし ) 紫 ( むらさき )を 摧 ( くだ )きて 後 ( のち )、 蓬莱洞 ( ほうらいどう )の 月 ( つき ) 霜 ( しも )の 照 ( てら )す 中 ( うち )、 蘭蕙苑嵐摧紫後。 蓬莱洞月照霜中。 花寒菊点裳 菅原文時 古今 ひさかたの雲のうへにて見るきくは あまつほしとぞあやまたれける 藤原敏行 古今 こころあてにをらばやをらんはつしもの おきまどはせるしらぎくの花 凡河内躬恒 九月尽 ( くぐわつじん ) たとひかうかんをもつてかためとなすとも、 せうひつをうんくにとゞめがたし、 たとひまうふんをしておはしむとも、 なんぞさうらいをふうきやうにさへぎらんや、 たとひ 崤函 ( かうかん )をもつて 固 ( かた )めとなすとも、 蕭瑟 ( せうひつ )を 雲衢 ( うんく )に 留 ( とゞ )め 難 ( がた )し、 たとひ 孟賁 ( まうふん )をして 追 ( お )はしむとも、 何 ( なん )ぞ 爽籟 ( さうらい )を 風境 ( ふうきやう )に 遮 ( さへぎ )らんや、 縱以崤函為固。 難留蕭瑟於雲衢。 縱命孟賁而追。 何遮爽籟於風境。 山寺惜秋序 源順 とうもくはたとひぜんきやくのこはんにしたがふとも、 あきをもつてせよせんことはなはだかたかるべし 頭目 ( とうもく )はたとひ 禅客 ( ぜんきやく )の 乞 ( こ )はんに 随 ( したが )ふとも、 秋 ( あき )をもつて 施与 ( せよ )せんことはなはだ 難 ( かた )かるべし 頭目縱随禅客乞。 以秋施与太応難。 同 同 ぶんぽうにくつわづらをあんずはくくのかげ、 しかいにふねをふなよそほひすこうえふのこゑ、 文峯 ( ぶんぽう )に 轡 ( くつわづら )を 案 ( あん )ず 白駒 ( はくく )の 景 ( かげ )、 詞海 ( しかい )に 舟 ( ふね )を 艤 ( ふなよそほひ )す 紅葉 ( こうえふ )の 声 ( こゑ )、 文峯案轡白駒景。 詞海艤舟紅葉声。 秋未出詩境 大江以言 風雅 山 ( やま )さびしあきもくれぬとつぐるかも まきの葉ごとにおけるはつしも 大江千里 くれてゆくあきのかたみにおくものは わがもとゆひの霜にぞありける 平兼盛 女郎花 ( をみなべし ) はなのいろはむせるあはのごとし、ぞくよびてぢよらうとなす、 なをききてたはむれにかいらうをちぎらむとほつすれば おそらくはすゐおうのかうべしもににたるをにくまむことを 花 ( はな )の 色 ( いろ )は 蒸 ( む )せる 粟 ( あは )のごとし、 俗 ( ぞく ) 呼 ( よ )びて 女郎 ( ぢよらう )となす、 名 ( な )を 聞 ( き )きて 戯 ( たはむ )れに 偕老 ( かいらう )を 契 ( ちぎ )らむと 欲 ( ほつ )すれば 恐 ( おそ )らくは 衰翁 ( すゐおう )の 首 ( かうべ ) 霜 ( しも )に 似 ( に )たるを 悪 ( にく )まむことを 花色如蒸粟。 俗呼為女郎。 聞名戯欲契偕老。 恐悪衰翁首似霜。 詠女郎花 源順 古今 をみなへしおほかる野辺にやどりせば あやなくあだの名をやたたまし 小野良材 新古今 をみなへしみるにこころはなぐさまで いとどむかしのあきぞ恋しき 藤原実頼 萩 ( はぎ ) あかつきのつゆにしかないてはなはじめてひらく、 もゝたびよぢをるいちじのこゝろ 暁 ( あかつき )の 露 ( つゆ )に 鹿 ( しか ) 鳴 ( な )いて 花 ( はな ) 始 ( はじ )めて 発 ( ひら )く、 百 ( もゝ )たび 攀 ( よ )ぢ 折 ( を )る 一時 ( いちじ )の 情 ( こゝろ ) 暁露鹿鳴花始発。 百般攀折一時情。 新撰万葉絶句詩 菅原道真 拾遺 あきののにはぎかるをのこなはをなみ ねるやねりそのくだけてぞおもふ 柿本人麿 拾遺 うつろはんことだにをしきあきはぎを をれるばかりにおける露かな 伊勢 家集 あきのののはぎのにしきをふるさとに しかの音ながらうつしてしがな 清原元輔 蘭 ( ふぢばかま ) ぜんとうにはさらにせうでうたるものあり、 らうきくすゐらんさんりやうのくさむら 前頭 ( ぜんとう )には 更 ( さら )に 蕭条 ( せうでう )たる 物 ( もの )あり、 老菊 ( らうきく ) 衰蘭 ( すゐらん ) 三両 ( さんりやう )の 叢 ( くさむら ) 前頭更有蕭条物。 老菊衰蘭三両叢。 抄秋独夜 白居易 ふさうあにかげなからんや、ふうんおほひてたちまちくらし そうらんあにかうばしからざらんや、しうふうふきてまづやぶる、 扶桑 ( ふさう )あに 影 ( かげ ) 無 ( な )からんや、 浮雲 ( ふうん ) 掩 ( おほ )ひて 忽 ( たちま )ち 昏 ( くら )し 叢蘭 ( そうらん )あに 芳 ( かうば )しからざらんや、 秋風 ( しうふう ) 吹 ( ふ )きて 先 ( ま )づ 敗 ( やぶ )る、 扶桑豈無影乎。 浮雲掩而忽昏。 叢蘭豈不芳乎。 秋風吹而先敗。 菟裘賦 兼明親王 こりてはかんぢよのかほにべにをほどこすがごとし、 したゝりてはかうじんのまなこにたまをなくににたり、 凝 ( こ )りては 漢女 ( かんぢよ )の 顔 ( かほ )に 粉 ( べに )を 施 ( ほどこ )すがごとし、 滴 ( したゝ )りては 鮫人 ( かうじん )の 眼 ( まなこ )に 珠 ( たま )を 泣 ( な )くに 似 ( に )たり、 凝如漢女顔施粉。 滴似鮫人眼泣珠。 紅蘭受露 都良香 きよくおどろきてはそきやくのあきのことのかうばし、 ゆめたえてはえんきがあかつきのまくらにくんず 曲 ( きよく ) 驚 ( おどろ )きては 楚客 ( そきやく )の 秋 ( あき )の 絃 ( こと )の 馥 ( かうば )し、 夢 ( ゆめ ) 断 ( た )えては 燕姫 ( えんき )が 暁 ( あかつき )の 枕 ( まくら )に 薫 ( くん )ず 曲驚楚客秋絃馥。 夢断燕姫暁枕薫。 蘭気入軽風 橘直幹 古今 ぬししらぬ香はにほひつつあきののに たがぬききかけしふぢばかまぞも 素性法師 槿 ( あさがほ ) しようじゆせんねんつひにこれくつ、 きんくわいちにちおのづからえいをなせり、 松樹 ( しようじゆ ) 千年 ( せんねん ) 終 ( つひ )にこれ 朽 ( く )つ、 槿花 ( きんくわ ) 一日 ( いちにち )おのづから 栄 ( えい )をなせり、 松樹千年終是朽。 槿花一日自為栄。 放言詩 白居易 きたりてとゞまらず、かいろうにあしたのつゆをはらふあり、 さりてかへらず、きんりにくれにいたるはななし、 来 ( きた )りて 留 ( とゞ )まらず、 薤瓏 ( かいろう )に 晨 ( あした )の 露 ( つゆ )を 払 ( はら )ふあり、 去 ( さ )りて 返 ( かへ )らず、 槿籬 ( きんり )に 暮 ( くれ )に 投 ( いた )る 花 ( はな )なし 来而不留。 薤瓏有払晨之露。 去而不返。 槿籬無投暮之花。 無常句 兼明親王 新勅撰 おぼつかなたれとかしらむあきぎりの たえまにみゆるあさがほのはな 藤原道信 拾遺 あさがほを何かなしとおもふらん 人をもはなはさこそみるらめ 藤原道信 前栽 ( せんざい ) おほくはなをうゑてめをよろこばしむるともがらをみれば、 ときにさきだちあらかじめやしなひてひらくをまちてあそぶ 多 ( おほ )く 花 ( はな )を 栽 ( う )ゑて 目 ( め )を 悦 ( よろこ )ばしむる 儔 ( ともがら )を 見 ( み )れば、 時 ( とき )に 先 ( さき )だち 予 ( あらかじ )め 養 ( やしな )ひて 開 ( ひら )くを 待 ( ま )ちて 遊 ( あそ )ぶ 多見栽花悦目儔。 先時予養待開遊。 栽秋花 菅原文時 われかんじやくにしてかどうのうみたるより、 はるのきははるうゑあきのくさはあきなり、 吾 ( われ ) 閑寂 ( かんじやく )にして 家僮 ( かどう )の 倦 ( う )みたるより、 春 ( はる )の 樹 ( き )は 春 ( はる ) 栽 ( う )ゑ 秋 ( あき )の 草 ( くさ )は 秋 ( あき )なり、 自吾閑寂家僮倦。 春樹春栽秋草秋。 同 同 しづかになんぢがはなのくれなゐならんひをみんとおもへば、 まさにこれわがびんのしろからんときにあたれり、 閑 ( しづ )かに 汝 ( なんぢ )が 花 ( はな )の 紅 ( くれなゐ )ならん 日 ( ひ )を 看 ( み )んと 思 ( おも )へば、 正 ( まさ )にこれ 吾 ( わ )が 鬢 ( びん )の 白 ( しろ )からん 時 ( とき )に 当 ( あた )れり、 閑思看汝花紅日。 正是当吾鬢白時。 初植花樹詩 慶滋保胤 かつてううるところにげんりやうをおもふにあらず、 このはなのときにせそんにたてまつらんがためなり かつて 種 ( う )うる 処 ( ところ )に 元亮 ( げんりやう )を 思 ( おも )ふにあらず、 この 花 ( はな )の 時 ( とき )に 世尊 ( せそん )に 供 ( たてまつ )らんがためなり 曾非種処思元亮。 為是花時供世尊。 菅原道真 古今 ちりをだにすゑじとぞおもふうゑしより いもとわがぬるとこなつのはな 凡河内躬恒 はなによりものをぞおもふ白露の おくにもいかがあ(な)らんとすらん 作者不詳 紅葉 ( こうえふ ) 附落葉 たへずこうえふせいたいのち、またこれりやうふうぼうのてん、 堪 ( た )へず 紅葉 ( こうえふ ) 青苔 ( せいたい )の 地 ( ち )、 又 ( また )これ 涼風 ( りやうふう ) 暮雨 ( ぼう )の 天 ( てん )、 不堪紅葉青苔地。 又是涼風暮雨天。 秋雨中贈元九 白居易 くわうかうけつのはやしはさむくしてはあり、 へきるりのみづはきよくしてかぜなし、 黄纐纈 ( くわうかうけつ )の 林 ( はやし )は 寒 ( さむ )くして 葉 ( は )あり、 碧瑠璃 ( へきるり )の 水 ( みづ )は 浄 ( きよ )くして 風 ( かぜ )なし、 黄纐纈林寒有葉。 碧瑠璃水浄無風。 泛太湖書事寄微之 同 どうちゆうはせいせんたりるりのみづ、ていじやうせうでうたりきんしうのはやし、 洞中 ( どうちゆう )は 清浅 ( せいせん )たり 瑠璃 ( るり )の 水 ( みづ )、 庭上 ( ていじやう ) 蕭条 ( せうでう )たり 錦繍 ( きんしう )の 林 ( はやし )、 洞中清浅瑠璃水。 庭上蕭条錦繍林。 翫頭池紅葉 慶滋保胤 ぐわいぶつのひとりさめたるはしようかんのいろ、 よはのがふりきはきんこうのこゑ 外物 ( ぐわいぶつ )の 独 ( ひと )り 醒 ( さ )めたるは 松澗 ( しようかん )の 色 ( いろ )、 余波 ( よは )の 合力 ( がふりき )は 錦江 ( きんこう )の 声 ( こゑ ) 外物独醒松澗色。 余波合力錦江声。 山水唯紅葉 大江以言 家集 しらつゆもしぐれもいたくもる山は した葉のこらずもみぢしにけり 紀貫之 むら 〳 〵のにしきとぞみるさほ山の ははそのもみぢきりたたぬまは 藤原清正 落葉 ( らくえふ ) さんしうにしてきうろうまさにながく、 くうかいにあめしたゝる、 ばんりにしてきやうゑんいづくにかある、 らくえふまどにふかし、 三秋 ( さんしう )にして 宮漏 ( きうろう ) 正 ( まさ )に 長 ( なが )く、 空階 ( くうかい )に 雨 ( あめ ) 滴 ( したゝ )る、 万里 ( ばんり )にして 郷園 ( きやうゑん )いづくにか 在 ( あ )る、 落葉 ( らくえふ ) 窓 ( まど )に 深 ( ふか )し、 三秋而宮漏正長。 空階雨滴。 万里而郷園何在。 落葉窓深。 愁賦 張読 あきのにはははらはずとうぢやうをたづさへて、 しづかにごとうのくわうえふをふみてゆく、 秋 ( あき )の 庭 ( には )は 掃 ( はら )はず 藤杖 ( とうぢやう )を 携 ( たづさ )へて、 閑 ( しづ )かに 梧桐 ( ごとう )の 黄葉 ( くわうえふ )を 踏 ( ふ )みて 行 ( ゆ )く、 秋庭不掃携藤杖。 閑踏梧桐黄葉行。 晩秋閑居 白居易 じやうりうきゆうくわいみだりにえうらくすれども、 あきのかなしみはきじんのこゝろにいたらず 城柳 ( じやうりう ) 宮槐 ( きゆうくわい ) 漫 ( みだ )りに 揺落 ( えうらく )すれども、 秋 ( あき )の 悲 ( かな )しみは 貴人 ( きじん )の 心 ( こゝろ )に 到 ( いた )らず 城柳宮槐漫揺落。 愁悲不到貴人心。 早入皇城送王留守僕射 白居易 ごしうのかげのうちに、いつせいのあめむなしくそゝぐ、 しやこのせなかのうへに、すうへんのこうわづかにのこれり、 梧楸 ( ごしう )の 影 ( かげ )の 中 ( うち )に、 一声 ( いつせい )の 雨 ( あめ ) 空 ( むな )しく 灑 ( そゝ )ぐ、 鷓鴣 ( しやこ )の 背 ( せなか )の 上 ( うへ )に、 数片 ( すうへん )の 紅 ( こう )わづかに 残 ( のこ )れり、 梧楸影中。 一声之雨空灑。 鷓鴣背上。 数片之紅纔残。 葉落風枝疎詩序 源順 せうそわうへんして、つゑしゆばいしんがころもをうがつ、 いんいついういう、くつかつちせんのくすりをふむ、 樵蘇 ( せうそ ) 往反 ( わうへん )して、 杖 ( つゑ ) 朱買臣 ( しゆばいしん )が 衣 ( ころも )を 穿 ( うが )つ、 隠逸 ( いんいつ ) 優遊 ( いういう )、 履 ( くつ ) 葛稚仙 ( かつちせん )の 薬 ( くすり )を 踏 ( ふ )む、 樵蘇往反。 杖穿朱買臣之衣。 隠逸優遊。 履踏葛稚仙之薬。 落葉満山中路序 高階相如 あらしにしたがふらくえふせうしつをふくめり、 いしにそそぐひせんはがきんをろうす、 嵐 ( あらし )に 随 ( したが )ふ 落葉 ( らくえふ ) 蕭瑟 ( せうしつ )を 含 ( ふく )めり、 石 ( いし )に 濺 ( そそ )ぐ 飛泉 ( ひせん )は 雅琴 ( がきん )を 弄 ( ろう )す、 随嵐落葉含蕭瑟。 濺石飛泉弄雅琴。 秋色変山水 源順 よをおひてひかりおほしごゑんのつき、 あさなごとにこゑすくなしかんりんのかぜ、 夜 ( よ )を 逐 ( お )ひて 光 ( ひかり ) 多 ( おほ )し 呉苑 ( ごゑん )の 月 ( つき )、 朝 ( あさな )ごとに 声 ( こゑ ) 少 ( すくな )し 漢林 ( かんりん )の 風 ( かぜ )、 逐夜光多呉苑月。 毎朝声少漢林風。 松葉随日落 具平親王 新古今 あすか川もみぢ葉ながるかつらぎの やまのあきかぜふきぞしぬらし 柿本人丸 後撰 神なづきしぐれとともにかみなびの もりのこの葉はふりにこそふれ 紀貫之 古今 みる人もなくてちりぬるおくやまの もみぢはよるのにしきなりけり 同 雁 ( かり ) 付帰雁 ばんりひとみなみにさる、さんしゆんがんきたにとぶ、 しらずいづれのさいげつか、なんぢとおなじくかへることをえん、 万里 ( ばんり ) 人 ( ひと ) 南 ( みなみ )に 去 ( さ )る、 三春 ( さんしゆん ) 雁 ( がん ) 北 ( きた )に 飛 ( と )ぶ、 知 ( し )らず 何 ( いづ )れの 歳月 ( さいげつ )か、 汝 ( なんぢ )と 同 ( おな )じく 帰 ( かへ )ることを 得 ( え )ん、 万里人南去。 三春鴈北飛。 不知何歳月。 得与汝同帰。 南中詠雁 白居易 じんやうのこうのいろはしほそへてみち、 はうれいのあきのこゑはがんひききたる、 潯陽 ( じんやう )の 江 ( こう )の 色 ( いろ )は 潮 ( しほ ) 添 ( そ )へて 満 ( み )ち、 彭蠡 ( はうれい )の 秋 ( あき )の 声 ( こゑ )は 雁 ( がん ) 引 ( ひ )き 来 ( きた )る、 潯陽江色潮添満。 彭蠡秋声鴈引来。 登江州清輝楼 劉禹錫 しごだのやまはあめによそほへるいろ、 りやうさんかうのがんはくもにてんずるこゑ、 四五朶 ( しごだ )の 山 ( やま )は 雨 ( あめ )に 粧 ( よそほ )へる 色 ( いろ )、 両三行 ( りやうさんかう )の 雁 ( がん )は 雲 ( くも )に 点 ( てん )ずる 声 ( こゑ ) 四五朶山粧雨色。 両三行鴈点雲声。 雋陽道中 杜筍鶴 きよきうさけがたし、いまだうたがひをじやうげんのつきのかかれるになげうたず、 ほんせんまよひやすし、なほあやまりをかりうのみづきふなるになす、 虚弓 ( きよきう ) 避 ( さ )け 難 ( がた )し、いまだ 疑 ( うたが )ひを 上弦 ( じやうげん )の 月 ( つき )の 懸 ( かか )れるに 抛 ( なげう )たず、 奔箭 ( ほんせん ) 迷 ( まよ )ひ 易 ( やす )し、なほ 誤 ( あやま )りを 下流 ( かりう )の 水 ( みづ ) 急 ( きふ )なるに 成 ( な )す、 虚弓難避。 未抛疑於上弦之月懸。 奔箭易迷。 猶成誤於下流之水急。 寒雁識秋天 大江朝綱 かりはへきらくにとびてせいしにしよし、 はやぶさはさうりんをうちてにしきのはたをやぶる、 雁 ( かり )は 碧落 ( へきらく )に 飛 ( と )びて 青紙 ( せいし )に 書 ( しよ )し、 隼 ( はやぶさ )は 霜林 ( さうりん )を 撃 ( う )ちて 錦 ( にしき )の 機 ( はた )を 破 ( やぶ )る 鴈飛碧落書青紙。 隼撃霜林破錦機。 秋暮傍山行 島田忠臣 へきぎよくのよそほへるしやうのことはななめにたてたることぢ、 せいたいのいろのかみにはすうかうのしよ 碧玉 ( へきぎよく )の 装 ( よそほ )へる 筝 ( しやうのこと )は 斜 ( ななめ )に 立 ( た )てたる 柱 ( ことぢ )、 青苔 ( せいたい )の 色 ( いろ )の 紙 ( かみ )には 数行 ( すうかう )の 書 ( しよ ) 碧玉装筝斜立柱。 青苔色紙数行書。 天浄識賓鴻 菅原文時 うんいははんしゆくがきちうのおくりもの、 ふうろはせうしやうのなみのうへのふね 雲衣 ( うんい )は 范叔 ( はんしゆく )が 羈中 ( きちう )の 贈 ( おくりもの )、 風櫓 ( ふうろ )は 瀟湘 ( せうしやう )の 浪 ( なみ )の 上 ( うへ )の 船 ( ふね ) 雲衣范叔羈中贈。 風櫓瀟湘浪上舟。 賓雁似故人 具平親王 古今 あきかぜにはつかりがねぞきこゆなる たがたまづさをかけてきつらん 紀友則 帰雁 さんようのきがんはなゝめにおびをひく、 すゐめんのしんこうはいまだきんをのべず、 山腰 ( さんよう )の 帰雁 ( きがん )は 斜 ( なゝめ )に 帯 ( おび )を 牽 ( ひ )く、 水面 ( すゐめん )の 新虹 ( しんこう )はいまだ 巾 ( きん )を 展 ( の )べず、 山腰帰鴈斜牽帯。 水面新虹未展巾。 春日閑居 都在中 古今 春がすみたつを見すててゆくかりは はななきさとにすみやならへる 伊勢 虫 ( むし ) せつせつたりあんさうのもと、 えう 〳 〵たるしんさうのうち、 あきのそらのしふのこゝろ、 あめのよのいうじんのみ、 切々 ( せつせつ )たり 暗窓 ( あんさう )の 下 ( もと )、 喓々 ( えう 〳 〵 )たる 深草 ( しんさう )の 裏 ( うち )、 秋 ( あき )の 天 ( そら )の 思婦 ( しふ )の 心 ( こゝろ )、 雨 ( あめ )の 夜 ( よ )の 幽人 ( いうじん ) 耳 ( のみ ) 切切暗窓下。 喓々深草裏。 秋天思婦心。 雨夜幽人耳。 秋虫 白居易 さうさうかれなんとほつしてむしのおもひねんごろなり、 ふうしいまださだまらずとりのすむことかたし、 霜草 ( さうさう ) 枯 ( か )れなんと 欲 ( ほつ )して 虫 ( むし )の 思 ( おも )ひ 苦 ( ねんごろ )なり、 風枝 ( ふうし )いまだ 定 ( さだ )まらず 鳥 ( とり )の 栖 ( す )むこと 難 ( かた )し、 霜草欲枯虫思苦。 風枝未定鳥栖難。 答夢得秋夜独座見贈 同 ゆかにはたんきやくをきらふきり 〴 〵すのこゑのかまびすし、 かべにはこうしんをいとふねずみのあなうがてり、 床 ( ゆか )には 短脚 ( たんきやく )を 嫌 ( きら )ふ 蛬 ( きり 〴 〵す )の 声 ( こゑ )の 閙 ( かまびす )し、 壁 ( かべ )には 空心 ( こうしん )を 厭 ( いと )ふ 鼠 ( ねずみ )の 孔 ( あな ) 穿 ( うが )てり、 床嫌短脚蛬声閙。 壁厭空心鼠孔穿。 秋夜 小野篁 さんくわんのあめのときなくことおのづからくらく、 やていのかぜのところおることなほさむし、 山館 ( さんくわん )の 雨 ( あめ )の 時 ( とき ) 鳴 ( な )くこと 自 ( おのづか )ら 暗 ( くら )く、 野亭 ( やてい )の 風 ( かぜ )の 処 ( ところ ) 織 ( お )ることなほ 寒 ( さむ )し、 山館雨時鳴自暗。 野亭風処織猶寒。 蛬声人微館 橘直幹 そうへんにうらみとほくしてかぜにききてくらく、 かべのもとにぎんかすかにしてつきいろさむし、 叢辺 ( そうへん )に 怨 ( うら )み 遠 ( とほ )くして 風 ( かぜ )に 聞 ( き )きて 暗 ( くら )く、 壁 ( かべ )の 底 ( もと )に 吟 ( ぎん ) 幽 ( かす )かにして 月 ( つき ) 色 ( いろ ) 寒 ( さむ )し、 叢辺怨遠風聞暗。 壁底吟幽月色寒。 同前題 源順 いまこんとたれたのめけんあきのよを あかしかねつつまつむしのなく(こゑイ) 或 大中臣能宣 読人不知 古今 きり 〴 〵すいたくななきそあきの夜の ながきうらみはわれぞまされる 素性法師或藤原忠房 鹿 ( しか ) さうたいみちなめらかにしてそうてらにかへり、 こうえふこゑかわきてしかはやしにあり、 蒼苔 ( さうたい ) 路 ( みち ) 滑 ( なめ )らかにして 僧 ( そう ) 寺 ( てら )に 帰 ( かへ )り、 紅葉 ( こうえふ ) 声 ( こゑ ) 乾 ( かわ )きて 鹿 ( しか ) 林 ( はやし )に 在 ( あ )り、 蒼苔路滑僧帰寺。 紅葉声乾鹿在林 宿雲林寺 温庭筠 あんにへいをくらふみのいろをしてへんぜしむ、 さらにくさにくはふるとくふうにしたがひきたる、 暗 ( あん )に 苹 ( へい )を 食 ( くら )ふ 身 ( み )の 色 ( いろ )をして 変 ( へん )ぜしむ、 更 ( さら )に 草 ( くさ )に 加 ( くは )ふる 徳風 ( とくふう )に 随 ( したが )ひ 来 ( きた )る、 暗遣食苹身色変。 更随加草徳風来。 観鎮西府献白鹿詩 紀長谷雄 拾遺 もみぢせぬときはの山にすむしかは おのれなきてや秋をしるらん 大中臣能宣 古今 ゆふづくよをぐらのやまになくしかの こゑのうちにやあきはくるらん 紀貫之 露 あはれむべしきふげつしよさんのよ、 つゆはしんじゆににたりつきはゆみににたり、 憐 ( あは )れむべし 九月 ( きふげつ ) 初三 ( しよさん )の 夜 ( よ )、 露 ( つゆ )は 真珠 ( しんじゆ )に 似 ( に )たり 月 ( つき )は 弓 ( ゆみ )に 似 ( に )たり、 可憐九月初三夜。 露似真珠月似弓。 暮江吟 白居易 つゆはらんそうにしたたりてかんぎよくしろし、 かぜしようえふをふくみてがきんすめり、 露 ( つゆ )は 蘭叢 ( らんそう )に 滴 ( したた )りて 寒玉 ( かんぎよく ) 白 ( しろ )し、 風 ( かぜ ) 松葉 ( しようえふ )を 銜 ( ふく )みて 雅琴 ( がきん ) 清 ( す )めり、 露滴蘭叢寒玉白。 風銜松葉雅琴清。 秋風颯然新 源英明 新古今 さをしかのあさたつをのの秋はぎに たまとみるまでおけるしらつゆ 大伴家持 霧 ( きり ) ちくむはあかつきにみねにふくむつきをこめたり、 ひんぷうはあたたかくしてこうをすぐるはるをおくる、 竹霧 ( ちくむ )は 暁 ( あかつき )に 嶺 ( みね )に 銜 ( ふく )む 月 ( つき )を 籠 ( こ )めたり、 蘋風 ( ひんぷう )は 暖 ( あたた )かくして 江 ( こう )を 過 ( す )ぐる 春 ( はる )を 送 ( おく )る、 竹霧暁籠銜嶺月。 蘋風暖送過江春。 庾楼暁望 白居易 せきむのひとのまくらをうづめんことをうれふといへども、 なほてううんのうまのくらよりいづることをあいす、 夕霧 ( せきむ )の 人 ( ひと )の 枕 ( まくら )を 埋 ( うづ )めんことを 愁 ( うれ )ふといへども、 なほ 朝雲 ( てううん )の 馬 ( うま )の 鞍 ( くら )より 出 ( い )づることを 愛 ( あい )す、 雖愁夕霧埋人枕。 猶愛朝雲出馬鞍。 山居秋晩 大江音人 拾遺 秋ぎりのふもとをこめてたちぬれば 空にぞ秋の山は見えける 清原深養父 古今 たがためのにしきなればかあきぎりの さほのやまべをたちかくすらん 友則 擣衣 ( たうい ) はちげつきうげつまさにながきよ、 せんせいばんせいやむときなし、 八月九月 ( はちげつきうげつ ) 正 ( まさ )に 長 ( なが )き 夜 ( よ )、 千声万声 ( せんせいばんせい ) 了 ( や )む 時 ( とき )なし、 八月九月正長夜。 千声万声無了時。 聞夜砧 白居易 たがいへのしふかあききぬをうつ、 つきさやかにかぜすさまじくしてちんしよかなしめり、 誰 ( た )が 家 ( いへ )の 思婦 ( しふ )か 秋 ( あき ) 帛 ( きぬ )を 擣 ( う )つ、 月 ( つき ) 苦 ( さや )かに 風 ( かぜ ) 凄 ( すさ )まじくして 砧杵 ( ちんしよ ) 悲 ( かな )しめり、 誰家思婦秋擣帛。 月苦風凄砧杵悲。 同 同 ほくとのほしのまへにりよがんよこたはり、 なんろうのつきのもとにはかんいをうつ、 北斗 ( ほくと )の 星 ( ほし )の 前 ( まへ )に 旅雁 ( りよがん ) 横 ( よこ )たはり、 南楼 ( なんろう )の 月 ( つき )の 下 ( もと )には 寒衣 ( かんい )を 擣 ( う )つ、 北斗星前横旅雁。 南楼月下擣寒衣。 同 劉元叔 うつところにはあかつきけいぐゑつのすさまじきことうれひ、 たちもちてはあきさいうんのかんによす、 擣 ( う )つ 処 ( ところ )には 暁 ( あかつき ) 閨月 ( けいぐゑつ )の 冷 ( すさま )じきこと 愁 ( うれ )ひ、 裁 ( た )ちもちては 秋 ( あき ) 塞雲 ( さいうん )の 寒 ( かん )に 寄 ( よ )す、 擣処暁愁閨月冷。 裁将秋寄塞雲寒。 風疎砧杵鳴 菅原篤茂 たちいだしてはかへりちやうたんせいにまよふ、 へんしうはさだめてむかしのえうゐならじ、 裁 ( た )ち 出 ( いだ )しては 還 ( かへ )り 長短 ( ちやうたん ) 製 ( せい )に 迷 ( まよ )ふ、 辺愁 ( へんしう )は 定 ( さだ )めて 昔 ( むかし )の 腰囲 ( えうゐ )ならじ、 裁出還迷長短製。 辺愁定不昔腰囲。 擣衣詩 橘直幹 かぜのもとにかとんでさうしうあがり、 つきのまへにしようらみてりやうびたれたり、 風 ( かぜ )の 底 ( もと )に 香 ( か ) 飛 ( と )んで 双袖 ( さうしう ) 挙 ( あが )り、 月 ( つき )の 前 ( まへ )に 杵 ( しよ ) 怨 ( うら )みて 両眉 ( りやうび ) 低 ( た )れたり、 風底香飛双袖挙。 月前杵怨両眉低。 擣衣詩 具平親王 ねん 〳 〵のわかれのおもひはあきのかりにおどろく、 よな 〳 〵のかすかなるこゑあかつきのにはとりにいたる、 年々 ( ねん 〳 〵 )の 別 ( わか )れの 思 ( おも )ひは 秋 ( あき )の 雁 ( かり )に 驚 ( おどろ )く、 夜々 ( よな 〳 〵 )の 幽 ( かす )かなる 声 ( こゑ )は 暁 ( あかつき )の 鶏 ( にはとり )に 到 ( いた )る、 年年別思驚秋雁。 夜夜幽声到暁鶏。 同 同 新勅撰 からごろもうつこゑきけば月きよみ まだねぬ人をさらにしるかな 紀貫之 冬 ( ふゆ ) 初冬 ( はつふゆ ) じふげつこうなんてんきこうなり、 あはれむべしとうけいはるににてうるはし、 十月 ( じふげつ ) 江南 ( こうなん ) 天気 ( てんき ) 好 ( こう )なり、 憐 ( あは )れむべし 冬景 ( とうけい ) 春 ( はる )に 似 ( に )て 華 ( うるは )し、 十月江南天気好。 可憐冬景似春華。 早冬 白居易 しいじれいらくしてさんぶんげんじ、 ばんぶつさだとしてくわはんしぼむ、 四時 ( しいじ ) 零落 ( れいらく )して 三分 ( さんぶん ) 減 ( げん )じぬ、 万物 ( ばんぶつ ) 蹉跎 ( さだ )として 過半 ( くわはん ) 凋 ( しぼ )めり、 四時牢落三分減。 万物蹉跎過半凋。 初冬即事 醍醐帝御製 ゆかのうへにはまきをさむせいちくのたかむしろ、 はこのうちにはひらきいだすはくめんのきぬ、 床 ( ゆか )の 上 ( うへ )には 巻 ( ま )き 収 ( をさ )む 青竹 ( せいちく )の 簟 ( たかむしろ )、 匣 ( はこ )の 中 ( うち )には 開 ( ひら )き 出 ( いだ )す 白綿 ( はくめん )の 衣 ( きぬ )、 床上巻収青竹簟。 匣中開出白綿衣。 驚冬 菅原文時 後撰 神なづきふりみふらずみさだめなき しぐれぞ冬のはじめなりける 紀貫之 冬夜 ( ふゆのよ ) いつさんのかんとうはうんぐわいのよる、 すうはいのうんちうはせつちゆうのはる、 一盞 ( いつさん )の 寒燈 ( かんとう )は 雲外 ( うんぐわい )の 夜 ( よる )、 数盃 ( すうはい )の 温酎 ( うんちう )は 雪中 ( せつちゆう )の 春 ( はる )、 一盞寒燈雲外夜。 数盃温酎雪中春。 和李中丞与李給事山居雪夜同宿小酌 白居易 としのひかりはおのづからとうのまへにむかつてつきぬ、 きやくのおもひにただまくらのほとりよりなる、 年 ( とし )の 光 ( ひかり )は 自 ( おのづか )ら 燈 ( とう )の 前 ( まへ )に 向 ( むか )つて 尽 ( つ )きぬ、 客 ( きやく )の 思 ( おも )ひにただ 枕 ( まくら )の 上 ( ほとり )より 生 ( な )る、 年光自向燈前尽。 客思唯従枕上生。 冬夜独起 尊敬 拾遺 おもひかねいもがりゆけばふゆのよの 川かぜさむみ千どりなくなり 紀貫之 歳暮 ( せいぼ ) かんりうつきをおびてはすめることかがみのごとく、 ゆふべのかぜはしもにくわしてときことかたなににたり、 寒流 ( かんりう ) 月 ( つき )を 帯 ( お )びては 澄 ( す )めること 鏡 ( かがみ )のごとく、 夕 ( ゆふべ )の 風 ( かぜ )は 霜 ( しも )に 和 ( くわ )して 利 ( と )きこと 刀 ( かたな )に 似 ( に )たり、 寒流帯月澄如鏡。 夕風和霜利似刀。 江楼宴別 白居易 ふううんはひとのまへにむかひてくれやすく、 さいげつはおいのそこよりかへしがたし、 風雲 ( ふううん )は 人 ( ひと )の 前 ( まへ )に 向 ( むか )ひて 暮 ( く )れやすく、 歳月 ( さいげつ )は 老 ( お )いの 底 ( そこ )より 還 ( かへ )しがたし、 風雲易向人前暮。 歳月難従老底還。 花下春 良岑春道 古今 ゆくとしのをしくもあるかなますかがみ みるかげさへにくれぬとおもへば 紀貫之 炉火 ( ろくわ ) くわうばいりよくしよふゆをむかへてじゆくし、 ほうちやうこうろよをおひてひらく、 黄醅 ( くわうばい ) 緑醑 ( りよくしよ ) 冬 ( ふゆ )を 迎 ( むか )へて 熟 ( じゆく )し、 絳帳 ( ほうちやう ) 紅炉 ( こうろ ) 夜 ( よ )を 逐 ( お )ひて 開 ( ひら )く、 黄醅緑緑醑迎冬熟。 絳帳紅炉逐夜開。 戯招諸客 白居易 みるにやばなくきくにうぐひすなし、 らふのうちのふうくわうはひにむかへらる、 看 ( み )るに 野馬 ( やば )なく 聴 ( き )くに 鴬 ( うぐひす )なし、 臘 ( らふ )の 裏 ( うち )の 風光 ( ふうくわう )は 火 ( ひ )に 迎 ( むか )へらる、 看無野馬聴無鴬。 臘裏風光被火迎。 火見臘夫春 菅原文時 このひはまさにはなのきをきつてとれるなるべし、 むかひきたればよもすがらはるのこころあり、 この 火 ( ひ )はまさに 花 ( はな )の 樹 ( き )を 鑚 ( き )つて 取 ( と )れるなるべし、 対 ( むか )ひ 来 ( きた )れば 夜 ( よ )もすがら 春 ( はる )の 情 ( こころ )あり、 此火応鑚花樹取。 対来終夜有春情。 同 同 たじにはたとひあうくわのもとにゑふとも、 このころはなんぞじうたんのほとりをはなれん、 他時 ( たじ )にはたとひ 鴬花 ( あうくわ )の 下 ( もと )に 酔 ( ゑ )ふとも、 近日 ( このころ )はなんぞ 獣炭 ( じうたん )の 辺 ( ほとり )を 離 ( はな )れん、 多時縱酔鴬花下。 近日那離獣炭辺。 同 菅原輔昭 うづみびのしたにこがれしときよりも かくにくまるるをりぞかなしき 在原業平 霜 ( しも ) さんしうのきしのゆきにはなはじめてしろく、 いちやのはやしのしもにはこと 〴 〵くくれなゐなり、 三秋 ( さんしう )の 岸 ( きし )の 雪 ( ゆき )に 花 ( はな ) 初 ( はじ )めて 白 ( しろ )く、 一夜 ( いちや )の 林 ( はやし )の 霜 ( しも )に 葉 ( は )こと 〴 〵く 紅 ( くれなゐ )なり、 三秋岸雪花初白。 一夜林霜葉尽紅。 般若寺別成公 温庭筠 ばんぶつはあきのしもによくいろをやぶり、 しいじはふゆのひにもつともてうねんなり、 万物 ( ばんぶつ )は 秋 ( あき )の 霜 ( しも )によく 色 ( いろ )を 壊 ( やぶ )り、 四時 ( しいじ )は 冬 ( ふゆ )の 日 ( ひ )に 最 ( もつと )も 凋年 ( てうねん )なり、 万物秋霜能壊色。 四時冬日最凋年。 歳晩旅望 白居易 ねやさむくしてゆめおどろく、 あるひはこふのきぬたのほとりにそふ、 やまふかくしてかんうごく、 まづしかうがびんのほとりををかす、 閨 ( ねや ) 寒 ( さむ )くして 夢 ( ゆめ ) 驚 ( おどろ )く、 或 ( あるひ )は 孤婦 ( こふ )の 砧 ( きぬた )の 上 ( ほとり )に 添 ( そ )ふ、 山 ( やま ) 深 ( ふか )くして 感 ( かん ) 動 ( うご )く、 先 ( ま )づ 四皓 ( しかう )が 鬢 ( びん )の 辺 ( ほとり )を 侵 ( をか )す、 閨寒夢驚。 或添孤婦之砧上。 山深感動。 先侵四皓之鬢辺。 青女司霜賦 紀長谷雄 くんしよふけてこゑいましめず、 らうおうとしくれてびんあひおどろく、 君子 ( くんし ) 夜 ( よ ) 深 ( ふ )けて 音 ( こゑ ) 警 ( いまし )めず、 老翁 ( らうおう ) 年 ( とし ) 晩 ( く )れて 鬢 ( びん ) 相驚 ( あひおどろ )く、 君子夜深音不警。 老翁年晩鬢相驚。 早霜 菅原道真或文時 せい 〳 〵すでにたつくわていのつる、 ほゝはじめておどろくかつりのひと、 声々 ( せい 〳 〵 )すでに 断 ( た )つ 華亭 ( くわてい )の 鶴 ( つる )、 歩々 ( ほゝ ) 初 ( はじ )めて 驚 ( おどろ )く 葛履 ( かつり )の 人 ( ひと )、 声声已断華亭鶴。 歩歩初驚葛履人。 寒霜凝霜 菅原文時 あしたにぐわこうにつみてをしいろをへんじ、 よるくわへうにおちてつるこゑをのむ、 晨 ( あした )に 瓦溝 ( ぐわこう )に 積 ( つ )みて 鴛 ( をし ) 色 ( いろ )を 変 ( へん )じ、 夜 ( よる ) 華表 ( くわへう )に 零 ( お )ちて 鶴 ( つる ) 声 ( こゑ )を 呑 ( の )む、 晨積瓦溝鴛変色。 夜零華表鶴呑声。 同前題 紀長谷雄 拾遺 夜をさむみねざめてきけばをしぞなく はらひもあへずしもやおくらん 読人不知 雪 あかつきにりやうわうのそのにいればゆきぐんざんにみてり、 よるゆこうがろうにのぼればつきせんりにあきらかなり、 暁 ( あかつき )に 梁王 ( りやうわう )の 苑 ( その )に 入 ( い )れば 雪 ( ゆき ) 群山 ( ぐんざん )に 満 ( み )てり、 夜 ( よる ) 庾公 ( ゆこう )が 楼 ( ろう )に 登 ( のぼ )れば 月 ( つき ) 千里 ( せんり )に 明 ( あき )らかなり、 暁入梁王之苑雪満群山。 夜登庾公之楼月明千里。 白賦 謝観 ぎんがのいさごみなぎるさんぜんかい、 ばいれいはなひらくいちまんちう、 銀河 ( ぎんが )の 沙 ( いさご ) 漲 ( みなぎ )る 三千界 ( さんぜんかい )、 梅嶺 ( ばいれい ) 花 ( はな ) 排 ( ひら )く 一万株 ( いちまんちう )、 銀河沙漲三千界。 梅嶺花排一万株。 雪中即事 白居易 ゆきはがまうににてとびてさんらんし、 ひとはくわくしやうをきてたちてはいくわいす、 雪 ( ゆき )は 鵞毛 ( がまう )に 似 ( に )て 飛 ( と )びて 散乱 ( さんらん )し、 人 ( ひと )は 鶴氅 ( くわくしやう )を 被 ( き )て 立 ( た )ちて 徘徊 ( はいくわい )す、 雪似鵞毛飛散乱。 人被鶴立徘徊。 酬令公雪中見贈 同 あるいはかぜをおひてかへらず、 ぐんかくのけをふるふがごとし、 またはれにあたりてなほのこる、 しゆうこのえきをつゞるかとうたがふ、 或 ( あるい )は 風 ( かぜ )を 逐 ( お )ひて 返 ( かへ )らず、 群鶴 ( ぐんかく )の 毛 ( け )を 振 ( ふる )ふがごとし、 また 晴 ( はれ )に 当 ( あた )りてなほ 残 ( のこ )る、 衆狐 ( しゆうこ )の 腋 ( えき )を 綴 ( つゞ )るかと 疑 ( うたが )ふ、 或逐風不返。 如振群鶴之毛。 亦当晴猶残。 疑綴衆狐之腋。 春雪賦 紀長谷雄 つばさはぐんをうるににたりうらにすむつる、 こゝろまさにきやうにじようずべしふねにさをさすひと、 翅 ( つばさ )は 群 ( ぐん )を 得 ( う )るに 似 ( に )たり 浦 ( うら )に 栖 ( す )む 鶴 ( つる )、 心 ( こゝろ )まさに 興 ( きやう )に 乗 ( じよう )ずべし 舟 ( ふね )に 棹 ( さを )さす 人 ( ひと )、 翅似得群栖浦鶴。 心応乗興棹舟人。 池上初雪 村上帝御製 ていじやうにたつてはかうべつるたり、 ざしてろのほとりにあればてかがまらず、 庭上 ( ていじやう )に 立 ( た )つては 頭 ( かうべ ) 鶴 ( つる )たり、 坐 ( ざ )して 炉 ( ろ )の 辺 ( ほとり )にあれば 手 ( て ) 亀 ( かが )まらず、 立於庭上頭為鶴。 坐在炉辺手不亀。 客舎対雪 菅原道真 はんぢよがねやのうちのあきのあふぎのいろ、 そわうのだいのうへのよるのことのこゑ、 班女 ( はんぢよ )が 閨 ( ねや )の 中 ( うち )の 秋 ( あき )の 扇 ( あふぎ )の 色 ( いろ )、 楚王 ( そわう )の 台 ( だい )の 上 ( うへ )の 夜 ( よる )の 琴 ( こと )の 声 ( こゑ )、 班女閨中秋扇色。 楚王台上夜琴声。 題雪 尊敬 拾遺 みやこにてめづらしくみるはつゆきは よしののやまにふりにけるかな 源景明 古今 みよしののやまのしら雪つもるらし ふるさとさむくなりまさるなり 坂上是則 古今 雪ふれば木ごとに花ぞさきにける いづれをうめとわきてをらまし 紀友則 氷 ( こほり ) 付春氷 こほりはすゐめんをふうじてきくになみなく、 ゆきはりんとうにてんじてみるにはなあり、 氷 ( こほり )は 水面 ( すゐめん )を 封 ( ふう )じて 聞 ( き )くに 浪 ( なみ )なく、 雪 ( ゆき )は 林頭 ( りんとう )に 点 ( てん )じて 見 ( み )るに 花 ( はな )あり、 氷封水面聞無浪。 雪点林頭見有花。 臘月独興 菅原道真 しもはかくれいをさまたげてさむくしてつゆなく、 みづはこぎをむすびてうすくしてこほりあり、 霜 ( しも )は 鶴唳 ( かくれい )を 妨 ( さまた )げて 寒 ( さむ )くして 露 ( つゆ )なく、 水 ( みづ )は 狐疑 ( こぎ )を 結 ( むす )びて 薄 ( うす )くして 氷 ( こほり )あり、 霜妨鶴唳寒無露。 水結狐疑薄有氷。 狐疑氷聞波声 相如 新撰万葉 おほぞらの 月 ( つき )のひかりのさむければ かげみし水ぞまづこほりける 七条后宮 春氷 こほりきえてみづをみればちよりもおほく、 ゆきはれてやまをのぞめばこと 〳 〵くろうにいる、 氷 ( こほり ) 消 ( き )えて 水 ( みづ )を 見 ( み )れば 地 ( ち )よりも 多 ( おほ )く、 雪 ( ゆき ) 霽 ( は )れて 山 ( やま )を 望 ( のぞ )めばこと 〳 〵く 楼 ( ろう )に 入 ( い )る、 氷消見水多於地。 雪霽望山尽入楼。 早春憶遊思黯南荘 白居易 こほりきえてかんしゆまさにはをうたがふべし、 ゆきつきてはりやうわうばいをめさず、 氷 ( こほり ) 消 ( き )えて 漢主 ( かんしゆ )まさに 覇 ( は )を 疑 ( うたが )ふべし、 雪 ( ゆき ) 尽 ( つ )きては 梁王 ( りやうわう ) 枚 ( ばい )を 召 ( め )さず、 氷消漢主応疑覇。 雪尽梁王不召枚。 早春雪氷消 橘在列 こさいにだれかよくしせつをまつたくせん、 こだにはかへりてしんのちゆうをうしなはんことをおそる、 胡塞 ( こさい )に 誰 ( だれ )かよく 使節 ( しせつ )を 全 ( まつた )くせん、 虖陀 ( こだ )には 還 ( かへ )りて 臣 ( しん )の 忠 ( ちゆう )を 失 ( うしな )はんことを 恐 ( おそ )る、 胡塞誰能全使節。 虖陀還恐失臣忠。 雪消氷亦解 源相規 続後拾遺 やまかげのみぎはまされるはるかぜに たにのこほりもけふやとくらん 藤原惟正 霰 ( あられ ) しやうがよねひてせい 〳 〵もろく、 りようがんたまなげてくわ 〳 〵さむし、 麞牙 ( しやうが ) 米 ( よね ) 簸 ( ひ )て 声々 ( せい 〳 〵 ) 脆 ( もろ )く、 龍頷 ( りようがん ) 珠 ( たま ) 投 ( な )げて 顆々 ( くわ 〳 〵 ) 寒 ( さむ )し、 麞牙米簸声々脆。 龍頷珠投顆々寒。 雪化為霰 菅原道真 古今 みやまにはあられふるらし外山なる まさきのかづら色つきにけり 紀貫之 仏名 ( ぶつみやう ) かうくわいちろともしびいつさん、 はくとうにしてよるぶつみやうぎやうをらいす、 香火 ( かうくわ ) 一炉 ( いちろ ) 燈 ( ともしび ) 一盞 ( いつさん )、 白頭 ( はくとう )にして 夜 ( よる ) 仏名経 ( ぶつみやうぎやう )を 礼 ( らい )す、 香火一炉燈一盞。 白頭夜礼仏名経。 献贈礼経老僧 白居易 かうはぜんしんよりしてひをもちゐることなし、 はなはがつしやうにひらきてはるによらず、 香 ( かう )は 禅心 ( ぜんしん )よりして 火 ( ひ )を 用 ( もち )ゐることなし、 花 ( はな )は 合掌 ( がつしやう )に 開 ( ひら )きて 春 ( はる )に 因 ( よ )らず、 香自禅心無用火。 花開合掌不因春。 懺悔会作 菅原道真 家集 あらたまのとしもくれなばつくりつる つみものこらずなりやしぬらん 平兼盛 拾遺 かぞふればわが身につもるとし月を おくりむかふとなにいそぐらん 同 拾遺 としのうちにつくれるつみはかきくらし ふるしら雪とともにきえなむ 紀貫之 下巻 雑 風 ( かぜ ) はるのかぜあんにていぜんのきをきり、 よるのあめはひそかにせきじやうのこけをうがつ、 春 ( はる )の 風 ( かぜ ) 暗 ( あん )に 庭前 ( ていぜん )の 樹 ( き )を 剪 ( き )り、 夜 ( よる )の 雨 ( あめ )は 偸 ( ひそ )かに 石上 ( せきじやう )の 苔 ( こけ )を 穿 ( うが )つ、 春風暗剪庭前樹。 夜雨偸穿石上苔。 春日山居 輔昭 じふしようみだれやすし、 めいくんがたましひをなやまさんとほつす、 りうすゐかへらず、 まさにれつしがのりものをおくるべし、 入松 ( じふしよう ) 乱 ( みだ )れ 易 ( やす )し、 明君 ( めいくん )が 魂 ( たましひ )を 悩 ( なや )まさんと 欲 ( ほつ )す、 流水 ( りうすゐ ) 返 ( かへ )らず、 まさに 列子 ( れつし )が 乗 ( のりもの )を 送 ( おく )るべし、 入松易乱。 欲悩明君之魂。 流水不返。 応送列子之乗。 風中琴 紀長谷雄 かんしゆのてのうちにふきてとゞまらず、 じよくんがつかのうへにあふぎてなほかゝれり 漢主 ( かんしゆ )の 手 ( て )の 中 ( うち )に 吹 ( ふ )きて 駐 ( とゞ )まらず、 徐君 ( じよくん )が 墓 ( つか )の 上 ( うへ )に 扇 ( あふ )ぎてなほ 懸 ( かゝ )れり 漢主手中吹不駐。 徐君墓上扇猶懸。 北風利如剣 慶滋保胤 はんきあふぎをさいしてまさにくわしやうすべし、 れつしくるまをかけてわうくわんせず、 班姫 ( はんき ) 扇 ( あふぎ )を 裁 ( さい )してまさに 誇尚 ( くわしやう )すべし、 列子 ( れつし ) 車 ( くるま )を 懸 ( か )けて 往還 ( わうくわん )せず、 班姫裁扇応誇尚。 列子懸車不往還。 清風何処隠 同 後撰 あきかぜのふくにつけてもとはぬかな をぎの葉らばおとはしてまし 中務 新古今 ほの 〴 〵とありあけの月のつきかげに もみぢふきおろす山おろしのかぜ 源信明 雲 ( くも ) たけしやうほにまだらにしてくもこしつのあとにこる、 ほうしんだいをさりつきすゐせうのちにおいたり、 竹 ( たけ ) 湘浦 ( しやうほ )に 斑 ( まだら )にして 雲 ( くも ) 鼓瑟 ( こしつ )の 蹤 ( あと )に 凝 ( こ )る、 鳳 ( ほう ) 秦台 ( しんだい )を 去 ( さ )り 月 ( つき ) 吹簫 ( すゐせう )の 地 ( ち )に 老 ( お )いたり、 竹斑湘浦雲凝鼓瑟之蹤。 鳳去秦台月老吹簫之地。 愁賦 張読 やまとほくしてはくもかうかくのあとをうづめ、 まつさむくしてはかぜりよじんのゆめをやぶる、 山 ( やま ) 遠 ( とほ )くしては 雲 ( くも ) 行客 ( かうかく )の 跡 ( あと )を 埋 ( うづ )め、 松 ( まつ ) 寒 ( さむ )くしては 風 ( かぜ ) 旅人 ( りよじん )の 夢 ( ゆめ )を 破 ( やぶ )る、 山遠雲埋行客跡。 松寒風破旅人夢。 愁賦 紀斎名 ひねもすにくもをのぞめばこゝろつながれず、 ときありてつきをみればよまさにしづかなり、 尽日 ( ひねもす )に 雲 ( くも )を 望 ( のぞ )めば 心 ( こゝろ ) 繋 ( つな )がれず、 時 ( とき )ありて 月 ( つき )を 見 ( み )れば 夜 ( よ ) 正 ( まさ )に 閑 ( しづ )かなり、 尽日望雲心不繋。 有時見月夜正閑。 閨女幽栖 元稹 かんかうしんをさけしあした、 のぞみこほうのつきをさゝふ、 たうしゆゑつをじせしゆふべ、 まなこごこのけむりをこんず、 漢皓 ( かんかう ) 秦 ( しん )を 避 ( さ )けし 朝 ( あした )、 望 ( のぞみ ) 孤峯 ( こほう )の 月 ( つき )を 礙 ( さゝ )ふ、 陶朱 ( たうしゆ ) 越 ( ゑつ )を 辞 ( じ )せし 暮 ( ゆふべ )、 眼 ( まなこ ) 五湖 ( ごこ )の 煙 ( けむり )を 混 ( こん )ず、 漢皓避秦之朝 望礙孤峯之月 陶朱辞越之暮 眼混五湖之煙 視雲知隠処賦 大江以言 しばらくきくをかれどもいしをいたゞくにあらず、 むなしくしゆんけんをぬすめどもあにまつをしやうぜんや、 暫 ( しばら )く 崎嶇 ( きく )を 借 ( か )れども 石 ( いし )を 戴 ( いたゞ )くにあらず、 空 ( むな )しく 峻嶮 ( しゆんけん )を 偸 ( ぬす )めどもあに 松 ( まつ )を 生 ( しやう )ぜんや、 暫借崎嶇非戴石。 空偸峻嶮豈生松。 夏雲多奇峯 都在中 かんていのりようがんはしよ 〳 〵にまよひぬ、 わいわうのけいしはりうれんをうしなふ、 漢帝 ( かんてい )の 龍顔 ( りようがん )は 処所 ( しよ 〳 〵 )に 迷 ( まよ )ひぬ、 淮王 ( わいわう )の 鶏翅 ( けいし )は 留連 ( りうれん )を 失 ( うしな )ふ、 漢帝龍顔迷処所。 淮王鶏翅失留連。 秋天無片雲 大江以言 新古今 よそにのみ見てややみなんかつらぎや たかまの山のみねのしら雲 読人不知 晴 ( はれ ) けむりもんぐわいにきえてせいざんちかく、 つゆさうぜんにおもくしてりよくちくたれたり、 煙 ( けむり ) 門外 ( もんぐわい )に 消 ( き )えて 青山 ( せいざん ) 近 ( ちか )く、 露 ( つゆ ) 窓前 ( さうぜん )に 重 ( おも )くして 緑竹 ( りよくちく ) 低 ( た )れたり、 煙消門外青山近。 露重窓前緑竹低。 晴興 鄭師冉 しがいのみねのあらしはまばらにして、 くもしちひやくりのそとにをさまり、 ばくふのいづみのなみはひやゝかにして、 つきしじつせきのあまりにすめり、 紫蓋 ( しがい )の 嶺 ( みね )の 嵐 ( あらし )は 疎 ( まばら )にして、 雲 ( くも ) 七百里 ( しちひやくり )の 外 ( そと )に 収 ( をさ )まり、 曝布 ( ばくふ )の 泉 ( いづみ )の 波 ( なみ )は 冷 ( ひやゝか )にして、 月 ( つき ) 四十尺 ( しじつせき )の 余 ( あまり )に 澄 ( す )めり、 紫蓋之嶺嵐疎。 雲収七百里之外。 曝布之泉波冷。 月澄四十尺之余。 山晴秋望多序 藤原惟成 くもはへきらくにきえてそらのはだへとけ、 かぜせいいをうごかしてみづのおもてしわむ、 雲 ( くも )は 碧落 ( へきらく )に 消 ( き )えて 天 ( そら )の 膚 ( はだへ ) 解 ( と )け、 風 ( かぜ ) 清漪 ( せいい )を 動 ( うご )かして 水 ( みづ )の 面 ( おもて ) 皴 ( しわ )む、 雲消碧落天膚解。 風動清漪水面皴。 梅雨新霽 都良香 さうかくさはをいでてきりをひらきてまひ、 こはんみづにつらなりてくもときゆ、 双鶴 ( さうかく ) 皐 ( さは )を 出 ( い )でて 霧 ( きり )を 披 ( ひら )きて 舞 ( ま )ひ、 孤帆 ( こはん ) 水 ( みづ )に 連 ( つら )なりて 雲 ( くも )と 消 ( き )ゆ、 霜鶴出皐披霧舞。 孤帆連水与雲消。 高天澄遠色 菅原文時 すうにかへるつるまひてひたけてみゆ、 ゐにみづかふりようのぼりてくものこらず、 嵩 ( すう )に 帰 ( かへ )る 鶴 ( つる ) 舞 ( ま )ひて 日 ( ひ ) 高 ( た )けて 見 ( み )ゆ、 渭 ( ゐ )に 飲 ( みづか )ふ 龍 ( りよう ) 昇 ( のぼ )りて 雲 ( くも ) 残 ( のこ )らず、 帰嵩鶴舞日高見。 飲渭龍昇雲不残。 晴後山川清 大江以雪 かすみはれみどりのそらものどけくて あるかなきかにあそぶいとゆふ 読人不知 暁 ( あかつき ) かじんこと 〴 〵くしんしやうをかざりて、ぎきゆうにかねうごく、 いうしなほざんげつにゆきてかんこくににはとりなく、 佳人 ( かじん ) 尽 ( こと 〴 〵 )く 晨粧 ( しんしやう )を 飾 ( かざ )りて、 魏宮 ( ぎきゆう )に 鐘 ( かね ) 動 ( うご )く、 遊子 ( いうし )なほ 残月 ( ざんげつ )に 行 ( ゆ )きて 函谷 ( かんこく )に 鶏 ( にはとり ) 鳴 ( な )く、 佳人尽飾於晨粧。 魏宮鐘動。 遊子猶行於残月。 函谷鶏鳴。 暁賦 賈島 いくつらみなみにさるかり、 いつぺんにしにかたむくつき、 せいろにおもむきてひとりゆくし、 りよてんなほとざせり、 こじやうになきてもゝたびたゝかふいくさ、 こかいまだやまず、 幾行 ( いくつら ) 南 ( みなみ )に 去 ( さ )る 雁 ( かり )、 一片 ( いつぺん ) 西 ( にし )に 傾 ( かたむ )く 月 ( つき )、 征路 ( せいろ )に 赴 ( おもむ )きて 独 ( ひと )り 行 ( ゆ )く 子 ( し )、 旅店 ( りよてん )なほ 扃 ( とざ )せり、 孤城 ( こじやう )に 泣 ( な )きて 百 ( もゝ )たび 戦 ( たゝか )ふ 師 ( いくさ )、 胡 ( こ ) 笳 ( か )いまだ 歇 ( や )まず、 幾行南去之雁。 一片西傾之月。 赴征路而独行之子。 旅店猶扃。 泣胡城而百戦之師。 胡笳未歇。 同 謝観 よそほひをきんをくのなかにいつくしくして、 せいがまさにゑがけり、 えんをけいえんのうへにやめて、 こうしよくむなしくあまれり、 粧 ( よそほひ )を 金屋 ( きんをく )の 中 ( なか )に 厳 ( いつくし )くして、 青蛾 ( せいが ) 正 ( まさ )に 画 ( ゑが )けり、 宴 ( えん )を 瓊筵 ( けいえん )の 上 ( うへ )に 罷 ( や )めて、 紅燭 ( こうしよく ) 空 ( むな )しく 余 ( あま )れり、 厳粧金屋之中。 青蛾正画。 罷宴瓊筵之上。 紅燭空余。 同 同 ごせいのきゆうろうはじめてあけてのち、 いつてんのさうとうのきえなんとほつするとき、 五声 ( ごせい )の 宮漏 ( きゆうろう ) 初 ( はじ )めて 明 ( あ )けて 後 ( のち )、 一点 ( いつてん )の 窓燈 ( さうとう )の 滅 ( き )えなんと 欲 ( ほつ )する 時 ( とき )、 五声宮漏初明後。 一点窓燈欲滅時。 禁中夜作 白居易 後撰 あかつきのなからましかば白露の おきてわびしきわかれせましや 紀貫之 松 ( まつ ) たゞさうしようのみぎりのしたにあたるあり、 さらにいちじのこゝろのなかにいたるなし、 たゞ 双松 ( さうしよう )の 砌 ( みぎり )の 下 ( した )に 当 ( あた )るあり、 更 ( さら )に 一事 ( いちじ )の 心 ( こゝろ )の 中 ( なか )に 到 ( いた )るなし、 但有双松当砌下。 更無一事到心中。 新昌坊閑居 白居易 せいざんにゆきありてまつのせいをそらんじ、 へきらくにくもなくしてつるこゝろにかなへり、 青山 ( せいざん )に 雪 ( ゆき )ありて 松 ( まつ )の 性 ( せい )を 諳 ( そら )んじ、 碧落 ( へきらく )に 雲 ( くも )なくして 鶴 ( つる ) 心 ( こゝろ )に 称 ( かな )へり、 青山有雪諳松性。 碧落無雲称鶴心。 寄殷尭潘 許渾 せんぢやうゆきをしのぎて、 まさにけいかうのすがたにたとへつべし、 ひやくほかぜにみだる、 たれかやういふがしやをやぶらんや、 千丈 ( せんぢやう ) 雪 ( ゆき )を 凌 ( しの )ぎて、 まさに 稽康 ( けいかう )の 姿 ( すがた )に 喩 ( たと )へつべし、 百歩 ( ひやくほ ) 風 ( かぜ )に 乱 ( みだ )る、 誰 ( たれ )か 養由 ( やういふ )が 射 ( しや )を 破 ( やぶ )らんや、 千丈凌雪。 応喩稽康之姿。 百歩乱風。 誰破養由之射。 柳化物松賦 紀長谷雄 きうかさんぷくのあつきつきに、 たけにさくごのかぜをふくむ、 げんとうそせつのさむきあしたには、 まつにくんしのとくをあらはす、 九夏 ( きうか ) 三伏 ( さんぷく )の 暑 ( あつ )き 月 ( つき )に、 竹 ( たけ )に 錯午 ( さくご )の 風 ( かぜ )を 含 ( ふく )む、 玄冬 ( げんとう ) 素雪 ( そせつ )の 寒 ( さむ )き 朝 ( あした )には、 松 ( まつ )に 君子 ( くんし )の 徳 ( とく )を 彰 ( あらは )す、 九夏三伏之暑月 竹含錯午之風 玄冬素雪之寒朝 松彰君子之徳 河原院賦 順 じふはちこうのさかへはしもののちにあらはる、 いつせんねんのいろはゆきのうちにふかし、 十八公 ( じふはちこう )の 栄 ( さかへ )は 霜 ( しも )の 後 ( のち )に 露 ( あら )はる、 一千年 ( いつせんねん )の 色 ( いろ )は 雪 ( ゆき )の 中 ( うち )に 深 ( ふか )し、 十八公栄霜後露。 一千年色雪中深。 歳寒知松貞 同 あめをふくめるれいしやうはてんさらにはれ、 あきをやくりんえふはひかへつてさむし、 雨 ( あめ )を 含 ( ふく )める 嶺松 ( れいしやう )は 天 ( てん ) 更 ( さら )に 霽 ( は )れ、 秋 ( あき )を 焼 ( や )く 林葉 ( りんえふ )は 火 ( ひ ) 還 ( かへ )つて 寒 ( さむ )し、 含雨嶺松天更霽。 焼秋林葉火還寒。 山居秋晩 大江朝綱 古今 ときはなる松のみどりも春くれば いまひとしほの色まさりけり 源宗于 古今 われみてもひさしくなりぬすみよしの きしのひめまついく代へぬらん 読人不知 拾遺 あまくだるあら人かみのあひおひを おもへばひさしすみよしのまつ 安法法師 竹 ( たけ ) えんえふもうろうたりよををかすいろ、 ふうしせうさつたりあきならんとほつするこゑ、 煙葉 ( えんえふ ) 蒙籠 ( もうろう )たり 夜 ( よ )を 侵 ( をか )す 色 ( いろ )、 風枝 ( ふうし ) 蕭颯 ( せうさつ )たり 秋 ( あき )ならんと 欲 ( ほつ )する 声 ( こゑ )、 煙葉蒙籠侵夜色。 風枝蕭颯欲秋声。 和令孤相公栽竹 白居易 げんせきがうそぶくにはにはひとつきにあゆみ、 しいうがみるところにはとりけむりにすむ、 阮籍 ( げんせき )が 嘯 ( うそぶ )く 場 ( には )には 人 ( ひと ) 月 ( つき )に 歩 ( あゆ )み、 子猷 ( しいう )が 看 ( み )る 処 ( ところ )には 鳥 ( とり ) 煙 ( けむり )に 栖 ( す )む、 阮籍嘯場人歩月。 子猷看処鳥栖煙。 竹枝詞 章孝標 しんのきへいさんぐんわうしいう、 うゑてこのきみとしようす、 たうのたいしのひんかくはくらくてんは、 あいしてわがともとなす、 晋 ( しん )の 騎兵 ( きへい ) 参軍 ( さんぐん ) 王子猷 ( わうしいう )、 栽 ( う )ゑて 此 ( こ )の 君 ( きみ )と 称 ( しよう )す、 唐 ( たう )の 太子 ( たいし )の 賓客 ( ひんかく ) 白楽天 ( はくらくてん )は、 愛 ( あい )して 吾 ( わ )が 友 ( とも )となす、 晋騎兵参軍王子猷。 栽称此君。 唐太子賓客白楽天。 愛為吾友。 修竹冬青序 藤原篤茂 はうじゆんはいまだめいほうのくわんをぬきんでず、 はんこんはわづかにぐわりようのもんをてんず、 迸笋 ( はうじゆん )はいまだ 鳴鳳 ( めいほう )の 管 ( くわん )を 抽 ( ぬきん )でず、 盤根 ( はんこん )は 纔 ( わづ )かに 臥龍 ( ぐわりよう )の 文 ( もん )を 点 ( てん )ず、 迸笋未抽鳴鳳管。 盤根纔点臥龍文。 禁庭植竹 兼明親王 古今 世にふればことの葉しげきくれ竹の うきふしごとにうぐひすぞなく 読人不知 六帖 しぐれふるおとはすれども呉たけの など世とともに色もかはらぬ 素性 草 ( くさ ) さとうにあめはそむはん 〳 〵たるくさ、 すゐめんにかぜはかるしつ 〳 〵たるなみ、 沙頭 ( さとう )に 雨 ( あめ )は 染 ( そ )む 斑々 ( はん 〳 〵 )たる 草 ( くさ )、 水面 ( すゐめん )に 風 ( かぜ )は 駈 ( か )る 瑟々 ( しつ 〳 〵 )たる 波 ( なみ )、 沙頭雨染斑々草。 水面風駈瑟々波。 早春憶微之 白居易 せいしががんしよくはいまいづくにかある、 まさにしゆんぷうひやくさうのほとりにあるべし、 西施 ( せいし )が 顔色 ( がんしよく )は 今 ( いま ) 何 ( いづ )くにか 在 ( あ )る、 まさに 春風 ( しゆんぷう ) 百草 ( ひやくさう )の 頭 ( ほとり )に 在 ( あ )るべし、 西施顔色今何在。 応在春風百草頭。 春詞 元稹 へうたんしば 〳 〵むなし、 くさがんえんがちまたにしげし、 れいでうふかくとざせり、 あめげんけんがとぼそをうるほす、 瓢箪 ( へうたん )しば 〳 〵 空 ( むな )し、 草 ( くさ ) 顔淵 ( がんえん )が 巷 ( ちまた )に 滋 ( しげ )し、 藜蓼 ( れいでう ) 深 ( ふか )く 鎖 ( とざ )せり、 雨 ( あめ ) 原憲 ( げんけん )が 枢 ( とぼそ )を 湿 ( うるほ )す、 瓢箪屡空。 草滋顔淵之巷。 藜蓼深鎖。 雨湿原憲之枢。 申文 橘直幹 くさのいろはゆきはれてはじめてほごす、 とりのこゑはつゆあたたかにしてやうやくめんばんたり、 草 ( くさ )の 色 ( いろ )は 雪 ( ゆき ) 晴 ( は )れて 初 ( はじ )めて 布護 ( ほご )す、 鳥 ( とり )の 声 ( こゑ )は 露 ( つゆ ) 暖 ( あたた )かにして 漸 ( やうや )く 綿蛮 ( めんばん )たり、 草色雪晴初布護。 鳥声露暖漸綿蛮。 春日山居 後江相公 くわさんにうまありてひづめなほあらはる、 ふやにひとなくしてみちやうやくしげし、 華山 ( くわさん )に 馬 ( うま )ありて 蹄 ( ひづめ )なほ 露 ( あら )はる、 傅野 ( ふや )に 人 ( ひと )なくして 路 ( みち ) 漸 ( やうや )く 滋 ( しげ )し、 華山有馬蹄猶露。 傅野無人路漸滋。 遠草初含色 慶滋保胤 拾遺 かのをかに草かるをのこしかなかりそ ありつつも君がきまさんみまくさにせん 人丸 古今 おほあらきの森のした草おいぬれば こまもすさめずかる人もなし 作者名無し或源重之 新古今 やかずとも草はもえなんかすが野を ただはるの日にまかせたらなむ 壬生忠岑 鶴 ( つる ) きらふらくはせうじんにしてかうゐをふむことを、 つるくるまにのることあり、 にくむらくはりこうのはうかをくつがへすを、 すゞめよくいへをうがつ、 嫌 ( きら )ふらくは 小人 ( せうじん )にして 高位 ( かうゐ )を 踏 ( ふ )むことを、 鶴 ( つる ) 軒 ( くるま )に 乗 ( の )ることあり、 悪 ( にく )むらくは 利口 ( りこう )の 邦家 ( はうか )を 覆 ( くつがへ )すを、 雀 ( すゞめ )よく 屋 ( いへ )を 穿 ( うが )つ、 嫌少人而蹈高位 鶴有乗軒 悪利口之覆邦家 雀能穿屋 王鳳凰賦 賈島 りりようがこにいりしにおなじ、たゞいるゐをみる、 くつげんがそにありしににたり、しうじんみなゑへり、 李陵 ( りりよう )が 胡 ( こ )に 入 ( い )りしに 同 ( おな )じ、たゞ 異類 ( いるゐ )を 見 ( み )る、 屈原 ( くつげん )が 楚 ( そ )に 在 ( あ )りしに 似 ( に )たり、 衆人 ( しうじん ) 皆 ( みな ) 酔 ( ゑ )へり、 同李陵之入胡。 但見異類。 似屈原之在楚。 衆人皆酔。 鶴覆群鶏賦 皇甫会 こゑはちんじやうきたるせんねんのつる、 かげははいちゆうにおつごらうのみね、 声 ( こゑ )は 枕上 ( ちんじやう ) 来 ( きた )る 千年 ( せんねん )の 鶴 ( つる )、 影 ( かげ )は 盃中 ( はいちゆう )に 落 ( お )つ 五老 ( ごらう )の 峯 ( みね )、 声来枕上千年鶴。 影落盃中五老峯。 題元八渓居 白居易 せいれいすうせいまつのしたのつる、 かんくわういつてんたけのあひだのともしび、 清唳 ( せいれい ) 数声 ( すうせい ) 松 ( まつ )の 下 ( した )の 鶴 ( つる )、 寒光 ( かんくわう ) 一点 ( いつてん ) 竹 ( たけ )の 間 ( あひだ )の 燈 ( ともしび )、 清唳数声松下鶴。 寒光一点竹間燈。 在家出家 同 ならびまふていぜんはなのおつるところ、 すうせいはちじやうにつきのあきらかなるとき、 双 ( なら )び 舞 ( ま )ふ 庭前 ( ていぜん ) 花 ( はな )の 落 ( お )つる 処 ( ところ )、 数声 ( すうせい )は 池上 ( ちじやう )に 月 ( つき )の 明 ( あき )らかなる 時 ( とき )、 双舞庭前花落処。 数声池上月明時。 贈鶴詩 劉禹錫 つるはきうりにかへる、 ていれいゐがことばきくべし、 りようしんぎをむかふ、 たうあんこうがのりものまなこにあり、 鶴 ( つる )は 旧里 ( きうり )に 帰 ( かへ )る、 丁令威 ( ていれいゐ )が 詞 ( ことば ) 聴 ( き )くべし、 龍 ( りよう ) 新儀 ( しんぎ )を 迎 ( むか )ふ、 陶安公 ( たうあんこう )が 駕 ( のりもの ) 眼 ( まなこ )に 在 ( あ )り、 鶴帰旧里。 丁令威之詞可聴。 龍迎新儀。 陶安公之駕在眼。 神仙策 都良香 きごせいさはがしくしてそう 〳 〵としてにうす、 らうかくこゝろしづかにしてくわん 〳 〵としてねむる、 飢鼯 ( きご ) 性 ( せい ) 躁 ( さはが )しくして 忩々 ( そう 〳 〵 )として 乳 ( にう )す、 老鶴 ( らうかく ) 心 ( こゝろ ) 閑 ( しづ )かにして 緩々 ( くわん 〳 〵 )として 眠 ( ねむ )る、 飢鼯性躁忩々乳。 老鶴心閑緩々眠。 晩春題天台山 同 漢 ( そら )に 叫 ( さけ )びて 遥 ( はる )かに 孤枕 ( こちん )の 夢 ( ゆめ )を 驚 ( おどろ )かし、 風 ( かぜ )に 和 ( くわ )して 漫 ( みだ )りに 五絃 ( ごげん )の 弾 ( たん )に 入 ( い )る、 叫漢遥驚孤枕夢。 和風漫入五絃弾。 霜天夜聞鶴声 源順 万葉 わかのうらにしほみちくればかたをなみ あしべをさしてたづなきわたる 山部赤人 拾遺 おほぞらにむれゐるたづのさしながら おもふこころのありげなるかな 伊勢 家集 あまつかぜふけゐのうらにゐるたづの などかくも井にかへらざるべき 藤原清正 猿 ( さる ) えうだいしもみてり、 いつせいのげんかくてんになく、 はかふあきふかし、 ごやのあいゑんつきにさけぶ、 瑶台 ( えうだい ) 霜 ( しも ) 満 ( み )てり、 一声 ( いつせい )の 玄鶴 ( げんかく ) 天 ( てん )に 唳 ( な )く、 巴峡 ( はかふ ) 秋 ( あき ) 深 ( ふか )し、 五夜 ( ごや )の 哀猿 ( あいゑん ) 月 ( つき )に 叫 ( さけ )ぶ、 瑶台霜満。 一声之玄鶴唳天。 巴峡秋深。 五夜之哀猿叫月。 清賦 謝観 えははかふよりはじめてじをなし、 さるはふやうをすぎてはじめてはらわたをたつ、 江 ( え )は 巴峡 ( はかふ )より 初 ( はじ )めて 字 ( じ )を 成 ( な )し、 猿 ( さる )は 巫陽 ( ふやう )を 過 ( す )ぎて 始 ( はじ )めて 腸 ( はらわた )を 断 ( た )つ、 江従巴峡初成字。 猿過巫陽始断腸。 送蕭処士遊黔南 白居易 さんせいのさるののちきやうるゐをたる、 いちえふのふねのなかにびやうしんをのす、 三声 ( さんせい )の 猿 ( さる )の 後 ( のち ) 郷涙 ( きやうるゐ )を 垂 ( た )る、 一葉 ( いちえふ )の 舟 ( ふね )の 中 ( なか )に 病身 ( びやうしん )を 載 ( の )す、 三声猿後垂郷涙。 一葉舟中載病身。 舟夜贈内 同 こがんいつせい、あきしやうかくのゆめをやぶる、 はゑんみたびさけびて、あかつきかうじんのもすそをうるほす、 胡雁 ( こがん ) 一声 ( いつせい )、 秋 ( あき ) 商客 ( しやうかく )の 夢 ( ゆめ )を 破 ( やぶ )る、 巴猿 ( はゑん ) 三 ( み )たび 叫 ( さけ )びて、 暁 ( あかつき ) 行人 ( かうじん )の 裳 ( もすそ )を 霑 ( うる )ほす、 胡鴈一声。 秋破商客之夢。 巴猿三叫。 暁霑行人之裳。 山水策 大江澄明 じんえんいつすゐのあきのむらさかれり、 さるさけびてさんせいあかつきのけうふかし、 人煙 ( じんえん ) 一穂 ( いつすゐ )の 秋 ( あき )の 村 ( むら ) 僻 ( さ )かれり、 猿 ( さる ) 叫 ( さけ )びて 三声 ( さんせい ) 暁 ( あかつき )の 峡 ( けう ) 深 ( ふか )し、 人煙一穂秋村僻。 猿叫三声暁峡深。 秋山閑望 紀長谷雄 けうかふつたふかくしてさるひとたびさけぶ、 ぼりんはなおちてとりまづなく、 暁峡 ( けうかふ ) 蘿 ( つた ) 深 ( ふか )くして 猿 ( さる ) 一 ( ひと )たび 叫 ( さけ )ぶ、 暮林 ( ぼりん ) 花 ( はな ) 落 ( お )ちて 鳥 ( とり ) 先 ( ま )づ 啼 ( な )く、 暁峡蘿深猿一叫。 暮林花落鳥先啼。 山中感懐 大江音人 たにしづかにしてわづかにさんてうのぎよをきき、 かけはしあやふくしてなゝめにかふゑんのこゑをふむ、 谷 ( たに ) 静 ( しづ )かにして 纔 ( わづ )かに 山鳥 ( さんてう )の 語 ( ぎよ )を 聞 ( き )き、 梯 ( かけはし ) 危 ( あやふ )くして 斜 ( なゝめ )に 峡猿 ( かふゑん )の 声 ( こゑ )を 踏 ( ふ )む、 谷静纔聞山鳥語。 梯危斜踏峡猿声。 送帰山僧 同 古今 わびしらにましらななきそあしびきの やまのかひあるけふにやはあらぬ 凡河内躬恒 管絃 ( くわんぐゑん ) 附舞妓 いつせいのほうくわんはあきしんれいのくもをおどろかし、 すうはくのげいしやうはあかつきこうざんのつきをおくる、 一声 ( いつせい )の 鳳管 ( ほうくわん )は 秋 ( あき ) 秦嶺 ( しんれい )の 雲 ( くも )を 驚 ( おどろ )かし、 数拍 ( すうはく )の 霓裳 ( げいしやう )は 暁 ( あかつき ) 緱山 ( こうざん )の 月 ( つき )を 送 ( おく )る、 一声鳳管。 秋驚秦嶺之雲。 数拍霓裳。 暁送緱山之月。 蓮昌宮賦 公乗憶 だいいちだいにのいとはさく 〳 〵たり、 あきのかぜまつをはらひてそいんおつ、 だいさんだいしのいとはれい 〳 〵たり、 よるのつるこをおもひてろうちうになく、 だいごのいとのこゑもつともえんよくす、 ろうすゐこほりむせんでながるゝことをえず、 第一第二 ( だいいちだいに )の 絃 ( いと )は 索々 ( さく 〳 〵 )たり、 秋 ( あき )の 風 ( かぜ ) 松 ( まつ )を 払 ( はら )ひて 疎韻 ( そいん ) 落 ( お )つ、 第三第四 ( だいさんだいし )の 絃 ( いと )は 冷々 ( れい 〳 〵 )たり、 夜 ( よる )の 鶴 ( つる ) 子 ( こ )を 憶 ( おも )ひて 籠中 ( ろうちう )に 鳴 ( な )く、 第五 ( だいご )の 絃 ( いと )の 声 ( こゑ )もつとも 掩抑 ( えんよく )す、 隴水 ( ろうすゐ ) 凍 ( こほ )り 咽 ( むせ )んで 流 ( なが )るゝことを 得 ( え )ず、 第一第二絃索々。 秋風払松疎韻落。 第三第四絃冷々。 夜鶴憶子篭中鳴。 第五絃声尤掩抑。 滝水凍咽流不得。 五絃弾 白居易 ずゐぶんのくわんげんはかへつてみづからたれり、 なほざりのへんえいひとにしられたり 随分 ( ずゐぶん )の 管絃 ( くわんげん )は 還 ( かへ )つて 自 ( みづか )ら 足 ( た )れり、 等閑 ( なほざり )の 篇詠 ( へんえい ) 人 ( ひと )に 知 ( し )られたり 随分管絃還自足。 等閑篇詠被人知。 重答劉和州 同 にはかにともしびのもとにきぬをたつふをして、 あやまりてどうしんいつぺんのはなをきらしむ、 頓 ( にはか )に 燈 ( ともしび )の 下 ( もと )に 衣 ( きぬ )を 裁 ( た )つ 婦 ( ふ )をして、 誤 ( あやま )りて 同心 ( どうしん ) 一片 ( いつぺん )の 花 ( はな )を 剪 ( き )らしむ、 頓令燈下裁衣婦。 誤剪同心一片花。 聞夜笛 章孝標 らきのちよういたるは、 なさけなきことをきふにねたむ、 くわんげんのちやうきよくにあるは、 をへざることをれいじんにいかる、 羅綺 ( らき )の 重衣 ( ちようい )たるは、 情 ( なさけ )なきことを 機婦 ( きふ )に 妬 ( ねた )む、 管絃 ( くわんげん )の 長曲 ( ちやうきよく )に 在 ( あ )るは、 闋 ( を )へざることを 伶人 ( れいじん )に 怒 ( いか )る、 羅綺之為重衣。 妬無情於機婦。 管絃之在長曲。 怒不闋於伶人。 春娃無気力詩序 菅原道真 らくばいきよくふりてくちびるゆきをふき、 せつりうこゑあらたにしててにけむりをにぎる、 落梅 ( らくばい ) 曲 ( きよく ) 旧 ( ふ )りて 唇 ( くちびる ) 雪 ( ゆき )を 吹 ( ふ )き、 折柳 ( せつりう ) 声 ( こゑ ) 新 ( あら )たにして 手 ( て )に 煙 ( けむり )を 掬 ( にぎ )る、 落梅曲旧脣吹雪。 折柳声新手掬煙。 同 しやうじよはむかしぶんくんをいどみてえたり、 れんちゆうをしてしさいにきかしむることなかれ、 相如 ( しやうじよ )は 昔 ( むかし ) 文君 ( ぶんくん )を 挑 ( いど )みて 得 ( え )たり、 簾中 ( れんちゆう )をして 子細 ( しさい )に 聴 ( き )かしむることなかれ、 相如昔挑文君得。 莫使簾中子細聴。 听弾琴 惟高親王 拾遺 ことのねにみねのまつかぜかよふらし いづれのをよりしらべそめけん 文詞 ( ぶんし ) 附遺文 ちんしふつえつたりいうぎよのつりばりをふくみてしんえんのそこよりいづるがごとし、 ふさうれんべんたりかんてうのいぐるみにかゝりてそううんのさかしきよりおつるがごとし、 沈詞 ( ちんし ) 怫悦 ( ふつえつ )たり 遊魚 ( いうぎよ )の 鉤 ( つりばり )を 銜 ( ふく )みて 深淵 ( しんえん )の 底 ( そこ )より 出 ( い )づるがごとし、 浮藻 ( ふさう ) 聯翩 ( れんべん )たり 翰鳥 ( かんてう )の 繳 ( いぐるみ )に 纓 ( かゝ )りて 曾雲 ( そううん )の 峻 ( さか )しきより 墜 ( お )つるがごとし、 沈詞怫悦。 若遊魚銜鉤出深淵之底。 浮藻聯翩。 若翰鳥嬰繳墜曾雲之峻。 文選文賦 陸士衡 ゐぶんさんじふぢく、 ぢく 〳 〵にきんぎよくのこゑあり、 りようもんげんじやうのつち、 ほねをうづむれどもなをうづめず 遺文 ( ゐぶん ) 三十軸 ( さんじふぢく )、 軸々 ( ぢく 〳 〵 )に 金玉 ( きんぎよく )の 声 ( こゑ )あり、 龍門 ( りようもん ) 原上 ( げんじやう )の 土 ( つち )、 骨 ( ほね )を 埋 ( うづ )むれども 名 ( な )を 埋 ( うづ )めず 遺文三十軸。 軸軸金玉声。 龍門原上土。 埋骨不埋名。 題故元少尹集 白居易 げんぎよはたくみにあうむのしたをぬすみ、 ぶんしやうはほうわうのけをわかちえたり、 言語 ( げんぎよ )は 巧 ( たく )みに 鸚鵡 ( あうむ )の 舌 ( した )を 偸 ( ぬす )み、 文章 ( ぶんしやう )は 鳳凰 ( ほうわう )の 毛 ( け )を 分 ( わか )ち 得 ( え )たり、 言語巧偸鸚鵡舌。 文章分得鳳凰毛。 贈薛濤 元稹 きんちやうあかつきにひらくうんぼのでん、 はくしゆあきはうつすすゐしやうばん 錦帳 ( きんちやう ) 暁 ( あかつき )に 開 ( ひら )く 雲母 ( うんぼ )の 殿 ( でん )、 白珠 ( はくしゆ ) 秋 ( あき )は 写 ( うつ )す 水精 ( すゐしやう ) 盤 ( ばん ) 錦帳暁開雲母殿。 白珠秋写水精盤。 讃韓侍郎及弟詩 章孝標 さくじつのさんちゆうのきはざいをおのれにとる、 こんにちのていぜんのはなことばをひとにはづ、 昨日 ( さくじつ )の 山中 ( さんちゆう )の 木 ( き )は 材 ( ざい )を 己 ( おのれ )に 取 ( と )る、 今日 ( こんにち )の 庭前 ( ていぜん )の 花 ( はな ) 詞 ( ことば )を 人 ( ひと )に 慙 ( は )づ、 昨日山中之木材取於己。 今日庭前之花詞慙於人。 雨来花自湿詩序 菅原篤茂 わうらうはちえふのまご、 じよせんじがきうさうをふ、 こうあんはいちじのとも、 はんべつががゐぶんをあつむ、 王朗 ( わうらう ) 八葉 ( はちえふ )の 孫 ( まご )、 徐詹事 ( じよせんじ )が 旧草 ( きうさう )を 摭 ( ひろ )ふ、 江淹 ( こうあん )は 一時 ( いちじ )の 友 ( とも )、 范別駕 ( はんべつが )が 遺文 ( ゐぶん )を 集 ( あつ )む、 王朗八葉之孫。 摭徐詹事之旧草。 江淹一時之友。 集范別駕之遺文。 敬公集序 源順 ちんこうしやうがことばはむなしくやまひをいやし、 ばしやうじよがふはたゞくもをしのぐ、 陳孔章 ( ちんこうしやう )が 詞 ( ことば )は 空 ( むな )しく 病 ( やまひ )を 愈 ( いや )し、 馬相如 ( ばしやうじよ )が 賦 ( ふ )はたゞ 雲 ( くも )を 凌 ( しの )ぐ、 陳孔章詞空愈病。 馬相如賦只凌雲。 題英明集 橘在列 ぞうしやくのしんおんはめいをいしにきざみ、 くわくりんこうしふはよゝきうをしる、 贈爵 ( ぞうしやく )の 新恩 ( しんおん )は 銘 ( めい )を 石 ( いし )に 刻 ( きざ )み、 獲麟 ( くわくりん ) 後集 ( こうしふ )は 世 ( よゝ ) 丘 ( きう )を 知 ( し )る、 贈爵新恩銘刻石。 獲麟後集世知丘。 過菅丞相廟拝安楽寺 大江以言 古今 いつはりのなきよなりせばいかばかり ひとのことのはうれしからまし 読人不知 酒 ( さけ ) 新豊 ( しんぽう )の 酒 ( さけ )の 色 ( いろ )は、 鸚鵡 ( あうむ ) 盃 ( はい )の 中 ( うち )に 清冷 ( せいれい )たり、 長楽 ( ちやうらく )の 歌 ( うた )の 声 ( こゑ )は、 鳳凰 ( ほうわう ) 管 ( くわん )の 裏 ( うち )に 幽咽 ( いうえつ )す、 新豊酒色。 清冷於鸚鵡之盃中。 長楽歌声。 幽咽於鳳凰之管裏。 送友人帰大梁賦 公乗億 しんのけんゐしやうぐんりうはくりんは、 さけをたしなみてしゆとくのしやうをつくりよにつたふ、 たうのたいしのひんかくはくらくてんも、 またさけをたしなみしゆこうのさんをつくり、もつてこれにつぐ、 晋 ( しん )の 建威将軍 ( けんゐしやうぐん ) 劉伯倫 ( りうはくりん )は、 酒 ( さけ )を 嗜 ( たしな )みて 酒徳 ( しゆとく )の 頌 ( しやう )を 作 ( つく )り 世 ( よ )に 伝 ( つた )ふ、 唐 ( たう )の 太子 ( たいし )の 賓客 ( ひんかく ) 白楽天 ( はくらくてん )も、 また 酒 ( さけ )を 嗜 ( たしな )み 酒功 ( しゆこう )の 讚 ( さん )を 作 ( つく )り、 以 ( もつ )てこれに 継 ( つ )ぐ、 晋建威将軍劉伯倫嗜酒。 作酒徳頌伝於世。 唐太子賓客白楽天亦嗜酒。 作酒功讚以継之。 酒功賛序 白居易 かぜにのぞめるせうしうのき、 さけにたいするちやうねんのひと、 ゑへるかほはさうえふのごとし、 くれなゐといへどもこれはるならず、 風 ( かぜ )に 臨 ( のぞ )める 抄秋 ( せうしう )の 樹 ( き )、 酒 ( さけ )に 対 ( たい )する 長年 ( ちやうねん )の 人 ( ひと )、 酔 ( ゑ )へる 貎 ( かほ )は 霜葉 ( さうえふ )のごとし、 紅 ( くれなゐ )といへどもこれ 春 ( はる )ならず、 臨風抄秋樹。 対酒長年人。 酔貎如霜葉。 雖紅不是春。 酔中対紅葉 同 せいけいなげうちきたるしこれげふたり、 かゑんばうきやくしてさけをきやうとなす、 生計 ( せいけい ) 抛 ( なげう )ち 来 ( きた )る 詩 ( し )これ 業 ( げふ )たり、 家園 ( かゑん ) 忘却 ( ばうきやく )して 酒 ( さけ )を 郷 ( きやう )となす、 生計抛来詩是業。 家園忘却酒為郷。 送蕭処士遊黔南 同 ちやはよくもんをさんずれどもこうをなすことあさし、 けんはうれひをわするといへどもちからをうることかすかなり、 茶 ( ちや )はよく 悶 ( もん )を 散 ( さん )ずれども 功 ( こう )をなすこと 浅 ( あさ )し、 萱 ( けん )は 憂 ( うれ )ひを 忘 ( わす )るといへども 力 ( ちから )を 得 ( う )ること 微 ( かすか )なり、 茶能散悶為功浅。 萱噵忘憂得力微。 賞酒之詩 同 もしえいきをしてかねてゑひをげせしめば、 まさにしらくといふべしみつとはいはじ、 もし 栄期 ( えいき )をして 兼 ( か )ねて 酔 ( ゑ )ひを 解 ( げ )せしめば、 まさに 四楽 ( しらく )と 言 ( い )ふべし 三 ( み )つとは 言 ( い )はじ、 若使栄期兼解酔。 応言四楽不言三。 すゐきやうしのくには、 しいじひとりおんくわのてんにほこり、 しゆせんぐんのたみは、 いつけういまだごいんのちをしらず、 酔郷氏 ( すゐきやうし )の 国 ( くに )は、 四時 ( しいじ )ひとり 温和 ( おんくわ )の 天 ( てん )に 誇 ( ほこ )り、 酒泉郡 ( しゆせんぐん )の 民 ( たみ )は、 一頃 ( いつけう )いまだ 沍陰 ( ごいん )の 地 ( ち )を 知 ( し )らず、 酔郷氏之国。 四時独誇温和之天。 酒泉郡之民。 一頃未知沍陰之地。 煖寒従飲酒詩序 大江匡衡 このみすなはちじやうりんゑんのけんずるところ、 ふくめばおのづからきゆ、 さけはこれかじやくそんのつたふるところ、 かたむくればはなはだびなり、 菓 ( このみ )すなはち 上林苑 ( じやうりんゑん )の 献 ( けん )ずるところ、 含 ( ふく )めば 自 ( おのづか )ら 消 ( き )ゆ、 酒 ( さけ )はこれ 下若村 ( かじやくそん )の 伝 ( つた )ふるところ、 傾 ( かたむ )くれば 甚 ( はなは )だ 美 ( び )なり、 菓則上林苑之所献。 含自消。 酒是下若村之所伝。 傾甚美。 内宴詩序 大江朝綱 まづげんせきにあひてきやうだうとなし、 やうやくりうれいにつきてどふうをとふ、 先 ( ま )づ 阮籍 ( げんせき )に 逢 ( あ )ひて 郷導 ( きやうだう )と 為 ( な )し、 漸 ( やうや )く 劉伶 ( りうれい )に 就 ( つ )きて 土風 ( どふう )を 問 ( と )ふ、 先逢阮籍為郷導。 漸就劉伶問土風。 入酔郷贈納言 橘相公 さとはけんとくにとなりてかうほにあらず、 さかひはむかにせつしてすなはちざばうす、 邑 ( さと )は 建徳 ( けんとく )に 隣 ( とな )りて 行歩 ( かうほ )にあらず、 境 ( さかひ )は 無何 ( むか )に 接 ( せつ )してすなはち 坐亡 ( ざばう )す、 邑隣建徳非行歩。 境接無何便坐亡。 同前後中書王 わうせきがさとのかすみはなみをめぐりてもろく、 けいかうがやまのゆきはながれをおひてとぶ、 王勣 ( わうせき )が 郷 ( さと )の 霞 ( かすみ )は 浪 ( なみ )を 繞 ( めぐ )りて 脆 ( もろ )く、 嵆康 ( けいかう )が 山 ( やま )の 雪 ( ゆき )は 流 ( ながれ )を 逐 ( お )ひて 飛 ( と )ぶ、 王勣郷霞繞浪脆。 嵆康山雪逐流飛。 酔看落水花 慶滋保胤 拾遺 ありあけのここちこそすれさかづきの ひかりもそひていでぬとおもへば 大中臣能宣 山 ( やま ) 附山水 まゆずみのいろははるかにさうかいのうへにのぞみ、 いづみのこゑははるかにはくうんのうちにおつ、 黛 ( まゆずみ )の 色 ( いろ )は 迥 ( はる )かに 蒼海 ( さうかい )の 上 ( うへ )に 臨 ( のぞ )み、 泉 ( いづみ )の 声 ( こゑ )は 遥 ( はる )かに 白雲 ( はくうん )の 中 ( うち )に 落 ( お )つ、 黛色迥臨蒼海上。 泉声遥落白雲中。 題百丈山 賀蘭暹 しようちはもとよりさだまれるあるじなし、 おほむねやまはやまをあいするひとにぞくす、 勝地 ( しようち )はもとより 定 ( さだ )まれる 主 ( あるじ )なし、 おほむね 山 ( やま )は 山 ( やま )を 愛 ( あい )する 人 ( ひと )に 属 ( ぞく )す、 勝地本来無定主。 大都山属愛山人。 遊雲居寺贈穆三十六地主 白居易 よるのつるねむりおどろきしようげつさやかなり、 あかつきむさゝびとびおちてかふえんさむし、 夜 ( よる )の 鶴 ( つる ) 眠 ( ねむ )り 驚 ( おどろ )き 松月 ( しようげつ ) 苦 ( さやか )なり、 暁 ( あかつき ) 鼯 ( むさゝび ) 飛 ( と )び 落 ( お )ちて 峡煙 ( かふえん ) 寒 ( さむ )し、 夜鶴眠驚松月苦。 暁鼯飛落峡煙寒。 題遥嶺暮烟 都在中 ぐわんせんなげうちきたりてせいたいあらはれ、 らゐまきしりぞけてすいへいあきらかなり、 紈扇 ( ぐわんせん ) 抛 ( なげう )ち 来 ( きた )りて 青黛 ( せいたい ) 露 ( あら )はれ、 羅帷 ( らゐ ) 巻 ( ま )き 却 ( しりぞ )けて 翠屏 ( すいへい ) 明 ( あき )らかなり、 紈扇抛来青黛露。 羅帷巻却翠屏明。 遠山暮烟歛 具平親王 しゆうらいあかつきおこりてはやしのいたゞきおいたり、 ぐんげんくれにたゝきてたにのそこさむし、 衆籟 ( しゆうらい ) 暁 ( あかつき ) 興 ( おこ )りて 林 ( はやし )の 頂 ( いたゞき ) 老 ( お )いたり、 群源 ( ぐんげん ) 暮 ( くれ )に 叩 ( たゝ )きて 谷 ( たに )の 心 ( そこ ) 寒 ( さむ )し、 衆籟暁興林頂老。 群源暮叩谷心寒。 秋声多在山 大江以言 拾遺 なのみしてやまはみかさもなかりけり あさひゆふひのさすにまかせて 紀貫之 拾遺 くものゐるこしのしらやまおいにけり おほくのとしの雪つもりつつ 壬生忠見 拾遺 みわたせばまつの葉しろきよしのやま いく世つもれるゆきにかあるらん 平兼盛 山水 ( さんすゐ ) たいさんはどじやうをゆづらず、 ゆゑによくそのたかきことをなし、 かかいはさいりうをいとはず、 ゆゑによくそのふかきことをなす、 泰山 ( たいさん )は 土壌 ( どじやう )を 譲 ( ゆづ )らず、 故 ( ゆゑ )によくその 高 ( たか )きことを 成 ( な )し、 河海 ( かかい )は 細流 ( さいりう )を 厭 ( いと )はず、 故 ( ゆゑ )によくその 深 ( ふか )きことを 成 ( な )す、 泰山不譲土壌。 故能成其高。 河海不厭細流。 故能成其深。 上秦王書 李斯 はゑんひとたびさけびて ふねをめいげつかうのほとりにとゞめ、 こばたちまちにいばえて みちをくわうさせきのうちにうしなふ、 巴猿 ( はゑん ) 一 ( ひと )たび 叫 ( さけ )びて 舟 ( ふね )を 明月峡 ( めいげつかう )の 辺 ( ほとり )に 停 ( とゞ )め、 胡馬 ( こば ) 忽 ( たちま )ちに 嘶 ( いば )えて 路 ( みち )を 黄沙磧 ( くわうさせき )の 裏 ( うち )に 失 ( うしな )ふ、 巴猿一叫停舟於明月峡之辺。 胡馬忽嘶失路於黄沙磧之裏。 愁賦 公乗徳 ひをさへぎるぼさんはあをくしてぞく 〳 〵たり、 てんをひたすしうすゐはしろくしてばう 〳 〵たり、 日 ( ひ )を 礙 ( さへぎ )る 暮山 ( ぼさん )は 青 ( あを )くして 簇々 ( ぞく 〳 〵 )たり、 天 ( てん )を 浸 ( ひた )す 秋水 ( しうすゐ )は 白 ( しろ )くして 茫々 ( ばう 〳 〵 )たり、 礙日暮山青簇々。 浸天秋水白茫々。 登西楼憶行簡 白居易 ぎよしうのひのかげはさむくしてなみをやき、 えきろのすゞのこゑはよるやまをすぐ、 漁舟 ( ぎよしう )の 火 ( ひ )の 影 ( かげ )は 寒 ( さむ )くして 浪 ( なみ )を 焼 ( や )き、 駅路 ( えきろ )の 鈴 ( すゞ )の 声 ( こゑ )は 夜 ( よる ) 山 ( やま )を 過 ( す )ぐ、 漁舟火影寒焼浪。 駅路鈴声夜過山。 秋夜宿臨江駅 杜荀鶴 やまはびやうぶににこうはたかむしろににたり、 ふなばたをたゝきてらいわうすつきのあきらかなるうち、 山 ( やま )は 屏風 ( びやうぶ )に 似 ( に ) 江 ( こう )は 簟 ( たかむしろ )に 似 ( に )たり、 舷 ( ふなばた )を 叩 ( たゝ )きて 来往 ( らいわう )す 月 ( つき )の 明 ( あき )らかなる 中 ( うち )、 山似屏風江似簟。 叩舷来往月明中。 劉禹錫 さうもくふそたり、 はるのかぜさんぎのかみをくしけづり、 ぎよべついうぎす、 あきのみづかはくのたみをやしなふ、 草木 ( さうもく ) 扶疎 ( ふそ )たり、 春 ( はる )の 風 ( かぜ ) 山祇 ( さんぎ )の 髪 ( かみ )を 梳 ( くしけづ )り、 魚鼈 ( ぎよべつ ) 遊戯 ( いうぎ )す、 秋 ( あき )の 水 ( みづ ) 河伯 ( かはく )の 民 ( たみ )を 養 ( やしな )ふ、 草木扶疎。 春風梳山祇之髪。 魚鼈遊戯。 秋水養河伯之民。 山水策 大江澄明 かんかうひとりゆくすみか、 くわやくもとのごとし、 はんれいへんしうのとまり、 えんぱこれあらたなり 韓康 ( かんかう ) 独 ( ひとり ) 往 ( ゆ )く 栖 ( すみか )、 花薬 ( くわやく ) 旧 ( もと )のごとし、 范蠡 ( はんれい ) 扁舟 ( へんしう )の 泊 ( とまり )、 煙波 ( えんぱ )これ 新 ( あら )たなり 韓康独往之栖。 花薬如旧。 范蠡扁舟之泊。 煙波惟新。 同 大江澄明 やままたやま、いづれのたくみかせいがんのかたちをけづりなせる、 みづまたみづ、たれがいへにかへきたんのいろをそめいだせる 山 ( やま )また 山 ( やま )、 何 ( いづ )れの 工 ( たくみ )か 青巌 ( せいがん )の 形 ( かたち )を 削 ( けづ )り 成 ( な )せる、 水 ( みづ )また 水 ( みづ )、 誰 ( た )れが 家 ( いへ )にか 碧潭 ( へきたん )の 色 ( いろ )を 染 ( そ )め 出 ( い )だせる 山復山。 何工削成青巌之形。 水復水。 誰家染出碧澗之色。 同 大江澄明 さんいうのゑんじゆはくものひらくるところ、 かいがんのこそんはひのはるゝとき、 山郵 ( さんいう )の 遠樹 ( ゑんじゆ )は 雲 ( くも )の 開 ( ひら )くる 処 ( ところ )、 海岸 ( かいがん )の 孤村 ( こそん )は 日 ( ひ )の 霽 ( は )るゝ 時 ( とき )、 山郵遠樹雲開処。 海岸孤村日霽時。 春日送別 橘直幹 やまはきやうはいをなすしややうのうち、 みづはくわいりうににたりじんらいのあひだ、 山 ( やま )は 向背 ( きやうはい )を 成 ( な )す 斜陽 ( しややう )の 裏 ( うち )、 水 ( みづ )は 廻流 ( くわいりう )に 似 ( に )たり 迅瀬 ( じんらい )の 間 ( あひだ )、 山成向背斜陽裏。 水似廻流迅瀬間。 春日山居 大江朝綱 拾遺 神なびのみむろのきしやくづるらん たつたの川の水のにごれる 高向草春 水 ( みづ ) 附漁父 へんじやうのぼくばしきりにいばふ、 へいさびやうびやうたり、 かうろのせいはんこと 〴 〵くさる、 ゑんがんさうさうたり、 辺城 ( へんじやう )の 牧馬 ( ぼくば )しきりに 嘶 ( いば )ふ、 平沙 ( へいさ ) 眇々 ( びやうびやう )たり、 江路 ( かうろ )の 征帆 ( せいはん )こと 〴 〵く 去 ( さ )る、 遠岸 ( ゑんがん ) 蒼々 ( さうさう )たり、 辺城之牧馬連嘶。 平沙眇々。 江路之征帆尽去。 遠岸蒼々。 暁賦 謝観 しふはかんばしくしてとじやくなかごをぬきいでゝちやうぜり、 すなはあたゝかにしてゑんあうつばさをしきてねむる、 州 ( しふ )は 芳 ( かんば )しくして 杜若 ( とじやく ) 心 ( なかご )を 抽 ( ぬきい )でゝ 長 ( ちやう )ぜり、 沙 ( すな )は 暖 ( あたゝ )かにして 鴛鴦 ( ゑんあう ) 翅 ( つばさ )を 敷 ( し )きて 眠 ( ねむ )る、 州芳杜若抽心長。 沙暖鴛鴦敷翅眠。 楽府、昆明春水満詩 白居易 ほひらきてはせいさうこのうちにさり、 ころもうるほひてはくわうばいうのうちにゆく、 帆 ( ほ ) 開 ( ひら )きては 青草湖 ( せいさうこ )の 中 ( うち )に 去 ( さ )り、 衣 ( ころも ) 湿 ( うる )ほひては 黄梅雨 ( くわうばいう )の 裏 ( うち )に 行 ( ゆ )く、 帆開青草湖中去。 衣湿黄梅雨裏行。 送客之湖南 白居易 すゐえきのみちはじてんのつきをうがち、 くわせんのさをはぢよこのはるにいる、 水駅 ( すゐえき )の 路 ( みち )は 児店 ( じてん )の 月 ( つき )を 穿 ( うが )ち、 華船 ( くわせん )の 棹 ( さを )は 女湖 ( ぢよこ )の 春 ( はる )に 入 ( い )る、 水駅路穿児店月。 華船棹入女湖春。 送劉郎中赴任蘇州 白居易 ころのひさごははるのこまやかなるさけをくみ、 さくばうのふねはよるのみなぎるなだにながる、 菰蘆 ( ころ )の 杓 ( ひさご )は 春 ( はる )の 濃 ( こま )やかなる 酒 ( さけ )を 酌 ( く )み、 舴艋 ( さくばう )の 舟 ( ふね )は 夜 ( よる )の 漲 ( みなぎ )る 灘 ( なだ )に 流 ( なが )る、 菰蘆杓酌春濃酒。 舴艋舟流夜漲灘。 贈戯漁家 杜荀鶴 かんきよはたれびとにかぞくする、 ししいでんのほんしゆなり、 しうすゐはいづれのところにかみる、 すざくゐんのしんかなり、 閑居 ( かんきよ )は 誰人 ( たれびと )にか 属 ( ぞく )する、 紫宸殿 ( ししいでん )の 本主 ( ほんしゆ )なり、 秋水 ( しうすゐ )は 何 ( いづ )れの 処 ( ところ )にか 見 ( み )る、 朱雀院 ( すざくゐん )の 新家 ( しんか )なり、 閑居属於誰人。 紫宸殿之本主也。 秋水見於何処。 朱雀院之新家也。 閑居楽秋水序 菅原道真 つりをたるゝものはうををえず、 あんにふいうのこゝろあることをおもひ、 さををうつすものはたゞかりをきく、 はるかにりよしゆくのときにしたがふことをかんず、 釣 ( つり )を 垂 ( た )るゝ 者 ( もの )は 魚 ( うを )を 得 ( え )ず、 暗 ( あん )に 浮遊 ( ふいう )の 意 ( こゝろ )あることを 思 ( おも )ひ、 棹 ( さを )を 移 ( うつ )す 者 ( もの )はたゞ 雁 ( かり )を 聞 ( き )く、 遥 ( はる )かに 旅宿 ( りよしゆく )の 時 ( とき )に 随 ( したが )ふことを 感 ( かん )ず、 垂釣者不得魚。 暗思浮遊之有意。 移棹者唯聞雁。 遥感旅宿之随時。 同 菅原道真 さとうにいんをきざむかもめのあそぶところ、 すゐていにしよをうつすかりのわたるとき、 沙頭 ( さとう )に 印 ( いん )を 刻 ( きざ )む 鴎 ( かもめ )の 遊 ( あそ )ぶ 処 ( ところ )、 水底 ( すゐてい )に 書 ( しよ )を 模 ( うつ )す 雁 ( かり )の 度 ( わた )る 時 ( とき )、 沙頭刻印鴎遊処。 水底模書鴈度時。 題洞庭湖 大江朝綱 につきやくなみたひらかにしてこたうくれ、 ふうとうきしとほくしてきやくはんさむし、 日脚 ( につきやく ) 波 ( なみ ) 平 ( たひら )かにして 孤嶋 ( こたう ) 暮 ( く )れ、 風頭 ( ふうとう ) 岸 ( きし ) 遠 ( とほ )くして 客帆 ( きやくはん ) 寒 ( さむ )し、 日脚波平孤嶋暮。 風頭岸遠客帆寒。 海浜書懐 平佐幹 古今 としをへて花のかがみとなるみづは ちりかかるをやくもるといふらん 伊勢 詞華 みなかみのさだめてければ君がよに ふたたびすめるほり川のみづ 曽禰好忠 禁中 ( きんちう ) ほうちのこうめんにはしんしうのつき、 りようけつのぜんとうにははくぼのやま、 鳳地 ( ほうち )の 後面 ( こうめん )には 新秋 ( しんしう )の 月 ( つき )、 龍闕 ( りようけつ )の 前頭 ( ぜんとう )には 薄暮 ( はくぼ )の 山 ( やま )、 鳳地後面新秋月。 龍闕前頭薄暮山。 題東北旧院小寄亭 白居易 しうげつたかくかゝれりくうへきのほか、 せんらうしづかにもてあそぶきんゐのあひだ、 秋月 ( しうげつ ) 高 ( たか )く 懸 ( かゝ )れり 空碧 ( くうへき )の 外 ( ほか )、 仙郎 ( せんらう ) 静 ( しづ )かに 翫 ( もてあそ )ぶ 禁闈 ( きんゐ )の 間 ( あひだ )、 秋月高懸空碧外。 仙郎静翫禁闈間。 八月十五日夜聞崔大員外林翰林独直対酒翫月因懐禁中清景 同 さんぜんのせんにんはたれかきくことをえん、 がんげんでんのすみのくわんげんのこゑ、 三千 ( さんぜん )の 仙人 ( せんにん )は 誰 ( たれ )か 聴 ( き )くことを 得 ( え )ん、 含元殿 ( がんげんでん )の 角 ( すみ )の 管絃 ( くわんげん )の 声 ( こゑ )、 三千仙人誰得聴。 含元殿角管絃声。 及弟日報破東平 章孝標 けいじんあかつきにとなふる、 こゑめいわうのねむりをおどろかす、 ふしようよるなる、 ひゞきあんてんのききにてつす、 鶏人 ( けいじん ) 暁 ( あかつき )に 唱 ( とな )ふる、 声 ( こゑ ) 明王 ( めいわう )の 眠 ( ねむ )りを 驚 ( おどろ )かす、 鳧鐘 ( ふしよう ) 夜 ( よる ) 鳴 ( な )る、 響 ( ひゞき ) 暗天 ( あんてん )の 聴 ( き )きに 徹 ( てつ )す、 鶏人暁唱。 声驚明王之眠。 鳧鐘夜鳴。 響徹暗天之聴。 漏刻策 都良香 てうこうひたかくしてかんむりのひたひぬけたり、 やかうすなあつくしてくつのこゑいそがはし、 朝候 ( てうこう ) 日 ( ひ ) 高 ( たか )くして 冠 ( かんむり )の 額 ( ひたひ ) 抜 ( ぬ )けたり、 夜行 ( やかう ) 沙 ( すな ) 厚 ( あつ )くして 履 ( くつ )の 声 ( こゑ ) 忙 ( いそ )がはし、朝候日高冠額抜。 夜行沙厚履声忙。 連句 作者未詳 家集 みかき守衛士のたくひにあらねども われもこころのうちにこそたけ 中務 拾遺 ここにだにひかりさやけきあきの月 雲のうへこそおもひやらるれ 藤原経臣 古京 ( こきやう ) りよくさうはいまびろくのその、 こうくわはさだめてむかしのくわんげんのいへならん、 緑草 ( りよくさう )は 如今 ( いま ) 麋鹿 ( びろく )の 苑 ( その )、 紅花 ( こうくわ )は 定 ( さだ )めて 昔 ( むかし )の 管絃 ( くわんげん )の 家 ( いへ )ならん、 緑草如今麋鹿苑。 紅花定昔管絃家。 過平城古京 菅原文時 新古今 いそのかみふるきみやこをきてみれば むかしかざしし花さきにけり 読人不知 故宮 ( こきう ) 附故宅 いんしんたるこりうそくわい、 はるにしてはるのいろなし、 くわくらくたるきようくわいう、 あきにしてあきのこゑあり、 陰森 ( いんしん )たる 古柳 ( こりう ) 疎槐 ( そくわい )、 春 ( はる )にして 春 ( はる )の 色 ( いろ ) 無 ( な )し、 獲落 ( くわくらく )たる 危牖 ( きよう ) 壊宇 ( くわいう )、 秋 ( あき )にして 秋 ( あき )の 声 ( こゑ ) 有 ( あ )り、 陰森古柳疎槐。 春無春色。 獲落危牖壊宇。 秋有秋声。 連昌宮賦 公乗億 うてなかたむきてはくわつせきなほみぎりにのこれり、 すだれたえてはしんじゆこうにみたず、 台 ( うてな ) 傾 ( かたむ )きては 滑石 ( くわつせき )なほ 砌 ( みぎり )に 残 ( のこ )れり、 簾 ( すだれ ) 断 ( た )えては 真珠 ( しんじゆ ) 鉤 ( こう )に 満 ( み )たず、 台傾滑石猶残砌。 簾断真珠不満鉤。 題于家公主雋宅 白居易 きやうごほろびてけいきよくあり、 こそだいのつゆじやうじやうたり、 ばうしんおとろへてこらうなし、 かんやうきうのけむりへん 〳 〵たり、 強呉 ( きやうご ) 滅 ( ほろ )びて 荊蕀 ( けいきよく )あり、 姑蘇台 ( こそだい )の 露 ( つゆ ) 瀼々 ( じやうじやう )たり、 暴秦 ( ばうしん ) 衰 ( おとろ )へて 虎狼 ( こらう )なし、 咸陽宮 ( かんやうきう )の 煙 ( けむり ) 片々 ( へん 〳 〵 )たり、 強呉滅兮有荊蕀。 姑蘇台之露瀼々 暴秦衰兮無虎狼。 咸陽宮之煙片々。 河原院賦 源順 らうかくはもとよりせんどうののりもの、 かんうんはむかしのぎろうのころも、 老鶴 ( らうかく )はもとより 仙洞 ( せんどう )の 駕 ( のりもの )、 寒雲 ( かんうん )は 昔 ( むかし )の 妓楼 ( ぎろう )の 衣 ( ころも )、 老鶴従来仙洞駕。 寒雲在昔妓楼衣。 嵯峨旧院即事 菅原道真 こくわつゆをつつんでざんぷんになき、 ぼてうかぜにすみてはいりをまもる、 孤花 ( こくわ ) 露 ( つゆ )を 裹 ( つつ )んで 残粉 ( ざんぷん )に 啼 ( な )き、 暮鳥 ( ぼてう ) 風 ( かぜ )に 栖 ( す )みて 廃籬 ( はいり )を 守 ( まも )る、 孤花裹露啼残粉。 暮鳥栖風守廃籬。 題后妃旧院 良岑春道 くわうりにつゆをみればしうらんなき、 しんどうにかぜをきけばらうくわいかなしむ、 荒籬 ( くわうり )に 露 ( つゆ )を 見 ( み )れば 秋蘭 ( しうらん ) 泣 ( な )き、 深洞 ( しんどう )に 風 ( かぜ )を 聞 ( き )けば 老桧 ( らうくわい ) 悲 ( かな )しむ、 荒籬見露秋蘭泣。 深洞聞風老桧悲。 秋日過仁和寺 源英明 くれになん 〳 〵としてすだれのほとりにはくろをしやうじ、 よもすがらとこのもとにせいてんをみる、 晩 ( くれ )になん 〳 〵として 簾 ( すだれ )の 頭 ( ほとり )に 白露 ( はくろ )を 生 ( しやう )じ、 終宵 ( よもすがら ) 床 ( とこ )の 底 ( もと )に 青天 ( せいてん )を 見 ( み )る、 向晩簾頭生白露。 終霄床底見青天。 屋舎壊 三善宰相 古今六帖 きみなくてあれたるやどの板間より 月のもるにも袖はぬれけり 読人不知 古今 きみなくてけぶりたえにししほがまの うらさびしくもみえわたるかな 紀貫之 家集 いにしへはちるをや人のをしみけん いまははなこそむかしこふらし 一条摂政 仙家 ( せんか ) 附道士隠倫 こちうのてんちはけんこんのほか、 むりのしんめいはたんぼのあひだ、 壺中 ( こちう )の 天地 ( てんち )は 乾坤 ( けんこん )の 外 ( ほか )、 夢裏 ( むり )の 身名 ( しんめい )は 旦暮 ( たんぼ )の 間 ( あひだ )、 壺中天地乾坤外。 夢裏身名旦暮間。 幽栖 元稹 やくろにひありてたんまさにふくすべし、 うんたいにひとなくしてみづおのづからうすづく、 薬炉 ( やくろ )に 火 ( ひ ) 有 ( あ )りて 丹 ( たん )まさに 伏 ( ふく )すべし、 雲碓 ( うんたい )に 人 ( ひと ) 無 ( な )くして 水 ( みづ ) 自 ( おのづか )ら 舂 ( うすづ )く、 薬炉有火丹応伏。 雲碓無人水自舂。 尋郭道士不遇 白居易 やまのもとにわらびをとればくもいとはず、ほらのうちにきをううればつるまづしる、 山 ( やま )の 底 ( もと )に 薇 ( わらび )を 採 ( と )れば 雲 ( くも ) 厭 ( いと )はず、 洞 ( ほら )の 中 ( うち )に 樹 ( き )を 栽 ( う )うれば 鶴 ( つる ) 先 ( ま )づ 知 ( し )る、 山底採薇雲不厭。 洞中栽樹鶴先知。 卜山居 温庭筠 さんこにくもうかぶ、 しちばんりのみちになみをわかつ、 ごじやうにかすみそばだち、 じふにろうのかまへてんをさしはさむ、 三壺 ( さんこ )に 雲 ( くも ) 浮 ( うか )ぶ、 七万里 ( しちばんり )の 程 ( みち )に 浪 ( なみ )を 分 ( わか )つ、 五城 ( ごじやう )に 霞 ( かすみ ) 峙 ( そばだ )ち、 十二楼 ( じふにろう )の 構 ( かまへ ) 天 ( てん )を 挿 ( さしはさ )む、 三壺雲浮。 七万里之程分浪。 五城霞峙。 十二楼之構挿天。 神仙策 都良香 きけんはなにほゆるこゑ、 こうたうのうらにながる、 きやうふうはをふるふか、 しけいのはやしにわかる、 奇犬 ( きけん ) 花 ( はな )に 吠 ( ほ )ゆる 声 ( こゑ )、 紅桃 ( こうたう )の 浦 ( うら )に 流 ( なが )る、 驚風 ( きやうふう ) 葉 ( は )を 振 ( ふる )ふ 香 ( か )、 紫桂 ( しけい )の 林 ( はやし )に 分 ( わか )る、 奇犬吠花。 声流於紅桃之浦。 驚風振葉香。 分紫桂之林。 同 都良香 あやまちてせんかにいりてはんにちのきやくとなるといへども、 おそらくはきうりにかへりてわづかにしちせいのまごにあはん、 謬 ( あやま )ちて 仙家 ( せんか )に 入 ( い )りて 半日 ( はんにち )の 客 ( きやく )となるといへども、 恐 ( おそ )らくは 旧里 ( きうり )に 帰 ( かへ )りて 纔 ( わづ )かに 七世 ( しちせい )の 孫 ( まご )に 逢 ( あ )はん、 謬入仙家雖為半日之客。 恐帰旧里纔逢七世之孫。 二条院宴落花乱舞衣序 大江朝綱 たんさうみちなりてせんしつしづかに、 さんちゆうのけいしよくげつくわたれたり、 丹竃 ( たんさう ) 道 ( みち ) 成 ( な )りて 仙室 ( せんしつ ) 静 ( しづ )かに、 山中 ( さんちゆう )の 景色 ( けいしよく ) 月華 ( げつくわ ) 低 ( た )れたり、 丹竃道成仙室静。 山中景色月華低。 山中有仙室 菅原文時 せきしやうほらにとゞまりてあらしむなしくはらひ、 ぎよくあんはやしになげうたれてとりひとりなく、 石床 ( せきしやう ) 洞 ( ほら )に 留 ( とゞま )りて 嵐 ( あらし ) 空 ( むな )しく 払 ( はら )ひ、 玉案 ( ぎよくあん ) 林 ( はやし )に 抛 ( なげう )たれて 鳥 ( とり ) 独 ( ひと )り 啼 ( な )く、 石床留洞嵐空払。 玉案抛林鳥独啼。 同胸句也 菅原文時 たうりものいはずはるはいくたびかくれぬ、 えんかあとなくむかしたれかすみし、 桃李 ( たうり ) 言 ( ものい )はず 春 ( はる )は 幾 ( いく )たびか 暮 ( く )れぬ、 煙霞 ( えんか ) 跡 ( あと ) 無 ( な )く 昔 ( むかし ) 誰 ( たれ )か 栖 ( す )みし、 桃李不言春幾暮。 煙霞無跡昔誰栖。 同腰句也 菅原文時 わうけうひとたびさつてくもとこしなへにたえ、 いつかしやうのこゑのこけいにかへる、 王喬 ( わうけう ) 一 ( ひと )たび 去 ( さ )つて 雲 ( くも ) 長 ( とこしなへ )に 断 ( た )え、 早晩 ( いつか ) 笙 ( しやう )の 声 ( こゑ )の 故渓 ( こけい )に 帰 ( かへ )る、 王喬一去雲長断。 早晩笙声帰故渓。 同結句也 菅原文時 しやうざんにつきおちてあきのびんしろく、 えいすゐになみあがりてひだりのみゝきよし、 商山 ( しやうざん )に 月 ( つき ) 落 ( お )ちて 秋 ( あき )の 鬚 ( びん ) 白 ( しろ )く、 潁水 ( えいすゐ )に 波 ( なみ ) 揚 ( あが )りて 左 ( ひだり )の 耳 ( みゝ ) 清 ( きよ )し、 商山月落秋鬚白。 潁水波揚左耳清。 山中自述 大江朝綱 きうかんにこゑありてかんりうむせび、 こざんにぬしなくしてばんうんこなり、 虚澗 ( きうかん )に 声 ( こゑ ) 有 ( あ )りて 寒溜 ( かんりう ) 咽 ( むせ )び、 故山 ( こざん )に 主 ( ぬし ) 無 ( な )くして 晩雲 ( ばんうん ) 孤 ( こ )なり、 虚澗有声寒溜咽。 故山無主晩雲孤。 山無隠士 紀長谷雄 ゆめをとをしてよはふけぬらどうのつき、 あとをたづねてはるはくれぬりうもんのちり、 夢 ( ゆめ )を 通 ( とを )して 夜 ( よ )は 深 ( ふ )けぬ 蘿洞 ( らどう )の 月 ( つき )、 蹤 ( あと )を 尋 ( たづ )ねて 春 ( はる )は 暮 ( く )れぬ 柳門 ( りうもん )の 塵 ( ちり )、 通夢夜深蘿洞月。 尋蹤春暮柳門塵。 遠念賢士風 菅原文時 古今 ぬれてほす山路のきくの露のまに いつかちとせをわれはへにけむ 素性法師 山家 ( さんか ) ゐあいじのかねはまくらをそばだてゝきき、 かうろほうのゆきはすだれをかゝげてみる、 遺愛寺 ( ゐあいじ )の 鐘 ( かね )は 枕 ( まくら )を 欹 ( そばだ )てゝ 聴 ( き )き、 香爐峯 ( かうろほう )の 雪 ( ゆき )は 簾 ( すだれ )を 撥 ( かゝ )げて 看 ( み )る、 遺愛寺鐘欹枕聴。 香鑪峯雪巻簾看。 寺近香爐峰下 白居易 らんせうのはなのときのにしきのとばりのもと、 ろざんのあめのよるくさのいほりのうち、 蘭省 ( らんせう )の 花 ( はな )の 時 ( とき )の 錦 ( にしき )の 帳 ( とばり )の 下 ( もと )、 廬山 ( ろざん )の 雨 ( あめ )の 夜 ( よる ) 草 ( くさ )の 菴 ( いほり )の 中 ( うち )、 蘭省花時錦帳下。 廬山雨夜草菴中。 廬山草堂雨夜独宿 白居易 ぎよふのばんせんはうらをへだてゝつり、 ぼくどうのかんてきはうしによりてふく、 漁父 ( ぎよふ )の 晩船 ( ばんせん )は 浦 ( うら )を 分 ( へだ )てゝ 釣 ( つ )り、 牧童 ( ぼくどう )の 寒笛 ( かんてき )は 牛 ( うし )に 倚 ( よ )りて 吹 ( ふ )く、 漁父晩船分浦釣。 牧童寒笛倚牛吹。 登石壁水閣 杜荀鶴 わうしやうしよがれんふはうるはしきことはすなはちうるはし、 うらむらくはたゞこうがんのひんのみあることを、 けいちうさんがちくりんはいうなることはすなはちいうなり、 きらふらくはほとんどそろんのしにあらざることを、 王尚書 ( わうしやうしよ )が 蓮府 ( れんふ )は 麗 ( うるは )しきことはすなはち 麗 ( うるは )し、 恨 ( うら )むらくは 唯 ( たゞ ) 紅顔 ( こうがん )の 賓 ( ひん )のみ 有 ( あ )ることを、 嵆仲散 ( けいちうさん )が 竹林 ( ちくりん )は 幽 ( いう )なることはすなはち 幽 ( いう )なり、 嫌 ( きら )ふらくは 殆 ( ほとん )ど 素論 ( そろん )の 士 ( し )に 非 ( あら )ざることを、 王尚書之蓮府麗則麗。 恨唯有紅顔之賓。 嵆仲散之竹林幽則幽。 嫌殆非素論之士。 尚歯会詩序 菅原文時 みんなみにのぞめばすなはちくわんろのながきあり、 かうじんせいばすゐれんのもとにらくえきたり、 ひがしにかへりみればまたりんたうのたへなるあり、 しゑんはくおうしゆかんのまへにせうえうす、 南 ( みんなみ )に 望 ( のぞ )めばすなはち 関路 ( くわんろ )の 長 ( なが )きあり、 行人征馬 ( かうじんせいば ) 翠簾 ( すゐれん )の 下 ( もと )に 駱駅 ( らくえき )たり、 東 ( ひがし )に 顧 ( かへり )みればまた 林塘 ( りんたう )の 妙 ( たへ )なるあり、 紫鴛白鴎 ( しゑんはくおう ) 朱檻 ( しゆかん )の 前 ( まへ )に 逍遥 ( せうえう )す、 南望則有関路之長。 行人征馬駱駅於翠簾之下。 東顧亦有林塘之妙。 紫鴛白鴎逍遥於朱檻之前。 秋花逐露開詩序 源順 さんろにひくれぬ、 みゝにみつるものはせうかぼくてきのこゑ、 かんこにとりかへり、 まなこをさへぎるものはちくえんしようぶのいろ、 山路 ( さんろ )に 日 ( ひ ) 暮 ( く )れぬ、 耳 ( みゝ )に 満 ( み )つるものは 樵歌 ( せうか ) 牧笛 ( ぼくてき )の 声 ( こゑ )、 澗戸 ( かんこ )に 鳥 ( とり ) 帰 ( かへ )り、 眼 ( まなこ )を 遮 ( さへぎ )るものは 竹煙 ( ちくえん ) 松霧 ( しようぶ )の 色 ( いろ )、 山路日落。 満耳者樵歌牧笛之声。

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『和漢朗詠集』(わかんろうえいしゅう)は、藤原公任撰の歌集。 国風文化の流れを受けて編纂された。 上下二巻で構成。 その名の通り和歌216首と漢詩588詩(日本人の作ったものも含む)の合計804首が収められている。 和歌の作者で最も多いのはの26首、漢詩ではの135詩である。 『』にならった構成で、上巻に春夏秋冬の四季の歌、下巻に雑歌を入れている。 — 「」より。 出典による註:漢詩について、底本では、平仮名による訓み下しと白文とを併記するが、本ファイルでは、この間に漢字仮名まじりの訓読文を加えた。 和漢朗詠集 上巻 春 立春 ( りつしゆん ) かぜをおひてひそかにひらくはうひのときをまたず、 はるをむかへてたちまちへんずまさにうろのおんをこひねがはんとす。 吹 ( かぜ )を 逐 ( お )ひて 潛 ( ひそ )かに 開 ( ひら )く 芳菲 ( はうひ )の 候 ( とき )を 待 ( ま )たず、 春 ( はる )を 迎 ( むか )へて 乍 ( たちま )ち 変 ( へん )ず 将 ( まさ )に 雨露 ( うろ )の 恩 ( おん )を 希 ( こひねが )はんとす。 逐吹潛開不待芳菲之候。 迎春乍変将希雨露之恩。 内宴進花賦 紀淑望 いけのこほりとうとうはかぜわたりてとけ、 まどのうめほくめんはゆきふうじてさむし。 池 ( いけ )の 凍 ( こほり ) 東頭 ( とうとう )は 風 ( かぜ ) 度 ( わた )りて 解 ( と )け、 窓 ( まど )の 梅 ( むめ ) 北面 ( ほくめん )は 雪 ( ゆき ) 封 ( ふう )じて 寒 ( さむ )し。 池凍東頭風度解。 窓梅北面雪封寒。 立春日書懐呈芸閣諸文友 菅篤茂 やなぎにきりよくなくしてえだまづうごき、 いけにはもんありてこほりことごとくひらく。 こんにちしらずたれかけいくわいせん、 しゆんぷうしゆんすゐいちじにきたらんとす、 柳 ( やなぎ )に 気力 ( きりよく )なくして 条 ( えだ ) 先 ( ま )づ 動 ( うご )き、 池 ( いけ )に 波文 ( はもん )ありて 氷 ( こほり ) 尽 ( ことごと )く 開 ( ひら )く。 今日 ( こんにち ) 知 ( し )らず 誰 ( たれ )か 計会 ( けいくわい )せん、 春風 ( しゆんぷう ) 春水 ( しゆんすゐ ) 一時 ( いちじ )に 来 ( きた )らんとす。 柳無気力条先動。 池有波文氷尽開。 今日不知誰計会。 春風春水一時来。 府西池 白居易 よるはざんかうになんなんとしてかんけいつき、 はるはかうくわになりてげうろもゆ。 夜 ( よる )は 残更 ( ざんかう )になんなんとして 寒磬 ( かんけい ) 尽 ( つ )き、 春 ( はる )は 香火 ( かうくわ )に 生 ( な )りて 暁炉 ( げうろ ) 燃 ( も )ゆ。 夜向残更寒磬尽。 春生香火暁炉燃。 山寺立春 良岑春道 古今 としのうちにはるは来にけりひととせを こぞとやいはんことしとやいはん 在原元方 古今 袖ひぢてむすびしみづのこほれるを はるたつけふの 風 ( かぜ )やとくらん 紀貫之 ( きのつらゆき ) 拾遺 はるたつといふばかりにやみよしのの やまもかすみてけさはみゆらん 壬生忠岑 早春 ( さうしゆん ) こほりでんちにきえてろすゐみじかく、 はるはしでうにいりてりうがんひくし、 氷 ( こほり ) 田地 ( でんち )に 消 ( き )えて 蘆錐 ( ろすい ) 短 ( みじか )く、 春 ( はる )は 枝条 ( しでう )に 入 ( い )りて 柳眼 ( りうがん ) 低 ( ひく )し、 氷消田地蘆錐短。 春入枝条柳眼低。 寄楽天 元稹 まづくわふうをしてせうそくをはうぜしめ、 つゞいてていてうをしてらいゆをとかしむ、 先 ( ま )づ 和風 ( くわふう )をして 消息 ( せうそく )を 報 ( はう )ぜしめ、 続 ( つゞ )いて 啼鳥 ( ていてう )をして 来由 ( らいゆ )を 説 ( と )かしむ、 先遣和風報消息。 続教啼鳥説来由 春生 白居易 とうがんせいがんのやなぎ、ちそくおなじからず、 なんしほくしのうめかいらくすでにことなり。 東岸西岸 ( とうがんせいがん )の 柳 ( やなぎ )、 遅速 ( ちそく ) 同 ( おな )じからず、 南枝北枝 ( なんしほくし )の 梅 ( うめ )、 開落 ( かいらく ) 已 ( すで )に 異 ( こと )なり。 東岸西岸之柳。 遅速不同。 南枝北枝之梅。 開落已異。 春生逐地形序 慶滋保胤 しぢんのわかきわらびひとてをにぎり、 へきぎよくのさむきあしきりふくろをだつす。 紫塵 ( しぢん )の 嫩 ( わか )き 蕨 ( わらび ) 人 ( ひと ) 手 ( て )を 拳 ( にぎ )り、 碧玉 ( へきぎよく )の 寒 ( さむ )き 蘆 ( あし ) 錐 ( きり ) 嚢 ( ふくろ )を 脱 ( だつ )す。 紫塵嫩蕨人拳手。 碧玉寒蘆錐脱嚢 和早春晴 小野篁 きはれてはかぜしんりうのかみをくしけづり、こほりきえてはなみきうたいのひげをあらふ。 気 ( き ) 霽 ( は )れては 風 ( かぜ ) 新柳 ( しんりう )の 髪 ( かみ )を 梳 ( くしけづ )り、 氷 ( こほり ) 消 ( き )えては 波 ( なみ ) 旧苔 ( きうたい )の 鬚 ( ひげ )を 洗 ( あら )ふ。 気霽風梳新柳髪。 氷消波洗旧苔鬚。 春暖 都良香 にはにきしよくをませばせいしやみどりなり、 はやしにようきをへんずればしゆくせつくれなゐなり。 庭 ( には ) 気色 ( きしよく )を 増 ( ま )せば 晴沙 ( せいしや ) 緑 ( みどり )なり、 林 ( はやし )に 容輝 ( ようき )を 変 ( へん )ずれば 宿雪 ( しゆくせつ ) 紅 ( くれなゐ )なり。 庭増気色晴沙緑。 林変容輝宿雪紅。 草樹晴迎春 紀長谷雄 古今 いはそそぐたるひのうへのさわらびの もえいづるはるになりにけるかな 志貴皇子 古今 やまかぜにとくるこほりのひまごとに うちいづるなみやはるのはつはな 源正澄 続後撰 みはたせばひらのたかねにゆききえて わかなつむべくのはなりにけり 平兼盛 古今 見わたせばやなぎさくらをこきまぜて 都ぞ春のにしきなりける 素性法師 春興 ( しゆんきよう ) はなのもとにかへることをわするるはびけいによるなり、 たるのまへにゑひをすすむるはこれはるのかぜ、 花 ( はな )の 下 ( もと )に 帰 ( かへ )ることを 忘 ( わす )るるは 美景 ( びけい )に 因 ( よ )るなり、 樽 ( たる )の 前 ( まへ )に 酔 ( ゑ )ひを 勧 ( すす )むるはこれ 春 ( はる )の 風 ( かぜ )。 花下忘帰因美景。 樽前勧酔是春風。 白居易 やさうはうひたりこうきんのち、 いうしれうらんたりへきらのてん、 野草 ( やさう ) 芳菲 ( はうひ )たり 紅錦 ( こうきん )の 地 ( ち )、 遊糸 ( いうし ) 繚乱 ( れうらん )たり 碧羅 ( へきら )の 天 ( てん )。 野草芳菲紅錦地。 遊糸繚乱碧羅天。 劉禹錫 かしゆはいへ 〳 〵はなはところ 〳 〵にあり、 むなしくじやうやうのはるをくわんりやうすることなかれ。 歌酒 ( かしゆ )は 家々 ( いへ 〳 〵 ) 花 ( はな )は 処々 ( ところ 〳 〵 )にあり 空 ( むな )しく 上陽 ( じやうやう )の 春 ( はる )を 管領 ( くわんりやう )することなかれ。 歌酒家家花処処。 莫空管領上陽春。 送令孤尚書趣東郡 白居易 さんたうまたやたう、ひこうきんのはたばりをさらす、 もんりうまたがんりう、かぜきくぢんのいとをわかぬ、 山桃 ( さんたう )また 野桃 ( やたう )、 日 ( ひ ) 紅錦 ( こうきん )の 幅 ( はたばり )を 曝 ( さら )す、 門柳 ( もんりう )また 岸柳 ( がんりう )、 風 ( かぜ ) 麹塵 ( きくぢん )の 糸 ( いと )を 宛 ( わか )ぬ。 山桃復野桃。 日曝紅錦之幅。 門柳復岸柳。 風宛麹塵之糸。 逐処花皆好序 紀斉名 のにつきてのべしけりこうきんしう、 てんにあたつてはいうしきすへきらりよう、 野 ( の )に 著 ( つ )きて 展 ( の )べ 敷 ( し )けり 紅錦繍 ( こうきんしう )、 天 ( てん )に 当 ( あた )つては 遊織 ( いうしき )す 碧羅綾 ( へきらりよう )、 着野展敷紅錦繍。 当天遊織碧羅綾。 春生 小野篁 りんちうのはなのにしきはときにかいらくす、 てんぐわいのいうしはあるひはいうむ、 林中 ( りんちう )の 花 ( はな )の 錦 ( にしき )は 時 ( とき )に 開落 ( かいらく )す、 天外 ( てんぐわい )の 遊糸 ( いうし )は 或 ( あるい )は 有無 ( いうむ ) 林中花錦時開落。 天外遊糸或有無。 上寺聖聚楽 島田忠臣 しやうかのよるのつきいへ 〳 〵のおもひ、 ししゆのはるのかぜところ 〳 〵のなさけ、 笙歌 ( しやうか )の 夜 ( よる )の 月 ( つき ) 家々 ( いへ 〳 〵 )の 思 ( おも )ひ、 詩酒 ( ししゆ )の 春 ( はる )の 風 ( かぜ ) 処々 ( ところ 〳 〵 )の 情 ( なさけ ) 笙歌夜月家家思。 詩酒春風処処情。 悦者衆 菅原文時 新古今 ももしきのおほみや人はいとまあれや さくらかざしてけふもくらしつ 山辺赤人 拾遺 はるはなほわれにてしりぬはなざかり こころのどけきひとはあらじな 壬生忠岑 春夜 ( しゆんや ) ともしびをそむけてはともにあはれむしんやのつき、 はなをふみてはおなじくをしむせうねんのはる、 燭 ( ともしび )を 背 ( そむ )けては 共 ( とも )に 憐 ( あは )れむ 深夜 ( しんや )の 月 ( つき )、 花 ( はな )を 踏 ( ふ )みては 同 ( おな )じく 惜 ( を )しむ 少年 ( せうねん )の 春 ( はる )、 背燭共憐深夜月。 踏花同惜少年春。 春夜与盧四周諒花陽観同居 白居易 古今 はるのよのやみはあやなしうめのはな 色こそみえねかやはかくるる 凡河内躬恒 子日 ( ねのひ )付若菜 しようじゆによりてもつてこしをなづるは、 ふうさうのをかしがたきをならひ、 さいかうをくわしてくちにすするは、 きみのよくととのはんことをきす、 松樹 ( しようじゆ )に 倚 ( よ )りて 以 ( もつ )て 腰 ( こし )を 摩 ( な )づるは、 風霜 ( ふうさう )の 犯 ( をか )し 難 ( がた )きを 習 ( なら )ひ、 菜羹 ( さいかう )を 和 ( くわ )して 口 ( くち )に 啜 ( すす )るは、 気味 ( きみ )の 克 ( よ )く 調 ( ととの )はんことを 期 ( き )す、 倚松樹以摩腰。 習風霜之難犯也。 和菜羹而啜口。 期気味之克調也。 雲林院行幸 菅原道真 しようこんによりてこしをなづれば、 せんねんのみどりてにみてり、 ばいくわををりてかうべにかざせば、 にげつのゆきころもにおつ、 松根 ( しようこん )に 倚 ( よ )りて 腰 ( こし )を 摩 ( な )づれば、 千年 ( せんねん )の 翠 ( みどり ) 手 ( て )に 満 ( み )てり、 梅花 ( ばいくわ )を 折 ( を )りて 頭 ( かうべ )に 挿 ( かざ )せば、 二月 ( にげつ )の 雪 ( ゆき ) 衣 ( ころも )に 落 ( お )つ、 倚松根摩腰。 千年之翠満手。 折梅花挿頭。 二月之雪落衣。 子曰序 橘在列 新古今 ねのひしてしめつる野べのひめこまつ ひかでやちよのかげをまたまし 藤原清正 拾遺 ねのひする野辺にこまつのなかりせば ちよのためしになにをひかまし 壬生忠岑 拾遺 千とせまでかぎれるまつもけふよりは 君にひかれてよろづ世やへん 大中臣能宣 若菜 ( わかな ) やちうにさいをえらぶは、 せじこれをけいしんにおす、 ろかにあつものをくわするは、 ぞくじんこれをていしにしよくす、 野中 ( やちう )に 菜 ( さい )を 芼 ( えら )ぶは、 世事 ( せじ )これを 蕙心 ( けいしん )に 推 ( お )す、 炉下 ( ろか )に 羮 ( あつもの )を 和 ( くわ )するは、 俗人 ( ぞくじん )これを 荑指 ( ていし )に 属 ( しよく )す、 野中芼菜。 世事推之蕙心。 炉下和羮。 俗人属之荑指。 催粧序 菅原道真 拾遺 あすからはわかなつませんかたをかの あしたのはらはけふぞやくめる 柿本人麿 新古今 あすからはわかなつまんとしめし野に きのふもけふもゆきはふりつつ 山部赤人 新古今 ゆきてみぬ人もしのべとはるののの かたみにつめるわかななりけり 紀貫之 三月三日 ( さんぐわつみつか )付桃花 はるきてはあまねくこれたうくわのみづなり、 せんげんをわきまへずいづれのところにかたづねん、 春 ( はる ) 来 ( き )ては 遍 ( あまね )くこれ 桃花 ( たうくわ )の 水 ( みづ )なり、 仙源 ( せんげん )を 弁 ( わきま )へず 何 ( いづ )れの 処 ( ところ )にか 尋 ( たづ )ねん、 春来遍是桃花水。 不弁仙源何処尋。 桃源行 王維 はるのぼげつ、つきのさんてう、てんもはなにゑへるは、たうりさかりなればなり、わがきみいちじつのたく、ばんきのあまり、きよくすゐはるかなりといへども、ゐぢんたえたりといへども、 はじをかきてちせいをしり、ぎぶんをおもひてもつてふうりうをもてあそぶ、けだしこころざしのゆくところ、つゝしみてせうじよをたてまつる、 春 ( はる )の 暮月 ( ぼげつ )、 月 ( つき )の 三朝 ( さんてう )、 天 ( てん ) 花 ( はな )に 酔 ( ゑ )へるは、 桃李 ( たうり ) 盛 ( さか )りなればなり、 我 ( わ )が 后 ( きみ ) 一日 ( いちじつ )の 沢 ( たく )、 万機 ( ばんき )の 余 ( あまり )、 曲水 ( きよくすゐ ) 遥 ( はる )かなりといへども、 遺塵 ( ゐぢん ) 絶 ( た )えたりといへども、 巴 ( は ) 字 ( じ )を 書 ( か )きて 地勢 ( ちせい )を 知 ( し )り、 魏文 ( ぎぶん )を 思 ( おも )ひて 以 ( も )つて 風流 ( ふうりう )を 翫 ( もてあそ )ぶ。 蓋 ( けだ )し 志 ( こころざし )の 之 ( ゆ )く 所 ( ところ )、 謹 ( つゝし )みで 小序 ( せうじよ )を 上 ( たてまつ )る、 春之暮月。 月之三朝。 天酔于花。 桃李盛也。 我后一日之沢。 万機之余。 曲水雖遥。 遺塵雖絶。 書巴字而知地勢。 思魏文以翫風流。 蓋志之所之。 謹上小序。 花時天似酔序 菅原道真 えんかゑんきんまさにどうこなるべし、 たうりのせんしんけんぱいににたり、 煙霞 ( えんか ) 遠近 ( ゑんきん )まさに 同戸 ( どうこ )なるべし、 桃李 ( たうり )の 浅深 ( せんしん ) 勧盃 ( けんぱい )に 似 ( に )たり 煙霞遠近応同戸。 桃李浅深似勧盃。 同題詩 菅原道真 みづははじをなすしよさんのひ、 みなもとしうねんよりおこりてのちにいくしもぞ、 水 ( みづ ) 巴 ( は ) 字 ( じ )を 成 ( な )す 初三 ( しよさん )の 日 ( ひ )、 源 ( みなもと ) 周年 ( しうねん )より 起 ( おこ )りて 後 ( のち )に 幾霜 ( いくしも )ぞ、 水成巴字初三日。 源起周年後幾霜。 縈流送羽觴 菅原篤茂 いしにさはりておそくきたればこゝろひそかにまち、 ながれにひかれてとくすぐればてまづさへぎる、 石 ( いし )に 礙 ( さは )りて 遅 ( おそ )く 来 ( きた )れば 心 ( こゝろ ) 窃 ( ひそ )かに 待 ( ま )ち、 流 ( ながれ )に 牽 ( ひ )かれて 遄 ( と )く 過 ( す )ぐれば 手 ( て ) 先 ( ま )づ 遮 ( さへぎ )る 礙石遅来心窃待。 牽流遄過手先遮。 同 菅原雅規 桃 よるのあめひそかにうるほして、そはのまなこあらたにこびたり、 あかつきのかぜゆるくふきて、ふげんのくちびるまづゑめり、 夜 ( よる )の 雨 ( あめ ) 偸 ( ひそ )かに 湿 ( うるほ )して、 曾波 ( そは )の 眼 ( まなこ ) 新 ( あら )たに 嬌 ( こ )びたり、 暁 ( あかつき )の 風 ( かぜ ) 緩 ( ゆる )く 吹 ( ふ )きて、 不言 ( ふげん )の 唇 ( くちびる ) 先 ( ま )づ 咲 ( ゑ )めり、 夜雨偸湿。 曾波之眼新嬌。 暁風緩吹。 不言之唇先咲。 桃花詩序 紀納言 拾遺 みちとせになるといふもものことしより はなさくはるにあふぞうれしき 凡河内躬恒 暮春 ( ぼしゆん ) みづをはらふりうくわはせんまんてん、 ろうをへだつるあうぜつはりやうさんせい、 水 ( みづ )を 払 ( はら )ふ 柳花 ( りうくわ )は 千万点 ( せんまんてん )、 楼 ( ろう )を 隔 ( へだ )つる 鴬舌 ( あうぜつ )は 両三声 ( りやうさんせい )、 払水柳花千万点。 隔楼鴬舌両三声。 過元魏志襄陽楼口占 元稹 つばさをたるるさおうはうしほのおつるあかつき、 いとをみだすやばはくさのふかきはる、 翅 ( つばさ )を 低 ( た )るる 沙鴎 ( さおう )は 潮 ( うしほ )の 落 ( お )つる 暁 ( あかつき )、 糸 ( いと )を 乱 ( みだ )す 野馬 ( やば )は 草 ( くさ )の 深 ( ふか )き 春 ( はる )。 低翅沙鴎潮落暁。 乱糸野馬草深春。 晩春遊松山館 菅原道真 ひとさらにわかきときなしすべからくをしむべし、 としつねにはるならずさけをむなしくすることなかれ、 人 ( ひと ) 更 ( さら )に 少 ( わか )き 時 ( とき )なしすべからく 惜 ( を )しむべし、 年 ( とし ) 常 ( つね )に 春 ( はる )ならず。 酒 ( さけ )を 空 ( むな )しくすることなかれ。 人無更少時須惜。 年不常春酒莫空。 りうはくもしこんにちのこうなることをしらば、 まさにこのところといふべしいづれとはいはじ、 劉白 ( りうはく ) 若 ( も )し 今日 ( こんにち )の 好 ( こう )なることを 知 ( し )らば、 まさに 此 ( こ )の 処 ( ところ )と 言 ( い )ふべし 何 ( いづ )れとは 言 ( い )はじ、 劉白若知今日好。 応言此処不言何。 家集 いたづらにすぐる月日はおほかれど はなみてくらす春ぞすくなき 藤原興風 三月尽 ( さんぐわつじん ) はるをとゞむれどもはるとゞまらず、はるかへりてひとせきばくたり、 かぜをいとへどもかぜさだまらず、かぜたちてはなせうさくたり 春 ( はる )を 留 ( とゞ )むれども 春 ( はる ) 駐 ( とゞ )まらず、 春 ( はる ) 帰 ( かへ )りて 人 ( ひと ) 寂寞 ( せきばく )たり、 風 ( かぜ )を 厭 ( いと )へども 風 ( かぜ ) 定 ( さだ )まらず、 風 ( かぜ ) 起 ( た )ちて 花 ( はな ) 蕭索 ( せうさく )たり、 留春春不駐。 春帰人寂寞。 厭風風不定。 風起花蕭索。 落花古調詩 白居易 ちくゐんにきみかんにしてえいじつをせうし、 くわていにわれゑひてざんしゆんをおくる、 竹院 ( ちくゐん )に 君 ( きみ ) 閑 ( かん )にして 永日 ( えいじつ )を 銷 ( せう )し、 花亭 ( くわてい )に 我 ( われ ) 酔 ( ゑ )ひて 残春 ( ざんしゆん )を 送 ( おく )る、 竹院君閑銷永日。 花亭我酔送残春。 酬皇甫賓客 同 ちうちやうすはるかへりてとゞまることをえず、 しとうのはなのもとにやうやくくわうこんたり、 惆悵 ( ちうちやう )す 春 ( はる ) 帰 ( かへ )りて 留 ( とゞ )まることを 得 ( え )ず、 紫藤 ( しとう )の 花 ( はな )の 下 ( もと )に 漸 ( やうや )く 黄昏 ( くわうこん )たり、 惆悵春帰留不得。 紫藤花下漸黄昏。 題慈恩寺 同 はるをおくるにしうしやをうごかすことをもちゐず、 たゞざんあうとらくくわとにわかる、 春 ( はる )を 送 ( おく )るに 舟車 ( しうしや )を 動 ( うご )かすことを 用 ( もち )ゐず、 たゞ 残鶯 ( ざんあう )と 落花 ( らくくわ )とに 別 ( わか )る、 送春不用動舟車。 唯別残鴬与落花。 同 もしせうくわうをしてわがこゝろをしらしめば、 こんせうのりよしゆくはしかにあらん、 若 ( も )し 韶光 ( せうくわう )をして 我 ( わ )が 意 ( こゝろ )を 知 ( し )らしめば、 今宵 ( こんせう )の 旅宿 ( りよしゆく )は 詩家 ( しか )に 在 ( あ )らん、 若使韶光知我意。 今宵旅宿在詩家。 送春 菅原道真 はるをとゞむるにくわんじやうのかためをもちゐず、 はなはおちてかぜにしたがひとりはくもにいる、 春 ( はる )を 留 ( とゞ )むるに 関城 ( くわんじやう )の 固 ( かた )めを 用 ( もち )ゐず、 花 ( はな )は 落 ( お )ちて 風 ( かぜ )に 随 ( したが )ひ 鳥 ( とり )は 雲 ( くも )に 入 ( い )る 留春不用関城固。 花落随風鳥入雲。 三月尽 尊敬 古今 けふとのみはるをおもはぬときだにも たつことやすき花のかげかは 凡河内躬恒 拾遺 はなもみなちりぬるやどはゆくはるの ふるさととこそなりぬべらなれ 紀貫之 後撰 またもこんときぞとおもへどたのまれぬ 我身にしあればをしきはるかな 紀貫之 閏三月 ( うるふさんぐわつ ) こんねんのうるふははるさんげつにあり、 あまつさへきんりよういちげつのはなをみる、 今年 ( こんねん )の 閏 ( うるふ )は 春三月 ( はるさんげつ )に 在 ( あ )り、 剰 ( あまつ )さへ 金陵 ( きんりよう ) 一月 ( いちげつ )の 花 ( はな )を 見 ( み )る 今年閏在春三月。 剰見金陵一月花。 送准南李中逐行軍 陸侍郎 たににかへるかあうはさらにこうんのみちにとうりうし、 はやしをじするぶてふはかへつていちげつのはなにへんぽんたり、 谿 ( たに )に 帰 ( かへ )る 歌鴬 ( かあう )は 更 ( さら )に 孤雲 ( こうん )の 路 ( みち )に 逗留 ( とうりう )し、 林 ( はやし )を 辞 ( じ )する 舞蝶 ( ぶてふ )は 還 ( かへ )つて 一月 ( いちげつ )の 花 ( はな )に 翩翻 ( へんぽん )たり、 帰谿歌鴬更逗留於孤雲之路。 辞林舞蝶還翩翻於一月之花。 今年又有春序 源順 はなはねにかへらんことをくゆれどもくゆるにえきなし、 とりはたににいらんことをきすれどもさだめてきをのべん、 花 ( はな )は 根 ( ね )に 帰 ( かへ )らんことを 悔 ( く )ゆれども 悔 ( く )ゆるに 益 ( えき )なし、 鳥 ( とり )は 谷 ( たに )に 入 ( い )らんことを 期 ( き )すれども 定 ( さだ )めて 期 ( き )を 延 ( の )べん、 花悔帰根無益悔。 鳥期入谷定延期。 清原滋藤 古今 さくらばなはるくははれるとしだにも 人のこころにあかれやはする 伊勢 鶯 ( うぐひす ) にはとりすでになきてちゆうしんあしたをまつ、 うぐひすいまだいでずゐけんたににあり、 鶏 ( にはとり ) 既 ( すで )に 鳴 ( な )きて 忠臣 ( ちゆうしん ) 旦 ( あした )を 待 ( ま )つ、 鶯 ( うぐひす )いまだ 出 ( い )でず 遺賢 ( ゐけん ) 谷 ( たに )に 在 ( あ )り、 鶏既鳴兮忠臣待旦。 鶯未出兮遺賢在谷。 鳳為王賦 賈島 たがいへのへきじゆにかうぐひすなきてらまくなほたれ、 いくところのくわどうにゆめさめてしゆれんいまだまかず 誰 ( た )が 家 ( いへ )の 碧樹 ( へきじゆ )にか 鶯 ( うぐひす ) 啼 ( な )きて 羅幕 ( らまく )なほ 垂 ( た )れ、 幾 ( いく ) 処 ( ところ )の 華堂 ( くわどう )に 夢 ( ゆめ ) 覚 ( さ )めて 珠簾 ( しゆれん )いまだ 巻 ( ま )かず、 誰家碧樹鶯啼而羅幕猶垂。 幾処華堂夢覚而珠簾未巻。 春暁鶯賦 謝観或張読 きりにむせぶさんあうはなくことなほまれなり、 いさごをうがつろじゆんははわづかにわかてり、 霧 ( きり )に 咽 ( むせ )ぶ 山鶯 ( さんあう )は 啼 ( な )くことなほ 少 ( まれ )なり、 沙 ( いさご )を 穿 ( うが )つ 蘆笋 ( ろじゆん )は 葉 ( は )わづかに 分 ( わか )てり、 咽霧山鴬啼尚少。 穿沙蘆笋葉纔分。 早春尋李校書 元稹 だいのほとりにさけありてうぐひすきやくをよび、 みづのおもてちりなくしてかぜいけをあらふ、 台 ( だい )の 頭 ( ほとり )に 酒 ( さけ ) 有 ( あ )りて 鶯 ( うぐひす ) 客 ( きやく )を 呼 ( よ )び、 水 ( みづ )の 面 ( おもて ) 塵 ( ちり ) 無 ( な )くして 風 ( かぜ ) 池 ( いけ )を 洗 ( あら )ふ、 台頭有酒鶯呼客。 水面無塵風洗池。 和思黯題南荘 うぐひすのこゑにいういんせられてはなのもとにきたり、 くさのいろにこうりうせられてはみづのほとりにざす、 鶯 ( うぐひす )の 声 ( こゑ )に 誘引 ( いういん )せられて 花 ( はな )の 下 ( もと )に 来 ( きた )り、 草 ( くさ )の 色 ( いろ )に 拘留 ( こうりう )せられては 水 ( みづ )の 辺 ( ほとり )に 座 ( ざ )す、 鶯声誘引来花下。 草色拘留座水辺。 どうるゐをあひもとむるにかんずるは、 りこうきよがんのはるのさへづりにおうずゐあり、 いきをくわいしてつひにこんじて、 りゆうぎんぎよやくのあかつきのなきにともなふとあり、 同類 ( どうるい )を 相求 ( あひもと )むるに 感 ( かん )ずるは、 離鴻去雁 ( りこうきよがん )の 春 ( はる )の 囀 ( さへづ )りに 応 ( おう )ずるあり、 異気 ( いき )を 会 ( くわい )して 終 ( つひ )に 混 ( こん )じて、 龍吟魚躍 ( りゆうぎんぎよやく )の 暁 ( あかつき )の 啼 ( な )きに 伴 ( ともな )ふとあり、 感同類於相求。 離鴻去雁之応春囀。 会異気而終混。 龍吟魚躍之伴暁啼。 鳥声韻管絃序 菅原文時 えんきがそでしばらくをさまりて、れうらんたるをきうはくにそねむ、 しうらうがかんざししきりにうごきて、けんくわんたるをしんくわにかへりみる、 燕姫 ( えんき )が 袖 ( そで )しばらく 収 ( をさ )まりて、 撩乱 ( れうらん )たるを 旧拍 ( きうはく )に 猜 ( そね )み、 周郎 ( しうらう )が 簪 ( かんざし )しきりに 動 ( うご )きて、 間関 ( けんくわん )たるを 新花 ( しんくわ )に 顧 ( かへり )みる、 燕姫之袖暫収。 猜撩乱於旧柏。 周郎之簪頻動。 顧間関於新花。 同題 同 しんろはいましゆくせつをうがつ、 きうさうはのちのためにはるのくもにいらん、 新路 ( しんろ )は 如今 ( いま ) 宿雪 ( しゆくせつ )を 穿 ( うが )つ、 旧巣 ( きうさう )は 後 ( のち )のために 春 ( はる )の 雲 ( くも )に 属 ( い )らん、 新路如今穿宿雪。 旧宿為後属春雲。 鶯出谷 菅原道真 せいろうにつきおちてはなのあひだのきよく、 ちゆうでんにともしびのこりてたけのうちのおと、 西楼 ( せいろう )に 月 ( つき ) 落 ( お )ちて 花 ( はな )の 間 ( あひだ )の 曲 ( きよく )、 中殿 ( ちうでん )に 燈 ( ともしび ) 残 ( のこ )りて 竹 ( たけ )の 裏 ( うち )の 音 ( おと )、 西楼月落花間曲。 中殿燈残竹裏音。 宮鶯囀暁光 菅原文時 拾遺 あらたまのとしたちかへるあしたより またるるものはうぐひすのこゑ 素性法師 栄花物語 あさみどりはるたつそらにうぐひすの はつこゑまたぬ人はあらじな 麗景殿女御 拾遺 うぐひすのこゑなかりせばゆききえぬ 山ざといかで春をしらまし 中務 霞 ( かすみ ) かすみのひかりはあけてのちひよりもあかく、 くさのいろははれきたりてわかくしてけむりににたり、 霞 ( かすみ )の 光 ( ひかり )は 曙 ( あ )けてのち 火 ( ひ )よりも 殷 ( あか )く、 草 ( くさ )の 色 ( いろ )は 晴 ( は )れ 来 ( きた )りて 嫩 ( わか )くして 煙 ( けむり )に 似 ( に )たり、 霞光曙後殷於火。 草色晴来嫩似煙。 早春晴寄蘇洲寄夢得 白居易 いさごをきるくさはたゞさんぶんばかり、 きにまたがるかすみはわづかにはんだんあまり、 沙 ( いさご )を 鑚 ( き )る 草 ( くさ )はたゞ 三分 ( さんぶん )ばかり、 樹 ( き )に 跨 ( またが )る 霞 ( かすみ )はわづかに 半段 ( はんだん ) 余 ( あま )り、 鑚沙草只三分許。 跨樹霞纔半段余。 春浅帯軽寒 菅原道真 万葉 きのふこそとしはくれしかはるがすみ かすがのやまにはやたちにけり 柿本人麿 古今 はるがすみたてるやいづこみよしのの よしのの山にゆきはふりつつ 山部赤人 家集 あさひさすみねのしらゆきむらぎえて はるのかすみはたなびきにけり 平兼盛 雨 ( あめ ) あるひははなのもとにたれて、ひそかにぼくしがかなしみをます、 ときにびんのあひだにまひ、あんにはんらうのおもひをうごかす、 或 ( あるひ )は 花 ( はな )の 下 ( もと )に 垂 ( た )れて、 潛 ( ひそ )かに 墨子 ( ぼくし )が 悲 ( かな )しみを 増 ( ま )す、 時 ( とき )に 鬢 ( びん )の 間 ( あひだ )に 舞 ( ま )ひ、 暗 ( あん )に 潘郎 ( はんらう )の 思 ( おも )ひを 動 ( うご )かす、 或垂花下。 潜増墨子之悲。 時舞鬢間。 暗動潘郎之思。 密雨散加糸序 大江以言或都在中 ちやうらくのかねのこゑははなのそとにつき、 りようちのやなぎのいろはあめのなかにふかし、 長楽 ( ちやうらく )の 鐘 ( かね )の 声 ( こゑ )は 花 ( はな )の 外 ( そと )に 尽 ( つ )き、 龍池 ( りようち )の 柳 ( やなぎ )の 色 ( いろ )は 雨 ( あめ )の 中 ( なか )に 深 ( ふか )し、 長楽鐘声花外尽。 龍池柳色雨中深。 闕舌贈閻舎人 李嶠 やしなひえてはおのづからはなのふぼたり、 あらひきてはむしろくすりのくんしんをわきまへんや、 養 ( やしな )ひ 得 ( え )ては 自 ( おのづか )ら 花 ( はな )の 父母 ( ふぼ )たり、 洗 ( あら )ひ 来 ( き )ては 寧 ( むし )ろ 薬 ( くすり )の 君臣 ( くんしん )を 弁 ( わきま )へんや、 養得自為花父母。 洗来寧弁薬君臣。 仙家春雨 紀長谷雄 はなのあらたにひらくるひしよやううるほへり、 とりおいてかへるときはくぼくもれり、 花 ( はな )の 新 ( あら )たに 開 ( ひら )くる 日 ( ひ ) 初陽 ( しよやう ) 潤 ( うるほ )へり、 鳥 ( とり ) 老 ( お )いて 帰 ( かへ )る 時 ( とき ) 薄暮 ( はくぼ ) 陰 ( くも )れり。 花新開日初陽潤。 鳥老帰時薄暮陰。 春色雨中深 菅原文時 しやきやくはだんぷうのまづあふぐところ、 あんせいはてうじつのいまだはれざるほど、 斜脚 ( しやきやく )は 暖風 ( だんぷう )の 先 ( ま )づ 扇 ( あふ )ぐ 処 ( ところ )、 暗声 ( あんせい )は 朝日 ( てうじつ )のいまだ 晴 ( は )れざる 程 ( ほど )、 斜脚暖風先扇処。 暗声朝日未晴程。 微雨自東来 慶滋保胤 拾遺 さくらがりあめはふりきぬおなじくは ぬるともはなのかげにかくれん 読人不知 新勅撰 あをやぎの枝にかかれるはるさめは いともてぬけるたまかとぞみる 伊勢 梅 ( むめ )付紅梅 はくへんのらくばいはたにのみづにうかび、 くわうせうのしんりうはしろのかきよりいでたり、 白片 ( はくへん )の 落梅 ( らくばい )は 澗 ( たに )の 水 ( みづ )に 浮 ( うか )び、 黄梢 ( くわうせう )の 新柳 ( しんりう )は 城 ( しろ )の 墻 ( かき )より 出 ( い )でたり、 白片落梅浮澗水。 黄梢新柳出城墻。 春至香山寺 白居易 うめのはなゆきをおびてきんじやうにとび、 やなぎのいろはけむりにくわしてしゆちうにいる、 梅 ( うめ )の 花 ( はな ) 雪 ( ゆき )を 帯 ( お )びて 琴上 ( きんじやう )に 飛 ( と )び、 柳 ( やなぎ )の 色 ( いろ )は 煙 ( けむり )に 和 ( くわ )して 酒中 ( しゆちう )に 入 ( い )る 梅花帯雪飛琴上。 柳色和煙入酒中。 早春初晴野宴 章孝標 やうやくかほるらふせつあらたにふうずるうち、 ひそかにほころぶはるのかぜのいまだあふがざるさき、 漸 ( やうや )く 薫 ( かほ )る 臘雪 ( らふせつ ) 新 ( あら )たに 封 ( ふう )ずる 裏 ( うち )、 偸 ( ひそ )かに 綻 ( ほころ )ぶ 春 ( はる )の 風 ( かぜ )のいまだ 扇 ( あふ )がざる 先 ( さき )、 漸薫臘雪新封裏。 偸綻春風未扇先。 寒梅結早花 村上帝御製 せいしくりいだすたうもんのやなぎ はくぎよくよそほひなすゆれいのうむめ、 青糸 ( せいし ) 繰 ( く )り 出 ( いだ )す 陶門 ( たうもん )の 柳 ( やなぎ ) 白玉 ( はくぎよく ) 装 ( よそほ )ひ 成 ( な )す 庾嶺 ( ゆれい )の 梅 ( うめ ) 青糸繰出陶門柳。 白玉装成庾嶺梅。 尋春花 大江朝綱或菅原文時 ごれいさう 〳 〵としてくもわうらいす、 たゞあはれむたいゆまんちうのむめ、 五嶺 ( ごれい ) 蒼々 ( さう 〳 〵 )として 雲 ( くも ) 往来 ( わうらい )す、 たゞ 憐 ( あは )れむ 大庾 ( たいゆ ) 万株 ( まんちう )の 梅 ( うめ )。 五嶺蒼蒼雲往来。 但憐大 大庾 ( たいゆ )万株梅。 同題 菅原文時 たれかいふはるのいろひがしよりいたるとは、 つゆあたたかにしてなんしはなはじめてひらく、 誰 ( たれ )か 言 ( い )ふ 春 ( はる )の 色 ( いろ ) 東 ( ひがし )より 到 ( いた )るとは、 露 ( つゆ ) 暖 ( あたた )かにして 南枝 ( なんし ) 花 ( はな ) 始 ( はじ )めて 開 ( ひら )く、 誰言春色従東到。 露暖南枝花始開。 同 同 けむりはりうしよくをそへてみるになほあさし、 とりはばいくわをふみておつることすでにしきりなり、 烟 ( けむり )は 柳色 ( りうしよく )を 添 ( そ )へて 看 ( み )るに 猶 ( なほ ) 浅 ( あさ )し、 鳥 ( とり )は 梅花 ( ばいくわ )を 踏 ( ふ )みて 落 ( お )つること 已 ( すで )に 頻 ( しき )りなり、 煙添柳色看猶浅。 鳥踏梅花落以頻。 同 同 拾遺 いにしとしねこじてうゑしわがやどの わかきのうめははなさきにけり 安倍広庭 万葉 わがせこに見せんとおもひしうめの花 それともみえずゆきのふれれば 山部赤人 拾遺 香をとめてたれをらざらんうめの花 あやなしかすみたちなかくしそ 凡河内躬恒 紅梅 ( こうばい ) うめはけいぜつをふくみてこうきをかねたり、 えはけいくわをもてあそびてへきぶんをおびたり、 梅 ( うめ )は 鶏舌 ( けいぜつ )を 含 ( ふく )みて 紅気 ( こうき )を 兼 ( か )ねたり、 江 ( え )は 瓊花 ( けいくわ )を 弄 ( もてあそ )びて 碧文 ( へきぶん )を 帯 ( お )びたり、 梅含鶏舌兼紅気。 江弄瓊花帯碧文。 早春尋李校書 元稹 せんこうせんけんたり、せんはうのゆきいろをはづ、 ぢようきやうふんいくたり、ぎろのけむりかをりをゆづる、 浅紅 ( せんこう ) 鮮娟 ( せんけん )たり、 仙方 ( せんはう )の 雪 ( ゆき ) 色 ( いろ )を 愧 ( は )づ、 濃香 ( ぢようきやう ) 芬郁 ( ふんいく )たり、 妓炉 ( ぎろ )の 烟 ( けむり ) 薫 ( かをり )を 譲 ( ゆづ )る、 浅紅鮮娟。 仙方之雪愧色。 濃香芳郁。 妓炉之烟譲薫。 繞簷梅正開詩 橘正通 いろありてわかちやすしざんせつのそこ、 こゝろなくしてわきまへがたしせきやうのうち、 色 ( いろ ) 有 ( あ )りて 分 ( わか )ちやすし 残雪 ( ざんせつ )の 底 ( そこ ) 情 ( こゝろ ) 無 ( な )くして 弁 ( わきま )へがたし 夕陽 ( せきやう )の 中 ( うち )、 有色易分残雪底。 無情難弁夕陽中。 賦庭前紅梅 兼明親王 せんきうにかぜなりてむなしくゆきをひる、 やろにひあたたかにしていまだけむりをあげず、 仙臼 ( せんきう )に 風 ( かぜ ) 生 ( な )りて 空 ( むな )しく 雪 ( ゆき )を 簸 ( ひ )る、 野炉 ( やろ )に 火 ( ひ ) 暖 ( あたた )かにしていまだ 煙 ( けむり )を 揚 ( あ )げず、 仙臼風生空簸雪。 野鑪火暖未揚煙。 紅白梅花 紀斉名 古今 君ならでたれにかみせんうめのはな いろをもかをもしる人ぞしる 紀友則 新古今 色かをばおもひもいれずうめのはな つねならぬ世によそへてぞみる 花山院 柳 ( やなぎ ) りんあうはいづれのところにかことのことぢをぎんじ、 しやうりうはたれがいへにかきくぢんをさらす、 林鶯 ( りんあう )は 何 ( いづ )れの 処 ( ところ )にか 箏 ( こと )の 柱 ( ことぢ )を 吟 ( ぎん )じ、 墻柳 ( しやうりう )は 誰 ( たれ )が 家 ( いへ )にか 麹塵 ( きくぢん )を 曝 ( さら )す、 林鶯何処吟箏柱。 墻柳誰家曝麹塵。 天宮閣早春 白居易 やうやくたのきばのきやくをはらはんとほつす、 いまだおほくろうにのぼるひとをさへぎりえず、 漸 ( やうや )く 他 ( た )の 騎馬 ( きば )の 客 ( きやく )を 払 ( はら )はんと 欲 ( ほつ )す、 いまだ 多 ( おほ )く 楼 ( ろう )に 上 ( のぼ )る 人 ( ひと )を 遮 ( さへぎ )り 得 ( え )ず、 漸欲払他騎馬客。 未多遮得上楼人。 喜小楼西新柳抽条 白居易 ふぢよべうのはなはべによりもくれなゐなり、 せうくんそんのやなぎはまゆよりもみどりなり、 巫女廟 ( ふぢよべう )の 花 ( はな )は 粉 ( べに )より 紅 ( くれなゐ )なり 昭君村 ( せうくんそん )の 柳 ( やなぎ )は 眉 ( まゆ )よりも 翠 ( みどり )なり 巫女廟花紅似粉。 昭君村柳翠於眉。 題峡中石上 同白 まことにしりぬおいさりてふぜいのすくなきことを、 これをみいかでかいつくのしなからん、 誠 ( まこと )に 知 ( し )りぬ 老 ( お )い 去 ( さ )りて 風情 ( ふぜい )の 少 ( すくな )きことを、 此 ( これ )を 見 ( み )いかでか 一句 ( いつく )の 詩 ( し )なからん、 誠知老去風情少。 見此争無一句詩。 与前一首絶句他 同 たいゆれいのうめははやくおつ、 たれかふんさうをとはん、 きやうろざんのあんずはいまだひらけず、 あにこうえんをおはんや、 大庾嶺 ( たいゆれい )の 梅 ( うめ )は 早 ( はや )く 落 ( お )つ、 誰 ( たれ )か 粉粧 ( ふんさう )を 問 ( と )はん、 匡廬山 ( きやうろざん )の 杏 ( あんず )はいまだ 開 ( ひら )けず、 あに 紅艶 ( こうえん )を 趁 ( お )はんや、 大庾嶺之梅早落。 誰問粉粧。 匡廬山之杏未開。 豈趁紅艶。 内宴序停盃看柳色 紀長谷雄或大江音人 くもはこうきようをさゝぐふさうのひ、 はるはくわうしゆをたわますどんりうのかぜ、 雲 ( くも )は 紅鏡 ( こうきやう )を 擎 ( さゝ )ぐ 扶桑 ( ふさう )の 日 ( ひ )、 春 ( はる )は 黄珠 ( くわうしゆ )を 嫋 ( たわ )ます 嫩柳 ( どんりう )の 風 ( かぜ )雲擎 紅鏡扶桑日。 春嫋黄珠嫩柳風。 早春作 田達音 けいたくにはれをむかへてていげつくらく、 りくちにひをおひてすゐえんふかし、 嵆宅 ( けいたく )に 晴 ( はれ )を 迎 ( むか )へて 庭月 ( ていげつ ) 暗 ( くら )く、 陸池 ( りくち )に 日 ( ひ )を 逐 ( お )ひて 水煙 ( すゐえん ) 深 ( ふか )し、 嵆宅迎晴庭月暗。 陸池逐日水煙深。 柳影繁初合詩 具平親王 たんしんにつきうかびてえだをまじふるかつら、 がんこうにかぜきたりてはにこんずるうきくさ、 潭心 ( たんしん )に 月 ( つき ) 泛 ( うか )びて 枝 ( えだ )を 交 ( まじ )ふる 桂 ( かつら )、 岸口 ( がんこう )に 風 ( かぜ ) 来 ( きた )りて 葉 ( は )を 混 ( こん )ずる 蘋 ( うきくさ ) 潭心月泛交枝桂。 岸口風来混葉蘋。 垂柳払緑水詩 菅原文時 古今 あをやぎのいとよりかくるはるしもぞ みだれて花のほころびにける 紀貫之 新千載 あをやぎのまゆにこもれるいとなれば 春のくるにぞいろまさりける 藤原兼輔 花 ( はな ) はなはじやうゑんにあきらかにして、けいけんきうはくのちりにはす、 さるはくうざんにさけびて、しやげつせんがんのみちをみがく、 花 ( はな )は 上苑 ( じやうゑん )に 明 ( あき )らかにして、 軽軒 ( けいけん ) 九陌 ( きうはく )の 塵 ( ちり )に 馳 ( は )す、 猿 ( さる )は 空山 ( くうざん )に 叫 ( さけ )びて、 斜月 ( しやげつ ) 千巌 ( せんがん )の 路 ( みち )を 瑩 ( みが )く、 花明上苑。 軽軒馳九陌之塵。 猿叫空山。 斜月瑩千巌之路。 閑賦 張読 いけのいろはよう 〳 〵ようとしてあゐみづをそむ、 はなのひかりはえん 〳 〵としてひはるをやく、 池 ( いけ )の 色 ( いろ )は 溶々 ( よう 〳 〵 )として 藍水 ( あゐみづ )を 染 ( そ )む、 花 ( はな )の 光 ( ひかり )は 焔々 ( えん 〳 〵 )として 火 ( ひ ) 春 ( はる )を 焼 ( やく )、 池色溶溶藍染水。 花光焔焔火焼春。 早春招張賓客 白居易 はるかにじんかをみてはなあればすなはちいる、 きせんとしんそとをろん)ぜず、 遥 ( はる )かに 人家 ( じんか )を 見 ( み )て 花 ( はな )あればすなはち 入 ( い )る、 貴賤 ( きせん )と 親疎 ( しんそ )とを 論 ( ろん )ぜず、 遥見人家花便入。 不論貴賤与親疎。 尋春題諸家園林 同 ひにみがきかぜにみがく、かうていせんくわばんくわのたま、 えだをそめなみをそむ、へうりいちじゆさいじゆのこう、 日 ( ひ )に 瑩 ( みが )き 風 ( かぜ )に 瑩 ( みが )く、 高低 ( かうてい ) 千顆万顆 ( せんくわばんくわ )の 玉 ( たま )、 枝 ( えだ )を 染 ( そ )め 浪 ( なみ )を 染 ( そ )む、 表裏 ( へうり ) 一入再入 ( いつじゆさいじゆ )の 紅 ( こう ) 瑩日瑩風。 高低千顆万顆之玉。 染枝染浪。 表裏一入再入之紅。 花光浮水上序 菅原文時 たれかいひしみづこころなしと、ぢようえんのぞみてなみいろをへんず、 たれかいひしはなのいはずと、けいやうげきしてかげくちびるをうごかす、 誰 ( たれ )か 謂 ( い )ひし 水 ( みづ ) 心 ( こころ )なしと、 濃艶 ( ぢようえん ) 臨 ( のぞ )んで 波 ( なみ ) 色 ( いろ )を 変 ( へん )ず 誰 ( たれ )か 謂 ( い )つし 花 ( はな )のいはずと、 軽漾 ( けいやう ) 激 ( げき )して 影 ( かげ ) 唇 ( くちびる )を 動 ( うご )かす 誰謂水無心。 濃艶臨兮波変色。 誰謂花不語。 軽漾激兮影動唇。 同上 同 これをみづといはんとすれば、すなはちかんぢよべにをほどこすかゞみせいえいたり、これをはなといはんとほつすれば、またしよくじんあやをあらふにしきさんらんたり、 これを 水 ( みづ )と 謂 ( い )はんとすれば、すなはち 漢女 ( かんぢよ ) 粉 ( べに )を 施 ( ほどこ )す 鏡 ( かゞみ ) 清瑩 ( せいえい )たり、 これを 花 ( はな )と 謂 ( い )はんと 欲 ( ほつ )すれば、また 蜀人 ( しよくじん ) 文 ( あや )を 濯 ( あら )ふ 錦 ( にしき ) 粲爛 ( さんらん )たり、 欲謂之水。 則漢女施粉之鏡清瑩。 欲謂之花。 亦蜀人濯文之錦粲爛。 同題序 源順 おることいづれのいとよりぞたゞゆふべのあめ、 たつことはさだまれるためしなしはるのかぜにまかす、 織 ( お )ること 何 ( いづ )れの 糸 ( いと )よりぞたゞ 暮 ( ゆふべ )の 雨 ( あめ )、 裁 ( た )つことは 定 ( さだ )まれる 様 ( ためし )なし 春 ( はる )の 風 ( かぜ )に 任 ( まか )す、 織自何糸唯暮雨。 裁無定様任春風。 花開如散錦 菅原文時 はなとびてにしきのごとしいくぢようしやうぞ、 おるものははるのかぜいまだはこにたゝまず、 花 ( はな ) 飛 ( と )びて 錦 ( にしき )の 如 ( ごと )し 幾 ( いく ) 濃粧 ( ぢようしやう )ぞ、 織 ( お )るものは 春 ( はる )の 風 ( かぜ )いまだ 箱 ( はこ )に 畳 ( たゝ )まず、 花飛如錦幾濃粧。 織者春風未畳箱。 同題 源英明 はじめをしるはるのかぜのきじやうにたくみなることを、 たゞいろをおるのみにあらずふんはうをもおる、 始 ( はじ )めを 識 ( し )る 春 ( はる )の 風 ( かぜ )の 機上 ( きじやう )に 巧 ( たくみ )なることを、 たゞ 色 ( いろ )を 織 ( お )るのみにあらず 芬芳 ( ふんはう )をも 織 ( お )る、 始識春風機上巧。 非唯織色織芬芳。 同上 同 まなこはしよくぐんにまづしたちのこすにしき、 みゝはしんじやうにうみたりしらべつくすこと、 眼 ( まなこ )は 蜀郡 ( しよくぐん )に 貧 ( まづ )し 裁 ( た )ち 残 ( のこ )す 錦 ( にしき )、 耳 ( みゝ )は 秦城 ( しんじやう )に 倦 ( う )みたり 調 ( しら )べ 尽 ( つく )すこと、 眼貧蜀郡裁残錦。 耳倦秦城調尽箏。 花少鶯稀 源相規 古今 世の中にたえてさくらのなかりせば はるのこゝろはのどけからまし 在原業平 古今 わがやどのはな見がてらにくる人は ちりなん後ぞこひしかるべき 凡河内躬恒 古今 みてのみや人にかたらんやまざくら 手ごとにをりていへづとにせん 素性法師 落花 ( らくくわ ) らくくわものいはずむなしくきをじす、 りうすゐこゝろなくしておのづからいけにいる、 落花 ( らくくわ ) 語 ( ものい )はず 空 ( むな )しく 樹 ( き )を 辞 ( じ )す、 流水 ( りうすゐ ) 心無 ( こゝろな )くして 自 ( おのづか )ら 池 ( いけ )に 入 ( い )る 落花不語空辞樹。 流水無心自入池。 過元家履信宅 白居易 あしたにはらくくわをふみてあひともなひていで、 ゆふべにはひてうにしたがひていちじにかへる、 朝 ( あした )には 落花 ( らくくわ )を 踏 ( ふ )みて 相伴 ( あひともな )ひて 出 ( い )で、 暮 ( ゆふべ )には 飛鳥 ( ひてう )に 随 ( したが )ひて 一時 ( いちじ )に 帰 ( かへ )る、 朝踏落花相伴出。 暮随飛鳥一時帰。 春水頻与李二賓客同廊外同遊因贈長甸 同 はるのはなはめん 〳 〵にかんちやうしむしろにらんにふす、 くれのうぐひすはせい 〳 〵にかうしようのざによさんす、 春 ( はる )の 花 ( はな )は 面々 ( めん 〳 〵 )に 酣暢 ( かんちやう )し 筵 ( むしろ )に 闌入 ( らんにふ )す、 晩 ( くれ )の 鶯 ( うぐひす )は 声々 ( せい 〳 〵 )に 講誦 ( かうしよう )の 座 ( ざ )に 予参 ( よさん )す 春花面面闌入酣暢之筵。 晩鶯声声予参講誦之座。 春日侍前鎮西部督大王読史記序 大江朝綱 らくくわらうぜきたりかぜくるひてのち、 ていてうりようしようたりあめのうつとき、 落花 ( らくくわ ) 狼籍 ( らうぜき )たり 風 ( かぜ ) 狂 ( くる )ひて 後 ( のち ) 啼鳥 ( ていてう ) 龍鐘 ( りようしよう )たり 雨 ( あめ )の 打 ( う )つ 時 ( とき ) 落花狼籍風狂後。 啼鳥龍鐘雨打時。 惜残春 同 かくをはなるるほうのかけりはおばしまによりてまひ、 ろうをくだれるあいのそではきざはしをかへりみてひるがへる、 閤 ( かく )を 離 ( はな )るる 鳳 ( ほう )の 翔 ( かけり )は 檻 ( おばしま )に 憑 ( よ )りて 舞 ( ま )ひ、 楼 ( ろう )を 下 ( くだ )れる 娃 ( あい )の 袖 ( そで )は 階 ( きざはし )を 顧 ( かへり )みて 翻 ( ひるがへ )る、 離閤鳳翔憑檻舞。 下楼娃袖顧階翻。 落花還繞樹詩 菅原文時 拾遺 さくらちるこのしたかぜはさむからで そらにしられぬ雪ぞふりける 紀貫之 拾遺 とのもりのとものみやつここころあらば このはるばかり朝きよめすな 源公忠 躑躅 ( つつじ ) ばんずゐなほひらくこうてきちよく、 あきのはなぶさはじめてむすぶはくふよう、 晩蘂 ( ばんずい )なほ 開 ( ひら )く 紅躑躅 ( こうてきちよく )、 秋 ( あき )の 房 ( はなぶさ ) 初 ( はじ )めて 結 ( むす )ぶ 白芙蓉 ( はくふよう )、 晩蘂尚開紅躑躅。 秋房初結白芙蓉。 題元十八渓居 白居易 やいうのひとはたづねきたりてとらんとほつす、 かんしよくのいへにはまさにをりをえておどろくべし、 夜遊 ( やいう )の 人 ( ひと )は 尋 ( たづ )ね 来 ( きた )りて 把 ( と )らんと 欲 ( ほつ )す、 寒食 ( かんしよく )の 家 ( いへ )にはまさに 折 ( を )り 得 ( え )て 驚 ( おどろ )くべし、 夜遊人欲尋来把。 寒食家応折得驚。 山石榴艶似火 源順 古今 おもひいづるときはのやまのいはつつじ いはねばこそあれこひしきものを 平貞文 款冬 ( やまぶき ) しわうをてんちやくしててんにこゝろあり、 くわんどうあやまりてぼしゆんのかぜにほころぶ、 雌黄 ( しわう )を 点着 ( てんちやく )して 天 ( てん )に 意 ( こゝろ )あり、 款冬 ( くわんどう ) 誤 ( あやま )りて 暮春 ( ぼしゆん )の 風 ( かぜ )に 綻 ( ほころ )ぶ、 点着雌黄天有意。 款冬誤綻暮春風。 藤原実頼 しよさうにまきありてあひしうしふす、 せうしにぶんなくもいまだほうかうせず、 書窓 ( しよさう )に 巻 ( まき ) 有 ( あ )りて 相収拾 ( あひしうしふ )す、 詔紙 ( せうし )に 文 ( ぶん ) 無 ( な )くもいまだ 奉行 ( ほうかう )せず、 書窓有巻相収拾。 詔紙無文未奉行。 題花黄 慶滋保胤 新古今 かはづなく神なびがはに影みえて いまやさくらん山ぶきの花 厚見王 拾遺 わがやどのやへ山吹はひとへだに ちりのこらなむはるのかたみに 平兼盛 藤 ( ふぢ ) じおんにちやうばうすさんげつのつくることを、 しとうのはなおちてとりくわん 〳 〵たり、 慈恩 ( じおん )に 悵望 ( ちやうばう )す 三月 ( さんげつ )の 尽 ( つ )くることを、 紫藤 ( しとう ) 花 ( はな ) 落 ( お )ちて 鳥 ( とり ) 関々 ( くわん 〳 〵 )たり、 悵望慈恩三月尽。 紫藤花落鳥関関 酬元十八三月三十日慈恩寺見寄 白居易 しとうのつゆのそこざんくわのいろ、 すゐちくのけむりのなかぼてうのこゑ、 紫藤 ( しとう )の 露 ( つゆ ) 底 ( そこ ) 残花 ( ざんくわ )の 色 ( いろ )、 翠竹 ( すゐちく )の 煙 ( けむり )の 中 ( なか ) 暮鳥 ( ぼてう )の 声 ( こゑ ) 紫藤露底残花色。 翠竹煙中暮鳥声。 四月有余春詩 源相規 しじようはひとへにあけのころものいろをうばふ、 まさにこれはなのこゝろけんだいをわするべし、 紫茸 ( しじよう )は 偏 ( ひとへ )に 朱衣 ( あけのころも )の 色 ( いろ )を 奪 ( うば )ふ、 まさに 是 ( これ ) 花 ( はな )の 心 ( こゝろ ) 憲台 ( けんだい )を 忘 ( わす )るべし、 紫茸偏奪朱衣色、 応是花心忘憲台、 於御史中丞亭翫藤 源順 拾遺 たごのうらそこさへにほふふぢなみを かざしてゆかんみぬ人のため 柿本人麿 続古今 ときはなるまつのなたてにあやなくも かかれるふぢのさきてちるかな 紀貫之 夏 更衣 ( かうい ) かべにそむけるともしびはよべをふるほのほをのこし、 はこをひらけるころもはとしをへだつるにほひをおびたり、 壁 ( かべ )に 背 ( そむ )ける 燈 ( ともしび )は 宿 ( よべ )を 経 ( ふ )る 焔 ( ほのほ )を 残 ( のこ )し、 箱 ( はこ )を 開 ( ひら )ける 衣 ( ころも )は 年 ( とし )を 隔 ( へだ )つる 香 ( にほひ )を 帯 ( お )びたり、 背壁残燈経宿焔。 開箱衣帯隔年香。 早夏暁興 白居易 せいい(すゞしのきぬ)はかじんをまちてちやくせんとほつす、 しゆくぢやうはまさにいふらうをまねきてたのしむべし、 生衣 ( せいい・すゞしのきぬ )は 家人 ( かじん )を 待 ( ま )ちて 着 ( ちやく )せんと 欲 ( ほつ )す、 宿醸 ( しゆくぢやう )はまさに 邑老 ( いふらう )を 招 ( まね )きて 酣 ( たのしむ )べし、 生衣欲待家人着。 宿醸当招邑老酣。 讚州作 菅原道真 拾遺 はなの色にそめしたもとのをしければ ころもかへうきけふにもあるかな 源重之 首夏 ( しゆか ) もたひのほとりのちくえふははるをへてじゆくし、 はしのもとのしやうびはなつにいりてひらく、 甕 ( もたひ )の 頭 ( ほとり )の 竹葉 ( ちくえふ )は 春 ( はる )を 経 ( へ )て 熟 ( じゆく )し、 階 ( はし )の 底 ( もと )の 薔薇 ( しやうび )は 夏 ( なつ )に 入 ( い )りて 開 ( ひら )く、 甕頭竹葉経春熟。 階底薔薇入夏開。 薔薇正開春酒初熟 白居易 こけせきめんにしやうじてけいいみじかし、 はちすちしんよりいでてせうがいまばらなり、 苔 ( こけ ) 石面 ( せきめん )に 生 ( しやう )じて 軽衣 ( けいい ) 短 ( みじか )し、 荷 ( はちす ) 池心 ( ちしん )より 出 ( い )でて 小蓋 ( せうがい ) 疎 ( まばら )なり、 苔生石面軽衣短。 荷出池心小蓋疎。 首夏作 物部安興 拾遺 わがやどのかきねや春をへだつらん 夏きにけりとみゆるうのはな 源順 夏夜 ( なつのよ ) かぜこぼくふけばはれのそらのあめ、 つきのへいさをてらせばなつのよのしも、 風 ( かぜ ) 枯木 ( こぼく )を 吹 ( ふ )けば 晴 ( はれ )の 天 ( そら )の 雨 ( あめ )、 月 ( つき )の 平沙 ( へいさ )を 照 ( てら )せば 夏 ( なつ )の 夜 ( よ )の 霜 ( しも )、 風吹枯木晴天雨。 月照平沙夏夜霜。 江楼夕望 白居易 かぜたけになるよまどのあひだにふせり、 つきまつをてらすときにうてなのほとりにありく、 風 ( かぜ ) 竹 ( たけ )に 生 ( な )る 夜 ( よ ) 窓 ( まど )の 間 ( あひだ )に 臥 ( ふ )せり、 月 ( つき ) 松 ( まつ )を 照 ( てら )す 時 ( とき )に 台 ( うてな )の 上 ( ほとり )に 行 ( あり )く、 風生竹夜窓間臥。 月照松時台上行。 早夏独居 白居易 くうやまどはしづかなりほたるわたりてのち、 しんかうのきはしろしつきのあきらかなるはじめ、 空夜 ( くうや ) 窓 ( まど )は 閑 ( しづ )かなり 蛍 ( ほたる ) 度 ( わた )りて 後 ( のち )、 深更 ( しんかう ) 軒 ( のき )は 白 ( しろ )し 月 ( つき )の 明 ( あき )らかなる 初 ( はじめ )、 空夜窓閑蛍度後。 深更軒白月明初。 夜陰帰房 紀長谷雄 なつのよをねぬにあけぬといひおきし 人はものをやおもはざりけん 柿本人麿 家集 ほととぎすなくやさつきのみじかよも ひとりしぬればあかしかねつも 柿本人麿 古今 なつのよはふすかとすればほととぎす なくひとこゑにあくるしののめ 端午 ( たんご ) ときありてとにあたりてみをあやぶめてたてり、 こゝろなくしてこゑんにあしにまかせてゆかん、 時 ( とき ) 有 ( あ )りて 戸 ( と )に 当 ( あた )りて 身 ( み )を 危 ( あや )ぶめて 立 ( た )てり、 意 ( こゝろ ) 無 ( な )くして 故園 ( こゑん )に 脚 ( あし )に 任 ( まか )せて 行 ( ゆ )かん。 有時当戸危身立。 無意故園任脚行。 懸艾人 菅原道真 家集 わかこまとけふにあひくるあやめぐさ おひおくるるやまくるなるらん 大中臣頼基 拾遺 きのふまでよそにおもひしあやめぐさ けふわがやどのつまとみるかな 大中臣能宣 納涼 ( なふりやう ) せいたいのちのうへにざんうをけし、 りよくじゆのかげのまへにばんりやうをおふ、 青苔 ( せいたい )の 地 ( ち )の 上 ( うへ )に 残雨 ( ざんう )を 銷 ( け )し、 緑樹 ( りよくじゆ )の 陰 ( かげ )の 前 ( まへ )に 晩涼 ( ばんりやう )を 逐 ( お )ふ、 青苔地上銷残雨。 緑樹陰前逐晩涼。 地上逐涼 白居易 ろてんせいゑいとしてよをむかへてなめらかなり、 ふうきんせうさいとしてあきにさきだちてすずし、 露簟 ( ろてん ) 清瑩 ( せいゑい )として 夜 ( よ )を 迎 ( むか )へて 滑 ( なめ )らかなり、 風襟 ( ふうきん ) 蕭灑 ( せうさい )として 秋 ( あき )に 先 ( さき )だちて 涼 ( すゞ )し、 露簟清瑩迎夜滑。 風襟蕭灑先秋涼。 地上夜境 白居易 これぜんばうにねつのいたることなきあらず、 たゞよくこゝろしづかなればすなはちみもすゞし、 是 ( これ ) 禅房 ( ぜんばう )に 熱 ( ねつ )の 到 ( いた )ること 無 ( な )きあらず、 たゞ 能 ( よ )く 心 ( こゝろ ) 静 ( しづ )かなれば 即 ( すなは )ち 身 ( み )も 涼 ( すゞ )し、 不是禅房無熱到。 但能心静即身涼。 苦熱題桓寂禅師房 白居易 はんせふよがだんせつのあふぎ、がんふうにかはりてながくわすれたり、 えんのせうわうのせうりやうのたまも、さげつにあたりておのづからえたり、 班婕妤 ( はんせふよ )が 団雪 ( だんせつ )の 扇 ( あふぎ )、 岸風 ( がんふう )に 代 ( か )はりて 長 ( なが )く 忘 ( わす )れたり、 燕 ( えん )の 昭王 ( せうわう )の 招涼 ( せうりやう )の 珠 ( たま )も、 沙月 ( さげつ )に 当 ( あた )りて 自 ( おのづか )ら 得 ( え )たり、 班婕妤団雪之扇。 代岸風兮長忘。 燕昭王招涼之珠。 当沙月兮自得。 避暑対水石序 大江匡衡 ふしてはしんとりんすゐのしやうをみ、 ゆきてはこしふなふりやうのしをぎんず、 臥 ( ふ )しては 新図 ( しんと ) 臨水 ( りんすゐ )の 障 ( しやう )を 見 ( み )、 行 ( ゆ )きては 古集 ( こしふ ) 納涼 ( なふりやう )の 詩 ( し )を 吟 ( ぎん )ず、 臥見新図臨水障。 行吟古集納涼詩。 題納涼之画 菅原道真 いけひやゝかにしてみづにさんふくのなつなく、 まつたかくしてかぜにいつせいのあきあり、 池 ( いけ ) 冷 ( ひや )ゝかにして 水 ( みづ )に 三伏 ( さんふく )の 夏 ( なつ )なく、 松 ( まつ ) 高 ( たか )くして 風 ( かぜ )に 一声 ( いつせい )の 秋 ( あき )あり、 池冷水無三伏夏。 松高風有一声秋。 夏日閑避暑 源英明 古今 すずしやと草むらことにたちよれば あつさぞまさるとこなつのはな 紀貫之 新千載 したくぐる水にあきこそかよふらし むすぶいづみの手さへすずしき 中務 拾遺 まつかげのいは井の水をむすびあげて なつなきとしとおもひけるかな 恵慶法師 晩夏 ( ばんか ) ちくていかげあひてひとへになつによろし、 すゐかんかぜすゞしくしてあきをまたず、 竹亭 ( ちくてい ) 陰 ( かげ ) 合 ( あ )ひて 偏 ( ひとへ )に 夏 ( なつ )に 宜 ( よろ )し、 水檻 ( すゐかん ) 風 ( かぜ ) 涼 ( すゞ )しくして 秋 ( あき )を 待 ( ま )たず、 竹亭陰合偏宜夏。 水檻風涼不待秋。 夏日遊永安水亭 白居易 新古今 夏はつるあふぎとあきのしらつゆと いづれかさきにをかんとすらん 拾遺 ねぎごともきかずあらぶる神だにも けふはなごしのはらへなりけり 斎宮 橘花 ( はなたちばな ) ろきつみをたれてさんうおもく、 へいりよはそよぎてすゐふうすゞし、 盧橘 ( ろきつ ) 子 ( み )を 低 ( た )れて 山雨 ( さんう ) 重 ( おも )く、 栟櫚 ( へいりよ ) 葉 ( は ) 戦 ( そよ )ぎて 水風 ( すゐふう ) 涼 ( すゞ )し、 盧橘子低山雨重。 栟櫚葉戦水風涼。 西湖晩帰望孤山寺 白居易 えだにはきんれいをつなぐしゆんうののち、 はなはしゞやにくんずがいふうのほど、 枝 ( えだ )には 金鈴 ( きんれい )を 繋 ( つな )ぐ 春雨 ( しゆんう )の 後 ( のち )、 花 ( はな )は 紫麝 ( しゞや )に 薫 ( くん )ず 凱風 ( がいふう )の 程 ( ほど ) 枝繋金鈴春雨後。 花薫紫麝凱風程。 花橘詩 後中書王 古今 さつきまつはなたちばなのかをかげば むかしの人の袖のかぞする ほととぎすはなたちばなにかをとめて なくはむかしの人やこひしき 貫之 蓮 ( はちす ) ふうかのらうえふはせうでうとしてみどりなり、 すゐれうのざんくわはせきばくとしてくれなゐなり、 風荷 ( ふうか )の 老葉 ( らうえふ )は 蕭条 ( せうでう )として 緑 ( みどり )なり、 水蓼 ( すゐれう )の 残花 ( ざんくわ )は 寂寞 ( せきばく )として 紅 ( くれなゐ )なり、 風荷老葉蕭条緑。 水蓼残花寂寞紅。 県西郊秋寄贈馬造階下 白居易 はのびてかげはひるがへるみぎりにあたるつき、 はなひらきてかはさんじてすだれにいるかぜ、 葉 ( は ) 展 ( の )びて 影 ( かげ )は 翻 ( ひるがへ )る 砌 ( みぎり )に 当 ( あた )る 月 ( つき )、 花 ( はな ) 開 ( ひら )きて 香 ( か )は 散 ( さん )じて 簾 ( すだれ )に 入 ( い )る 風 ( かぜ )、葉展影翻当砌月。 花開香散入簾風。 階下蓮 白居易 けむりすゐせんをひらくせいふうのあかつき、 みづこういをうかぶはくろのあき、 煙 ( けむり ) 翠扇 ( すいせん )を 開 ( ひら )く 清風 ( せいふう )の 暁 ( あかつき )、 水 ( みづ ) 紅衣 ( こうい )を 泛 ( うか )ぶ 白露 ( はくろ )の 秋 ( あき )、 煙開翠扇清風暁。 水泛紅衣白露秋。 題雲陽駅亭蓮 許渾 がんちくえだたれたりまさにとりのやどとなるべく、 たんかはうごくこれうをのあそぶならん、 岸竹 ( がんちく ) 枝 ( えだ ) 低 ( た )れたりまさに 鳥 ( とり )の 宿 ( やどり )となるべく、 潭荷 ( たんか ) 葉 ( は ) 動 ( うご )くこれ 魚 ( うを )の 遊 ( あそ )ぶならん、 岸竹枝低応鳥宿。 潭荷葉動是魚遊。 池亭晩望 紀在昌 なにによりてかさらにござんのくまをもとめん、 すなはちこれわがきみのざかのはななればなり、 何 ( なに )に 縁 ( よ )りてか 更 ( さら )に 呉山 ( ござん )の 曲 ( くま )に 覓 ( もと )めん、 便 ( すなは )ちこれ 吾 ( わ )が 君 ( きみ )の 座下 ( ざか )の 花 ( はな )なればなり、 縁何更覓呉山曲。 便是吾君座下花。 亭子院法皇御賀呉山千葉蓮華屏風詩 醍醐帝御製 きやうにはだいもくたりほとけにはまなこたり、 しりぬなんぢがはなのなかにぜんこんをうゑたることを、 経 ( きやう )には 題目 ( だいもく )たり 仏 ( ほとけ )には 眼 ( まなこ )たり、 知 ( し )りぬ 汝 ( なんぢ )が 花 ( はな )の 中 ( なか )に 善根 ( ぜんこん )を 植 ( う )ゑたることを、 経為題目仏為眼。 知汝花中植善根。 石山寺池蓮 源為憲 古今 はちす葉のにごりにしまぬこころもて なにかは露をたまとあざむく 郭公 ( ほとゝぎす ) いつせいのさんてうはしようんのほか、 ばんてんのすゐけいはしうさうのうち、 一声 ( いつせい )の 山鳥 ( さんてう )は 曙雲 ( しようん )の 外 ( ほか )、 万点 ( ばんてん )の 水蛍 ( すゐけい )は 秋草 ( しうさう )の 中 ( うち )、 一声山鳥曙雲外。 万点水蛍秋草中。 題発幽居将尋同志 許渾 新後拾遺 さつきやみおぼつかなきをほととぎす なくなるこゑのいとどはるけき 明日香皇子 拾遺 ゆきやらで山路くらしつほととぎす いまひとこゑのきかまほしさに 源公忠 拾遺 さよふけてねざめざりせばほととぎす 人づてにこそきくべかりけれ 壬生忠見 蛍 ( ほたる ) けいくわみだれとびてあきすでにちかし、 しんせいはやくかくれてよるはじめてながし、 蛍火 ( けいくわ ) 乱 ( みだ )れ 飛 ( と )びて 秋 ( あき ) 已 ( すで )に 近 ( ちか )し、 辰星 ( しんせい ) 早 ( はや )く 没 ( かく )れて 夜 ( よる ) 初 ( はじ )めて 長 ( なが )し、 蛍火乱飛秋已近。 辰星早没夜初長。 夜座 元稹 けんかみづくらくしてほたるよをしる、 やうりうかぜたかくしてがんあきをおくる、 蒹葭 ( けんか ) 水 ( みづ ) 暗 ( くら )くして 蛍 ( ほたる ) 夜 ( よる )を 知 ( し )る、 楊柳 ( やうりう ) 風 ( かぜ ) 高 ( たか )くして 雁 ( がん ) 秋 ( あき )を 送 ( おく )る、 蒹葭水暗蛍知夜。 楊柳風高鴈送秋。 常州留与楊給事 許渾 めい 〳 〵としてなほあり、たれかつきのひかりををくぢやうにおはんや、 かう 〳 〵としてきえず、あにせつぺんをしやうとうにつまんや、 明々 ( めい 〳 〵 )としてなほ 在 ( あ )り、 誰 ( たれ )か 月 ( つき )の 光 ( ひかり )を 屋上 ( をくぢやう )に 追 ( お )はんや、 皓々 ( かう 〳 〵 )として 消 ( き )えず、あに 雪片 ( せつぺん )を 床頭 ( しやうとう )に 積 ( つ )まんや。 明明仍在。 誰追月光於屋上。 皓皓不消。 豈積雪片於床頭。 秋蛍照帙賦 紀長谷雄 さんきやうのまきのうちにはくきをすぐるかとうたがふ、 かいふのへんのなかにはながれにやどるににたり、 山経 ( さんきやう )の 巻 ( まき )の 裏 ( うち )には 岫 ( くき )を 過 ( す )ぐるかと 疑 ( うたが )ふ、 海賦 ( かいふ )の 篇 ( へん )の 中 ( なか )には 流 ( ながれ )に 宿 ( やど )るに 似 ( に )たり、 山経巻裏疑過岫。 海賦篇中似宿流。 同題 橘直幹 新勅撰 草ふかきあれたるやどのともし火の 風にきえぬはほたるなりけり 山部赤人 後撰 つつめどもかくれぬものはなつむしの 身よりあまれるおもひなりけり 蝉 ( せみ ) ちゝたるはるのひに、たまのいしだゝみあたゝかにしてをんせんみてり、 でう 〳 〵たるあきのかぜに、やまのせみなきてきゆうじゆくれなゐなり、 遅々 ( ちゝ )たる 春 ( はる )の 日 ( ひ )に、 玉 ( たま )の 甃 ( いしだゝみ ) 暖 ( あたゝ )かにして 温泉 ( をんせん ) 溢 ( み )てり、 嫋々 ( でう 〳 〵 )たる 秋 ( あき )の 風 ( かぜ )に、 山 ( やま )の 蝉 ( せみ ) 鳴 ( な )きて 宮樹 ( きゆうじゆ ) 紅 ( くれなゐ )なり、 遅遅兮春日。 玉甃暖兮温泉溢。 嫋嫋兮秋風。 山蝉鳴兮宮樹紅。 驪山宮賦 白居易 せんほうのとりのみちはばいうをふくみ、 ごげつのせみのこゑはばくしうをおくる、 千峯 ( せんほう )の 鳥 ( とり )の 路 ( みち )は 梅雨 ( ばいう )を 含 ( ふく )み、 五月 ( ごげつ )の 蝉 ( せみ )の 声 ( こゑ )は 麦秋 ( ばくしう )を 送 ( おく )る、 千峯鳥路含梅雨。 五月蝉声送麦秋。 発青滋店至長安西渡江 李嘉祐 とりはりよくぶにおりてしんひんしづかなり、 せみはくわうえふになきてかんきゆうあきなり、 鳥 ( とり )は 緑蕪 ( りよくぶ )に 下 ( お )りて 秦苑 ( しんひん ) 静 ( しづ )かなり、 蝉 ( せみ )は 黄葉 ( くわうえふ )に 鳴 ( な )きて 漢宮 ( かんきゆう ) 秋 ( あき )なり、 鳥下緑蕪秦苑静。 蝉鳴黄葉漢宮秋。 題咸陽城東棲 許渾 こんねんはつねよりもことなりてはらはたまづたつ、 これせみのかなしきのみにあらずきやくのこゝろかなしきなり、 今年 ( こんねん )は 例 ( つね )よりも 異 ( こと )なりて 腸 ( はらはた ) 先 ( ま )づ 断 ( た )つ、 これ 蝉 ( せみ )の 悲 ( かな )しきのみにあらず 客 ( きやく )の 意 ( こゝろ ) 悲 ( かな )しきなり、 今年異例腸先断。 不是蝉悲客意悲。 聞新蝉 菅原道真 としさりとしきたりてきけどもへんぜず、 いふことなかれあきののちにつひにくうとならんと、 歳 ( とし ) 去 ( さ )り 歳 ( とし ) 来 ( きた )りて 聴 ( き )けども 変 ( へん )ぜず、 言 ( い )ふことなかれ 秋 ( あき )の 後 ( のち )に 遂 ( つひ )に 空 ( くう )と 為 ( な )らんと、 歳去歳来聴不変。 莫言秋後遂為空。 吟初蝉 紀納言 なつ山のみねのこずゑのたかければ 空にぞせみのこゑはきこゆる 後撰 これをみよ人もとがめぬこひすとて ねをなくむしのなれるすがたを 源重光 扇 ( あふぎ ) せいかにきえざるゆき、としををふるまでつくることなきかぜ、 あきをひきてしゆりにしやうず、つきをざうしてくわいちゆうにいる、 盛夏 ( せいか )に 消 ( き )えざる 雪 ( ゆき )、 年 ( とし )を 終 ( を )ふるまで 尽 ( つ )くること 無 ( な )き 風 ( かぜ )、 秋 ( あき )を 引 ( ひ )きて 手裏 ( しゆり )に 生 ( しやう )ず、 月 ( つき )を 蔵 ( ぞう )して 懐中 ( くわいちゆう )に 入 ( い )る、 盛夏不消雪。 終年無尽風。 引秋生手裏。 蔵月入懐中。 白羽扇 白居易 きせずやろうのはじめてわかるゝのち、 たゞもてあそぶしうふういまだいたらざるさき、 期 ( き )せず 夜漏 ( やろう )の 初 ( はじ )めて 分 ( わか )るゝ 後 ( のち )、 唯 ( たゞ ) 翫 ( もてあそ )ぶ 秋風 ( しうふう )いまだ 到 ( いた )らざる 前 ( さき )、 不期夜漏初分後。 唯翫秋風未到前。 軽扇動明月 菅原文時 拾遺 あまの川川瀬すずしきたなばたに あふぎのかぜをなほやかさまし 中務 拾遺 天の川あふぎのかぜにきりはれて そらすみわたるかささぎのはし 清原元輔 家集 君がてにまかするあきのかぜなれば なびかぬくさもあらじとぞおもふ 中務 秋 立秋 ( りつしう ) せうさつたるりやうふうとすゐびんと、 たれかけいくわいをしていちじにあきならしむる。 蕭颯 ( せうさつ )たる 涼風 ( りやうふう )と 悴鬢 ( すゐびん )と、 誰 ( たれ )か 計会 ( けいくわい )をして 一時 ( いちじ )に 秋 ( あき )ならしむる。 蕭颯涼風与悴鬢。 誰教計会一時秋。 立秋日登楽遊園 白居易 にはとりやうやくさんずるあひだあきのいろすくなし、 こひのつねにはしるところばんのこゑかすかなり、 鶏 ( にはとり ) 漸 ( やうや )く 散 ( さん )ずる 間 ( あひだ ) 秋 ( あき )の 色 ( いろ ) 少 ( すくな )し、 鯉 ( こひ )の 常 ( つね )に 趨 ( はし )る 処 ( ところ ) 晩 ( ばん )の 声 ( こゑ ) 微 ( かす )かなり、 鶏漸散間秋色少。 鯉常趨処晩声微。 於菅師匠旧亭賦一葉落庭時詩 慶滋保胤 古今 あききぬとめにはさやかにみえねども かぜのおとにぞおどろかれぬる 藤原敏行 後撰 うちつけにものぞかなしきこの葉ちる あきのはじめをけふとおもへば 大中臣能宣 早秋 ( さうしう ) たゞしよのさんぷくにしたがひてさることをよろこぶ、 あきのにまうをおくりきたることをしらず 但 ( たゞ ) 暑 ( しよ )の 三伏 ( さんぷく )に 随 ( したが )ひて 去 ( さ )ることを 喜 ( よろこ )ぶ、 秋 ( あき )の 二毛 ( にまう )を 送 ( おく )り 来 ( きた )ることを 知 ( し )らず 但喜暑随三伏去。 不知秋送二毛来。 早秋答蘇六 白居易 くわいくわあめにうるほふしんしうのち、 とうえふかぜすゞしよるならんとほつするてん、 槐花 ( くわいくわ ) 雨 ( あめ )に 潤 ( うるほ )ふ 新秋 ( しんしう )の 地 ( ち )、 桐葉 ( とうえふ ) 風 ( かぜ ) 涼 ( すゞ )し 夜 ( よる )ならんと 欲 ( ほつ )する 天 ( てん )、 槐花雨潤新秋地。 桐葉風涼欲夜天。 秘省後聴 白居易 えんけいあまつさへのこりてころもなほおもし、 ばんりやうひそかにいたりてたかむしろまづしる、 炎景 ( えんけい ) 剰 ( あまつ )さへ 残 ( のこ )りて 衣 ( ころも )なほ 重 ( おも )し、 晩涼 ( ばんりやう ) 潜 ( ひそ )かに 到 ( いた )りて 簟 ( たかむしろ ) 先 ( ま )づ 知 ( し )る、 炎景剰残衣尚重。 晩涼潜到簟先知。 立秋後作 紀長谷雄 万葉 あきたちていくかもあらねどこのねぬる あさけのかぜはたもとすずしも 安貴王 七夕 ( しちせき ) おもひえたりせうねんのながくきつかうすることを、 ちくかんのとうしやうにげんしおほし、 憶 ( おも )ひ 得 ( え )たり 少年 ( せうねん )の 長 ( なが )く 乞巧 ( きつかう )することを、 竹竿 ( ちくかん )の 頭上 ( とうしやう )に 願糸 ( げんし ) 多 ( おほ )し、 憶得少年長乞巧。 竹竿頭上願糸多。 七夕 白居易 にせいたまたまあひて、いまだべつしよのいいたるうらみをのべず、 ごやまさにあけなんとして、しきりにりやうふうのさつさつたるこゑにおどろく 二星 ( にせい )たまたま 逢 ( あ )ひて、いまだ 別緒 ( べつしよ )の 依々 ( いい )たる 恨 ( うら )みを 叙 ( の )べず、 五夜 ( ごや )まさに 明 ( あ )けなんとして、 頻 ( しきり )に 涼風 ( りやうふう )の 颯々 ( さつさつ )たる 声 ( こゑ )に 驚 ( おどろ )く 二星適逢。 未叙別緒依依之恨。 五夜将明。 頻驚涼風颯颯之声。 代牛女惜暁更詩序 小野美材 つゆはまさにわかれのなみだなるべしたまむなしくおつ、 くもはこれざんしやうならんもとゞりいまだならず、 露 ( つゆ )はまさに 別 ( わか )れの 涙 ( なみだ )なるべし 珠 ( たま ) 空 ( むな )しく 落 ( お )つ、 雲 ( くも )はこれ 残粧 ( ざんしやう )ならん 鬟 ( もとゞり )いまだ 成 ( な )らず、 露応別涙珠空落。 雲是残粧鬟未成。 代牛女惜暁更 菅原道真 かぜはさくやよりこゑいよいようらむ、 つゆはみやうてうにおよびてなみだきんぜず、 風 ( かぜ )は 昨夜 ( さくや )より 声 ( こゑ )いよいよ 怨 ( うら )む、 露 ( つゆ )は 明朝 ( みやうてう )に 及 ( およ )びて 涙 ( なみだ ) 禁 ( きん )ぜず、 風従昨夜声弥怨。 露及明朝涙不禁。 代牛女惜暁 大江綱朝 きよいなみにひきてかすみうるほふべし、 かうしよくながれにひたりてつききえなんとほつす、 去衣 ( きよい ) 浪 ( なみ )に 曳 ( ひ )きて 霞 ( かすみ ) 湿 ( うるほ )ふべし、 行燭 ( かうしよく ) 流 ( なが )れに 浸 ( ひた )りて 月 ( つき ) 消 ( き )えなんと 欲 ( ほつ )す、 去衣曳浪霞応湿。 行燭浸流月欲消。 七夕含媚渡河橋詩 菅原文時 ことばはびはにたくしかつやるといへども、 こゝろはへんげつをきしなかだちとせんとほつす、 詞 ( ことば )は 微波 ( びは )に 託 ( たく )しかつ 遣 ( や )るといへども、 心 ( こゝろ )は 片月 ( へんげつ )を 期 ( き )し 媒 ( なかだち )とせんと 欲 ( ほつ )す、 詞託微波雖且遣。 心期片月欲為媒。 代牛女侍夜 菅原輔昭 後撰 あまの川とほきわたりにあらねども きみがふなではとしにこそまて 柿本人丸 拾遺 ひととせにひとよとおもへどたなばたの あひみるあきのかぎりなきかな 紀貫之 拾遺 としごとにあふとはすれどたなばたの ぬるよのかずぞすくなかりける 凡河内躬恒 秋興 ( しうきよう ) りんかんにさけをあたゝめてこうえふをたき、 せきじやうにしをだいしてりよくたいをはらふ、 林間 ( りんかん )に 酒 ( さけ )を 煖 ( あたゝ )めて 紅葉 ( こうえふ )を 焼 ( た )き、 石上 ( せきじやう )に 詩 ( し )を 題 ( だい )して 緑苔 ( りよくたい )を 掃 ( はら )ふ、 林間煖酒焼紅葉。 石上題詩掃緑苔。 題仙遊寺 白居易 そしべうばうとしてうんすいひややかなり、 しやうせいせいぜいとしてくわんげんあきなり、 楚思 ( そし ) 眇茫 ( べうばう )として 雲水 ( うんすい ) 冷 ( ひややか )なり、 商声 ( しやうせい ) 清脆 ( せいぜい )として 管絃 ( くわんげん ) 秋 ( あき )なり、 楚思眇茫雲水冷。 商声清脆管絃秋。 於黄鶴楼宴罷望 白居易 おほむねしゞこゝろすべてくるし、 なかにつきてはらわたたゆるはこれあきのそら 大抵 ( おほむね ) 四時 ( しゞ ) 心 ( こゝろ ) 惣 ( す )べて 苦 ( くる )し、 就中 ( なかにつきて ) 腸 ( はらわた ) 断 ( た )ゆるはこれ 秋 ( あき )の 天 ( そら )。 大抵四時心惣苦。 就中腸断是秋天。 暮立 白居易 もののいろはおのづからかくのこゝろをいたましむるにたへたり、 むべなりうれへのじをもつてあきのこゝろとつくれること 物 ( もの )の 色 ( いろ )は 自 ( おのづか )ら 客 ( かく )の 意 ( こゝろ )を 傷 ( いた )ましむるに 堪 ( た )へたり、 むべなり 愁 ( うれ )への 字 ( じ )をもつて 秋 ( あき )の 心 ( こゝろ )と 作 ( つく )れること 物色自堪傷客意。 宜将愁字作秋心。 客舎秋情 小野篁 もとよりおもひをかんずることはあきのそらにあり、 おほくたうじのせつぶつにひかれたり もとより 思 ( おも )ひを 感 ( かん )ずることは 秋 ( あき )の 天 ( そら )に 在 ( あ )り、 多 ( おほ )く 当時 ( たうじ )の 節物 ( せつぶつ )に 牽 ( ひ )かれたり 由来感思在秋天。 多被当時節物牽。 秋日感懐 島田忠臣 だいゝちこゝろをいたむることはいづれのところかもつともなる、 ちくふうはをならすつきのあきらかなるまへ、 第一 ( だいゝち ) 心 ( こゝろ )を 傷 ( いた )むることは 何 ( いづ )れの 処 ( ところ )か 最 ( もつと )もなる、 竹風 ( ちくふう ) 葉 ( は )を 鳴 ( な )らす 月 ( つき )の 明 ( あき )らかなる 前 ( まへ )、 第一傷心何処最。 竹風鳴葉月明前。 同 島田忠臣 しよくちややうやくふくわのあぢはひをわすれ、 それんはあらたにゆきをうつこゑをつたふ 蜀茶 ( しよくちや ) 漸 ( やうや )く 浮花 ( ふくわ )の 味 ( あぢは )ひを 忘 ( わす )れ、 楚練 ( それん )は 新 ( あら )たに 雪 ( ゆき )を 擣 ( う )つ 声 ( こゑ )を 伝 ( つた )ふ。 蜀茶漸忘浮花味。 楚練新伝擣雪声。 暑往寒来詩 大江音人或源相規 新拾遺 うづらなくいはれののべのあき萩を おもふ人ともみつるけふかな 丹後国人 秋 ( あき )はなほゆふまぐれこそたゞならね をぎのうはかぜはぎのした露 藤原義孝 秋晩 ( しうばん ) あひおもひてゆふべにしようだいにのぼりてたてば、 きり 〳 〵すのおもひせみのこゑみゝにみてるあきなり 相思 ( あひおも )ひて 夕 ( ゆふべ )に 松台 ( しようだい )に 上 ( のぼ )りて 立 ( た )てば、 蛬 ( きり 〳 〵す )の 思 ( おも )ひ 蝉 ( せみ )の 声 ( こゑ ) 耳 ( みゝ )に 満 ( み )てる 秋 ( あき )なり 相思夕上松台立。 蛬思蝉声満耳秋。 題李十一東亭 白居易 やまをのぞめばゆうげつなほかげをかくせり、 みぎりにきけばひせんうたゝこゑをます、 山 ( やま )を 望 ( のぞ )めば 幽月 ( ゆうげつ )なほ 影 ( かげ )を 蔵 ( かく )せり、 砌 ( みぎり )に 聴 ( き )けば 飛泉 ( ひせん )うたゝ 声 ( こゑ )を 倍 ( ま )す、 望山幽月猶蔵影。 聴砌飛泉転倍声。 法輪寺口号 菅原文時 新古今 をぐらやまふもとののべのはなすすき ほのかにみゆるあきの夕ぐれ 紀貫之 秋夜 ( しうや ) あきのよはながし、よながくしてねむることなければてんもあけず、 かうかうたるのこりのともしびかべにそむけるかげ、 せう 〳 〵たるよるのあめはまどをうつこゑあり、 秋 ( あき )の 夜 ( よ )は 長 ( なが )し、 夜 ( よ ) 長 ( なが )くして 睡 ( ねむ )ることなければ 天 ( てん )も 明 ( あ )けず、 耿々 ( かうかう )たる 残 ( のこ )りの 燈 ( ともしび ) 壁 ( かべ )に 背 ( そむ )ける 影 ( かげ )、 蕭々 ( せう 〳 〵 )たる 暗 ( よる )の 雨 ( あめ )は 窓 ( まど )を 打 ( う )つ 声 ( こゑ )あり、 秋夜長。 夜長無睡天不明。 耿耿残燈背壁影。 蕭蕭暗雨打窓声。 上陽白髪人 白居易 ちちたるしようろうはじめてながきよ、 かうかうたるせいかあけなんとほつするてん 遅々 ( ちち )たる 鐘漏 ( しようろう ) 初 ( はじ )めて 長 ( なが )き 夜 ( よ )、 耿々 ( かうかう )たる 星河 ( せいか ) 曙 ( あ )けなんと 欲 ( ほつ )する 天 ( てん )。 遅遅鐘漏初長夜。 耿耿星河欲曙天。 長恨歌 白居易 えんしろうのうちさうげつのよ、 あききたりてはたゞいちにんのためにながし、 燕子楼 ( えんしろう )の 中 ( うち ) 霜月 ( さうげつ )の 夜 ( よ )、 秋 ( あき ) 来 ( きた )りてはたゞ 一人 ( いちにん )のために 長 ( なが )し、 燕子楼中霜月夜。 秋来只為一人長。 燕子楼 白居易 まんさうつゆふかしひとしづまりてのち、 よもすがらくもつきぬつきのあきらかなるまへ、 蔓草 ( まんさう ) 露 ( つゆ ) 深 ( ふか )し 人 ( ひと ) 定 ( しづ )まりて 後 ( のち )、 終宵 ( よもすがら ) 雲 ( くも ) 尽 ( つ )きぬ 月 ( つき )の 明 ( あき )らかなる 前 ( まへ )、 蔓草露深人定後。 終霄雲尽月明前。 秋夜詣祖廟詩 小野篁 けんかしうのうちのこしうのゆめ、 ゆりうえいのほとりばんりのこゝろ、 蒹葭州 ( けんかしう )の 裏 ( うち )の 孤舟 ( こしう )の 夢 ( ゆめ )、 楡柳営 ( ゆりうえい )の 頭 ( ほとり ) 万里 ( ばんり )の 心 ( こゝろ )、 蒹葭州裏孤舟夢。 楡柳営頭万里心。 秋夜雨 紀斎名 拾遺 あしびきのやまどりのをのしだりをの なが 〳 〵しよをひとりかもねん 柿本人丸 古今 むつごともまだつきなくにあけにけり いづらはあきのながしてふよは 凡河内躬恒 八月十五夜 ( はちぐわつじふごや ) 付月 しんてんのいつせんより、りん 〳 〵としてこほりしけり、 かんかのさんじふろくきう、ちようちようとしてふんをかざれり、 秦甸 ( しんてん )の 一千余里 ( いつせんより )、 凛々 ( りん 〳 〵 )として 氷 ( こほり ) 鋪 ( し )けり、 漢家 ( かんか )の 三十六宮 ( さんじふろくきう )、 澄澄 ( ちようちよう )として 粉 ( ふん )を 餝 ( かざ )れり、 秦甸之一千余里。 凛凜氷鋪。 漢家之三十六宮。 澄澄粉餝。 長安十五夜人賦 公乗億 にしきをおるはたのうちにすでにさうしのじをわきまへ、 ころもをうつきぬたのうへににはかにえんべつのこゑをそふ、 錦 ( にしき )を 織 ( お )る 機 ( はた )の 中 ( うち )にすでに 相思 ( さうし )の 字 ( じ )を 弁 ( わきま )へ、 衣 ( ころも )を 擣 ( う )つ 砧 ( きぬた )の 上 ( うへ )に 俄 ( にはか )に 怨別 ( えんべつ )の 声 ( こゑ )を 添 ( そ )ふ、 織錦機中已弁相思之字。 擣衣砧上俄添怨別之声。 同上 公乗億 さんごやちうのしんげつのいろ、 にせんりのほかのこじんのこころ、 三五夜中 ( さんごやちう )の 新月 ( しんげつ )の 色 ( いろ )、 二千里 ( にせんり )の 外 ( ほか )の 故人 ( こじん )の 心 ( こころ )、 三五夜中新月色。 二千里外故人心。 八月十五日夜禁中猶直対月憶元九 白居易 すうざんのへうりせんちやうのゆき、 らくすゐのかうていりやうくわのたま 嵩山 ( すうざん )の 表裏 ( へうり ) 千重 ( せんちやう )の 雪 ( ゆき )、 洛水 ( らくすゐ )の 高低 ( かうてい ) 両顆 ( りやうくわ )の 珠 ( たま ) 嵩山表裏千重雪。 洛水高低両顆珠。 八月十五日夜翫月 同 じふにくわいのうちにこのゆふべのよきにまさるはなし、 せんまんりのほかにみなわがいへのひかりをあらそふ 十二廻 ( じふにくわい )の 中 ( うち )にこの 夕 ( ゆふべ )の 好 ( よ )きに 勝 ( まさ )るは 無 ( な )し、 千万里 ( せんまんり )の 外 ( ほか )に 皆 ( みな )わが 家 ( いへ )の 光 ( ひかり )を 争 ( あらそ )ふ 十二廻中無勝於此夕之好。 千万里外皆争於吾家之光。 天高秋月明房 紀長谷雄 へきらうきんぱはさんごのはじめ、 あきのかぜけいくわいしてくうきよににたり 碧浪 ( へきらう ) 金波 ( きんぱ )は 三五 ( さんご )の 初 ( はじめ )、 秋 ( あき )の 風 ( かぜ ) 計会 ( けいくわい )して 空虚 ( くうきよ )に 似 ( に )たり。 碧浪金波三五初。 秋風計会似空虚。 月影満秋池詩 菅原淳茂 みづからうたがふかえふはしもをこらしてはやきことを、 ひとはいふろくわのあめをすごしてあまれるかと、 自 ( みづか )ら 疑 ( うたが )ふ 荷葉 ( かえふ )は 霜 ( しも )を 凝 ( こ )らして 早 ( はや )きことを、 人 ( ひと )は 道 ( い )ふ 蘆花 ( ろくわ )の 雨 ( あめ )を 過 ( す )ごして 余 ( あま )れるかと、 自疑荷葉凝霜早。 人道蘆花遇雨余。 同 同 きししろくかへりてしようじやうのつるにまよひ、 ふちとほりてはさうちうのうををかぞふべし、 岸 ( きし ) 白 ( しろ )く 還 ( かへ )りて 松上 ( しようじやう )の 鶴 ( つる )に 迷 ( まよ )ひ、 潭 ( ふち ) 融 ( とほ )りては 藻中 ( さうちう )の 魚 ( うを )を 算 ( かぞ )ふべし、 岸白還迷松上鶴。 潭融可弄藻中魚。 同 同 えうちはすなはちこれよのつねのな、 このよのせいめいはたまもしかじ 瑶池 ( えうち )はすなはちこれ 尋常 ( よのつね )の 号 ( な )、 此夜 ( このよ )の 清明 ( せいめい )は 玉 ( たま )も 如 ( し )かじ 瑶池便是尋常号。 此夜清明玉不如。 同 同 きんかういつてきしうふうのつゆ、 ぎよくかうさんかうれいかんのくも、 金膏 ( きんかう ) 一滴 ( いつてき ) 秋風 ( しうふう )の 露 ( つゆ )、 玉匣 ( ぎよくかう ) 三更 ( さんかう ) 冷漢 ( れいかん )の 雲 ( くも )、 金膏一滴秋風露。 玉匣三更冷漢雲。 満月明如鏡 菅原文時 やうきひかへりてたうていのおもひ、 りふじんさりてかんわうのこゝろ、 楊貴妃 ( やうきひ ) 帰 ( かへ )りて 唐帝 ( たうてい )の 思 ( おもひ )、 李夫人 ( りふじん ) 去 ( さ )りて 漢皇 ( かんわう )の 情 ( こゝろ )、 楊貴妃帰唐帝思。 李夫人去漢皇情。 対雨恋月 源順 拾遺 みづのおもにてる月なみをかぞふれば こよひぞあきのもなかなりける 源順 月 ( つき ) たれびとかろうぐわいにひさしくせいじうする、 いづれのところのていぜんにかあらたにべつりする、 誰人 ( たれびと )か 隴外 ( ろうぐわい )に 久 ( ひさ )しく 征戍 ( せいじう )する、 何 ( いづ )れの 処 ( ところ )の 庭前 ( ていぜん )にか 新 ( あら )たに 別離 ( べつり )する、 誰人隴外久征戍。 何処庭前新別離。 秋月 白居易 あきのみづみなぎりきたりてふねのさることすみやかなり、 よるのくもをさまりつくしてつきのゆくことおそし、 秋 ( あき )の 水 ( みづ ) 漲 ( みなぎ )り 来 ( きた )りて 船 ( ふね )の 去 ( さ )ること 速 ( すみや )かなり、 夜 ( よる )の 雲 ( くも ) 収 ( をさ )まり 尽 ( つ )くして 月 ( つき )の 行 ( ゆ )くこと 遅 ( おそ )し、 秋水漲来船去速。 夜雲収尽月行遅。 汴水東帰即事 郢展 きんちうにゑはざればいかでかさることをゑん、 まゐざんのつきはまさにさう 〳 〵たり、 黔中 ( きんちう )に 酔 ( ゑ )はざればいかでか 去 ( さ )ることを 得 ( ゑ )ん、 磨囲山 ( まゐざん )の 月 ( つき )は 正 ( まさ )に 蒼々 ( さう 〳 〵 )たり、 不酔黔中争去得。 磨囲山月正蒼々。 送蕭処士遊黔南 白居易 てんさんにわきまへずいづれのとしのゆきぞ、 がふほにはまさにまよひぬべしきうじつのたまに、 天山 ( てんさん )に 弁 ( わきま )へず 何 ( いづ )れの 年 ( とし )の 雪 ( ゆき )ぞ、 合浦 ( がふほ )にはまさに 迷 ( まよ )ひぬべし 旧日 ( きうじつ )の 珠 ( たま )に、 天山不弁何年雪。 合浦応迷旧日珠。 禁庭翫月 三統理平 ほうれいのかねのこゑにくわせんとほつするやいなや、 それくわていのつるのいましめをいかん、 豊嶺 ( ほうれい )の 鐘 ( かね )の 声 ( こゑ )に 和 ( くわ )せんと 欲 ( ほつ )するや 否 ( いな )や、 それ 華亭 ( くわてい )の 鶴 ( つる )の 警 ( いまし )めを 奈何 ( いかん )、 欲和豊嶺鐘声否。 其奈華亭鶴警何。 夜月似秋霜 兼明親王 きやうるゐすうかうせいじうのきやく、 たうかいつきよくてうぎよのおきな 郷涙 ( きやうるゐ ) 数行 ( すうかう ) 征戍 ( せいじう )の 客 ( きやく )、 棹歌 ( たうか ) 一曲 ( いつきよく ) 釣漁 ( てうぎよ )の 翁 ( おきな ) 郷涙数行征戍客。 棹歌一曲釣漁翁。 山川千里月 慶滋保胤 古今 あまのはらふりさけみればかすがなる みかさの山にいでし月かも 安倍仲満 古今 しら雲にはねうちかはしとぶかりの かずさへみゆるあきのよの月 凡河内躬恒 拾遺 世にふればものおもふとしはなけれども 月にいくたびながめしつらん 具平親王 九日 ( ここのか ) 付菊 つばめはしやじつをしりてすをじしさる、 きくはちようやうのためにあめをおかしてひらく、 燕 ( つばめ )は 社日 ( しやじつ )を 知 ( し )りて 巣 ( す )を 辞 ( じ )し 去 ( さ )る、 菊 ( きく )は 重陽 ( ちようやう )のために 雨 ( あめ )を 冒 ( おか )して 開 ( ひら )く、 燕知社日辞巣去。 菊為重陽冒雨開。 秋日東郊作 皇甫冉 こじをかんぶにとれば、 すなはちせきゆをきうじんのころもにさしはさむ、 きうせきをぎぶんにたづぬれば、 またくわうくわはうそがじゆつをたすく 故事 ( こじ )を 漢武 ( かんぶ )に 採 ( と )れば、 すなはち 赤萸 ( せきゆ )を 宮人 ( きうじん )の 衣 ( ころも )に 挿 ( さしはさ )む、 旧跡 ( きうせき )を 魏文 ( ぎぶん )に 尋 ( たづ )ぬれば、 また 黄花 ( くわうくわ ) 彭祖 ( はうそ )が 術 ( じゆつ )を 助 ( たす )く 採故事於漢武。 則赤萸挿宮人之衣。 尋旧跡於魏文。 亦黄花助彭祖之術。 視賜群臣菊花詩序 紀長谷雄 さんちにさきだちてそのはなをふけば、 あかつきのほしのかかんにてんずるがごとし、 じふぶんにひかへてそのいろをうごかせば、 あきのゆきのらくせんにめぐるかとうたがふ、 三遅 ( さんち )に 先 ( さき )だちてその 花 ( はな )を 吹 ( ふ )けば、 暁 ( あかつき )の 星 ( ほし )の 河漢 ( かかん )に 転 ( てん )ずるがごとし、 十分 ( じふぶん )に 引 ( ひか )へてその 彩 ( いろ )を 蕩 ( うごか )せば、 秋 ( あき )の 雪 ( ゆき )の 洛川 ( らくせん )に 廻 ( めぐ )るかと 疑 ( うたが )ふ、 先三遅兮吹其花。 如暁星之転河漢。 引十分兮蕩其彩。 疑秋雪之廻洛川。 たにのみづにはなをあらへば、 かりうをくみてじやうじゆをえたるもの、さんじふよか ちみやくにあぢをくわすれば、 につせいをくらひてねんがんをとゞめしもの、ごひやくかせい、 谷 ( たに )の 水 ( みづ )に 花 ( はな )を 洗 ( あら )へば、 下流 ( かりう )を 汲 ( く )みて 上寿 ( じやうじゆ )を 得 ( え )たる 者 ( もの )、 三十余家 ( さんじふよか ) 地脈 ( ちみやく )に 味 ( あぢ )を 和 ( くわ )すれば、 日精 ( につせい )を 喰 ( くら )ひて 年顔 ( ねんがん )を 駐 ( とゞ )めし 者 ( もの )、 五百箇歳 ( ごひやくかせい )、 谷水洗花。 汲下流而得上寿者。 三十余家。 地脈和味。 喰日精而駐年顔者。 五百箇歳。 同 同 拾遺 わがやどのきくのしら露けふごとに いく代つもりてふちとなるらん 清原元輔 菊 ( きく ) さうほうのらうびんはさんぶんしろし、 ろきくのしんくわはいつぱんなり 霜蓬 ( さうほう )の 老鬢 ( らうびん )は 三分 ( さんぶん ) 白 ( しろ )し、 露菊 ( ろきく )の 新花 ( しんくわ )は 一半 ( いつぱん ) 黄 ( き )なり 霜蓬老鬢三分白。 露菊新花一半黄。 九月八日酬皇甫十見贈 白居易 これはなのうちにひとへにきくをあいするにはあらず、 このはなひらきてのちさらにはななければなり、 これ 花 ( はな )の 中 ( うち )に 偏 ( ひとへ )に 菊 ( きく )を 愛 ( あい )するにはあらず、 この 花 ( はな ) 開 ( ひら )きて 後 ( のち ) 更 ( さら )に 花 ( はな ) 無 ( な )ければなり、 不是花中偏愛菊。 此花開後更無花。 十日菊花 元稹 らんいんくれなんとほつす、 しようはくののちにしぼまんことをちぎる、 しうけいはやくうつりて、 しらんのまづやぶるることをあざける、 嵐陰 ( らんいん ) 暮 ( く )れなんと 欲 ( ほつ )す、 松柏 ( しようはく )の 後 ( のち )に 凋 ( しぼ )まんことを 契 ( ちぎ )る、 秋景 ( しうけい ) 早 ( はや )く 移 ( うつ )りて、 芝蘭 ( しらん )の 先 ( ま )づ 敗 ( やぶ )るることを 嘲 ( あざけ )る、 嵐陰欲暮。 契松柏之後凋。 秋景早移。 嘲芝蘭之先敗。 翫禁庭残菊 紀長谷雄 れきけんのそんりよはみなをくをうるほす、 たうかのじしはだうにほとりせず、 酈県 ( れきけん )の 村閭 ( そんりよ )は 皆 ( みな ) 屋 ( をく )を 潤 ( うるほ )す、 陶家 ( たうか )の 児子 ( じし )は 堂 ( だう )に 垂 ( ほとり )せず、 酈県村閭皆潤屋。 陶家児子不垂堂。 らんゑんにはみづからぞくこつたることをはぢ、 きんりにはちやうせいあることをしんぜず、 蘭苑 ( らんゑん )には 自 ( みづか )ら 俗骨 ( ぞくこつ )たることを 慙 ( は )ぢ、 槿籬 ( きんり )には 長生 ( ちやうせい )あることを 信 ( しん )ぜず、 蘭苑自慙為俗骨。 槿籬不信有長生。 菊見草中仙 慶滋保胤 らんけいゑんのあらしむらさきをくだきてのち、 ほうらいどうのつきしものてらすうち、 蘭蕙苑 ( らんけいゑん )の 嵐 ( あらし ) 紫 ( むらさき )を 摧 ( くだ )きて 後 ( のち )、 蓬莱洞 ( ほうらいどう )の 月 ( つき ) 霜 ( しも )の 照 ( てら )す 中 ( うち )、 蘭蕙苑嵐摧紫後。 蓬莱洞月照霜中。 花寒菊点裳 菅原文時 古今 ひさかたの雲のうへにて見るきくは あまつほしとぞあやまたれける 藤原敏行 古今 こころあてにをらばやをらんはつしもの おきまどはせるしらぎくの花 凡河内躬恒 九月尽 ( くぐわつじん ) たとひかうかんをもつてかためとなすとも、 せうひつをうんくにとゞめがたし、 たとひまうふんをしておはしむとも、 なんぞさうらいをふうきやうにさへぎらんや、 たとひ 崤函 ( かうかん )をもつて 固 ( かた )めとなすとも、 蕭瑟 ( せうひつ )を 雲衢 ( うんく )に 留 ( とゞ )め 難 ( がた )し、 たとひ 孟賁 ( まうふん )をして 追 ( お )はしむとも、 何 ( なん )ぞ 爽籟 ( さうらい )を 風境 ( ふうきやう )に 遮 ( さへぎ )らんや、 縱以崤函為固。 難留蕭瑟於雲衢。 縱命孟賁而追。 何遮爽籟於風境。 山寺惜秋序 源順 とうもくはたとひぜんきやくのこはんにしたがふとも、 あきをもつてせよせんことはなはだかたかるべし 頭目 ( とうもく )はたとひ 禅客 ( ぜんきやく )の 乞 ( こ )はんに 随 ( したが )ふとも、 秋 ( あき )をもつて 施与 ( せよ )せんことはなはだ 難 ( かた )かるべし 頭目縱随禅客乞。 以秋施与太応難。 同 同 ぶんぽうにくつわづらをあんずはくくのかげ、 しかいにふねをふなよそほひすこうえふのこゑ、 文峯 ( ぶんぽう )に 轡 ( くつわづら )を 案 ( あん )ず 白駒 ( はくく )の 景 ( かげ )、 詞海 ( しかい )に 舟 ( ふね )を 艤 ( ふなよそほひ )す 紅葉 ( こうえふ )の 声 ( こゑ )、 文峯案轡白駒景。 詞海艤舟紅葉声。 秋未出詩境 大江以言 風雅 山 ( やま )さびしあきもくれぬとつぐるかも まきの葉ごとにおけるはつしも 大江千里 くれてゆくあきのかたみにおくものは わがもとゆひの霜にぞありける 平兼盛 女郎花 ( をみなべし ) はなのいろはむせるあはのごとし、ぞくよびてぢよらうとなす、 なをききてたはむれにかいらうをちぎらむとほつすれば おそらくはすゐおうのかうべしもににたるをにくまむことを 花 ( はな )の 色 ( いろ )は 蒸 ( む )せる 粟 ( あは )のごとし、 俗 ( ぞく ) 呼 ( よ )びて 女郎 ( ぢよらう )となす、 名 ( な )を 聞 ( き )きて 戯 ( たはむ )れに 偕老 ( かいらう )を 契 ( ちぎ )らむと 欲 ( ほつ )すれば 恐 ( おそ )らくは 衰翁 ( すゐおう )の 首 ( かうべ ) 霜 ( しも )に 似 ( に )たるを 悪 ( にく )まむことを 花色如蒸粟。 俗呼為女郎。 聞名戯欲契偕老。 恐悪衰翁首似霜。 詠女郎花 源順 古今 をみなへしおほかる野辺にやどりせば あやなくあだの名をやたたまし 小野良材 新古今 をみなへしみるにこころはなぐさまで いとどむかしのあきぞ恋しき 藤原実頼 萩 ( はぎ ) あかつきのつゆにしかないてはなはじめてひらく、 もゝたびよぢをるいちじのこゝろ 暁 ( あかつき )の 露 ( つゆ )に 鹿 ( しか ) 鳴 ( な )いて 花 ( はな ) 始 ( はじ )めて 発 ( ひら )く、 百 ( もゝ )たび 攀 ( よ )ぢ 折 ( を )る 一時 ( いちじ )の 情 ( こゝろ ) 暁露鹿鳴花始発。 百般攀折一時情。 新撰万葉絶句詩 菅原道真 拾遺 あきののにはぎかるをのこなはをなみ ねるやねりそのくだけてぞおもふ 柿本人麿 拾遺 うつろはんことだにをしきあきはぎを をれるばかりにおける露かな 伊勢 家集 あきのののはぎのにしきをふるさとに しかの音ながらうつしてしがな 清原元輔 蘭 ( ふぢばかま ) ぜんとうにはさらにせうでうたるものあり、 らうきくすゐらんさんりやうのくさむら 前頭 ( ぜんとう )には 更 ( さら )に 蕭条 ( せうでう )たる 物 ( もの )あり、 老菊 ( らうきく ) 衰蘭 ( すゐらん ) 三両 ( さんりやう )の 叢 ( くさむら ) 前頭更有蕭条物。 老菊衰蘭三両叢。 抄秋独夜 白居易 ふさうあにかげなからんや、ふうんおほひてたちまちくらし そうらんあにかうばしからざらんや、しうふうふきてまづやぶる、 扶桑 ( ふさう )あに 影 ( かげ ) 無 ( な )からんや、 浮雲 ( ふうん ) 掩 ( おほ )ひて 忽 ( たちま )ち 昏 ( くら )し 叢蘭 ( そうらん )あに 芳 ( かうば )しからざらんや、 秋風 ( しうふう ) 吹 ( ふ )きて 先 ( ま )づ 敗 ( やぶ )る、 扶桑豈無影乎。 浮雲掩而忽昏。 叢蘭豈不芳乎。 秋風吹而先敗。 菟裘賦 兼明親王 こりてはかんぢよのかほにべにをほどこすがごとし、 したゝりてはかうじんのまなこにたまをなくににたり、 凝 ( こ )りては 漢女 ( かんぢよ )の 顔 ( かほ )に 粉 ( べに )を 施 ( ほどこ )すがごとし、 滴 ( したゝ )りては 鮫人 ( かうじん )の 眼 ( まなこ )に 珠 ( たま )を 泣 ( な )くに 似 ( に )たり、 凝如漢女顔施粉。 滴似鮫人眼泣珠。 紅蘭受露 都良香 きよくおどろきてはそきやくのあきのことのかうばし、 ゆめたえてはえんきがあかつきのまくらにくんず 曲 ( きよく ) 驚 ( おどろ )きては 楚客 ( そきやく )の 秋 ( あき )の 絃 ( こと )の 馥 ( かうば )し、 夢 ( ゆめ ) 断 ( た )えては 燕姫 ( えんき )が 暁 ( あかつき )の 枕 ( まくら )に 薫 ( くん )ず 曲驚楚客秋絃馥。 夢断燕姫暁枕薫。 蘭気入軽風 橘直幹 古今 ぬししらぬ香はにほひつつあきののに たがぬききかけしふぢばかまぞも 素性法師 槿 ( あさがほ ) しようじゆせんねんつひにこれくつ、 きんくわいちにちおのづからえいをなせり、 松樹 ( しようじゆ ) 千年 ( せんねん ) 終 ( つひ )にこれ 朽 ( く )つ、 槿花 ( きんくわ ) 一日 ( いちにち )おのづから 栄 ( えい )をなせり、 松樹千年終是朽。 槿花一日自為栄。 放言詩 白居易 きたりてとゞまらず、かいろうにあしたのつゆをはらふあり、 さりてかへらず、きんりにくれにいたるはななし、 来 ( きた )りて 留 ( とゞ )まらず、 薤瓏 ( かいろう )に 晨 ( あした )の 露 ( つゆ )を 払 ( はら )ふあり、 去 ( さ )りて 返 ( かへ )らず、 槿籬 ( きんり )に 暮 ( くれ )に 投 ( いた )る 花 ( はな )なし 来而不留。 薤瓏有払晨之露。 去而不返。 槿籬無投暮之花。 無常句 兼明親王 新勅撰 おぼつかなたれとかしらむあきぎりの たえまにみゆるあさがほのはな 藤原道信 拾遺 あさがほを何かなしとおもふらん 人をもはなはさこそみるらめ 藤原道信 前栽 ( せんざい ) おほくはなをうゑてめをよろこばしむるともがらをみれば、 ときにさきだちあらかじめやしなひてひらくをまちてあそぶ 多 ( おほ )く 花 ( はな )を 栽 ( う )ゑて 目 ( め )を 悦 ( よろこ )ばしむる 儔 ( ともがら )を 見 ( み )れば、 時 ( とき )に 先 ( さき )だち 予 ( あらかじ )め 養 ( やしな )ひて 開 ( ひら )くを 待 ( ま )ちて 遊 ( あそ )ぶ 多見栽花悦目儔。 先時予養待開遊。 栽秋花 菅原文時 われかんじやくにしてかどうのうみたるより、 はるのきははるうゑあきのくさはあきなり、 吾 ( われ ) 閑寂 ( かんじやく )にして 家僮 ( かどう )の 倦 ( う )みたるより、 春 ( はる )の 樹 ( き )は 春 ( はる ) 栽 ( う )ゑ 秋 ( あき )の 草 ( くさ )は 秋 ( あき )なり、 自吾閑寂家僮倦。 春樹春栽秋草秋。 同 同 しづかになんぢがはなのくれなゐならんひをみんとおもへば、 まさにこれわがびんのしろからんときにあたれり、 閑 ( しづ )かに 汝 ( なんぢ )が 花 ( はな )の 紅 ( くれなゐ )ならん 日 ( ひ )を 看 ( み )んと 思 ( おも )へば、 正 ( まさ )にこれ 吾 ( わ )が 鬢 ( びん )の 白 ( しろ )からん 時 ( とき )に 当 ( あた )れり、 閑思看汝花紅日。 正是当吾鬢白時。 初植花樹詩 慶滋保胤 かつてううるところにげんりやうをおもふにあらず、 このはなのときにせそんにたてまつらんがためなり かつて 種 ( う )うる 処 ( ところ )に 元亮 ( げんりやう )を 思 ( おも )ふにあらず、 この 花 ( はな )の 時 ( とき )に 世尊 ( せそん )に 供 ( たてまつ )らんがためなり 曾非種処思元亮。 為是花時供世尊。 菅原道真 古今 ちりをだにすゑじとぞおもふうゑしより いもとわがぬるとこなつのはな 凡河内躬恒 はなによりものをぞおもふ白露の おくにもいかがあ(な)らんとすらん 作者不詳 紅葉 ( こうえふ ) 附落葉 たへずこうえふせいたいのち、またこれりやうふうぼうのてん、 堪 ( た )へず 紅葉 ( こうえふ ) 青苔 ( せいたい )の 地 ( ち )、 又 ( また )これ 涼風 ( りやうふう ) 暮雨 ( ぼう )の 天 ( てん )、 不堪紅葉青苔地。 又是涼風暮雨天。 秋雨中贈元九 白居易 くわうかうけつのはやしはさむくしてはあり、 へきるりのみづはきよくしてかぜなし、 黄纐纈 ( くわうかうけつ )の 林 ( はやし )は 寒 ( さむ )くして 葉 ( は )あり、 碧瑠璃 ( へきるり )の 水 ( みづ )は 浄 ( きよ )くして 風 ( かぜ )なし、 黄纐纈林寒有葉。 碧瑠璃水浄無風。 泛太湖書事寄微之 同 どうちゆうはせいせんたりるりのみづ、ていじやうせうでうたりきんしうのはやし、 洞中 ( どうちゆう )は 清浅 ( せいせん )たり 瑠璃 ( るり )の 水 ( みづ )、 庭上 ( ていじやう ) 蕭条 ( せうでう )たり 錦繍 ( きんしう )の 林 ( はやし )、 洞中清浅瑠璃水。 庭上蕭条錦繍林。 翫頭池紅葉 慶滋保胤 ぐわいぶつのひとりさめたるはしようかんのいろ、 よはのがふりきはきんこうのこゑ 外物 ( ぐわいぶつ )の 独 ( ひと )り 醒 ( さ )めたるは 松澗 ( しようかん )の 色 ( いろ )、 余波 ( よは )の 合力 ( がふりき )は 錦江 ( きんこう )の 声 ( こゑ ) 外物独醒松澗色。 余波合力錦江声。 山水唯紅葉 大江以言 家集 しらつゆもしぐれもいたくもる山は した葉のこらずもみぢしにけり 紀貫之 むら 〳 〵のにしきとぞみるさほ山の ははそのもみぢきりたたぬまは 藤原清正 落葉 ( らくえふ ) さんしうにしてきうろうまさにながく、 くうかいにあめしたゝる、 ばんりにしてきやうゑんいづくにかある、 らくえふまどにふかし、 三秋 ( さんしう )にして 宮漏 ( きうろう ) 正 ( まさ )に 長 ( なが )く、 空階 ( くうかい )に 雨 ( あめ ) 滴 ( したゝ )る、 万里 ( ばんり )にして 郷園 ( きやうゑん )いづくにか 在 ( あ )る、 落葉 ( らくえふ ) 窓 ( まど )に 深 ( ふか )し、 三秋而宮漏正長。 空階雨滴。 万里而郷園何在。 落葉窓深。 愁賦 張読 あきのにはははらはずとうぢやうをたづさへて、 しづかにごとうのくわうえふをふみてゆく、 秋 ( あき )の 庭 ( には )は 掃 ( はら )はず 藤杖 ( とうぢやう )を 携 ( たづさ )へて、 閑 ( しづ )かに 梧桐 ( ごとう )の 黄葉 ( くわうえふ )を 踏 ( ふ )みて 行 ( ゆ )く、 秋庭不掃携藤杖。 閑踏梧桐黄葉行。 晩秋閑居 白居易 じやうりうきゆうくわいみだりにえうらくすれども、 あきのかなしみはきじんのこゝろにいたらず 城柳 ( じやうりう ) 宮槐 ( きゆうくわい ) 漫 ( みだ )りに 揺落 ( えうらく )すれども、 秋 ( あき )の 悲 ( かな )しみは 貴人 ( きじん )の 心 ( こゝろ )に 到 ( いた )らず 城柳宮槐漫揺落。 愁悲不到貴人心。 早入皇城送王留守僕射 白居易 ごしうのかげのうちに、いつせいのあめむなしくそゝぐ、 しやこのせなかのうへに、すうへんのこうわづかにのこれり、 梧楸 ( ごしう )の 影 ( かげ )の 中 ( うち )に、 一声 ( いつせい )の 雨 ( あめ ) 空 ( むな )しく 灑 ( そゝ )ぐ、 鷓鴣 ( しやこ )の 背 ( せなか )の 上 ( うへ )に、 数片 ( すうへん )の 紅 ( こう )わづかに 残 ( のこ )れり、 梧楸影中。 一声之雨空灑。 鷓鴣背上。 数片之紅纔残。 葉落風枝疎詩序 源順 せうそわうへんして、つゑしゆばいしんがころもをうがつ、 いんいついういう、くつかつちせんのくすりをふむ、 樵蘇 ( せうそ ) 往反 ( わうへん )して、 杖 ( つゑ ) 朱買臣 ( しゆばいしん )が 衣 ( ころも )を 穿 ( うが )つ、 隠逸 ( いんいつ ) 優遊 ( いういう )、 履 ( くつ ) 葛稚仙 ( かつちせん )の 薬 ( くすり )を 踏 ( ふ )む、 樵蘇往反。 杖穿朱買臣之衣。 隠逸優遊。 履踏葛稚仙之薬。 落葉満山中路序 高階相如 あらしにしたがふらくえふせうしつをふくめり、 いしにそそぐひせんはがきんをろうす、 嵐 ( あらし )に 随 ( したが )ふ 落葉 ( らくえふ ) 蕭瑟 ( せうしつ )を 含 ( ふく )めり、 石 ( いし )に 濺 ( そそ )ぐ 飛泉 ( ひせん )は 雅琴 ( がきん )を 弄 ( ろう )す、 随嵐落葉含蕭瑟。 濺石飛泉弄雅琴。 秋色変山水 源順 よをおひてひかりおほしごゑんのつき、 あさなごとにこゑすくなしかんりんのかぜ、 夜 ( よ )を 逐 ( お )ひて 光 ( ひかり ) 多 ( おほ )し 呉苑 ( ごゑん )の 月 ( つき )、 朝 ( あさな )ごとに 声 ( こゑ ) 少 ( すくな )し 漢林 ( かんりん )の 風 ( かぜ )、 逐夜光多呉苑月。 毎朝声少漢林風。 松葉随日落 具平親王 新古今 あすか川もみぢ葉ながるかつらぎの やまのあきかぜふきぞしぬらし 柿本人丸 後撰 神なづきしぐれとともにかみなびの もりのこの葉はふりにこそふれ 紀貫之 古今 みる人もなくてちりぬるおくやまの もみぢはよるのにしきなりけり 同 雁 ( かり ) 付帰雁 ばんりひとみなみにさる、さんしゆんがんきたにとぶ、 しらずいづれのさいげつか、なんぢとおなじくかへることをえん、 万里 ( ばんり ) 人 ( ひと ) 南 ( みなみ )に 去 ( さ )る、 三春 ( さんしゆん ) 雁 ( がん ) 北 ( きた )に 飛 ( と )ぶ、 知 ( し )らず 何 ( いづ )れの 歳月 ( さいげつ )か、 汝 ( なんぢ )と 同 ( おな )じく 帰 ( かへ )ることを 得 ( え )ん、 万里人南去。 三春鴈北飛。 不知何歳月。 得与汝同帰。 南中詠雁 白居易 じんやうのこうのいろはしほそへてみち、 はうれいのあきのこゑはがんひききたる、 潯陽 ( じんやう )の 江 ( こう )の 色 ( いろ )は 潮 ( しほ ) 添 ( そ )へて 満 ( み )ち、 彭蠡 ( はうれい )の 秋 ( あき )の 声 ( こゑ )は 雁 ( がん ) 引 ( ひ )き 来 ( きた )る、 潯陽江色潮添満。 彭蠡秋声鴈引来。 登江州清輝楼 劉禹錫 しごだのやまはあめによそほへるいろ、 りやうさんかうのがんはくもにてんずるこゑ、 四五朶 ( しごだ )の 山 ( やま )は 雨 ( あめ )に 粧 ( よそほ )へる 色 ( いろ )、 両三行 ( りやうさんかう )の 雁 ( がん )は 雲 ( くも )に 点 ( てん )ずる 声 ( こゑ ) 四五朶山粧雨色。 両三行鴈点雲声。 雋陽道中 杜筍鶴 きよきうさけがたし、いまだうたがひをじやうげんのつきのかかれるになげうたず、 ほんせんまよひやすし、なほあやまりをかりうのみづきふなるになす、 虚弓 ( きよきう ) 避 ( さ )け 難 ( がた )し、いまだ 疑 ( うたが )ひを 上弦 ( じやうげん )の 月 ( つき )の 懸 ( かか )れるに 抛 ( なげう )たず、 奔箭 ( ほんせん ) 迷 ( まよ )ひ 易 ( やす )し、なほ 誤 ( あやま )りを 下流 ( かりう )の 水 ( みづ ) 急 ( きふ )なるに 成 ( な )す、 虚弓難避。 未抛疑於上弦之月懸。 奔箭易迷。 猶成誤於下流之水急。 寒雁識秋天 大江朝綱 かりはへきらくにとびてせいしにしよし、 はやぶさはさうりんをうちてにしきのはたをやぶる、 雁 ( かり )は 碧落 ( へきらく )に 飛 ( と )びて 青紙 ( せいし )に 書 ( しよ )し、 隼 ( はやぶさ )は 霜林 ( さうりん )を 撃 ( う )ちて 錦 ( にしき )の 機 ( はた )を 破 ( やぶ )る 鴈飛碧落書青紙。 隼撃霜林破錦機。 秋暮傍山行 島田忠臣 へきぎよくのよそほへるしやうのことはななめにたてたることぢ、 せいたいのいろのかみにはすうかうのしよ 碧玉 ( へきぎよく )の 装 ( よそほ )へる 筝 ( しやうのこと )は 斜 ( ななめ )に 立 ( た )てたる 柱 ( ことぢ )、 青苔 ( せいたい )の 色 ( いろ )の 紙 ( かみ )には 数行 ( すうかう )の 書 ( しよ ) 碧玉装筝斜立柱。 青苔色紙数行書。 天浄識賓鴻 菅原文時 うんいははんしゆくがきちうのおくりもの、 ふうろはせうしやうのなみのうへのふね 雲衣 ( うんい )は 范叔 ( はんしゆく )が 羈中 ( きちう )の 贈 ( おくりもの )、 風櫓 ( ふうろ )は 瀟湘 ( せうしやう )の 浪 ( なみ )の 上 ( うへ )の 船 ( ふね ) 雲衣范叔羈中贈。 風櫓瀟湘浪上舟。 賓雁似故人 具平親王 古今 あきかぜにはつかりがねぞきこゆなる たがたまづさをかけてきつらん 紀友則 帰雁 さんようのきがんはなゝめにおびをひく、 すゐめんのしんこうはいまだきんをのべず、 山腰 ( さんよう )の 帰雁 ( きがん )は 斜 ( なゝめ )に 帯 ( おび )を 牽 ( ひ )く、 水面 ( すゐめん )の 新虹 ( しんこう )はいまだ 巾 ( きん )を 展 ( の )べず、 山腰帰鴈斜牽帯。 水面新虹未展巾。 春日閑居 都在中 古今 春がすみたつを見すててゆくかりは はななきさとにすみやならへる 伊勢 虫 ( むし ) せつせつたりあんさうのもと、 えう 〳 〵たるしんさうのうち、 あきのそらのしふのこゝろ、 あめのよのいうじんのみ、 切々 ( せつせつ )たり 暗窓 ( あんさう )の 下 ( もと )、 喓々 ( えう 〳 〵 )たる 深草 ( しんさう )の 裏 ( うち )、 秋 ( あき )の 天 ( そら )の 思婦 ( しふ )の 心 ( こゝろ )、 雨 ( あめ )の 夜 ( よ )の 幽人 ( いうじん ) 耳 ( のみ ) 切切暗窓下。 喓々深草裏。 秋天思婦心。 雨夜幽人耳。 秋虫 白居易 さうさうかれなんとほつしてむしのおもひねんごろなり、 ふうしいまださだまらずとりのすむことかたし、 霜草 ( さうさう ) 枯 ( か )れなんと 欲 ( ほつ )して 虫 ( むし )の 思 ( おも )ひ 苦 ( ねんごろ )なり、 風枝 ( ふうし )いまだ 定 ( さだ )まらず 鳥 ( とり )の 栖 ( す )むこと 難 ( かた )し、 霜草欲枯虫思苦。 風枝未定鳥栖難。 答夢得秋夜独座見贈 同 ゆかにはたんきやくをきらふきり 〴 〵すのこゑのかまびすし、 かべにはこうしんをいとふねずみのあなうがてり、 床 ( ゆか )には 短脚 ( たんきやく )を 嫌 ( きら )ふ 蛬 ( きり 〴 〵す )の 声 ( こゑ )の 閙 ( かまびす )し、 壁 ( かべ )には 空心 ( こうしん )を 厭 ( いと )ふ 鼠 ( ねずみ )の 孔 ( あな ) 穿 ( うが )てり、 床嫌短脚蛬声閙。 壁厭空心鼠孔穿。 秋夜 小野篁 さんくわんのあめのときなくことおのづからくらく、 やていのかぜのところおることなほさむし、 山館 ( さんくわん )の 雨 ( あめ )の 時 ( とき ) 鳴 ( な )くこと 自 ( おのづか )ら 暗 ( くら )く、 野亭 ( やてい )の 風 ( かぜ )の 処 ( ところ ) 織 ( お )ることなほ 寒 ( さむ )し、 山館雨時鳴自暗。 野亭風処織猶寒。 蛬声人微館 橘直幹 そうへんにうらみとほくしてかぜにききてくらく、 かべのもとにぎんかすかにしてつきいろさむし、 叢辺 ( そうへん )に 怨 ( うら )み 遠 ( とほ )くして 風 ( かぜ )に 聞 ( き )きて 暗 ( くら )く、 壁 ( かべ )の 底 ( もと )に 吟 ( ぎん ) 幽 ( かす )かにして 月 ( つき ) 色 ( いろ ) 寒 ( さむ )し、 叢辺怨遠風聞暗。 壁底吟幽月色寒。 同前題 源順 いまこんとたれたのめけんあきのよを あかしかねつつまつむしのなく(こゑイ) 或 大中臣能宣 読人不知 古今 きり 〴 〵すいたくななきそあきの夜の ながきうらみはわれぞまされる 素性法師或藤原忠房 鹿 ( しか ) さうたいみちなめらかにしてそうてらにかへり、 こうえふこゑかわきてしかはやしにあり、 蒼苔 ( さうたい ) 路 ( みち ) 滑 ( なめ )らかにして 僧 ( そう ) 寺 ( てら )に 帰 ( かへ )り、 紅葉 ( こうえふ ) 声 ( こゑ ) 乾 ( かわ )きて 鹿 ( しか ) 林 ( はやし )に 在 ( あ )り、 蒼苔路滑僧帰寺。 紅葉声乾鹿在林 宿雲林寺 温庭筠 あんにへいをくらふみのいろをしてへんぜしむ、 さらにくさにくはふるとくふうにしたがひきたる、 暗 ( あん )に 苹 ( へい )を 食 ( くら )ふ 身 ( み )の 色 ( いろ )をして 変 ( へん )ぜしむ、 更 ( さら )に 草 ( くさ )に 加 ( くは )ふる 徳風 ( とくふう )に 随 ( したが )ひ 来 ( きた )る、 暗遣食苹身色変。 更随加草徳風来。 観鎮西府献白鹿詩 紀長谷雄 拾遺 もみぢせぬときはの山にすむしかは おのれなきてや秋をしるらん 大中臣能宣 古今 ゆふづくよをぐらのやまになくしかの こゑのうちにやあきはくるらん 紀貫之 露 あはれむべしきふげつしよさんのよ、 つゆはしんじゆににたりつきはゆみににたり、 憐 ( あは )れむべし 九月 ( きふげつ ) 初三 ( しよさん )の 夜 ( よ )、 露 ( つゆ )は 真珠 ( しんじゆ )に 似 ( に )たり 月 ( つき )は 弓 ( ゆみ )に 似 ( に )たり、 可憐九月初三夜。 露似真珠月似弓。 暮江吟 白居易 つゆはらんそうにしたたりてかんぎよくしろし、 かぜしようえふをふくみてがきんすめり、 露 ( つゆ )は 蘭叢 ( らんそう )に 滴 ( したた )りて 寒玉 ( かんぎよく ) 白 ( しろ )し、 風 ( かぜ ) 松葉 ( しようえふ )を 銜 ( ふく )みて 雅琴 ( がきん ) 清 ( す )めり、 露滴蘭叢寒玉白。 風銜松葉雅琴清。 秋風颯然新 源英明 新古今 さをしかのあさたつをのの秋はぎに たまとみるまでおけるしらつゆ 大伴家持 霧 ( きり ) ちくむはあかつきにみねにふくむつきをこめたり、 ひんぷうはあたたかくしてこうをすぐるはるをおくる、 竹霧 ( ちくむ )は 暁 ( あかつき )に 嶺 ( みね )に 銜 ( ふく )む 月 ( つき )を 籠 ( こ )めたり、 蘋風 ( ひんぷう )は 暖 ( あたた )かくして 江 ( こう )を 過 ( す )ぐる 春 ( はる )を 送 ( おく )る、 竹霧暁籠銜嶺月。 蘋風暖送過江春。 庾楼暁望 白居易 せきむのひとのまくらをうづめんことをうれふといへども、 なほてううんのうまのくらよりいづることをあいす、 夕霧 ( せきむ )の 人 ( ひと )の 枕 ( まくら )を 埋 ( うづ )めんことを 愁 ( うれ )ふといへども、 なほ 朝雲 ( てううん )の 馬 ( うま )の 鞍 ( くら )より 出 ( い )づることを 愛 ( あい )す、 雖愁夕霧埋人枕。 猶愛朝雲出馬鞍。 山居秋晩 大江音人 拾遺 秋ぎりのふもとをこめてたちぬれば 空にぞ秋の山は見えける 清原深養父 古今 たがためのにしきなればかあきぎりの さほのやまべをたちかくすらん 友則 擣衣 ( たうい ) はちげつきうげつまさにながきよ、 せんせいばんせいやむときなし、 八月九月 ( はちげつきうげつ ) 正 ( まさ )に 長 ( なが )き 夜 ( よ )、 千声万声 ( せんせいばんせい ) 了 ( や )む 時 ( とき )なし、 八月九月正長夜。 千声万声無了時。 聞夜砧 白居易 たがいへのしふかあききぬをうつ、 つきさやかにかぜすさまじくしてちんしよかなしめり、 誰 ( た )が 家 ( いへ )の 思婦 ( しふ )か 秋 ( あき ) 帛 ( きぬ )を 擣 ( う )つ、 月 ( つき ) 苦 ( さや )かに 風 ( かぜ ) 凄 ( すさ )まじくして 砧杵 ( ちんしよ ) 悲 ( かな )しめり、 誰家思婦秋擣帛。 月苦風凄砧杵悲。 同 同 ほくとのほしのまへにりよがんよこたはり、 なんろうのつきのもとにはかんいをうつ、 北斗 ( ほくと )の 星 ( ほし )の 前 ( まへ )に 旅雁 ( りよがん ) 横 ( よこ )たはり、 南楼 ( なんろう )の 月 ( つき )の 下 ( もと )には 寒衣 ( かんい )を 擣 ( う )つ、 北斗星前横旅雁。 南楼月下擣寒衣。 同 劉元叔 うつところにはあかつきけいぐゑつのすさまじきことうれひ、 たちもちてはあきさいうんのかんによす、 擣 ( う )つ 処 ( ところ )には 暁 ( あかつき ) 閨月 ( けいぐゑつ )の 冷 ( すさま )じきこと 愁 ( うれ )ひ、 裁 ( た )ちもちては 秋 ( あき ) 塞雲 ( さいうん )の 寒 ( かん )に 寄 ( よ )す、 擣処暁愁閨月冷。 裁将秋寄塞雲寒。 風疎砧杵鳴 菅原篤茂 たちいだしてはかへりちやうたんせいにまよふ、 へんしうはさだめてむかしのえうゐならじ、 裁 ( た )ち 出 ( いだ )しては 還 ( かへ )り 長短 ( ちやうたん ) 製 ( せい )に 迷 ( まよ )ふ、 辺愁 ( へんしう )は 定 ( さだ )めて 昔 ( むかし )の 腰囲 ( えうゐ )ならじ、 裁出還迷長短製。 辺愁定不昔腰囲。 擣衣詩 橘直幹 かぜのもとにかとんでさうしうあがり、 つきのまへにしようらみてりやうびたれたり、 風 ( かぜ )の 底 ( もと )に 香 ( か ) 飛 ( と )んで 双袖 ( さうしう ) 挙 ( あが )り、 月 ( つき )の 前 ( まへ )に 杵 ( しよ ) 怨 ( うら )みて 両眉 ( りやうび ) 低 ( た )れたり、 風底香飛双袖挙。 月前杵怨両眉低。 擣衣詩 具平親王 ねん 〳 〵のわかれのおもひはあきのかりにおどろく、 よな 〳 〵のかすかなるこゑあかつきのにはとりにいたる、 年々 ( ねん 〳 〵 )の 別 ( わか )れの 思 ( おも )ひは 秋 ( あき )の 雁 ( かり )に 驚 ( おどろ )く、 夜々 ( よな 〳 〵 )の 幽 ( かす )かなる 声 ( こゑ )は 暁 ( あかつき )の 鶏 ( にはとり )に 到 ( いた )る、 年年別思驚秋雁。 夜夜幽声到暁鶏。 同 同 新勅撰 からごろもうつこゑきけば月きよみ まだねぬ人をさらにしるかな 紀貫之 冬 ( ふゆ ) 初冬 ( はつふゆ ) じふげつこうなんてんきこうなり、 あはれむべしとうけいはるににてうるはし、 十月 ( じふげつ ) 江南 ( こうなん ) 天気 ( てんき ) 好 ( こう )なり、 憐 ( あは )れむべし 冬景 ( とうけい ) 春 ( はる )に 似 ( に )て 華 ( うるは )し、 十月江南天気好。 可憐冬景似春華。 早冬 白居易 しいじれいらくしてさんぶんげんじ、 ばんぶつさだとしてくわはんしぼむ、 四時 ( しいじ ) 零落 ( れいらく )して 三分 ( さんぶん ) 減 ( げん )じぬ、 万物 ( ばんぶつ ) 蹉跎 ( さだ )として 過半 ( くわはん ) 凋 ( しぼ )めり、 四時牢落三分減。 万物蹉跎過半凋。 初冬即事 醍醐帝御製 ゆかのうへにはまきをさむせいちくのたかむしろ、 はこのうちにはひらきいだすはくめんのきぬ、 床 ( ゆか )の 上 ( うへ )には 巻 ( ま )き 収 ( をさ )む 青竹 ( せいちく )の 簟 ( たかむしろ )、 匣 ( はこ )の 中 ( うち )には 開 ( ひら )き 出 ( いだ )す 白綿 ( はくめん )の 衣 ( きぬ )、 床上巻収青竹簟。 匣中開出白綿衣。 驚冬 菅原文時 後撰 神なづきふりみふらずみさだめなき しぐれぞ冬のはじめなりける 紀貫之 冬夜 ( ふゆのよ ) いつさんのかんとうはうんぐわいのよる、 すうはいのうんちうはせつちゆうのはる、 一盞 ( いつさん )の 寒燈 ( かんとう )は 雲外 ( うんぐわい )の 夜 ( よる )、 数盃 ( すうはい )の 温酎 ( うんちう )は 雪中 ( せつちゆう )の 春 ( はる )、 一盞寒燈雲外夜。 数盃温酎雪中春。 和李中丞与李給事山居雪夜同宿小酌 白居易 としのひかりはおのづからとうのまへにむかつてつきぬ、 きやくのおもひにただまくらのほとりよりなる、 年 ( とし )の 光 ( ひかり )は 自 ( おのづか )ら 燈 ( とう )の 前 ( まへ )に 向 ( むか )つて 尽 ( つ )きぬ、 客 ( きやく )の 思 ( おも )ひにただ 枕 ( まくら )の 上 ( ほとり )より 生 ( な )る、 年光自向燈前尽。 客思唯従枕上生。 冬夜独起 尊敬 拾遺 おもひかねいもがりゆけばふゆのよの 川かぜさむみ千どりなくなり 紀貫之 歳暮 ( せいぼ ) かんりうつきをおびてはすめることかがみのごとく、 ゆふべのかぜはしもにくわしてときことかたなににたり、 寒流 ( かんりう ) 月 ( つき )を 帯 ( お )びては 澄 ( す )めること 鏡 ( かがみ )のごとく、 夕 ( ゆふべ )の 風 ( かぜ )は 霜 ( しも )に 和 ( くわ )して 利 ( と )きこと 刀 ( かたな )に 似 ( に )たり、 寒流帯月澄如鏡。 夕風和霜利似刀。 江楼宴別 白居易 ふううんはひとのまへにむかひてくれやすく、 さいげつはおいのそこよりかへしがたし、 風雲 ( ふううん )は 人 ( ひと )の 前 ( まへ )に 向 ( むか )ひて 暮 ( く )れやすく、 歳月 ( さいげつ )は 老 ( お )いの 底 ( そこ )より 還 ( かへ )しがたし、 風雲易向人前暮。 歳月難従老底還。 花下春 良岑春道 古今 ゆくとしのをしくもあるかなますかがみ みるかげさへにくれぬとおもへば 紀貫之 炉火 ( ろくわ ) くわうばいりよくしよふゆをむかへてじゆくし、 ほうちやうこうろよをおひてひらく、 黄醅 ( くわうばい ) 緑醑 ( りよくしよ ) 冬 ( ふゆ )を 迎 ( むか )へて 熟 ( じゆく )し、 絳帳 ( ほうちやう ) 紅炉 ( こうろ ) 夜 ( よ )を 逐 ( お )ひて 開 ( ひら )く、 黄醅緑緑醑迎冬熟。 絳帳紅炉逐夜開。 戯招諸客 白居易 みるにやばなくきくにうぐひすなし、 らふのうちのふうくわうはひにむかへらる、 看 ( み )るに 野馬 ( やば )なく 聴 ( き )くに 鴬 ( うぐひす )なし、 臘 ( らふ )の 裏 ( うち )の 風光 ( ふうくわう )は 火 ( ひ )に 迎 ( むか )へらる、 看無野馬聴無鴬。 臘裏風光被火迎。 火見臘夫春 菅原文時 このひはまさにはなのきをきつてとれるなるべし、 むかひきたればよもすがらはるのこころあり、 この 火 ( ひ )はまさに 花 ( はな )の 樹 ( き )を 鑚 ( き )つて 取 ( と )れるなるべし、 対 ( むか )ひ 来 ( きた )れば 夜 ( よ )もすがら 春 ( はる )の 情 ( こころ )あり、 此火応鑚花樹取。 対来終夜有春情。 同 同 たじにはたとひあうくわのもとにゑふとも、 このころはなんぞじうたんのほとりをはなれん、 他時 ( たじ )にはたとひ 鴬花 ( あうくわ )の 下 ( もと )に 酔 ( ゑ )ふとも、 近日 ( このころ )はなんぞ 獣炭 ( じうたん )の 辺 ( ほとり )を 離 ( はな )れん、 多時縱酔鴬花下。 近日那離獣炭辺。 同 菅原輔昭 うづみびのしたにこがれしときよりも かくにくまるるをりぞかなしき 在原業平 霜 ( しも ) さんしうのきしのゆきにはなはじめてしろく、 いちやのはやしのしもにはこと 〴 〵くくれなゐなり、 三秋 ( さんしう )の 岸 ( きし )の 雪 ( ゆき )に 花 ( はな ) 初 ( はじ )めて 白 ( しろ )く、 一夜 ( いちや )の 林 ( はやし )の 霜 ( しも )に 葉 ( は )こと 〴 〵く 紅 ( くれなゐ )なり、 三秋岸雪花初白。 一夜林霜葉尽紅。 般若寺別成公 温庭筠 ばんぶつはあきのしもによくいろをやぶり、 しいじはふゆのひにもつともてうねんなり、 万物 ( ばんぶつ )は 秋 ( あき )の 霜 ( しも )によく 色 ( いろ )を 壊 ( やぶ )り、 四時 ( しいじ )は 冬 ( ふゆ )の 日 ( ひ )に 最 ( もつと )も 凋年 ( てうねん )なり、 万物秋霜能壊色。 四時冬日最凋年。 歳晩旅望 白居易 ねやさむくしてゆめおどろく、 あるひはこふのきぬたのほとりにそふ、 やまふかくしてかんうごく、 まづしかうがびんのほとりををかす、 閨 ( ねや ) 寒 ( さむ )くして 夢 ( ゆめ ) 驚 ( おどろ )く、 或 ( あるひ )は 孤婦 ( こふ )の 砧 ( きぬた )の 上 ( ほとり )に 添 ( そ )ふ、 山 ( やま ) 深 ( ふか )くして 感 ( かん ) 動 ( うご )く、 先 ( ま )づ 四皓 ( しかう )が 鬢 ( びん )の 辺 ( ほとり )を 侵 ( をか )す、 閨寒夢驚。 或添孤婦之砧上。 山深感動。 先侵四皓之鬢辺。 青女司霜賦 紀長谷雄 くんしよふけてこゑいましめず、 らうおうとしくれてびんあひおどろく、 君子 ( くんし ) 夜 ( よ ) 深 ( ふ )けて 音 ( こゑ ) 警 ( いまし )めず、 老翁 ( らうおう ) 年 ( とし ) 晩 ( く )れて 鬢 ( びん ) 相驚 ( あひおどろ )く、 君子夜深音不警。 老翁年晩鬢相驚。 早霜 菅原道真或文時 せい 〳 〵すでにたつくわていのつる、 ほゝはじめておどろくかつりのひと、 声々 ( せい 〳 〵 )すでに 断 ( た )つ 華亭 ( くわてい )の 鶴 ( つる )、 歩々 ( ほゝ ) 初 ( はじ )めて 驚 ( おどろ )く 葛履 ( かつり )の 人 ( ひと )、 声声已断華亭鶴。 歩歩初驚葛履人。 寒霜凝霜 菅原文時 あしたにぐわこうにつみてをしいろをへんじ、 よるくわへうにおちてつるこゑをのむ、 晨 ( あした )に 瓦溝 ( ぐわこう )に 積 ( つ )みて 鴛 ( をし ) 色 ( いろ )を 変 ( へん )じ、 夜 ( よる ) 華表 ( くわへう )に 零 ( お )ちて 鶴 ( つる ) 声 ( こゑ )を 呑 ( の )む、 晨積瓦溝鴛変色。 夜零華表鶴呑声。 同前題 紀長谷雄 拾遺 夜をさむみねざめてきけばをしぞなく はらひもあへずしもやおくらん 読人不知 雪 あかつきにりやうわうのそのにいればゆきぐんざんにみてり、 よるゆこうがろうにのぼればつきせんりにあきらかなり、 暁 ( あかつき )に 梁王 ( りやうわう )の 苑 ( その )に 入 ( い )れば 雪 ( ゆき ) 群山 ( ぐんざん )に 満 ( み )てり、 夜 ( よる ) 庾公 ( ゆこう )が 楼 ( ろう )に 登 ( のぼ )れば 月 ( つき ) 千里 ( せんり )に 明 ( あき )らかなり、 暁入梁王之苑雪満群山。 夜登庾公之楼月明千里。 白賦 謝観 ぎんがのいさごみなぎるさんぜんかい、 ばいれいはなひらくいちまんちう、 銀河 ( ぎんが )の 沙 ( いさご ) 漲 ( みなぎ )る 三千界 ( さんぜんかい )、 梅嶺 ( ばいれい ) 花 ( はな ) 排 ( ひら )く 一万株 ( いちまんちう )、 銀河沙漲三千界。 梅嶺花排一万株。 雪中即事 白居易 ゆきはがまうににてとびてさんらんし、 ひとはくわくしやうをきてたちてはいくわいす、 雪 ( ゆき )は 鵞毛 ( がまう )に 似 ( に )て 飛 ( と )びて 散乱 ( さんらん )し、 人 ( ひと )は 鶴氅 ( くわくしやう )を 被 ( き )て 立 ( た )ちて 徘徊 ( はいくわい )す、 雪似鵞毛飛散乱。 人被鶴立徘徊。 酬令公雪中見贈 同 あるいはかぜをおひてかへらず、 ぐんかくのけをふるふがごとし、 またはれにあたりてなほのこる、 しゆうこのえきをつゞるかとうたがふ、 或 ( あるい )は 風 ( かぜ )を 逐 ( お )ひて 返 ( かへ )らず、 群鶴 ( ぐんかく )の 毛 ( け )を 振 ( ふる )ふがごとし、 また 晴 ( はれ )に 当 ( あた )りてなほ 残 ( のこ )る、 衆狐 ( しゆうこ )の 腋 ( えき )を 綴 ( つゞ )るかと 疑 ( うたが )ふ、 或逐風不返。 如振群鶴之毛。 亦当晴猶残。 疑綴衆狐之腋。 春雪賦 紀長谷雄 つばさはぐんをうるににたりうらにすむつる、 こゝろまさにきやうにじようずべしふねにさをさすひと、 翅 ( つばさ )は 群 ( ぐん )を 得 ( う )るに 似 ( に )たり 浦 ( うら )に 栖 ( す )む 鶴 ( つる )、 心 ( こゝろ )まさに 興 ( きやう )に 乗 ( じよう )ずべし 舟 ( ふね )に 棹 ( さを )さす 人 ( ひと )、 翅似得群栖浦鶴。 心応乗興棹舟人。 池上初雪 村上帝御製 ていじやうにたつてはかうべつるたり、 ざしてろのほとりにあればてかがまらず、 庭上 ( ていじやう )に 立 ( た )つては 頭 ( かうべ ) 鶴 ( つる )たり、 坐 ( ざ )して 炉 ( ろ )の 辺 ( ほとり )にあれば 手 ( て ) 亀 ( かが )まらず、 立於庭上頭為鶴。 坐在炉辺手不亀。 客舎対雪 菅原道真 はんぢよがねやのうちのあきのあふぎのいろ、 そわうのだいのうへのよるのことのこゑ、 班女 ( はんぢよ )が 閨 ( ねや )の 中 ( うち )の 秋 ( あき )の 扇 ( あふぎ )の 色 ( いろ )、 楚王 ( そわう )の 台 ( だい )の 上 ( うへ )の 夜 ( よる )の 琴 ( こと )の 声 ( こゑ )、 班女閨中秋扇色。 楚王台上夜琴声。 題雪 尊敬 拾遺 みやこにてめづらしくみるはつゆきは よしののやまにふりにけるかな 源景明 古今 みよしののやまのしら雪つもるらし ふるさとさむくなりまさるなり 坂上是則 古今 雪ふれば木ごとに花ぞさきにける いづれをうめとわきてをらまし 紀友則 氷 ( こほり ) 付春氷 こほりはすゐめんをふうじてきくになみなく、 ゆきはりんとうにてんじてみるにはなあり、 氷 ( こほり )は 水面 ( すゐめん )を 封 ( ふう )じて 聞 ( き )くに 浪 ( なみ )なく、 雪 ( ゆき )は 林頭 ( りんとう )に 点 ( てん )じて 見 ( み )るに 花 ( はな )あり、 氷封水面聞無浪。 雪点林頭見有花。 臘月独興 菅原道真 しもはかくれいをさまたげてさむくしてつゆなく、 みづはこぎをむすびてうすくしてこほりあり、 霜 ( しも )は 鶴唳 ( かくれい )を 妨 ( さまた )げて 寒 ( さむ )くして 露 ( つゆ )なく、 水 ( みづ )は 狐疑 ( こぎ )を 結 ( むす )びて 薄 ( うす )くして 氷 ( こほり )あり、 霜妨鶴唳寒無露。 水結狐疑薄有氷。 狐疑氷聞波声 相如 新撰万葉 おほぞらの 月 ( つき )のひかりのさむければ かげみし水ぞまづこほりける 七条后宮 春氷 こほりきえてみづをみればちよりもおほく、 ゆきはれてやまをのぞめばこと 〳 〵くろうにいる、 氷 ( こほり ) 消 ( き )えて 水 ( みづ )を 見 ( み )れば 地 ( ち )よりも 多 ( おほ )く、 雪 ( ゆき ) 霽 ( は )れて 山 ( やま )を 望 ( のぞ )めばこと 〳 〵く 楼 ( ろう )に 入 ( い )る、 氷消見水多於地。 雪霽望山尽入楼。 早春憶遊思黯南荘 白居易 こほりきえてかんしゆまさにはをうたがふべし、 ゆきつきてはりやうわうばいをめさず、 氷 ( こほり ) 消 ( き )えて 漢主 ( かんしゆ )まさに 覇 ( は )を 疑 ( うたが )ふべし、 雪 ( ゆき ) 尽 ( つ )きては 梁王 ( りやうわう ) 枚 ( ばい )を 召 ( め )さず、 氷消漢主応疑覇。 雪尽梁王不召枚。 早春雪氷消 橘在列 こさいにだれかよくしせつをまつたくせん、 こだにはかへりてしんのちゆうをうしなはんことをおそる、 胡塞 ( こさい )に 誰 ( だれ )かよく 使節 ( しせつ )を 全 ( まつた )くせん、 虖陀 ( こだ )には 還 ( かへ )りて 臣 ( しん )の 忠 ( ちゆう )を 失 ( うしな )はんことを 恐 ( おそ )る、 胡塞誰能全使節。 虖陀還恐失臣忠。 雪消氷亦解 源相規 続後拾遺 やまかげのみぎはまされるはるかぜに たにのこほりもけふやとくらん 藤原惟正 霰 ( あられ ) しやうがよねひてせい 〳 〵もろく、 りようがんたまなげてくわ 〳 〵さむし、 麞牙 ( しやうが ) 米 ( よね ) 簸 ( ひ )て 声々 ( せい 〳 〵 ) 脆 ( もろ )く、 龍頷 ( りようがん ) 珠 ( たま ) 投 ( な )げて 顆々 ( くわ 〳 〵 ) 寒 ( さむ )し、 麞牙米簸声々脆。 龍頷珠投顆々寒。 雪化為霰 菅原道真 古今 みやまにはあられふるらし外山なる まさきのかづら色つきにけり 紀貫之 仏名 ( ぶつみやう ) かうくわいちろともしびいつさん、 はくとうにしてよるぶつみやうぎやうをらいす、 香火 ( かうくわ ) 一炉 ( いちろ ) 燈 ( ともしび ) 一盞 ( いつさん )、 白頭 ( はくとう )にして 夜 ( よる ) 仏名経 ( ぶつみやうぎやう )を 礼 ( らい )す、 香火一炉燈一盞。 白頭夜礼仏名経。 献贈礼経老僧 白居易 かうはぜんしんよりしてひをもちゐることなし、 はなはがつしやうにひらきてはるによらず、 香 ( かう )は 禅心 ( ぜんしん )よりして 火 ( ひ )を 用 ( もち )ゐることなし、 花 ( はな )は 合掌 ( がつしやう )に 開 ( ひら )きて 春 ( はる )に 因 ( よ )らず、 香自禅心無用火。 花開合掌不因春。 懺悔会作 菅原道真 家集 あらたまのとしもくれなばつくりつる つみものこらずなりやしぬらん 平兼盛 拾遺 かぞふればわが身につもるとし月を おくりむかふとなにいそぐらん 同 拾遺 としのうちにつくれるつみはかきくらし ふるしら雪とともにきえなむ 紀貫之 下巻 雑 風 ( かぜ ) はるのかぜあんにていぜんのきをきり、 よるのあめはひそかにせきじやうのこけをうがつ、 春 ( はる )の 風 ( かぜ ) 暗 ( あん )に 庭前 ( ていぜん )の 樹 ( き )を 剪 ( き )り、 夜 ( よる )の 雨 ( あめ )は 偸 ( ひそ )かに 石上 ( せきじやう )の 苔 ( こけ )を 穿 ( うが )つ、 春風暗剪庭前樹。 夜雨偸穿石上苔。 春日山居 輔昭 じふしようみだれやすし、 めいくんがたましひをなやまさんとほつす、 りうすゐかへらず、 まさにれつしがのりものをおくるべし、 入松 ( じふしよう ) 乱 ( みだ )れ 易 ( やす )し、 明君 ( めいくん )が 魂 ( たましひ )を 悩 ( なや )まさんと 欲 ( ほつ )す、 流水 ( りうすゐ ) 返 ( かへ )らず、 まさに 列子 ( れつし )が 乗 ( のりもの )を 送 ( おく )るべし、 入松易乱。 欲悩明君之魂。 流水不返。 応送列子之乗。 風中琴 紀長谷雄 かんしゆのてのうちにふきてとゞまらず、 じよくんがつかのうへにあふぎてなほかゝれり 漢主 ( かんしゆ )の 手 ( て )の 中 ( うち )に 吹 ( ふ )きて 駐 ( とゞ )まらず、 徐君 ( じよくん )が 墓 ( つか )の 上 ( うへ )に 扇 ( あふ )ぎてなほ 懸 ( かゝ )れり 漢主手中吹不駐。 徐君墓上扇猶懸。 北風利如剣 慶滋保胤 はんきあふぎをさいしてまさにくわしやうすべし、 れつしくるまをかけてわうくわんせず、 班姫 ( はんき ) 扇 ( あふぎ )を 裁 ( さい )してまさに 誇尚 ( くわしやう )すべし、 列子 ( れつし ) 車 ( くるま )を 懸 ( か )けて 往還 ( わうくわん )せず、 班姫裁扇応誇尚。 列子懸車不往還。 清風何処隠 同 後撰 あきかぜのふくにつけてもとはぬかな をぎの葉らばおとはしてまし 中務 新古今 ほの 〴 〵とありあけの月のつきかげに もみぢふきおろす山おろしのかぜ 源信明 雲 ( くも ) たけしやうほにまだらにしてくもこしつのあとにこる、 ほうしんだいをさりつきすゐせうのちにおいたり、 竹 ( たけ ) 湘浦 ( しやうほ )に 斑 ( まだら )にして 雲 ( くも ) 鼓瑟 ( こしつ )の 蹤 ( あと )に 凝 ( こ )る、 鳳 ( ほう ) 秦台 ( しんだい )を 去 ( さ )り 月 ( つき ) 吹簫 ( すゐせう )の 地 ( ち )に 老 ( お )いたり、 竹斑湘浦雲凝鼓瑟之蹤。 鳳去秦台月老吹簫之地。 愁賦 張読 やまとほくしてはくもかうかくのあとをうづめ、 まつさむくしてはかぜりよじんのゆめをやぶる、 山 ( やま ) 遠 ( とほ )くしては 雲 ( くも ) 行客 ( かうかく )の 跡 ( あと )を 埋 ( うづ )め、 松 ( まつ ) 寒 ( さむ )くしては 風 ( かぜ ) 旅人 ( りよじん )の 夢 ( ゆめ )を 破 ( やぶ )る、 山遠雲埋行客跡。 松寒風破旅人夢。 愁賦 紀斎名 ひねもすにくもをのぞめばこゝろつながれず、 ときありてつきをみればよまさにしづかなり、 尽日 ( ひねもす )に 雲 ( くも )を 望 ( のぞ )めば 心 ( こゝろ ) 繋 ( つな )がれず、 時 ( とき )ありて 月 ( つき )を 見 ( み )れば 夜 ( よ ) 正 ( まさ )に 閑 ( しづ )かなり、 尽日望雲心不繋。 有時見月夜正閑。 閨女幽栖 元稹 かんかうしんをさけしあした、 のぞみこほうのつきをさゝふ、 たうしゆゑつをじせしゆふべ、 まなこごこのけむりをこんず、 漢皓 ( かんかう ) 秦 ( しん )を 避 ( さ )けし 朝 ( あした )、 望 ( のぞみ ) 孤峯 ( こほう )の 月 ( つき )を 礙 ( さゝ )ふ、 陶朱 ( たうしゆ ) 越 ( ゑつ )を 辞 ( じ )せし 暮 ( ゆふべ )、 眼 ( まなこ ) 五湖 ( ごこ )の 煙 ( けむり )を 混 ( こん )ず、 漢皓避秦之朝 望礙孤峯之月 陶朱辞越之暮 眼混五湖之煙 視雲知隠処賦 大江以言 しばらくきくをかれどもいしをいたゞくにあらず、 むなしくしゆんけんをぬすめどもあにまつをしやうぜんや、 暫 ( しばら )く 崎嶇 ( きく )を 借 ( か )れども 石 ( いし )を 戴 ( いたゞ )くにあらず、 空 ( むな )しく 峻嶮 ( しゆんけん )を 偸 ( ぬす )めどもあに 松 ( まつ )を 生 ( しやう )ぜんや、 暫借崎嶇非戴石。 空偸峻嶮豈生松。 夏雲多奇峯 都在中 かんていのりようがんはしよ 〳 〵にまよひぬ、 わいわうのけいしはりうれんをうしなふ、 漢帝 ( かんてい )の 龍顔 ( りようがん )は 処所 ( しよ 〳 〵 )に 迷 ( まよ )ひぬ、 淮王 ( わいわう )の 鶏翅 ( けいし )は 留連 ( りうれん )を 失 ( うしな )ふ、 漢帝龍顔迷処所。 淮王鶏翅失留連。 秋天無片雲 大江以言 新古今 よそにのみ見てややみなんかつらぎや たかまの山のみねのしら雲 読人不知 晴 ( はれ ) けむりもんぐわいにきえてせいざんちかく、 つゆさうぜんにおもくしてりよくちくたれたり、 煙 ( けむり ) 門外 ( もんぐわい )に 消 ( き )えて 青山 ( せいざん ) 近 ( ちか )く、 露 ( つゆ ) 窓前 ( さうぜん )に 重 ( おも )くして 緑竹 ( りよくちく ) 低 ( た )れたり、 煙消門外青山近。 露重窓前緑竹低。 晴興 鄭師冉 しがいのみねのあらしはまばらにして、 くもしちひやくりのそとにをさまり、 ばくふのいづみのなみはひやゝかにして、 つきしじつせきのあまりにすめり、 紫蓋 ( しがい )の 嶺 ( みね )の 嵐 ( あらし )は 疎 ( まばら )にして、 雲 ( くも ) 七百里 ( しちひやくり )の 外 ( そと )に 収 ( をさ )まり、 曝布 ( ばくふ )の 泉 ( いづみ )の 波 ( なみ )は 冷 ( ひやゝか )にして、 月 ( つき ) 四十尺 ( しじつせき )の 余 ( あまり )に 澄 ( す )めり、 紫蓋之嶺嵐疎。 雲収七百里之外。 曝布之泉波冷。 月澄四十尺之余。 山晴秋望多序 藤原惟成 くもはへきらくにきえてそらのはだへとけ、 かぜせいいをうごかしてみづのおもてしわむ、 雲 ( くも )は 碧落 ( へきらく )に 消 ( き )えて 天 ( そら )の 膚 ( はだへ ) 解 ( と )け、 風 ( かぜ ) 清漪 ( せいい )を 動 ( うご )かして 水 ( みづ )の 面 ( おもて ) 皴 ( しわ )む、 雲消碧落天膚解。 風動清漪水面皴。 梅雨新霽 都良香 さうかくさはをいでてきりをひらきてまひ、 こはんみづにつらなりてくもときゆ、 双鶴 ( さうかく ) 皐 ( さは )を 出 ( い )でて 霧 ( きり )を 披 ( ひら )きて 舞 ( ま )ひ、 孤帆 ( こはん ) 水 ( みづ )に 連 ( つら )なりて 雲 ( くも )と 消 ( き )ゆ、 霜鶴出皐披霧舞。 孤帆連水与雲消。 高天澄遠色 菅原文時 すうにかへるつるまひてひたけてみゆ、 ゐにみづかふりようのぼりてくものこらず、 嵩 ( すう )に 帰 ( かへ )る 鶴 ( つる ) 舞 ( ま )ひて 日 ( ひ ) 高 ( た )けて 見 ( み )ゆ、 渭 ( ゐ )に 飲 ( みづか )ふ 龍 ( りよう ) 昇 ( のぼ )りて 雲 ( くも ) 残 ( のこ )らず、 帰嵩鶴舞日高見。 飲渭龍昇雲不残。 晴後山川清 大江以雪 かすみはれみどりのそらものどけくて あるかなきかにあそぶいとゆふ 読人不知 暁 ( あかつき ) かじんこと 〴 〵くしんしやうをかざりて、ぎきゆうにかねうごく、 いうしなほざんげつにゆきてかんこくににはとりなく、 佳人 ( かじん ) 尽 ( こと 〴 〵 )く 晨粧 ( しんしやう )を 飾 ( かざ )りて、 魏宮 ( ぎきゆう )に 鐘 ( かね ) 動 ( うご )く、 遊子 ( いうし )なほ 残月 ( ざんげつ )に 行 ( ゆ )きて 函谷 ( かんこく )に 鶏 ( にはとり ) 鳴 ( な )く、 佳人尽飾於晨粧。 魏宮鐘動。 遊子猶行於残月。 函谷鶏鳴。 暁賦 賈島 いくつらみなみにさるかり、 いつぺんにしにかたむくつき、 せいろにおもむきてひとりゆくし、 りよてんなほとざせり、 こじやうになきてもゝたびたゝかふいくさ、 こかいまだやまず、 幾行 ( いくつら ) 南 ( みなみ )に 去 ( さ )る 雁 ( かり )、 一片 ( いつぺん ) 西 ( にし )に 傾 ( かたむ )く 月 ( つき )、 征路 ( せいろ )に 赴 ( おもむ )きて 独 ( ひと )り 行 ( ゆ )く 子 ( し )、 旅店 ( りよてん )なほ 扃 ( とざ )せり、 孤城 ( こじやう )に 泣 ( な )きて 百 ( もゝ )たび 戦 ( たゝか )ふ 師 ( いくさ )、 胡 ( こ ) 笳 ( か )いまだ 歇 ( や )まず、 幾行南去之雁。 一片西傾之月。 赴征路而独行之子。 旅店猶扃。 泣胡城而百戦之師。 胡笳未歇。 同 謝観 よそほひをきんをくのなかにいつくしくして、 せいがまさにゑがけり、 えんをけいえんのうへにやめて、 こうしよくむなしくあまれり、 粧 ( よそほひ )を 金屋 ( きんをく )の 中 ( なか )に 厳 ( いつくし )くして、 青蛾 ( せいが ) 正 ( まさ )に 画 ( ゑが )けり、 宴 ( えん )を 瓊筵 ( けいえん )の 上 ( うへ )に 罷 ( や )めて、 紅燭 ( こうしよく ) 空 ( むな )しく 余 ( あま )れり、 厳粧金屋之中。 青蛾正画。 罷宴瓊筵之上。 紅燭空余。 同 同 ごせいのきゆうろうはじめてあけてのち、 いつてんのさうとうのきえなんとほつするとき、 五声 ( ごせい )の 宮漏 ( きゆうろう ) 初 ( はじ )めて 明 ( あ )けて 後 ( のち )、 一点 ( いつてん )の 窓燈 ( さうとう )の 滅 ( き )えなんと 欲 ( ほつ )する 時 ( とき )、 五声宮漏初明後。 一点窓燈欲滅時。 禁中夜作 白居易 後撰 あかつきのなからましかば白露の おきてわびしきわかれせましや 紀貫之 松 ( まつ ) たゞさうしようのみぎりのしたにあたるあり、 さらにいちじのこゝろのなかにいたるなし、 たゞ 双松 ( さうしよう )の 砌 ( みぎり )の 下 ( した )に 当 ( あた )るあり、 更 ( さら )に 一事 ( いちじ )の 心 ( こゝろ )の 中 ( なか )に 到 ( いた )るなし、 但有双松当砌下。 更無一事到心中。 新昌坊閑居 白居易 せいざんにゆきありてまつのせいをそらんじ、 へきらくにくもなくしてつるこゝろにかなへり、 青山 ( せいざん )に 雪 ( ゆき )ありて 松 ( まつ )の 性 ( せい )を 諳 ( そら )んじ、 碧落 ( へきらく )に 雲 ( くも )なくして 鶴 ( つる ) 心 ( こゝろ )に 称 ( かな )へり、 青山有雪諳松性。 碧落無雲称鶴心。 寄殷尭潘 許渾 せんぢやうゆきをしのぎて、 まさにけいかうのすがたにたとへつべし、 ひやくほかぜにみだる、 たれかやういふがしやをやぶらんや、 千丈 ( せんぢやう ) 雪 ( ゆき )を 凌 ( しの )ぎて、 まさに 稽康 ( けいかう )の 姿 ( すがた )に 喩 ( たと )へつべし、 百歩 ( ひやくほ ) 風 ( かぜ )に 乱 ( みだ )る、 誰 ( たれ )か 養由 ( やういふ )が 射 ( しや )を 破 ( やぶ )らんや、 千丈凌雪。 応喩稽康之姿。 百歩乱風。 誰破養由之射。 柳化物松賦 紀長谷雄 きうかさんぷくのあつきつきに、 たけにさくごのかぜをふくむ、 げんとうそせつのさむきあしたには、 まつにくんしのとくをあらはす、 九夏 ( きうか ) 三伏 ( さんぷく )の 暑 ( あつ )き 月 ( つき )に、 竹 ( たけ )に 錯午 ( さくご )の 風 ( かぜ )を 含 ( ふく )む、 玄冬 ( げんとう ) 素雪 ( そせつ )の 寒 ( さむ )き 朝 ( あした )には、 松 ( まつ )に 君子 ( くんし )の 徳 ( とく )を 彰 ( あらは )す、 九夏三伏之暑月 竹含錯午之風 玄冬素雪之寒朝 松彰君子之徳 河原院賦 順 じふはちこうのさかへはしもののちにあらはる、 いつせんねんのいろはゆきのうちにふかし、 十八公 ( じふはちこう )の 栄 ( さかへ )は 霜 ( しも )の 後 ( のち )に 露 ( あら )はる、 一千年 ( いつせんねん )の 色 ( いろ )は 雪 ( ゆき )の 中 ( うち )に 深 ( ふか )し、 十八公栄霜後露。 一千年色雪中深。 歳寒知松貞 同 あめをふくめるれいしやうはてんさらにはれ、 あきをやくりんえふはひかへつてさむし、 雨 ( あめ )を 含 ( ふく )める 嶺松 ( れいしやう )は 天 ( てん ) 更 ( さら )に 霽 ( は )れ、 秋 ( あき )を 焼 ( や )く 林葉 ( りんえふ )は 火 ( ひ ) 還 ( かへ )つて 寒 ( さむ )し、 含雨嶺松天更霽。 焼秋林葉火還寒。 山居秋晩 大江朝綱 古今 ときはなる松のみどりも春くれば いまひとしほの色まさりけり 源宗于 古今 われみてもひさしくなりぬすみよしの きしのひめまついく代へぬらん 読人不知 拾遺 あまくだるあら人かみのあひおひを おもへばひさしすみよしのまつ 安法法師 竹 ( たけ ) えんえふもうろうたりよををかすいろ、 ふうしせうさつたりあきならんとほつするこゑ、 煙葉 ( えんえふ ) 蒙籠 ( もうろう )たり 夜 ( よ )を 侵 ( をか )す 色 ( いろ )、 風枝 ( ふうし ) 蕭颯 ( せうさつ )たり 秋 ( あき )ならんと 欲 ( ほつ )する 声 ( こゑ )、 煙葉蒙籠侵夜色。 風枝蕭颯欲秋声。 和令孤相公栽竹 白居易 げんせきがうそぶくにはにはひとつきにあゆみ、 しいうがみるところにはとりけむりにすむ、 阮籍 ( げんせき )が 嘯 ( うそぶ )く 場 ( には )には 人 ( ひと ) 月 ( つき )に 歩 ( あゆ )み、 子猷 ( しいう )が 看 ( み )る 処 ( ところ )には 鳥 ( とり ) 煙 ( けむり )に 栖 ( す )む、 阮籍嘯場人歩月。 子猷看処鳥栖煙。 竹枝詞 章孝標 しんのきへいさんぐんわうしいう、 うゑてこのきみとしようす、 たうのたいしのひんかくはくらくてんは、 あいしてわがともとなす、 晋 ( しん )の 騎兵 ( きへい ) 参軍 ( さんぐん ) 王子猷 ( わうしいう )、 栽 ( う )ゑて 此 ( こ )の 君 ( きみ )と 称 ( しよう )す、 唐 ( たう )の 太子 ( たいし )の 賓客 ( ひんかく ) 白楽天 ( はくらくてん )は、 愛 ( あい )して 吾 ( わ )が 友 ( とも )となす、 晋騎兵参軍王子猷。 栽称此君。 唐太子賓客白楽天。 愛為吾友。 修竹冬青序 藤原篤茂 はうじゆんはいまだめいほうのくわんをぬきんでず、 はんこんはわづかにぐわりようのもんをてんず、 迸笋 ( はうじゆん )はいまだ 鳴鳳 ( めいほう )の 管 ( くわん )を 抽 ( ぬきん )でず、 盤根 ( はんこん )は 纔 ( わづ )かに 臥龍 ( ぐわりよう )の 文 ( もん )を 点 ( てん )ず、 迸笋未抽鳴鳳管。 盤根纔点臥龍文。 禁庭植竹 兼明親王 古今 世にふればことの葉しげきくれ竹の うきふしごとにうぐひすぞなく 読人不知 六帖 しぐれふるおとはすれども呉たけの など世とともに色もかはらぬ 素性 草 ( くさ ) さとうにあめはそむはん 〳 〵たるくさ、 すゐめんにかぜはかるしつ 〳 〵たるなみ、 沙頭 ( さとう )に 雨 ( あめ )は 染 ( そ )む 斑々 ( はん 〳 〵 )たる 草 ( くさ )、 水面 ( すゐめん )に 風 ( かぜ )は 駈 ( か )る 瑟々 ( しつ 〳 〵 )たる 波 ( なみ )、 沙頭雨染斑々草。 水面風駈瑟々波。 早春憶微之 白居易 せいしががんしよくはいまいづくにかある、 まさにしゆんぷうひやくさうのほとりにあるべし、 西施 ( せいし )が 顔色 ( がんしよく )は 今 ( いま ) 何 ( いづ )くにか 在 ( あ )る、 まさに 春風 ( しゆんぷう ) 百草 ( ひやくさう )の 頭 ( ほとり )に 在 ( あ )るべし、 西施顔色今何在。 応在春風百草頭。 春詞 元稹 へうたんしば 〳 〵むなし、 くさがんえんがちまたにしげし、 れいでうふかくとざせり、 あめげんけんがとぼそをうるほす、 瓢箪 ( へうたん )しば 〳 〵 空 ( むな )し、 草 ( くさ ) 顔淵 ( がんえん )が 巷 ( ちまた )に 滋 ( しげ )し、 藜蓼 ( れいでう ) 深 ( ふか )く 鎖 ( とざ )せり、 雨 ( あめ ) 原憲 ( げんけん )が 枢 ( とぼそ )を 湿 ( うるほ )す、 瓢箪屡空。 草滋顔淵之巷。 藜蓼深鎖。 雨湿原憲之枢。 申文 橘直幹 くさのいろはゆきはれてはじめてほごす、 とりのこゑはつゆあたたかにしてやうやくめんばんたり、 草 ( くさ )の 色 ( いろ )は 雪 ( ゆき ) 晴 ( は )れて 初 ( はじ )めて 布護 ( ほご )す、 鳥 ( とり )の 声 ( こゑ )は 露 ( つゆ ) 暖 ( あたた )かにして 漸 ( やうや )く 綿蛮 ( めんばん )たり、 草色雪晴初布護。 鳥声露暖漸綿蛮。 春日山居 後江相公 くわさんにうまありてひづめなほあらはる、 ふやにひとなくしてみちやうやくしげし、 華山 ( くわさん )に 馬 ( うま )ありて 蹄 ( ひづめ )なほ 露 ( あら )はる、 傅野 ( ふや )に 人 ( ひと )なくして 路 ( みち ) 漸 ( やうや )く 滋 ( しげ )し、 華山有馬蹄猶露。 傅野無人路漸滋。 遠草初含色 慶滋保胤 拾遺 かのをかに草かるをのこしかなかりそ ありつつも君がきまさんみまくさにせん 人丸 古今 おほあらきの森のした草おいぬれば こまもすさめずかる人もなし 作者名無し或源重之 新古今 やかずとも草はもえなんかすが野を ただはるの日にまかせたらなむ 壬生忠岑 鶴 ( つる ) きらふらくはせうじんにしてかうゐをふむことを、 つるくるまにのることあり、 にくむらくはりこうのはうかをくつがへすを、 すゞめよくいへをうがつ、 嫌 ( きら )ふらくは 小人 ( せうじん )にして 高位 ( かうゐ )を 踏 ( ふ )むことを、 鶴 ( つる ) 軒 ( くるま )に 乗 ( の )ることあり、 悪 ( にく )むらくは 利口 ( りこう )の 邦家 ( はうか )を 覆 ( くつがへ )すを、 雀 ( すゞめ )よく 屋 ( いへ )を 穿 ( うが )つ、 嫌少人而蹈高位 鶴有乗軒 悪利口之覆邦家 雀能穿屋 王鳳凰賦 賈島 りりようがこにいりしにおなじ、たゞいるゐをみる、 くつげんがそにありしににたり、しうじんみなゑへり、 李陵 ( りりよう )が 胡 ( こ )に 入 ( い )りしに 同 ( おな )じ、たゞ 異類 ( いるゐ )を 見 ( み )る、 屈原 ( くつげん )が 楚 ( そ )に 在 ( あ )りしに 似 ( に )たり、 衆人 ( しうじん ) 皆 ( みな ) 酔 ( ゑ )へり、 同李陵之入胡。 但見異類。 似屈原之在楚。 衆人皆酔。 鶴覆群鶏賦 皇甫会 こゑはちんじやうきたるせんねんのつる、 かげははいちゆうにおつごらうのみね、 声 ( こゑ )は 枕上 ( ちんじやう ) 来 ( きた )る 千年 ( せんねん )の 鶴 ( つる )、 影 ( かげ )は 盃中 ( はいちゆう )に 落 ( お )つ 五老 ( ごらう )の 峯 ( みね )、 声来枕上千年鶴。 影落盃中五老峯。 題元八渓居 白居易 せいれいすうせいまつのしたのつる、 かんくわういつてんたけのあひだのともしび、 清唳 ( せいれい ) 数声 ( すうせい ) 松 ( まつ )の 下 ( した )の 鶴 ( つる )、 寒光 ( かんくわう ) 一点 ( いつてん ) 竹 ( たけ )の 間 ( あひだ )の 燈 ( ともしび )、 清唳数声松下鶴。 寒光一点竹間燈。 在家出家 同 ならびまふていぜんはなのおつるところ、 すうせいはちじやうにつきのあきらかなるとき、 双 ( なら )び 舞 ( ま )ふ 庭前 ( ていぜん ) 花 ( はな )の 落 ( お )つる 処 ( ところ )、 数声 ( すうせい )は 池上 ( ちじやう )に 月 ( つき )の 明 ( あき )らかなる 時 ( とき )、 双舞庭前花落処。 数声池上月明時。 贈鶴詩 劉禹錫 つるはきうりにかへる、 ていれいゐがことばきくべし、 りようしんぎをむかふ、 たうあんこうがのりものまなこにあり、 鶴 ( つる )は 旧里 ( きうり )に 帰 ( かへ )る、 丁令威 ( ていれいゐ )が 詞 ( ことば ) 聴 ( き )くべし、 龍 ( りよう ) 新儀 ( しんぎ )を 迎 ( むか )ふ、 陶安公 ( たうあんこう )が 駕 ( のりもの ) 眼 ( まなこ )に 在 ( あ )り、 鶴帰旧里。 丁令威之詞可聴。 龍迎新儀。 陶安公之駕在眼。 神仙策 都良香 きごせいさはがしくしてそう 〳 〵としてにうす、 らうかくこゝろしづかにしてくわん 〳 〵としてねむる、 飢鼯 ( きご ) 性 ( せい ) 躁 ( さはが )しくして 忩々 ( そう 〳 〵 )として 乳 ( にう )す、 老鶴 ( らうかく ) 心 ( こゝろ ) 閑 ( しづ )かにして 緩々 ( くわん 〳 〵 )として 眠 ( ねむ )る、 飢鼯性躁忩々乳。 老鶴心閑緩々眠。 晩春題天台山 同 漢 ( そら )に 叫 ( さけ )びて 遥 ( はる )かに 孤枕 ( こちん )の 夢 ( ゆめ )を 驚 ( おどろ )かし、 風 ( かぜ )に 和 ( くわ )して 漫 ( みだ )りに 五絃 ( ごげん )の 弾 ( たん )に 入 ( い )る、 叫漢遥驚孤枕夢。 和風漫入五絃弾。 霜天夜聞鶴声 源順 万葉 わかのうらにしほみちくればかたをなみ あしべをさしてたづなきわたる 山部赤人 拾遺 おほぞらにむれゐるたづのさしながら おもふこころのありげなるかな 伊勢 家集 あまつかぜふけゐのうらにゐるたづの などかくも井にかへらざるべき 藤原清正 猿 ( さる ) えうだいしもみてり、 いつせいのげんかくてんになく、 はかふあきふかし、 ごやのあいゑんつきにさけぶ、 瑶台 ( えうだい ) 霜 ( しも ) 満 ( み )てり、 一声 ( いつせい )の 玄鶴 ( げんかく ) 天 ( てん )に 唳 ( な )く、 巴峡 ( はかふ ) 秋 ( あき ) 深 ( ふか )し、 五夜 ( ごや )の 哀猿 ( あいゑん ) 月 ( つき )に 叫 ( さけ )ぶ、 瑶台霜満。 一声之玄鶴唳天。 巴峡秋深。 五夜之哀猿叫月。 清賦 謝観 えははかふよりはじめてじをなし、 さるはふやうをすぎてはじめてはらわたをたつ、 江 ( え )は 巴峡 ( はかふ )より 初 ( はじ )めて 字 ( じ )を 成 ( な )し、 猿 ( さる )は 巫陽 ( ふやう )を 過 ( す )ぎて 始 ( はじ )めて 腸 ( はらわた )を 断 ( た )つ、 江従巴峡初成字。 猿過巫陽始断腸。 送蕭処士遊黔南 白居易 さんせいのさるののちきやうるゐをたる、 いちえふのふねのなかにびやうしんをのす、 三声 ( さんせい )の 猿 ( さる )の 後 ( のち ) 郷涙 ( きやうるゐ )を 垂 ( た )る、 一葉 ( いちえふ )の 舟 ( ふね )の 中 ( なか )に 病身 ( びやうしん )を 載 ( の )す、 三声猿後垂郷涙。 一葉舟中載病身。 舟夜贈内 同 こがんいつせい、あきしやうかくのゆめをやぶる、 はゑんみたびさけびて、あかつきかうじんのもすそをうるほす、 胡雁 ( こがん ) 一声 ( いつせい )、 秋 ( あき ) 商客 ( しやうかく )の 夢 ( ゆめ )を 破 ( やぶ )る、 巴猿 ( はゑん ) 三 ( み )たび 叫 ( さけ )びて、 暁 ( あかつき ) 行人 ( かうじん )の 裳 ( もすそ )を 霑 ( うる )ほす、 胡鴈一声。 秋破商客之夢。 巴猿三叫。 暁霑行人之裳。 山水策 大江澄明 じんえんいつすゐのあきのむらさかれり、 さるさけびてさんせいあかつきのけうふかし、 人煙 ( じんえん ) 一穂 ( いつすゐ )の 秋 ( あき )の 村 ( むら ) 僻 ( さ )かれり、 猿 ( さる ) 叫 ( さけ )びて 三声 ( さんせい ) 暁 ( あかつき )の 峡 ( けう ) 深 ( ふか )し、 人煙一穂秋村僻。 猿叫三声暁峡深。 秋山閑望 紀長谷雄 けうかふつたふかくしてさるひとたびさけぶ、 ぼりんはなおちてとりまづなく、 暁峡 ( けうかふ ) 蘿 ( つた ) 深 ( ふか )くして 猿 ( さる ) 一 ( ひと )たび 叫 ( さけ )ぶ、 暮林 ( ぼりん ) 花 ( はな ) 落 ( お )ちて 鳥 ( とり ) 先 ( ま )づ 啼 ( な )く、 暁峡蘿深猿一叫。 暮林花落鳥先啼。 山中感懐 大江音人 たにしづかにしてわづかにさんてうのぎよをきき、 かけはしあやふくしてなゝめにかふゑんのこゑをふむ、 谷 ( たに ) 静 ( しづ )かにして 纔 ( わづ )かに 山鳥 ( さんてう )の 語 ( ぎよ )を 聞 ( き )き、 梯 ( かけはし ) 危 ( あやふ )くして 斜 ( なゝめ )に 峡猿 ( かふゑん )の 声 ( こゑ )を 踏 ( ふ )む、 谷静纔聞山鳥語。 梯危斜踏峡猿声。 送帰山僧 同 古今 わびしらにましらななきそあしびきの やまのかひあるけふにやはあらぬ 凡河内躬恒 管絃 ( くわんぐゑん ) 附舞妓 いつせいのほうくわんはあきしんれいのくもをおどろかし、 すうはくのげいしやうはあかつきこうざんのつきをおくる、 一声 ( いつせい )の 鳳管 ( ほうくわん )は 秋 ( あき ) 秦嶺 ( しんれい )の 雲 ( くも )を 驚 ( おどろ )かし、 数拍 ( すうはく )の 霓裳 ( げいしやう )は 暁 ( あかつき ) 緱山 ( こうざん )の 月 ( つき )を 送 ( おく )る、 一声鳳管。 秋驚秦嶺之雲。 数拍霓裳。 暁送緱山之月。 蓮昌宮賦 公乗憶 だいいちだいにのいとはさく 〳 〵たり、 あきのかぜまつをはらひてそいんおつ、 だいさんだいしのいとはれい 〳 〵たり、 よるのつるこをおもひてろうちうになく、 だいごのいとのこゑもつともえんよくす、 ろうすゐこほりむせんでながるゝことをえず、 第一第二 ( だいいちだいに )の 絃 ( いと )は 索々 ( さく 〳 〵 )たり、 秋 ( あき )の 風 ( かぜ ) 松 ( まつ )を 払 ( はら )ひて 疎韻 ( そいん ) 落 ( お )つ、 第三第四 ( だいさんだいし )の 絃 ( いと )は 冷々 ( れい 〳 〵 )たり、 夜 ( よる )の 鶴 ( つる ) 子 ( こ )を 憶 ( おも )ひて 籠中 ( ろうちう )に 鳴 ( な )く、 第五 ( だいご )の 絃 ( いと )の 声 ( こゑ )もつとも 掩抑 ( えんよく )す、 隴水 ( ろうすゐ ) 凍 ( こほ )り 咽 ( むせ )んで 流 ( なが )るゝことを 得 ( え )ず、 第一第二絃索々。 秋風払松疎韻落。 第三第四絃冷々。 夜鶴憶子篭中鳴。 第五絃声尤掩抑。 滝水凍咽流不得。 五絃弾 白居易 ずゐぶんのくわんげんはかへつてみづからたれり、 なほざりのへんえいひとにしられたり 随分 ( ずゐぶん )の 管絃 ( くわんげん )は 還 ( かへ )つて 自 ( みづか )ら 足 ( た )れり、 等閑 ( なほざり )の 篇詠 ( へんえい ) 人 ( ひと )に 知 ( し )られたり 随分管絃還自足。 等閑篇詠被人知。 重答劉和州 同 にはかにともしびのもとにきぬをたつふをして、 あやまりてどうしんいつぺんのはなをきらしむ、 頓 ( にはか )に 燈 ( ともしび )の 下 ( もと )に 衣 ( きぬ )を 裁 ( た )つ 婦 ( ふ )をして、 誤 ( あやま )りて 同心 ( どうしん ) 一片 ( いつぺん )の 花 ( はな )を 剪 ( き )らしむ、 頓令燈下裁衣婦。 誤剪同心一片花。 聞夜笛 章孝標 らきのちよういたるは、 なさけなきことをきふにねたむ、 くわんげんのちやうきよくにあるは、 をへざることをれいじんにいかる、 羅綺 ( らき )の 重衣 ( ちようい )たるは、 情 ( なさけ )なきことを 機婦 ( きふ )に 妬 ( ねた )む、 管絃 ( くわんげん )の 長曲 ( ちやうきよく )に 在 ( あ )るは、 闋 ( を )へざることを 伶人 ( れいじん )に 怒 ( いか )る、 羅綺之為重衣。 妬無情於機婦。 管絃之在長曲。 怒不闋於伶人。 春娃無気力詩序 菅原道真 らくばいきよくふりてくちびるゆきをふき、 せつりうこゑあらたにしててにけむりをにぎる、 落梅 ( らくばい ) 曲 ( きよく ) 旧 ( ふ )りて 唇 ( くちびる ) 雪 ( ゆき )を 吹 ( ふ )き、 折柳 ( せつりう ) 声 ( こゑ ) 新 ( あら )たにして 手 ( て )に 煙 ( けむり )を 掬 ( にぎ )る、 落梅曲旧脣吹雪。 折柳声新手掬煙。 同 しやうじよはむかしぶんくんをいどみてえたり、 れんちゆうをしてしさいにきかしむることなかれ、 相如 ( しやうじよ )は 昔 ( むかし ) 文君 ( ぶんくん )を 挑 ( いど )みて 得 ( え )たり、 簾中 ( れんちゆう )をして 子細 ( しさい )に 聴 ( き )かしむることなかれ、 相如昔挑文君得。 莫使簾中子細聴。 听弾琴 惟高親王 拾遺 ことのねにみねのまつかぜかよふらし いづれのをよりしらべそめけん 文詞 ( ぶんし ) 附遺文 ちんしふつえつたりいうぎよのつりばりをふくみてしんえんのそこよりいづるがごとし、 ふさうれんべんたりかんてうのいぐるみにかゝりてそううんのさかしきよりおつるがごとし、 沈詞 ( ちんし ) 怫悦 ( ふつえつ )たり 遊魚 ( いうぎよ )の 鉤 ( つりばり )を 銜 ( ふく )みて 深淵 ( しんえん )の 底 ( そこ )より 出 ( い )づるがごとし、 浮藻 ( ふさう ) 聯翩 ( れんべん )たり 翰鳥 ( かんてう )の 繳 ( いぐるみ )に 纓 ( かゝ )りて 曾雲 ( そううん )の 峻 ( さか )しきより 墜 ( お )つるがごとし、 沈詞怫悦。 若遊魚銜鉤出深淵之底。 浮藻聯翩。 若翰鳥嬰繳墜曾雲之峻。 文選文賦 陸士衡 ゐぶんさんじふぢく、 ぢく 〳 〵にきんぎよくのこゑあり、 りようもんげんじやうのつち、 ほねをうづむれどもなをうづめず 遺文 ( ゐぶん ) 三十軸 ( さんじふぢく )、 軸々 ( ぢく 〳 〵 )に 金玉 ( きんぎよく )の 声 ( こゑ )あり、 龍門 ( りようもん ) 原上 ( げんじやう )の 土 ( つち )、 骨 ( ほね )を 埋 ( うづ )むれども 名 ( な )を 埋 ( うづ )めず 遺文三十軸。 軸軸金玉声。 龍門原上土。 埋骨不埋名。 題故元少尹集 白居易 げんぎよはたくみにあうむのしたをぬすみ、 ぶんしやうはほうわうのけをわかちえたり、 言語 ( げんぎよ )は 巧 ( たく )みに 鸚鵡 ( あうむ )の 舌 ( した )を 偸 ( ぬす )み、 文章 ( ぶんしやう )は 鳳凰 ( ほうわう )の 毛 ( け )を 分 ( わか )ち 得 ( え )たり、 言語巧偸鸚鵡舌。 文章分得鳳凰毛。 贈薛濤 元稹 きんちやうあかつきにひらくうんぼのでん、 はくしゆあきはうつすすゐしやうばん 錦帳 ( きんちやう ) 暁 ( あかつき )に 開 ( ひら )く 雲母 ( うんぼ )の 殿 ( でん )、 白珠 ( はくしゆ ) 秋 ( あき )は 写 ( うつ )す 水精 ( すゐしやう ) 盤 ( ばん ) 錦帳暁開雲母殿。 白珠秋写水精盤。 讃韓侍郎及弟詩 章孝標 さくじつのさんちゆうのきはざいをおのれにとる、 こんにちのていぜんのはなことばをひとにはづ、 昨日 ( さくじつ )の 山中 ( さんちゆう )の 木 ( き )は 材 ( ざい )を 己 ( おのれ )に 取 ( と )る、 今日 ( こんにち )の 庭前 ( ていぜん )の 花 ( はな ) 詞 ( ことば )を 人 ( ひと )に 慙 ( は )づ、 昨日山中之木材取於己。 今日庭前之花詞慙於人。 雨来花自湿詩序 菅原篤茂 わうらうはちえふのまご、 じよせんじがきうさうをふ、 こうあんはいちじのとも、 はんべつががゐぶんをあつむ、 王朗 ( わうらう ) 八葉 ( はちえふ )の 孫 ( まご )、 徐詹事 ( じよせんじ )が 旧草 ( きうさう )を 摭 ( ひろ )ふ、 江淹 ( こうあん )は 一時 ( いちじ )の 友 ( とも )、 范別駕 ( はんべつが )が 遺文 ( ゐぶん )を 集 ( あつ )む、 王朗八葉之孫。 摭徐詹事之旧草。 江淹一時之友。 集范別駕之遺文。 敬公集序 源順 ちんこうしやうがことばはむなしくやまひをいやし、 ばしやうじよがふはたゞくもをしのぐ、 陳孔章 ( ちんこうしやう )が 詞 ( ことば )は 空 ( むな )しく 病 ( やまひ )を 愈 ( いや )し、 馬相如 ( ばしやうじよ )が 賦 ( ふ )はたゞ 雲 ( くも )を 凌 ( しの )ぐ、 陳孔章詞空愈病。 馬相如賦只凌雲。 題英明集 橘在列 ぞうしやくのしんおんはめいをいしにきざみ、 くわくりんこうしふはよゝきうをしる、 贈爵 ( ぞうしやく )の 新恩 ( しんおん )は 銘 ( めい )を 石 ( いし )に 刻 ( きざ )み、 獲麟 ( くわくりん ) 後集 ( こうしふ )は 世 ( よゝ ) 丘 ( きう )を 知 ( し )る、 贈爵新恩銘刻石。 獲麟後集世知丘。 過菅丞相廟拝安楽寺 大江以言 古今 いつはりのなきよなりせばいかばかり ひとのことのはうれしからまし 読人不知 酒 ( さけ ) 新豊 ( しんぽう )の 酒 ( さけ )の 色 ( いろ )は、 鸚鵡 ( あうむ ) 盃 ( はい )の 中 ( うち )に 清冷 ( せいれい )たり、 長楽 ( ちやうらく )の 歌 ( うた )の 声 ( こゑ )は、 鳳凰 ( ほうわう ) 管 ( くわん )の 裏 ( うち )に 幽咽 ( いうえつ )す、 新豊酒色。 清冷於鸚鵡之盃中。 長楽歌声。 幽咽於鳳凰之管裏。 送友人帰大梁賦 公乗億 しんのけんゐしやうぐんりうはくりんは、 さけをたしなみてしゆとくのしやうをつくりよにつたふ、 たうのたいしのひんかくはくらくてんも、 またさけをたしなみしゆこうのさんをつくり、もつてこれにつぐ、 晋 ( しん )の 建威将軍 ( けんゐしやうぐん ) 劉伯倫 ( りうはくりん )は、 酒 ( さけ )を 嗜 ( たしな )みて 酒徳 ( しゆとく )の 頌 ( しやう )を 作 ( つく )り 世 ( よ )に 伝 ( つた )ふ、 唐 ( たう )の 太子 ( たいし )の 賓客 ( ひんかく ) 白楽天 ( はくらくてん )も、 また 酒 ( さけ )を 嗜 ( たしな )み 酒功 ( しゆこう )の 讚 ( さん )を 作 ( つく )り、 以 ( もつ )てこれに 継 ( つ )ぐ、 晋建威将軍劉伯倫嗜酒。 作酒徳頌伝於世。 唐太子賓客白楽天亦嗜酒。 作酒功讚以継之。 酒功賛序 白居易 かぜにのぞめるせうしうのき、 さけにたいするちやうねんのひと、 ゑへるかほはさうえふのごとし、 くれなゐといへどもこれはるならず、 風 ( かぜ )に 臨 ( のぞ )める 抄秋 ( せうしう )の 樹 ( き )、 酒 ( さけ )に 対 ( たい )する 長年 ( ちやうねん )の 人 ( ひと )、 酔 ( ゑ )へる 貎 ( かほ )は 霜葉 ( さうえふ )のごとし、 紅 ( くれなゐ )といへどもこれ 春 ( はる )ならず、 臨風抄秋樹。 対酒長年人。 酔貎如霜葉。 雖紅不是春。 酔中対紅葉 同 せいけいなげうちきたるしこれげふたり、 かゑんばうきやくしてさけをきやうとなす、 生計 ( せいけい ) 抛 ( なげう )ち 来 ( きた )る 詩 ( し )これ 業 ( げふ )たり、 家園 ( かゑん ) 忘却 ( ばうきやく )して 酒 ( さけ )を 郷 ( きやう )となす、 生計抛来詩是業。 家園忘却酒為郷。 送蕭処士遊黔南 同 ちやはよくもんをさんずれどもこうをなすことあさし、 けんはうれひをわするといへどもちからをうることかすかなり、 茶 ( ちや )はよく 悶 ( もん )を 散 ( さん )ずれども 功 ( こう )をなすこと 浅 ( あさ )し、 萱 ( けん )は 憂 ( うれ )ひを 忘 ( わす )るといへども 力 ( ちから )を 得 ( う )ること 微 ( かすか )なり、 茶能散悶為功浅。 萱噵忘憂得力微。 賞酒之詩 同 もしえいきをしてかねてゑひをげせしめば、 まさにしらくといふべしみつとはいはじ、 もし 栄期 ( えいき )をして 兼 ( か )ねて 酔 ( ゑ )ひを 解 ( げ )せしめば、 まさに 四楽 ( しらく )と 言 ( い )ふべし 三 ( み )つとは 言 ( い )はじ、 若使栄期兼解酔。 応言四楽不言三。 すゐきやうしのくには、 しいじひとりおんくわのてんにほこり、 しゆせんぐんのたみは、 いつけういまだごいんのちをしらず、 酔郷氏 ( すゐきやうし )の 国 ( くに )は、 四時 ( しいじ )ひとり 温和 ( おんくわ )の 天 ( てん )に 誇 ( ほこ )り、 酒泉郡 ( しゆせんぐん )の 民 ( たみ )は、 一頃 ( いつけう )いまだ 沍陰 ( ごいん )の 地 ( ち )を 知 ( し )らず、 酔郷氏之国。 四時独誇温和之天。 酒泉郡之民。 一頃未知沍陰之地。 煖寒従飲酒詩序 大江匡衡 このみすなはちじやうりんゑんのけんずるところ、 ふくめばおのづからきゆ、 さけはこれかじやくそんのつたふるところ、 かたむくればはなはだびなり、 菓 ( このみ )すなはち 上林苑 ( じやうりんゑん )の 献 ( けん )ずるところ、 含 ( ふく )めば 自 ( おのづか )ら 消 ( き )ゆ、 酒 ( さけ )はこれ 下若村 ( かじやくそん )の 伝 ( つた )ふるところ、 傾 ( かたむ )くれば 甚 ( はなは )だ 美 ( び )なり、 菓則上林苑之所献。 含自消。 酒是下若村之所伝。 傾甚美。 内宴詩序 大江朝綱 まづげんせきにあひてきやうだうとなし、 やうやくりうれいにつきてどふうをとふ、 先 ( ま )づ 阮籍 ( げんせき )に 逢 ( あ )ひて 郷導 ( きやうだう )と 為 ( な )し、 漸 ( やうや )く 劉伶 ( りうれい )に 就 ( つ )きて 土風 ( どふう )を 問 ( と )ふ、 先逢阮籍為郷導。 漸就劉伶問土風。 入酔郷贈納言 橘相公 さとはけんとくにとなりてかうほにあらず、 さかひはむかにせつしてすなはちざばうす、 邑 ( さと )は 建徳 ( けんとく )に 隣 ( とな )りて 行歩 ( かうほ )にあらず、 境 ( さかひ )は 無何 ( むか )に 接 ( せつ )してすなはち 坐亡 ( ざばう )す、 邑隣建徳非行歩。 境接無何便坐亡。 同前後中書王 わうせきがさとのかすみはなみをめぐりてもろく、 けいかうがやまのゆきはながれをおひてとぶ、 王勣 ( わうせき )が 郷 ( さと )の 霞 ( かすみ )は 浪 ( なみ )を 繞 ( めぐ )りて 脆 ( もろ )く、 嵆康 ( けいかう )が 山 ( やま )の 雪 ( ゆき )は 流 ( ながれ )を 逐 ( お )ひて 飛 ( と )ぶ、 王勣郷霞繞浪脆。 嵆康山雪逐流飛。 酔看落水花 慶滋保胤 拾遺 ありあけのここちこそすれさかづきの ひかりもそひていでぬとおもへば 大中臣能宣 山 ( やま ) 附山水 まゆずみのいろははるかにさうかいのうへにのぞみ、 いづみのこゑははるかにはくうんのうちにおつ、 黛 ( まゆずみ )の 色 ( いろ )は 迥 ( はる )かに 蒼海 ( さうかい )の 上 ( うへ )に 臨 ( のぞ )み、 泉 ( いづみ )の 声 ( こゑ )は 遥 ( はる )かに 白雲 ( はくうん )の 中 ( うち )に 落 ( お )つ、 黛色迥臨蒼海上。 泉声遥落白雲中。 題百丈山 賀蘭暹 しようちはもとよりさだまれるあるじなし、 おほむねやまはやまをあいするひとにぞくす、 勝地 ( しようち )はもとより 定 ( さだ )まれる 主 ( あるじ )なし、 おほむね 山 ( やま )は 山 ( やま )を 愛 ( あい )する 人 ( ひと )に 属 ( ぞく )す、 勝地本来無定主。 大都山属愛山人。 遊雲居寺贈穆三十六地主 白居易 よるのつるねむりおどろきしようげつさやかなり、 あかつきむさゝびとびおちてかふえんさむし、 夜 ( よる )の 鶴 ( つる ) 眠 ( ねむ )り 驚 ( おどろ )き 松月 ( しようげつ ) 苦 ( さやか )なり、 暁 ( あかつき ) 鼯 ( むさゝび ) 飛 ( と )び 落 ( お )ちて 峡煙 ( かふえん ) 寒 ( さむ )し、 夜鶴眠驚松月苦。 暁鼯飛落峡煙寒。 題遥嶺暮烟 都在中 ぐわんせんなげうちきたりてせいたいあらはれ、 らゐまきしりぞけてすいへいあきらかなり、 紈扇 ( ぐわんせん ) 抛 ( なげう )ち 来 ( きた )りて 青黛 ( せいたい ) 露 ( あら )はれ、 羅帷 ( らゐ ) 巻 ( ま )き 却 ( しりぞ )けて 翠屏 ( すいへい ) 明 ( あき )らかなり、 紈扇抛来青黛露。 羅帷巻却翠屏明。 遠山暮烟歛 具平親王 しゆうらいあかつきおこりてはやしのいたゞきおいたり、 ぐんげんくれにたゝきてたにのそこさむし、 衆籟 ( しゆうらい ) 暁 ( あかつき ) 興 ( おこ )りて 林 ( はやし )の 頂 ( いたゞき ) 老 ( お )いたり、 群源 ( ぐんげん ) 暮 ( くれ )に 叩 ( たゝ )きて 谷 ( たに )の 心 ( そこ ) 寒 ( さむ )し、 衆籟暁興林頂老。 群源暮叩谷心寒。 秋声多在山 大江以言 拾遺 なのみしてやまはみかさもなかりけり あさひゆふひのさすにまかせて 紀貫之 拾遺 くものゐるこしのしらやまおいにけり おほくのとしの雪つもりつつ 壬生忠見 拾遺 みわたせばまつの葉しろきよしのやま いく世つもれるゆきにかあるらん 平兼盛 山水 ( さんすゐ ) たいさんはどじやうをゆづらず、 ゆゑによくそのたかきことをなし、 かかいはさいりうをいとはず、 ゆゑによくそのふかきことをなす、 泰山 ( たいさん )は 土壌 ( どじやう )を 譲 ( ゆづ )らず、 故 ( ゆゑ )によくその 高 ( たか )きことを 成 ( な )し、 河海 ( かかい )は 細流 ( さいりう )を 厭 ( いと )はず、 故 ( ゆゑ )によくその 深 ( ふか )きことを 成 ( な )す、 泰山不譲土壌。 故能成其高。 河海不厭細流。 故能成其深。 上秦王書 李斯 はゑんひとたびさけびて ふねをめいげつかうのほとりにとゞめ、 こばたちまちにいばえて みちをくわうさせきのうちにうしなふ、 巴猿 ( はゑん ) 一 ( ひと )たび 叫 ( さけ )びて 舟 ( ふね )を 明月峡 ( めいげつかう )の 辺 ( ほとり )に 停 ( とゞ )め、 胡馬 ( こば ) 忽 ( たちま )ちに 嘶 ( いば )えて 路 ( みち )を 黄沙磧 ( くわうさせき )の 裏 ( うち )に 失 ( うしな )ふ、 巴猿一叫停舟於明月峡之辺。 胡馬忽嘶失路於黄沙磧之裏。 愁賦 公乗徳 ひをさへぎるぼさんはあをくしてぞく 〳 〵たり、 てんをひたすしうすゐはしろくしてばう 〳 〵たり、 日 ( ひ )を 礙 ( さへぎ )る 暮山 ( ぼさん )は 青 ( あを )くして 簇々 ( ぞく 〳 〵 )たり、 天 ( てん )を 浸 ( ひた )す 秋水 ( しうすゐ )は 白 ( しろ )くして 茫々 ( ばう 〳 〵 )たり、 礙日暮山青簇々。 浸天秋水白茫々。 登西楼憶行簡 白居易 ぎよしうのひのかげはさむくしてなみをやき、 えきろのすゞのこゑはよるやまをすぐ、 漁舟 ( ぎよしう )の 火 ( ひ )の 影 ( かげ )は 寒 ( さむ )くして 浪 ( なみ )を 焼 ( や )き、 駅路 ( えきろ )の 鈴 ( すゞ )の 声 ( こゑ )は 夜 ( よる ) 山 ( やま )を 過 ( す )ぐ、 漁舟火影寒焼浪。 駅路鈴声夜過山。 秋夜宿臨江駅 杜荀鶴 やまはびやうぶににこうはたかむしろににたり、 ふなばたをたゝきてらいわうすつきのあきらかなるうち、 山 ( やま )は 屏風 ( びやうぶ )に 似 ( に ) 江 ( こう )は 簟 ( たかむしろ )に 似 ( に )たり、 舷 ( ふなばた )を 叩 ( たゝ )きて 来往 ( らいわう )す 月 ( つき )の 明 ( あき )らかなる 中 ( うち )、 山似屏風江似簟。 叩舷来往月明中。 劉禹錫 さうもくふそたり、 はるのかぜさんぎのかみをくしけづり、 ぎよべついうぎす、 あきのみづかはくのたみをやしなふ、 草木 ( さうもく ) 扶疎 ( ふそ )たり、 春 ( はる )の 風 ( かぜ ) 山祇 ( さんぎ )の 髪 ( かみ )を 梳 ( くしけづ )り、 魚鼈 ( ぎよべつ ) 遊戯 ( いうぎ )す、 秋 ( あき )の 水 ( みづ ) 河伯 ( かはく )の 民 ( たみ )を 養 ( やしな )ふ、 草木扶疎。 春風梳山祇之髪。 魚鼈遊戯。 秋水養河伯之民。 山水策 大江澄明 かんかうひとりゆくすみか、 くわやくもとのごとし、 はんれいへんしうのとまり、 えんぱこれあらたなり 韓康 ( かんかう ) 独 ( ひとり ) 往 ( ゆ )く 栖 ( すみか )、 花薬 ( くわやく ) 旧 ( もと )のごとし、 范蠡 ( はんれい ) 扁舟 ( へんしう )の 泊 ( とまり )、 煙波 ( えんぱ )これ 新 ( あら )たなり 韓康独往之栖。 花薬如旧。 范蠡扁舟之泊。 煙波惟新。 同 大江澄明 やままたやま、いづれのたくみかせいがんのかたちをけづりなせる、 みづまたみづ、たれがいへにかへきたんのいろをそめいだせる 山 ( やま )また 山 ( やま )、 何 ( いづ )れの 工 ( たくみ )か 青巌 ( せいがん )の 形 ( かたち )を 削 ( けづ )り 成 ( な )せる、 水 ( みづ )また 水 ( みづ )、 誰 ( た )れが 家 ( いへ )にか 碧潭 ( へきたん )の 色 ( いろ )を 染 ( そ )め 出 ( い )だせる 山復山。 何工削成青巌之形。 水復水。 誰家染出碧澗之色。 同 大江澄明 さんいうのゑんじゆはくものひらくるところ、 かいがんのこそんはひのはるゝとき、 山郵 ( さんいう )の 遠樹 ( ゑんじゆ )は 雲 ( くも )の 開 ( ひら )くる 処 ( ところ )、 海岸 ( かいがん )の 孤村 ( こそん )は 日 ( ひ )の 霽 ( は )るゝ 時 ( とき )、 山郵遠樹雲開処。 海岸孤村日霽時。 春日送別 橘直幹 やまはきやうはいをなすしややうのうち、 みづはくわいりうににたりじんらいのあひだ、 山 ( やま )は 向背 ( きやうはい )を 成 ( な )す 斜陽 ( しややう )の 裏 ( うち )、 水 ( みづ )は 廻流 ( くわいりう )に 似 ( に )たり 迅瀬 ( じんらい )の 間 ( あひだ )、 山成向背斜陽裏。 水似廻流迅瀬間。 春日山居 大江朝綱 拾遺 神なびのみむろのきしやくづるらん たつたの川の水のにごれる 高向草春 水 ( みづ ) 附漁父 へんじやうのぼくばしきりにいばふ、 へいさびやうびやうたり、 かうろのせいはんこと 〴 〵くさる、 ゑんがんさうさうたり、 辺城 ( へんじやう )の 牧馬 ( ぼくば )しきりに 嘶 ( いば )ふ、 平沙 ( へいさ ) 眇々 ( びやうびやう )たり、 江路 ( かうろ )の 征帆 ( せいはん )こと 〴 〵く 去 ( さ )る、 遠岸 ( ゑんがん ) 蒼々 ( さうさう )たり、 辺城之牧馬連嘶。 平沙眇々。 江路之征帆尽去。 遠岸蒼々。 暁賦 謝観 しふはかんばしくしてとじやくなかごをぬきいでゝちやうぜり、 すなはあたゝかにしてゑんあうつばさをしきてねむる、 州 ( しふ )は 芳 ( かんば )しくして 杜若 ( とじやく ) 心 ( なかご )を 抽 ( ぬきい )でゝ 長 ( ちやう )ぜり、 沙 ( すな )は 暖 ( あたゝ )かにして 鴛鴦 ( ゑんあう ) 翅 ( つばさ )を 敷 ( し )きて 眠 ( ねむ )る、 州芳杜若抽心長。 沙暖鴛鴦敷翅眠。 楽府、昆明春水満詩 白居易 ほひらきてはせいさうこのうちにさり、 ころもうるほひてはくわうばいうのうちにゆく、 帆 ( ほ ) 開 ( ひら )きては 青草湖 ( せいさうこ )の 中 ( うち )に 去 ( さ )り、 衣 ( ころも ) 湿 ( うる )ほひては 黄梅雨 ( くわうばいう )の 裏 ( うち )に 行 ( ゆ )く、 帆開青草湖中去。 衣湿黄梅雨裏行。 送客之湖南 白居易 すゐえきのみちはじてんのつきをうがち、 くわせんのさをはぢよこのはるにいる、 水駅 ( すゐえき )の 路 ( みち )は 児店 ( じてん )の 月 ( つき )を 穿 ( うが )ち、 華船 ( くわせん )の 棹 ( さを )は 女湖 ( ぢよこ )の 春 ( はる )に 入 ( い )る、 水駅路穿児店月。 華船棹入女湖春。 送劉郎中赴任蘇州 白居易 ころのひさごははるのこまやかなるさけをくみ、 さくばうのふねはよるのみなぎるなだにながる、 菰蘆 ( ころ )の 杓 ( ひさご )は 春 ( はる )の 濃 ( こま )やかなる 酒 ( さけ )を 酌 ( く )み、 舴艋 ( さくばう )の 舟 ( ふね )は 夜 ( よる )の 漲 ( みなぎ )る 灘 ( なだ )に 流 ( なが )る、 菰蘆杓酌春濃酒。 舴艋舟流夜漲灘。 贈戯漁家 杜荀鶴 かんきよはたれびとにかぞくする、 ししいでんのほんしゆなり、 しうすゐはいづれのところにかみる、 すざくゐんのしんかなり、 閑居 ( かんきよ )は 誰人 ( たれびと )にか 属 ( ぞく )する、 紫宸殿 ( ししいでん )の 本主 ( ほんしゆ )なり、 秋水 ( しうすゐ )は 何 ( いづ )れの 処 ( ところ )にか 見 ( み )る、 朱雀院 ( すざくゐん )の 新家 ( しんか )なり、 閑居属於誰人。 紫宸殿之本主也。 秋水見於何処。 朱雀院之新家也。 閑居楽秋水序 菅原道真 つりをたるゝものはうををえず、 あんにふいうのこゝろあることをおもひ、 さををうつすものはたゞかりをきく、 はるかにりよしゆくのときにしたがふことをかんず、 釣 ( つり )を 垂 ( た )るゝ 者 ( もの )は 魚 ( うを )を 得 ( え )ず、 暗 ( あん )に 浮遊 ( ふいう )の 意 ( こゝろ )あることを 思 ( おも )ひ、 棹 ( さを )を 移 ( うつ )す 者 ( もの )はたゞ 雁 ( かり )を 聞 ( き )く、 遥 ( はる )かに 旅宿 ( りよしゆく )の 時 ( とき )に 随 ( したが )ふことを 感 ( かん )ず、 垂釣者不得魚。 暗思浮遊之有意。 移棹者唯聞雁。 遥感旅宿之随時。 同 菅原道真 さとうにいんをきざむかもめのあそぶところ、 すゐていにしよをうつすかりのわたるとき、 沙頭 ( さとう )に 印 ( いん )を 刻 ( きざ )む 鴎 ( かもめ )の 遊 ( あそ )ぶ 処 ( ところ )、 水底 ( すゐてい )に 書 ( しよ )を 模 ( うつ )す 雁 ( かり )の 度 ( わた )る 時 ( とき )、 沙頭刻印鴎遊処。 水底模書鴈度時。 題洞庭湖 大江朝綱 につきやくなみたひらかにしてこたうくれ、 ふうとうきしとほくしてきやくはんさむし、 日脚 ( につきやく ) 波 ( なみ ) 平 ( たひら )かにして 孤嶋 ( こたう ) 暮 ( く )れ、 風頭 ( ふうとう ) 岸 ( きし ) 遠 ( とほ )くして 客帆 ( きやくはん ) 寒 ( さむ )し、 日脚波平孤嶋暮。 風頭岸遠客帆寒。 海浜書懐 平佐幹 古今 としをへて花のかがみとなるみづは ちりかかるをやくもるといふらん 伊勢 詞華 みなかみのさだめてければ君がよに ふたたびすめるほり川のみづ 曽禰好忠 禁中 ( きんちう ) ほうちのこうめんにはしんしうのつき、 りようけつのぜんとうにははくぼのやま、 鳳地 ( ほうち )の 後面 ( こうめん )には 新秋 ( しんしう )の 月 ( つき )、 龍闕 ( りようけつ )の 前頭 ( ぜんとう )には 薄暮 ( はくぼ )の 山 ( やま )、 鳳地後面新秋月。 龍闕前頭薄暮山。 題東北旧院小寄亭 白居易 しうげつたかくかゝれりくうへきのほか、 せんらうしづかにもてあそぶきんゐのあひだ、 秋月 ( しうげつ ) 高 ( たか )く 懸 ( かゝ )れり 空碧 ( くうへき )の 外 ( ほか )、 仙郎 ( せんらう ) 静 ( しづ )かに 翫 ( もてあそ )ぶ 禁闈 ( きんゐ )の 間 ( あひだ )、 秋月高懸空碧外。 仙郎静翫禁闈間。 八月十五日夜聞崔大員外林翰林独直対酒翫月因懐禁中清景 同 さんぜんのせんにんはたれかきくことをえん、 がんげんでんのすみのくわんげんのこゑ、 三千 ( さんぜん )の 仙人 ( せんにん )は 誰 ( たれ )か 聴 ( き )くことを 得 ( え )ん、 含元殿 ( がんげんでん )の 角 ( すみ )の 管絃 ( くわんげん )の 声 ( こゑ )、 三千仙人誰得聴。 含元殿角管絃声。 及弟日報破東平 章孝標 けいじんあかつきにとなふる、 こゑめいわうのねむりをおどろかす、 ふしようよるなる、 ひゞきあんてんのききにてつす、 鶏人 ( けいじん ) 暁 ( あかつき )に 唱 ( とな )ふる、 声 ( こゑ ) 明王 ( めいわう )の 眠 ( ねむ )りを 驚 ( おどろ )かす、 鳧鐘 ( ふしよう ) 夜 ( よる ) 鳴 ( な )る、 響 ( ひゞき ) 暗天 ( あんてん )の 聴 ( き )きに 徹 ( てつ )す、 鶏人暁唱。 声驚明王之眠。 鳧鐘夜鳴。 響徹暗天之聴。 漏刻策 都良香 てうこうひたかくしてかんむりのひたひぬけたり、 やかうすなあつくしてくつのこゑいそがはし、 朝候 ( てうこう ) 日 ( ひ ) 高 ( たか )くして 冠 ( かんむり )の 額 ( ひたひ ) 抜 ( ぬ )けたり、 夜行 ( やかう ) 沙 ( すな ) 厚 ( あつ )くして 履 ( くつ )の 声 ( こゑ ) 忙 ( いそ )がはし、朝候日高冠額抜。 夜行沙厚履声忙。 連句 作者未詳 家集 みかき守衛士のたくひにあらねども われもこころのうちにこそたけ 中務 拾遺 ここにだにひかりさやけきあきの月 雲のうへこそおもひやらるれ 藤原経臣 古京 ( こきやう ) りよくさうはいまびろくのその、 こうくわはさだめてむかしのくわんげんのいへならん、 緑草 ( りよくさう )は 如今 ( いま ) 麋鹿 ( びろく )の 苑 ( その )、 紅花 ( こうくわ )は 定 ( さだ )めて 昔 ( むかし )の 管絃 ( くわんげん )の 家 ( いへ )ならん、 緑草如今麋鹿苑。 紅花定昔管絃家。 過平城古京 菅原文時 新古今 いそのかみふるきみやこをきてみれば むかしかざしし花さきにけり 読人不知 故宮 ( こきう ) 附故宅 いんしんたるこりうそくわい、 はるにしてはるのいろなし、 くわくらくたるきようくわいう、 あきにしてあきのこゑあり、 陰森 ( いんしん )たる 古柳 ( こりう ) 疎槐 ( そくわい )、 春 ( はる )にして 春 ( はる )の 色 ( いろ ) 無 ( な )し、 獲落 ( くわくらく )たる 危牖 ( きよう ) 壊宇 ( くわいう )、 秋 ( あき )にして 秋 ( あき )の 声 ( こゑ ) 有 ( あ )り、 陰森古柳疎槐。 春無春色。 獲落危牖壊宇。 秋有秋声。 連昌宮賦 公乗億 うてなかたむきてはくわつせきなほみぎりにのこれり、 すだれたえてはしんじゆこうにみたず、 台 ( うてな ) 傾 ( かたむ )きては 滑石 ( くわつせき )なほ 砌 ( みぎり )に 残 ( のこ )れり、 簾 ( すだれ ) 断 ( た )えては 真珠 ( しんじゆ ) 鉤 ( こう )に 満 ( み )たず、 台傾滑石猶残砌。 簾断真珠不満鉤。 題于家公主雋宅 白居易 きやうごほろびてけいきよくあり、 こそだいのつゆじやうじやうたり、 ばうしんおとろへてこらうなし、 かんやうきうのけむりへん 〳 〵たり、 強呉 ( きやうご ) 滅 ( ほろ )びて 荊蕀 ( けいきよく )あり、 姑蘇台 ( こそだい )の 露 ( つゆ ) 瀼々 ( じやうじやう )たり、 暴秦 ( ばうしん ) 衰 ( おとろ )へて 虎狼 ( こらう )なし、 咸陽宮 ( かんやうきう )の 煙 ( けむり ) 片々 ( へん 〳 〵 )たり、 強呉滅兮有荊蕀。 姑蘇台之露瀼々 暴秦衰兮無虎狼。 咸陽宮之煙片々。 河原院賦 源順 らうかくはもとよりせんどうののりもの、 かんうんはむかしのぎろうのころも、 老鶴 ( らうかく )はもとより 仙洞 ( せんどう )の 駕 ( のりもの )、 寒雲 ( かんうん )は 昔 ( むかし )の 妓楼 ( ぎろう )の 衣 ( ころも )、 老鶴従来仙洞駕。 寒雲在昔妓楼衣。 嵯峨旧院即事 菅原道真 こくわつゆをつつんでざんぷんになき、 ぼてうかぜにすみてはいりをまもる、 孤花 ( こくわ ) 露 ( つゆ )を 裹 ( つつ )んで 残粉 ( ざんぷん )に 啼 ( な )き、 暮鳥 ( ぼてう ) 風 ( かぜ )に 栖 ( す )みて 廃籬 ( はいり )を 守 ( まも )る、 孤花裹露啼残粉。 暮鳥栖風守廃籬。 題后妃旧院 良岑春道 くわうりにつゆをみればしうらんなき、 しんどうにかぜをきけばらうくわいかなしむ、 荒籬 ( くわうり )に 露 ( つゆ )を 見 ( み )れば 秋蘭 ( しうらん ) 泣 ( な )き、 深洞 ( しんどう )に 風 ( かぜ )を 聞 ( き )けば 老桧 ( らうくわい ) 悲 ( かな )しむ、 荒籬見露秋蘭泣。 深洞聞風老桧悲。 秋日過仁和寺 源英明 くれになん 〳 〵としてすだれのほとりにはくろをしやうじ、 よもすがらとこのもとにせいてんをみる、 晩 ( くれ )になん 〳 〵として 簾 ( すだれ )の 頭 ( ほとり )に 白露 ( はくろ )を 生 ( しやう )じ、 終宵 ( よもすがら ) 床 ( とこ )の 底 ( もと )に 青天 ( せいてん )を 見 ( み )る、 向晩簾頭生白露。 終霄床底見青天。 屋舎壊 三善宰相 古今六帖 きみなくてあれたるやどの板間より 月のもるにも袖はぬれけり 読人不知 古今 きみなくてけぶりたえにししほがまの うらさびしくもみえわたるかな 紀貫之 家集 いにしへはちるをや人のをしみけん いまははなこそむかしこふらし 一条摂政 仙家 ( せんか ) 附道士隠倫 こちうのてんちはけんこんのほか、 むりのしんめいはたんぼのあひだ、 壺中 ( こちう )の 天地 ( てんち )は 乾坤 ( けんこん )の 外 ( ほか )、 夢裏 ( むり )の 身名 ( しんめい )は 旦暮 ( たんぼ )の 間 ( あひだ )、 壺中天地乾坤外。 夢裏身名旦暮間。 幽栖 元稹 やくろにひありてたんまさにふくすべし、 うんたいにひとなくしてみづおのづからうすづく、 薬炉 ( やくろ )に 火 ( ひ ) 有 ( あ )りて 丹 ( たん )まさに 伏 ( ふく )すべし、 雲碓 ( うんたい )に 人 ( ひと ) 無 ( な )くして 水 ( みづ ) 自 ( おのづか )ら 舂 ( うすづ )く、 薬炉有火丹応伏。 雲碓無人水自舂。 尋郭道士不遇 白居易 やまのもとにわらびをとればくもいとはず、ほらのうちにきをううればつるまづしる、 山 ( やま )の 底 ( もと )に 薇 ( わらび )を 採 ( と )れば 雲 ( くも ) 厭 ( いと )はず、 洞 ( ほら )の 中 ( うち )に 樹 ( き )を 栽 ( う )うれば 鶴 ( つる ) 先 ( ま )づ 知 ( し )る、 山底採薇雲不厭。 洞中栽樹鶴先知。 卜山居 温庭筠 さんこにくもうかぶ、 しちばんりのみちになみをわかつ、 ごじやうにかすみそばだち、 じふにろうのかまへてんをさしはさむ、 三壺 ( さんこ )に 雲 ( くも ) 浮 ( うか )ぶ、 七万里 ( しちばんり )の 程 ( みち )に 浪 ( なみ )を 分 ( わか )つ、 五城 ( ごじやう )に 霞 ( かすみ ) 峙 ( そばだ )ち、 十二楼 ( じふにろう )の 構 ( かまへ ) 天 ( てん )を 挿 ( さしはさ )む、 三壺雲浮。 七万里之程分浪。 五城霞峙。 十二楼之構挿天。 神仙策 都良香 きけんはなにほゆるこゑ、 こうたうのうらにながる、 きやうふうはをふるふか、 しけいのはやしにわかる、 奇犬 ( きけん ) 花 ( はな )に 吠 ( ほ )ゆる 声 ( こゑ )、 紅桃 ( こうたう )の 浦 ( うら )に 流 ( なが )る、 驚風 ( きやうふう ) 葉 ( は )を 振 ( ふる )ふ 香 ( か )、 紫桂 ( しけい )の 林 ( はやし )に 分 ( わか )る、 奇犬吠花。 声流於紅桃之浦。 驚風振葉香。 分紫桂之林。 同 都良香 あやまちてせんかにいりてはんにちのきやくとなるといへども、 おそらくはきうりにかへりてわづかにしちせいのまごにあはん、 謬 ( あやま )ちて 仙家 ( せんか )に 入 ( い )りて 半日 ( はんにち )の 客 ( きやく )となるといへども、 恐 ( おそ )らくは 旧里 ( きうり )に 帰 ( かへ )りて 纔 ( わづ )かに 七世 ( しちせい )の 孫 ( まご )に 逢 ( あ )はん、 謬入仙家雖為半日之客。 恐帰旧里纔逢七世之孫。 二条院宴落花乱舞衣序 大江朝綱 たんさうみちなりてせんしつしづかに、 さんちゆうのけいしよくげつくわたれたり、 丹竃 ( たんさう ) 道 ( みち ) 成 ( な )りて 仙室 ( せんしつ ) 静 ( しづ )かに、 山中 ( さんちゆう )の 景色 ( けいしよく ) 月華 ( げつくわ ) 低 ( た )れたり、 丹竃道成仙室静。 山中景色月華低。 山中有仙室 菅原文時 せきしやうほらにとゞまりてあらしむなしくはらひ、 ぎよくあんはやしになげうたれてとりひとりなく、 石床 ( せきしやう ) 洞 ( ほら )に 留 ( とゞま )りて 嵐 ( あらし ) 空 ( むな )しく 払 ( はら )ひ、 玉案 ( ぎよくあん ) 林 ( はやし )に 抛 ( なげう )たれて 鳥 ( とり ) 独 ( ひと )り 啼 ( な )く、 石床留洞嵐空払。 玉案抛林鳥独啼。 同胸句也 菅原文時 たうりものいはずはるはいくたびかくれぬ、 えんかあとなくむかしたれかすみし、 桃李 ( たうり ) 言 ( ものい )はず 春 ( はる )は 幾 ( いく )たびか 暮 ( く )れぬ、 煙霞 ( えんか ) 跡 ( あと ) 無 ( な )く 昔 ( むかし ) 誰 ( たれ )か 栖 ( す )みし、 桃李不言春幾暮。 煙霞無跡昔誰栖。 同腰句也 菅原文時 わうけうひとたびさつてくもとこしなへにたえ、 いつかしやうのこゑのこけいにかへる、 王喬 ( わうけう ) 一 ( ひと )たび 去 ( さ )つて 雲 ( くも ) 長 ( とこしなへ )に 断 ( た )え、 早晩 ( いつか ) 笙 ( しやう )の 声 ( こゑ )の 故渓 ( こけい )に 帰 ( かへ )る、 王喬一去雲長断。 早晩笙声帰故渓。 同結句也 菅原文時 しやうざんにつきおちてあきのびんしろく、 えいすゐになみあがりてひだりのみゝきよし、 商山 ( しやうざん )に 月 ( つき ) 落 ( お )ちて 秋 ( あき )の 鬚 ( びん ) 白 ( しろ )く、 潁水 ( えいすゐ )に 波 ( なみ ) 揚 ( あが )りて 左 ( ひだり )の 耳 ( みゝ ) 清 ( きよ )し、 商山月落秋鬚白。 潁水波揚左耳清。 山中自述 大江朝綱 きうかんにこゑありてかんりうむせび、 こざんにぬしなくしてばんうんこなり、 虚澗 ( きうかん )に 声 ( こゑ ) 有 ( あ )りて 寒溜 ( かんりう ) 咽 ( むせ )び、 故山 ( こざん )に 主 ( ぬし ) 無 ( な )くして 晩雲 ( ばんうん ) 孤 ( こ )なり、 虚澗有声寒溜咽。 故山無主晩雲孤。 山無隠士 紀長谷雄 ゆめをとをしてよはふけぬらどうのつき、 あとをたづねてはるはくれぬりうもんのちり、 夢 ( ゆめ )を 通 ( とを )して 夜 ( よ )は 深 ( ふ )けぬ 蘿洞 ( らどう )の 月 ( つき )、 蹤 ( あと )を 尋 ( たづ )ねて 春 ( はる )は 暮 ( く )れぬ 柳門 ( りうもん )の 塵 ( ちり )、 通夢夜深蘿洞月。 尋蹤春暮柳門塵。 遠念賢士風 菅原文時 古今 ぬれてほす山路のきくの露のまに いつかちとせをわれはへにけむ 素性法師 山家 ( さんか ) ゐあいじのかねはまくらをそばだてゝきき、 かうろほうのゆきはすだれをかゝげてみる、 遺愛寺 ( ゐあいじ )の 鐘 ( かね )は 枕 ( まくら )を 欹 ( そばだ )てゝ 聴 ( き )き、 香爐峯 ( かうろほう )の 雪 ( ゆき )は 簾 ( すだれ )を 撥 ( かゝ )げて 看 ( み )る、 遺愛寺鐘欹枕聴。 香鑪峯雪巻簾看。 寺近香爐峰下 白居易 らんせうのはなのときのにしきのとばりのもと、 ろざんのあめのよるくさのいほりのうち、 蘭省 ( らんせう )の 花 ( はな )の 時 ( とき )の 錦 ( にしき )の 帳 ( とばり )の 下 ( もと )、 廬山 ( ろざん )の 雨 ( あめ )の 夜 ( よる ) 草 ( くさ )の 菴 ( いほり )の 中 ( うち )、 蘭省花時錦帳下。 廬山雨夜草菴中。 廬山草堂雨夜独宿 白居易 ぎよふのばんせんはうらをへだてゝつり、 ぼくどうのかんてきはうしによりてふく、 漁父 ( ぎよふ )の 晩船 ( ばんせん )は 浦 ( うら )を 分 ( へだ )てゝ 釣 ( つ )り、 牧童 ( ぼくどう )の 寒笛 ( かんてき )は 牛 ( うし )に 倚 ( よ )りて 吹 ( ふ )く、 漁父晩船分浦釣。 牧童寒笛倚牛吹。 登石壁水閣 杜荀鶴 わうしやうしよがれんふはうるはしきことはすなはちうるはし、 うらむらくはたゞこうがんのひんのみあることを、 けいちうさんがちくりんはいうなることはすなはちいうなり、 きらふらくはほとんどそろんのしにあらざることを、 王尚書 ( わうしやうしよ )が 蓮府 ( れんふ )は 麗 ( うるは )しきことはすなはち 麗 ( うるは )し、 恨 ( うら )むらくは 唯 ( たゞ ) 紅顔 ( こうがん )の 賓 ( ひん )のみ 有 ( あ )ることを、 嵆仲散 ( けいちうさん )が 竹林 ( ちくりん )は 幽 ( いう )なることはすなはち 幽 ( いう )なり、 嫌 ( きら )ふらくは 殆 ( ほとん )ど 素論 ( そろん )の 士 ( し )に 非 ( あら )ざることを、 王尚書之蓮府麗則麗。 恨唯有紅顔之賓。 嵆仲散之竹林幽則幽。 嫌殆非素論之士。 尚歯会詩序 菅原文時 みんなみにのぞめばすなはちくわんろのながきあり、 かうじんせいばすゐれんのもとにらくえきたり、 ひがしにかへりみればまたりんたうのたへなるあり、 しゑんはくおうしゆかんのまへにせうえうす、 南 ( みんなみ )に 望 ( のぞ )めばすなはち 関路 ( くわんろ )の 長 ( なが )きあり、 行人征馬 ( かうじんせいば ) 翠簾 ( すゐれん )の 下 ( もと )に 駱駅 ( らくえき )たり、 東 ( ひがし )に 顧 ( かへり )みればまた 林塘 ( りんたう )の 妙 ( たへ )なるあり、 紫鴛白鴎 ( しゑんはくおう ) 朱檻 ( しゆかん )の 前 ( まへ )に 逍遥 ( せうえう )す、 南望則有関路之長。 行人征馬駱駅於翠簾之下。 東顧亦有林塘之妙。 紫鴛白鴎逍遥於朱檻之前。 秋花逐露開詩序 源順 さんろにひくれぬ、 みゝにみつるものはせうかぼくてきのこゑ、 かんこにとりかへり、 まなこをさへぎるものはちくえんしようぶのいろ、 山路 ( さんろ )に 日 ( ひ ) 暮 ( く )れぬ、 耳 ( みゝ )に 満 ( み )つるものは 樵歌 ( せうか ) 牧笛 ( ぼくてき )の 声 ( こゑ )、 澗戸 ( かんこ )に 鳥 ( とり ) 帰 ( かへ )り、 眼 ( まなこ )を 遮 ( さへぎ )るものは 竹煙 ( ちくえん ) 松霧 ( しようぶ )の 色 ( いろ )、 山路日落。 満耳者樵歌牧笛之声。

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和漢朗詠集

す いかん ない にゅ うと うねん えき 腫瘍

平家物語 流布本 全巻 平家物語 巻第一 総かな版(元和九年本) 「ぎをんしやうじや」(『ぎをんしやうじや』)S0101 P51ぎをんしやうじやのかねのこゑ、しよぎやうむじやうのひびきあり。 しやらさうじゆのはなのいろ、じやうしやひつすゐのことわりをあらはす。 おごれるものひさしからず、ただはるのよのゆめのごとし。 たけきひともつひにはほろびぬ。 ひとへにかぜのまへのちりにおなじ。 とほくいてうをとぶらふに、しんのてうかう、かんのわうまう、りやうのしゆい、たうのろくさん、これらはみなきうしゆせんくわうのまつりごとにもしたがはず、たのしみをきはめ、いさめをもおもひいれず、てんがのみだれんことをもさとらずして、みんかんのうれふるところをしらざりしかば、ひさしからずして、ばうじにしものどもなり。 ちかくほんてうをうかがふに、しようへいのまさかど、てんぎやうのすみとも、かうわのぎしん、へいぢのしんらい、これらはおごれることもたけきこころも、みなとりどりなりしかども、まぢかくはろくはらのにふだうさきのだいじやうだいじんたひらのあそんきよもりこうとまうししひとのありさま、つたへうけたまはるこそ、こころもことばもおよばれね。 そのせんぞをたづぬれば、くわんむてんわうだいごのわうじ、いつぽんしきぶきやうかづらはらのしんわうくだいのP52こういん、さぬきのかみまさもりがそん、ぎやうぶきやうただもりのあそんのちやくなんなり。 かのしんわうのみこたかみのわうむくわんむゐにしてうせたまひぬ。 そのおんこたかもちのわうのとき、はじめてたひらのしやうをたまはつて、かづさのすけになりたまひしよりこのかた、たちまちにわうしをいでてじんしんにつらなる。 そのこちんじゆふのしやうぐんよしもち、のちにはくにかとあらたむ。 くにかよりまさもりにいたるまでろくだいは、しよこくのじゆりやうたりしかども、てんじやうのせんせきをばいまだゆるされず。 「てんじやうのやみうち」(『てんじやうのやみうち』)S0102しかるにただもり、いまだびぜんのかみたりしとき、とばのゐんのごぐわん、とくぢやうじゆゐんをざうしんして、さんじふさんげんのみだうをたて、いつせんいつたいのおんほとけをすゑたてまつらる。 くやうはてんじようぐわんねんさんぐわつじふさんにちなり。 けんじやうにはけつこくをたまふべきよしおほせくだされける。 をりふしたじまのくにのあきたりけるをぞくだされける。 しやうくわうなほぎよかんのあまりに、うちのしようでんをゆるさる。 ただもりさんじふろくにてはじめてしようでんす。 くものうへびとこれをそねみいきどほり、おなじきとしのじふいちぐわつにじふさんにち、ごせつとよのあかりのせちゑのよ、ただもりをやみうちにせんとぞぎせられける。 ただもり、このよしをつたへきいて、「われいうひつのみにあらず、ぶようのいへにむまれて、いまふりよのはぢにあはんこと、P53いへのため、みのためこころうかるべし。 せんずるところ、みをまつたうしてきみにつかへたてまつれといふほんもんあり」とて、かねてよういをいたす。 さんだいのはじめより、おほきなるさやまきをよういし、そくたいのしたにしどけなげにさしほらし、ひのほのぐらきかたにむかつて、やはらこのかたなをぬきいだいて、びんにひきあてられたりけるが、よそよりは、こほりなどのやうにぞみえける。 しよにんめをすましけり。 またただもりのらうどう、もとはいちもんたりしたひらのむくのすけさだみつがまご、しんのさぶらうだいふいへふさがこに、さひやうゑのじよういへさだといふものあり。 うすあをのかりぎぬのしたに、もよぎをどしのはらまきをき、つるぶくろつけたるたちわきばさんで、てんじやうのこにはにかしこまつてぞさぶらひける。 くわんじゆいげ、あやしみをなして、「うつほばしらよりうち、すずのつなのへんに、ほういのもののさぶらふはなにものぞ。 らうぜきなり。 とうとうまかりいでよ」と、ろくゐをもつていはせられたりければ、いへさだかしこまつてまうしけるは、「さうでんのしゆびぜんのかうのとののこんややみうちにせられたまふべきよしうけたまはつて、そのならんやうをみんとて、かくてさぶらふなり。 えこそいづまじ」とて、またかしこまつてぞさぶらひける。 これらをよしなしとやおもはれけん、そのよのやみうちなかりけり。 ただもりまたごぜんのめしにまはれけるに、ひとびとひやうしをかへて、「いせへいじはすがめなりけり」とぞはやされける。 かけまくもかたじけなく、このひとびとはかしはばらのてんわうのおんすゑとはまうしながら、なかごろはみやこのすまひもうとうとしく、ぢげにのみふるまひなつて、P54いせのくににぢうこくふかかりしかば、そのくにのうつはものにことよせて、いせへいじとぞはやされける。 そのうへただもりのめのすがまれたりけるゆゑにこそ、かやうにははやされけるなれ。 ただもりいかにすべきやうもなくして、ぎよいうもいまだをはらざるさきに、ごぜんをまかりいでらるるとて、ししんでんのごごにして、ひとびとのみられけるところにて、よこだへさされたりけるこしのかたなをば、とのもづかさにあづけおきてぞいでられける。 いへさだ、まちうけたてまつて、「さていかがさふらひつるやらん」とまうしければ、かうともいはまほしうはおもはれけれども、まさしういひつるほどならば、やがててんじやうまでもきりのぼらんずるもののつらだましひにてあるあひだ、「べつのことなし」とぞこたへられける。 ごせつには、「しろうすやう、こぜんじのかみ、まきあげのふで、ともゑかいたるふでのぢく」なんど、いふ、さまざまかやうにおもしろきことをのみこそうたひまはるるに、なかごろださいのごんのそつすゑなかのきやうといふひとありけり。 あまりにいろのくろかりければ、ときのひと、こくそつとぞまうしける。 このひといまだくらんどのとうなりしとき、ごぜんのめしにまはれけるに、ひとびとひやうしをかへて、「あなくろくろ、くろきとうかな。 いかなるひとのうるしぬりけん」とぞはやされける。 またくわざんのゐんのさきのだいじやうだいじんただまさこう、いまだじつさいなりしとき、ちちちうなごんただむねのきやうにおくれたまひて、みなしごにておはしけるを、こなかのみかどのとうぢうなごんかせいのきやう、そのときはいまだはりまのかみにておはしけるが、むこにとつて、はなやかにもてなされしかば、これもごせつには、「はりまよねはとくさか、むくのはか、ひとのきらをP55みがくは」とぞはやされける。 「しやうこにはかやうのことどもおほかりしかども、こといでこず。 まつだいいかがあらんずらん、おぼつかなしとぞひとびとまうしあはれける。 あんのごとくごせつはてにしかば、ゐんぢうのくぎやうてんじやうびと、いちどうにうつたへまうされけるは、「それゆうけんをたいしてくえんにれつし、ひやうぢやうをたまはつてきうちうをしゆつにふするは、みなこれきやくしきのれいをまもる、りんめいよしあるせんぎなり。 しかるをただもりのあそん、あるひはねんらいのらうじうとかうして、ほういのつはものをてんじやうのこにはにめしおき、あるひはこしのかたなをよこだへさいて、せちゑのざにつらなる。 りやうでうきたいいまだきかざるらうぜきなり。 ことすでにちようでふせり。 ざいくわもつとものがれがたし。 はやくてんじやうのみふだをけづつて、けつくわんちやうにんおこなはるべきか」と、しよきやういちどうにうつたへまうされければ、しやうくわうおほきにおどろかせたまひて、ただもりをごぜんへめしておんたづねあり。 ちんじまうされけるは、「まづらうじうこにはにしこうのよし、まつたくかくごつかまつらず。 ただしきんじつひとびとあひたくまるるむね、しさいあるかのあひだ、ねんらいのけにん、ことをつたへきくかによつて、そのはぢをたすけんがために、ただもりにはしらせずして,ひそかにさんこうのでう、ちからおよばざるしだいなり。 もしとがあるべくは、かのみをめししんずべきか。 つぎにかたなのことは、とのもづかさにあづけおきさふらひをはんぬ。 これをめしいだされ、かたなのじつぷによつて、とがのさうおこなはるべきか」とまうされたりければ、このぎもつともしかるべしとて、いそぎかのかたなをめしいだいてえいらんあるに、うへはさやまきのくろうぬつたりけるが、なかはきがたなにぎんぱくをぞおいたりける。 「たうざのちじよくをのがれんがP56ために、かたなをたいするよしあらはすといへども、ごにちのそしようをぞんぢして、きがたなをたいしけるよういのほどこそしんべうなれ。 きうせんにたづさはらんほどのもののはかりごとには、もつともかうこそあらまほしけれ。 かねてはまたらうじうこにはにしこうのこと、かつうはぶしのらうどうのならひなり。 ただもりがとがにはあらず」とて、かへつてえいかんにあづかつしうへは、あへてざいくわのさたはなかりけり。 「すずき」(『すずき』)S0103そのこどもはみなしよゑのすけになる。 しようでんせしに、てんじやうのまじはりをひときらふにおよばず。 あるときただもり、びぜんのくによりのぼられたりけるに、とばのゐん「あかしのうらはいかに」とおほせければただもりかしこまつて、 ありあけのつきもあかしのうらかぜになみばかりこそよるとみえしか W001 とまうされたりければ、ゐんおほきにぎよかんあつて、やがてこのうたをば、きんえふしふにぞいれられける。 ただもり、またせんとうにさいあいのにようばうをもつてよなよなかよはれけるが、あるよおはしたりけるに、かのにようばうのつぼねに、つまにつきいだしたるあふぎをとりわすれて、いでられたりければ、P57かたへのにようばうたち、「これはいづくよりのつきかげぞや、いでどころおぼつかなし」など、わらひあはれければ、かのにようばう、 くもゐよりただもりきたるつきなればおぼろげにてはいはじとぞおもふ W002 とよみたりければ、いとどあさからずぞおもはれける。 さつまのかみただのりのははこれなり。 にるをともとかやのふぜいにて、ただもりのすいたりければ、かのにようばうもいうなりけり。 かくてただもり、ぎやうぶきやうになつて、にんぺいさんねんしやうぐわつじふごにち、としごじふはちにてうせたまひしかば、きよもりちやくなんたるによつて、そのあとをつぎ、はうげんぐわんねんしちぐわつに、うぢのさふ、よをみだりたまひしとき、みかたにてさきをかけたりければ、けんじやうおこなはれけり。 もとはあきのかみたりしが、はりまのかみにうつつて、おなじきさんねんにだざいのだいにになる。 またへいぢぐわんねんじふにんぐわつ、のぶよりよしともがむほんのときも、みかたにてぞくとをうちたひらげたりしかば、くんこうひとつにあらず、おんしやうこれおもかるべしとて、つぎのとしじやうざんみにじよせられ、うちつづきさいしやう、ゑふのかみ、けんびゐしのべつたう、ちうなごん、だいなごんにへあがつて、あまつさへしようじやうのくらゐにいたる。 さうをへずして、ないだいじんよりだいじやうだいじんじゆいちゐにいたり、だいしやうにはあらねども、ひやうぢやうをたまはつてずゐじんをめしぐす。 ぎつしやれんじやのせんじをかうぶつて、のりながらきうちうをしゆつにふす。 ひとへにしつせいのしんのごとし。 「だいじやうだいじんはいちじんにしはんとして、しかいにぎけいせり。 くにををさめみちをろんじ、いんやうをやはらげをさむ。 そのひとにあらずは、すなはちかけよといへり。 そくけつのくわんともなづけられたり。 P58そのひとならではけがすべきくわんならねども、このにふだうしやうこくはいつてんしかいをたなごころのうちににぎりたまふうへは、しさいにおよばず。 そもそもへいけかやうにはんじやうせられけることは、ひとへにくまのごんげんのごりしやうとぞきこえし。 そのゆゑは、きよもりいまだあきのかみたりしとき、いせのくにあののつより、ふねにてくまのへまゐられけるに、おほきなるすずきのふねへをどりいつたりければ、せんだちまうしけるは、「むかし、しうのぶわうのふねにこそ、はくぎよはをどりいつたるなれ。 いかさまにもこれはごんげんのごりしやうとおぼえさふらふ。 まゐるべし」とまうしければ、さしもじつかいをたもつて、しやうじんけつさいのみちなれども、みづからてうびしてわがみくひ、いへのこらうどうどもにもくはせらる。 そのゆゑにやきちじのみうちつづいて、わがみだいじやうだいじんにいたり、しそんのくわんども、りようのくもにのぼるよりはなほすみやかなり。 くだいのせんじようをこえたまふこそめでたけれ。 「かぶろ」(『かぶろ』)S0104かくてきよもりこう、にんあんさんねんじふいちぐわつじふいちにち、としごじふいちにてやまひにをかされ、ぞんめいのためにとて、すなはちしゆつけにふだうす。 ほふみやうをばじやうかいとこそつきたまへ。 そのゆゑにや、しゆくびやうP59たちどころにいえててんめいをまつたうす。 しゆつけののちも、えいえうはなほつきずとぞみえし。 おのづからひとのしたがひつきたてまつることは、ふくかぜのくさきをなびかすごとく、よのあふげることも、ふるあめのこくどをうるほすにおなじ。 ろくはらどののごいつけのきんだちとだにいへば、くわそくもえいゆうも、たれかたをならべ、おもてをむかふものなし。 またにふだうしやうこくのこじうと、へいだいなごんときただのきやうののたまひけるは、「このいちもんにあらざらんものは、みなにんぴにんたるべし」とぞのたまひける。 さればいかなるひとも、このいちもんにむすぼれんとぞしける。 ゑぼしのためやうよりはじめて、えもんのかきやうにいたるまで、なにごともろくはらやうとだにいひてしかば、いつてんしかいのひとみなこれをまなぶ。 いかなるけんわうけんしゆのおんまつりごと、せつしやうくわんばくのごせいばいにも、よにあまされたるほどのいたづらものなどの、かたはらによりあひて、なにとなうそしりかたぶけまうすことはつねのならひなれども、このぜんもんよざかりのほどは、いささかゆるがせにまうすものなし。 そのゆゑはにふだうしやうこくのはかりごとに、じふしごろくのわらべをさんびやくにんすぐつて、かみをかぶろにきりまはし、あかきひたたれをきせて、めしつかはれけるが、きやうぢうにみちみちてわうばんしけり。 おのづからへいけのおんこと、あしざまにまうすものあれば、いちにんききいださぬほどこそありけれ、よたうにふれまはし、かのいへにらんにふし、しざいざふぐをつゐふくし、そのやつをからめて、ろくはらどのへゐてまゐる。 さればめにみ、こころにしるといへども、ことばにあらはしてまうすものなし。 ろくはらどののかぶろとだにいへば、みちをすぐるむまくるまも、みなよぎてぞP60とほしける。 きんもんをしゆつにふすといへども、しやうみやうをたづねらるるにおよばず。 けいしのちやうり、これがためにめをそばむとみえたり。 「わがみのえいぐわ」(『わがみのえいぐわ』)S0105わがみのえいぐわをきはむるのみならず、いちもんともにはんじやうして、ちやくししげもり、ないだいじんのさだいしやう、じなんむねもり、ちうなごんのうだいしやう、さんなんとももり、さんみのちうじやう、ちやくそんこれもり、しゐのせうしやう、すべていちもんのくぎやうじふろくにん、てんじやうびとさんじふよにん、しよこくのじゆりやう、ゑふ、しよし、つがふろくじふよにんなり。 よにはまたひとなくぞみえられける。 むかしならのみかどのおんとき、じんきごねん、てうかにちうゑのだいしやうをはじめおかる。 だいどうしねんにちうゑをこんゑとあらためられしよりこのかた、きやうだいさうにあひならぶこと、わづかにさんしかどなり。 もんどくてんわうのおんときは、ひだんによしふさ、うだいじんのさだいしやう、みぎによしあふ、だいなごんのうだいしやう、これはかんゐんのさだいじんふゆつぎのおんこなり。 しゆしやくゐんのぎようには、ひだりにさねより、をののみやどの、みぎにもろすけ、くでうどの、ていじんこうのおんこなり。 ごれんぜいゐんのおんときは、ひだりにのりみち、おほにでうどの、みぎによりむね、ほりかはどの、みだうのくわんばくのおんこなり。 にでうのゐんのぎようには、ひだりにもとふさ、まつどの、みぎにかねざね、つきのわどの、ほつしやうじどののおんこなり。 これみなせふろくのP61しんのごしそく、はんじんにとつてはそのれいなし。 てんじやうのまじはりをだにきらはれしひとのしそんにて、きんじき、ざつぱうをゆり、りようらきんしうをみにまとひ、だいじんのだいしやうになつてきやうだいさうにあひならぶこと、まつだいとはいひながら、ふしぎなりしことどもなり。 そのほか、おんむすめはちにんおはしき。 みなとりどりにさいはひたまへり。 いちにんはさくらまちのちうなごんしげのりのきやうのきたのかたにておはすべかりしが、はつさいのとしおんやくそくばかりにて、へいぢのみだれいご、ひきちがへられて、くわざんのゐんのさだいじんどののみだいばんどころにならせたまひて、きんだちあまたましましけり。 そもそもこのしげのりのきやうをさくらまちのちうなごんとまうしけることは、すぐれてこころすきたまへるひとにて、つねはよしののやまをこひつつ、ちやうにさくらをうゑならべ、そのうちにやをたててすみたまひしかば、くるとしのはるごとに、みるひと、さくらまちとぞまうしける。 さくらはさいてしちかにちにちるを、なごりををしみ、あまてるおんがみにいのりまうされければにや、さんしちにちまでなごりありけり。 きみもけんわうにてましませば、しんもしんとくをかかやかし、はなもこころありければ、はつかのよはひをたもちけり。 いちにんはきさきにたたせたまふ。 にじふににてわうじごたんじやうあつて、くわうたいしにたち、くらゐにつかせたまひしかば、ゐんがうかうぶらせたまひて、けんれいもんゐんとぞまうしける。 にふだうしやうこくのおんむすめなるうへ、てんがのこくもにてましませば、とかうまうすにおよばれず。 いちにんはろくでうのせつしやうどののきたのまんどころにならせたまふ。 これはたかくらのゐんございゐのおんとき、おんははしろとて、じゆんさんごうのせんじをかうぶらせたまひて、しらかはどのとて、おもきひとにてぞましましける。 P62いちにんはふげんじどののきたのまんどころにならせたまふ。 いちにんはれんぜいのだいなごんりうばうのきやうのきたのかた、いちにんはしちでうのしゆりのだいぶのぶたかのきやうにあひぐしたまへり。 またあきのくにいつくしまのないしがはらにいちにん、これはごしらかはのほふわうへまゐらせたまひて、ひとへににようごのやうでぞましましける。 そのほかくでうのゐんのざふしときはがはらにいちにん、これはくわざんのゐんどののじやうらふにようばうにて、らふのおんかたとぞまうしける。 につぽんあきつしまはわづかにろくじふろくかこく、へいけちぎやうのくにさんじふよかこく、すでにはんごくにこえたり。 そのほかしやうえん、でんばく、いくらといふかずをしらず。 きらじうまんして、たうしやうはなのごとし。 けんきくんじゆして、もんぜんいちをなす。 やうしうのこがね、けいしうのたま、ごきんのあや、しよつかうのにしき、しつちんまんぽう、ひとつとしてかけたることなし。 かたうぶかくのもとゐ、ぎよりようしやくばのもてあそびもの、おそらくは、ていけつもせんとうも、これにはすぎじとぞみえし。 「ぎわう」(『ぎわう』)S0106だいじやうのにふだうは、かやうにてんがをたなごころのうちににぎりたまひしうへは、よのそしりをもはばからず、ひとのあざけりをもかへりみず、ふしぎのことをのみしたまへり。 たとへば、そのころきやうぢうにきこえたるしらびやうしのじやうず、ぎわう、ぎによとておととひあり。 とぢといふP63しらびやうしがむすめなり。 しかるにあねのぎわうを、にふだうしやうこくちようあいしたまふうへ、いもとのぎによをも、よのひともてなすことなのめならず。 ははとぢにもよきやつくつてとらせ、まいぐわつにひやくこくひやくくわんをおくられたりければ、けないふつきしてたのしいことなのめならず。 そもそもわがてうにしらびやうしのはじまりけることは、むかしとばのゐんのぎように、しまのせんざい、わかのまへ、かれらににんがまひいだしたりけるなり。 はじめはすゐかんにたてゑぼし、しろざやまきをさいてまひければをとこまひとぞまうしける。 しかるをなかごろよりゑぼしかたなをのけられて、すゐかんばかりもちひたり。 さてこそしらびやうしとはなづけけれ。 きやうぢうのしらびやうしども、ぎわうがさいはひのめでたきやうをきいて、うらやむものもあり、そねむものもあり。 うらやむものどもは、「あなめでたのぎわうごぜんのさいはひや。 おなじあそびめとならば、たれもみなあのやうでこそありたけれ。 いかさまにもぎといふもじをなについて、かくはめでたきやらん。 いざやわれらもついてみん」とて、あるひはぎいち、ぎにとつき、あるひはぎふく、ぎとくなどつくものもありけり。 そねむものどもは、「なんでふなにより、もじにはよるべき。 さいはひはただぜんぜのむまれつきでこそあんなれ」とて、つかぬものもおほかりけり。 かくてさんねんといふに、またしらびやうしのじやうず、いちにんいできたり。 かがのくにのものなり。 なをばほとけとぞまうしける。 としじふろくとぞきこえし。 きやうぢうのじやうげこれをみて、むかしよりおほくのしらびやうしはみしかども、かかるまひのじやうずはいまだみずとて、よのひともてなすP64ことなのめならず。 あるときほとけごぜんまうしけるは、「われてんがにもてあそばるるといへども、たうじめでたうさかえさせたまふへいけだいじやうのにふだうどのへ、めされぬことこそほいなけれ。 あそびもののならひ、なにかくるしかるべき。 すゐさんしてみん」とて、あるときにしはちでうどのへぞさんじたる。 ひとごぜんにまゐつて、「たうじみやこにきこえさふらふほとけごぜんがまゐつてさふらふ」とまうしければ、にふだうしやうこくおほきにいかつて、「なんでふ、さやうのあそびものは、ひとのめしにてこそまゐるものなれ、さうなうすゐさんするやうやある。 そのうへ、かみともいへ、ほとけともいへ、ぎわうがあらんずるところへはかなふまじきぞ。 とうとうまかりいでよ」とぞのたまひける。 ほとけごぜんは、すげなういはれたてまつて、すでにいでんとしけるを、ぎわうにふだうどのにまうしけるは、「あそびもののすゐさんは、つねのならひでこそさぶらへ。 そのうへとしもいまだをさなうさぶらふなるが、たまたまおもひたつてまゐつてさぶらふを、すげなうおほせられて、かへさせたまはんこそふびんなれ。 いかばかりはづかしう、かたはらいたくもさぶらふらん。 わがたてしみちなれば、ひとのうへともおぼえず。 たとひまひをごらんじ、うたをこそきこしめさずとも、ただりをまげて、めしかへいてごたいめんばかりさぶらひて、かへさせたまはば、ありがたきおんなさけでこそさぶらはんずれ」とまうしければ、にふだうしやうこく、「いでいでさらば、わごぜがあまりにいふことなるに、たいめんしてかへさん」とて、おつかひをたてて、めされけり。 ほとけごぜんは、すげなういはれたてまつて、くるまにのつてすでにいでんとP65しけるが、めされてかへりまゐりたり。 にふだうやがていであひたいめんしたまひて、「いかにほとけ、けふのげんざんはあるまじかりつれども、ぎわうがなにとおもふやらん、あまりにまうしすすむるあひだ、かやうにげんざんはしつ。 げんざんするうへではいかでかこゑをもきかであるべき。 まづいまやうひとつうたへかし」とのたまへば、ほとけごぜん、「うけたまはりさぶらふ」とて、いまやうひとつぞうたうたる。 きみをはじめてみるときはちよもへぬべしひめこまつ おまへのいけなるかめをかにつるこそむれゐてあそぶめれ と、おしかへしおしかへし、さんべんうたひすましたりければ、けんもんのひとびと、みなじぼくをおどろかす。 にふだうもおもしろきことにおもひたまひて、「さてわごぜは、いまやうはじやうずにてありけるや。 このぢやうではまひもさだめてよからん。 いちばんみばや、つづみうちめせ」とてめされけり。 うたせていちばんまうたりけり。 ほとけごぜんは、かみすがたよりはじめて、みめかたちよにすぐれ、こゑよくふしもじやうずなりければ、なじかはまひはそんずべき。 こころもおよばずまひすましたりければ、にふだうしやうこくまひにめでたまひて、ほとけにこころをうつされけり。 ほとけごぜん、「こはなにごとにてさぶらふぞや。 もとよりわらははすゐさんのものにて、すでにいだされまゐらせしを、ぎわうごぜんのまうしじやうによつてこそ、めしかへされてもさぶらふ。 はやはやいとまたまはつて、いださせおはしませ」とまうしければ、にふだうしやうこく、「すべてそのぎかなふまじ。 ただしぎわうがあるにP66よつて、さやうにはばかるか。 そのぎならばぎわうをこそいださめ」とのたまへば、ほとけごぜん、「これまたいかでさるおんことさぶらふべき。 ともにめしおかれんだに、はづかしうさぶらふべきに、ぎわうごぜんをいださせたまひて、わらはをいちにんめしおかれなば、ぎわうごぜんのおもひたまはんこころのうち、いかばかりはづかしう、かたはらいたくもさぶらふべき。 おのづからのちまでもわすれたまはぬおんことならば、めされてまたはまゐるとも、けふはいとまをたまはらん」とぞまうしける。 にふだう、「そのぎならば、ぎわうとうとうまかりいでよ」と、おつかひかさねてさんどまでこそたてられけれ。 ぎわうはもとよりおもひまうけたるみちなれども、さすがきのふけふとはおもひもよらず。 にふだうしやうこく、いかにもかなふまじきよし、しきりにのたまふあひだ、はきのごひ、ちりひろはせ、いづべきにこそさだめけれ。 いちじゆのかげにやどりあひ、おなじながれをむすぶだに、わかれはかなしきならひぞかし。 いはんやこれはみとせがあひだすみなれしところなれば、なごりもをしくかなしくて、かひなきなみだぞすすみける。 さてしもあるべきことならねば、ぎわういまはかうとていでけるが、なからんあとのわすれがたみにもとやおもひけん、しやうじになくなくいつしゆのうたをぞかきつけける。 もえいづるもかるるもおなじのべのくさいづれかあきにあはではつべき W003 さてくるまにのつてしゆくしよへかへり、しやうじのうちにたふれふし、ただなくよりほかのことぞなき。 ははやいもとこれをみて、いかにやいかにととひけれども、ぎわうとかうのへんじにもP67およばず、ぐしたるをんなにたづねてこそ、さることありともしつてげれ。 さるほどにまいぐわつおくられけるひやくこくひやくくわんをもおしとめられて、いまはほとけごぜんのゆかりのものどもぞ、はじめてたのしみさかえける。 きやうぢうのじやうげ、このよしをつたへきいて、「まことやぎわうこそ、にしはちでうどのよりいとまたまはつていだされたんなれ。 いざやげんざんしてあそばん」とて、あるひはふみをつかはすものもあり、あるひはししやをたつるひともありけれども、ぎわう、いまさらまたひとにたいめんして、あそびたはむるべきにもあらねばとて、ふみをだにとりいるることもなく、ましてつかひをあひしらふまでもなかりけり。 ぎわうこれにつけても、いとどかなしくて、かひなきなみだぞこぼれける。 かくてことしもくれぬ。 あくるはるにもなりしかば、にふだうしやうこく、ぎわうがもとへししやをたてて、「いかにぎわう、そののちはなにごとかある。 ほとけごぜんがあまりにつれづれげにみゆるに、まゐつていまやうをもうたひ、まひなどをもまうて、ほとけなぐさめよ」とぞのたまひける。 ぎわうとかうのおんぺんじにもおよばず、なみだをおさへてふしにけり。 にふだうかさねて、「なにとてぎわうは、ともかうもへんじをばまうさぬぞ。 まゐるまじきか。 まゐるまじくは、そのやうをまうせ。 じやうかいもはからふむねあり」とぞのたまひける。 ははとぢこれをきくにかなしくて、なくなくけうくんしけるは、「なにとてぎわうはともかうもおんぺんじをばまうさで、かやうにしかられまゐらせんよりは」といへば、ぎわうなみだをおさへてまうしけるは、「まゐらんとおもふみちならばこそ、やがてまゐるべしともまうすべけれ。 P68なかなかまゐらざらんものゆゑに、なにとおんぺんじをばまうすべしともおぼえず。 このたびめさんにまゐらずは、はからふむねありとおほせらるるは、さだめてみやこのほかへいださるるか、さらずはいのちをめさるるか、これふたつにはよもすぎじ。 たとひみやこをいださるるとも、なげくべきみちにあらず。 またいのちをめさるるともをしかるべきわがみかは。 いちどうきものにおもはれまゐらせて、ふたたびおもてをむかふべしともおぼえず」とて、なほおんぺんじにもおよばざりしかば、ははとぢなくなくまたけうくんしけるは、「あめがしたにすまんには、ともかうもにふだうどののおほせをば、そむくまじきことにてあるぞ。 そのうへわごぜは、をとこをんなのえん、しゆくせ、いまにはじめぬことぞかし。 せんねんまんねんとはちぎれども、やがてわかるるなかもあり。 あからさまとはおもへども、ながらへはつることもあり。 よにさだめなきものは、をとこをんなのならひなり。 いはんやわごぜは、このみとせがあひだおもはれまゐらせたれば、ありがたきおんなさけでこそさぶらへ。 このたびめさんにまゐらねばとて、いのちをめさるるまではよもあらじ。 さだめてみやこのほかへぞいだされんずらん。 たとひみやこをいださるるとも、わごぜたちはとしいまだわかければ、いかならんいはきのはざまにても、すごさんことやすかるべし。 わがみはとしおいよはひおとろへたれば、ならはぬひなのすまひを、かねておもふこそかなしけれ。 ただわれをばみやこのうちにてすみはてさせよ。 それぞこんじやうごしやうのけうやうにてあらんずるぞ」といへば、ぎわうまゐらじとおもひさだめしみちなれども、ははのめいをそむかじとて、なくなくまたいでたちける、P69こころのうちこそむざんなれ。 ぎわうひとりまゐらんことの、あまりにこころうしとて、いもとのぎによをもあひぐしけり。 そのほかしらびやうしににん、そうじてしにん、ひとつくるまにとりのつて、にしはちでうどのへぞさんじたる。 ひごろめされつるところへはいれられずして、はるかにさがりたるところに、ざしきしつらうてぞおかれける。 ぎわう、「こはさればなにごとぞや。 わがみにあやまつことはなけれども、いだされまゐらするだにあるに、あまつさへざしきをだにさげらるることのくちをしさよ。 いかにせん」とおもふを、ひとにしらせじと、おさふるそでのひまよりも、あまりてなみだぞこぼれける。 ほとけごぜんこれをみて、あまりにあはれにおぼえければ、にふだうどのにまうしけるは、「あれはいかに、ぎわうとこそみまゐらせさぶらへ。 ひごろめされぬところにてもさぶらはばこそ。 これへめされさぶらへかし。 さらずはわらはにいとまをたべ。 いでまゐらせん」とまうしけれども、にふだういかにもかなふまじきとのたまふあひだ、ちからおよばでいでざりけり。 にふだうやがていであひたいめんしたまひて、「いかにぎわう、そののちはなにごとかある。 ほとけごぜんがあまりにつれづれげにみゆるに、いまやうをもうたひ、まひなんどをもまうて、ほとけなぐさめよ」とぞのたまひける。 ぎわう、まゐるほどでは、ともかくもにふだうどののおほせをば、そむくまじきものをとおもひ、ながるるなみだをおさへつつ、いまやうひとつぞうたうたる。 P70 ほとけもむかしはぼんぶなりわれらもつひにはほとけなり いづれもぶつしやうぐせるみをへだつるのみこそかなしけれ と、なくなくにへんうたうたりければ、そのざになみゐたまへるへいけいちもんのくぎやうてんじやうびと、しよだいぶ、さぶらひにいたるまで、みなかんるゐをぞもよほされける。 にふだうもげにもとおもひたまひて、「ときにとつてはしんべうにもまうしたり。 さてはまひもみたけれども、けふはまぎるることいできたり。 こののちはめさずともつねにまゐりて、いまやうをもうたひ、まひなどをもまうて、ほとけなぐさめよ」とぞのたまひける。 ぎわうとかうのおんぺんじにもおよばず、なみだをおさへていでにけり。 ぎわう、「まゐらじとおもひさだめしみちなれども、ははのめいをそむかじと、つらきみちにおもむいて、ふたたびうきはぢをみつることのくちをしさよ。 かくてこのよにあるならば、またもうきめにあはんずらん。 いまはただみをなげんとおもふなり」といへば、いもうとのぎによこれをきいて、「あねみをなげば、われもともにみをなげん」といふ。 ははとぢこれをきくにかなしくて、なくなくまたかさねてけうくんしけるは、「さやうのことあるべしともしらずして、けうくんしてまゐらせつることのうらめしさよ。 まことにわごぜのうらむるもことわりなり。 ただしわごぜがみをなげば、いもうとのぎによもともにみをなげんといふ。 わかきむすめどもをさきだてて、としおいよはひおとろへたるはは、いのちいきてもなににかはせんなれば、われもともにみをなげんずるなり。 いまだしごもきたらぬははに、みをなげさせんずることは、ごぎやくざいにてやP71あらんずらん。 このよはかりのやどりなれば、はぢてもはぢてもなにならず。 ただながきよのやみこそこころうけれ。 こんじやうでものをおもはするだにあるに、ごしやうでさへあくだうへおもむかんずることのかなしさよ」と、さめざめとかきくどきければ、ぎわうなみだをはらはらとながいて、「げにもさやうにさぶらはば、ごぎやくざいうたがひなし。 いつたんうきはぢをみつることのくちをしさにこそ、みをなげんとはまうしたれ。 ささぶらはばじがいをばおもひとどまりさぶらひぬ。 かくてみやこにあるならば、またもうきめをみんずらん。 いまはただみやこのほかへいでん」とて、ぎわうにじふいちにてあまになり、さがのおくなるやまざとに、しばのいほりをひきむすび、ねんぶつしてぞゐたりける。 いもうとのぎによこれをきいて、「あねみをなげば、われもともにみをなげんとこそちぎりしか。 ましてさやうによをいとはんに、たれかおとるべき」とて、じふくにてさまをかへ、あねといつしよにこもりゐて、ひとへにごせをぞねがひける。 ははとぢこれをきいて、「わかきむすめどもだに、さまをかふるよのなかに、としおいよはひおとろへたるはは、しらがをつけてもなににかはせん」とて、しじふごにてかみをそり、ふたりのむすめもろともに、いつかうせんじゆにねんぶつして、ごせをねがふぞあはれなる。 かくてはるすぎなつたけぬ。 あきのはつかぜふきぬれば、ほしあひのそらをながめつつ、あまのとわたるかぢのはに、おもふことかくころなれや。 ゆふひのかげのにしのやまのはにかくるるをみても、ひのいりたまふところは、さいはうじやうどにてこそあんなれ。 いつかわれらもかしこにP72むまれて、ものもおもはですごさんずらんと、すぎにしかたのうきことどもおもひつづけて、ただつきせぬものはなみだなり。 たそかれどきもすぎぬれば、たけのあみどをとぢふさぎ、ともしびかすかにかきたてて、おやこさんにんもろともにねんぶつしてゐたるところに、たけのあみどを、ほとほととうちたたくものいできたり。 そのときあまどもきもをけし、「あはれ、これは、いふかひなきわれらがねんぶつしてゐたるをさまたげんとて、まえんのきたるにてぞあるらん。 ひるだにもひともとひこぬやまざとの、しばのいほりのうちなれば、よふけてたれかはたづぬべき。 わづかにたけのあみどなれば、あけずともおしやぶらんことやすかるべし。 いまはただなかなかあけていれんとおもふなり。 それになさけをかけずして、いのちをうしなふものならば、としごろたのみたてまつるみだのほんぐわんをつよくしんじて、ひまなくみやうがうをとなへたてまつるべし。 こゑをたづねてむかへたまふなるしやうじゆのらいかうにてましませば、などかいんぜふなかるべき。 あひかまへてねんぶつおこたりたまふな」とたがひにこころをいましめて、てにてをとりくみ、たけのあみどをあけたれば、まえんにてはなかりけり。 ほとけごぜんぞいできたる。 ぎわう、「あれはいかに、ほとけごぜんとみまゐらするは。 ゆめかやうつつか」といひければ、ほとけごぜんなみだをおさへて、「かやうのことまうせば、すべてことあたらしうはさぶらへども、まうさずはまたおもひしらぬみともなりぬべければ、はじめよりして、こまごまとありのままにまうすなり。 もとよりわらははすゐさんのものにて、すでにいだされまゐらせしを、P73わごぜのまうしじやうによつてこそ、めしかへされてもさぶらふに、をんなのみのいふかひなきこと、わがみをこころにまかせずして、わごぜをいださせまゐらせて、わらはがおしとどめられぬること、いまにはづかしうかたはらいたくこそさぶらへ。 わごぜのいでられたまひしをみしにつけても、いつかまたわがみのうへならんとおもひゐたれば、うれしとはさらにおもはず。 しやうじにまた、『いづれかあきにあはではつべき』とかきおきたまひしふでのあと、げにもとおもひさぶらひしぞや。 いつぞやまたわごぜのめされまゐらせて、いまやうをうたひたまひしにも、おもひしられてこそさぶらへ。 そののちはざいしよをいづくともしらざりしに、このほどきけば、かやうにさまをかへ、ひとつところにねんぶつしておはしつるよし、あまりにうらやましくて、つねはいとまをまうししかども、にふだうどのさらにおんもちひましまさず。 つくづくものをあんずるに、しやばのえいぐわはゆめのゆめ、たのしみさかえてなにかせん。 にんじんはうけがたく、ぶつけうにはあひがたし。 このたびないりにしづみなば、たしやうくわうごふをばへだつとも、うかびあがらんことかたかるべし。 らうせうふぢやうのさかひなれば、としのわかきをたのむべきにあらず。 いづるいきのいるをもまつべからず。 かげろふいなづまよりもなほはかなし。 いつたんのえいぐわにほこつて、ごせをしらざらんことのかなしさに、けさまぎれいでて、かくなつてこそまゐりたれ」とて、かづいたるきぬをうちのけたるをみれば、あまになつてぞいできたる。 「かやうにさまをかへてまゐりたるうへは、ひごろのとがをばゆるしたまへ。 ゆるさんとだにのたまはば、もろともにねんぶつして、ひとつはちすのP74みとならん。 それにもなほこころゆかずは、これよりいづちへもまよひゆき、いかならんこけのむしろ、まつがねにもたふれふし、いのちのあらんかぎりはねんぶつして、わうじやうのそくわいをとげんとおもふなり」とて、そでをかほにおしあてて、さめざめとかきくどきければ、ぎわうなみだをおさへて、「わごぜのそれほどまでおもひたまはんとはゆめにもしらず、うきよのなかのさがなれば、みのうきとこそおもひしに、ともすればわごぜのことのみうらめしくて、こんじやうもごしやうも、なまじひにしそんじたるここちにてありつるに、かやうにさまをかへておはしつるうへは、ひごろのとがは、つゆちりほどものこらず、いまはわうじやううたがひなし。 このたびそくわいをとげんこそ、なによりもまたうれしけれ。 わらはがあまになりしをだに、よにありがたきことのやうに、ひともいひ、わがみもおもひさぶらひしぞや。 それはよをうらみ、みをなげいたれば、さまをかふるもことわりなり。 わごぜはうらみもなくなげきもなし。 ことしはわづかじふしちにこそなりしひとの、それほどまでゑどをいとひ、じやうどをねがはんと、ふかくおもひいりたまふこそ、まことのだいだうしんとはおぼえさぶらひしか。 うれしかりけるぜんぢしきかな。 いざもろともにねがはん」とて、しにんいつしよにこもりゐて、あさゆふぶつぜんにむかひ、はなかうをそなへて、たねんなくねがひけるが、ちそくこそありけれ、みなわうじやうのそくわいをとげけるとぞきこえし。 さればかのごしらかはのほふわうのちやうがうだうのくわこちやうにも、ぎわう、ぎによ、ほとけ、とぢらがそんりやうと、しにんいつしよにいれられたり。 ありがたかりしことどもなり。 P75 「にだいのきさき」(『にだいのきさき』)S0107むかしよりいまにいたるまで、げんぺいりやうしてうかにめしつかはれて、わうくわにしたがはず、おのづからてうけんをかろんずるものには、たがひにいましめをくはへしかば、よのみだれはなかりしに、ほうげんにためよしきられ、へいぢによしともちうせられてのちは、すゑずゑのげんじどもあるひはながされ、あるひはうしなはれて、いまはへいけのいちるゐのみはんじやうして、かしらをさしいだすものなし。 いかならんすゑのよまでも、なにごとかあらんとぞみえし。 されどもとばのゐんごあんがののちは、ひやうがくうちつづいて、しざい、るけい、けつくわん、ちやうにん、つねにおこなはれて、かいだいもしづかならず、せけんもいまだらくきよせず。 なかんづくえいりやく、おうほうのころよりして、ゐんのきんじゆしやをば、うちよりおんいましめあり、うちのきんじゆしやをばゐんよりいましめらるるあひだ、じやうげおそれをののいて、やすいこころもせず、ただしんえんにのぞんで、はくひようをふむにおなじ。 しゆしやうしやうくわうふしのおんあひだに、なにごとのおんへだてかあるなれども、おもひのほかのことどもおほかりけり。 これもよげうきにおよんで、ひとけうあくをさきとするゆゑなり。 しゆしやう、ゐんのおほせをつねはまうしかへさせおはしましけるなかに、ひとじぼくをおどろかし、よもつておほきにかたぶけまうすことありけり。 ここんゑのゐんのきさき、たいくわうたいこうぐうとまうししは、P76おほひのみかどのうだいじんきんよしこうのおんむすめなり。 せんていにおくれたてまつらせたまひてのちは、ここのへのほか、このゑかはらのごしよにぞうつりすませたまひける。 さきのきさいのみやにて、かすかなるおんありさまにてわたらせたまひしが、えいりやくのころほひは、おんとしにじふにさんにもやならせましましけん、おんさかりもすこしすぎさせおはしますほどなり。 されども、てんがだいいちのびじんのきこえましましければ、しゆしやういろにのみそめるおんこころにて、ひそかにかうりよくしにぜうじて、ぐわいきうにひきもとめしむるにおよんで、このおほみやのごしよへ、ひそかにごえんしよあり。 おほみやあへてきこしめしもいれず。 さればひたすらはやほにあらはれて、きさきごじゆだいあるべきよし、うだいじんげにせんじをくださる。 このことてんがにおいてことなるしようじなれば、くぎやうせんぎあつて、おのおのいけんをいふ。 「まづいてうのせんじようをとぶらふに、しんだんのそくてんくわうごうは、たうのたいそうのきさき、かうそうくわうていのけいぼなり。 たいそうほうぎよののち、かうそうのきさきにたちたまふことあり。 それはいてうのせんぎたるうへ、べつだんのことなり。 しかれどもわがてうには、じんむてんわうよりこのかたにんわうしちじふよだいにいたるまで、いまだにだいのきさきにたたせたまふれいをきかず」としよきやういちどうにうつたへまうされたりければ、しやうくわうもしかるべからざるよし、こしらへまうさせたまへども、しゆしやうおほせなりけるは、「てんしにぶもなし。 われじふぜんのかいこうによつて、いまばんじようのほうゐをたもつ。 これほどのことなどかえいりよにまかせざるべき」とて、やがてごじゆだいのひ、せんげせられけるうへは、しやうくわうもちからおよばせたまはず。 P77 おほみやかくときこしめされけるより、おんなみだにしづませおはします。 せんていにおくれまゐらせにしきうじゆのあきのはじめ、おなじのばらのつゆともきえ、いへをもいでよをものがれたりせば、いまかかるうきみみをばきかざらましとぞ、おんなげきありける。 ちちのおとどこしらへまうさせたまひけるは、「よにしたがはざるをもつてきやうじんとすとみえたり。 すでにぜうめいをくださる。 しさいをまうすにところなし。 ただすみやかにまゐらせたまふべきなり。 もしわうじごたんじやうありて、きみもこくもといはれ、ぐらうもぐわいそとあふがるべきずゐさうにてもやさふらふらん。 これひとへにぐらうをたすけさせましますごかうかうのおんいたりなるべし」と、やうやうにこしらへまうさせたまへども、おんぺんじもなかりけり。 おほみやそのころなにとなきおんてならひのついでに、 うきふしにしづみもやらでかはたけのよにためしなきなをやながさむ W004 よにはいかにしてもれけるやらん、あはれにやさしきためしにぞひとびとまうしあはれける。 すでにごじゆだいのひにもなりしかば、ちちのおとど、ぐぶのかんだちめ、しゆつしやのぎしきなど、こころことにだしたてまゐらつさせたまひけり。 おほみやものうきおんいでたちなれば、とみにもたてまつらず、はるかによふけ、さよもなかばになりてのち、おんくるまにたすけのせられさせたまひけり。 ごじゆだいののちは、れいけいでんにぞましましける。 さればひたすらあさまつりごとをすすめまうさせたまふおんさまなり。 かのししんでんのくわうきよには、げんじやうのしやうじをたてられたり。 P78いいん、ていごりん、ぐせいなん、たいこうばう、ろくりせんせい、りせき、しば、てなが、あしなが、むまがたのしやうじ、おにのま、りしやうぐんがすがたをさながらうつせるしやうじもあり。 をはりのかみをののたうふうが、しつくわいげんじやうのしやうじとかけるも、ことわりとぞみえし。 かのせいりやうでんのぐわとのみしやうじには、むかしかなをかがかきたりしゑんざんのありあけのつきもありとかや。 こゐんのいまだえうしゆにてましませしそのかみ、なにとなきおんてまさぐりのついでに、かきくもらかさせたまひたりしが、ありしながらにすこしもたがはせたまはぬをごらんじて、せんていのむかしもやおんこひしうおぼしめされけん、 おもひきやうきみながらにめぐりきておなじくもゐのつきをみむとは W005 そのあひだのおんなからひ、いひしらずあはれにやさしきおんことなり。 「がくうちろん」(『がくうちろん』)S0108さるほどに、えいまんぐわんねんのはるのころより、しゆしやうごふよのおんことときこえさせたまひしが、おなじきなつのはじめにもなりしかば、ことのほかにおもらせたまふ。 これによつて、おほくらのたいふいきのかねもりがむすめのはらに、こんじやういちのみやのにさいにならせたまふがましましけるを、たいしにたてまゐらさせたまふべしときこえしほどに、おなじきろくぐわつにじふごにち、にはかにP79しんわうのせんじかうぶらせたまふ。 やがてそのよじゆぜんありしかば、てんがなにとなうあわてたるさまなりけり。 そのときのいうしよくのひとびとまうしあはれけるは、まづほんてうに、とうたいのれいをたづぬるに、せいわてんわうくさいにして、もんどくてんわうのおんゆづりをうけさせたまふ。 それはかのしうくたんのせいわうにかはり、なんめんにして、いちじつばんきのまつりごとををさめたまひしになぞらへて、ぐわいそちうじんこう、えうしゆをふちしたまへり。 これぞせつしやうのはじめなる。 とばのゐんごさい、こんゑのゐんさんざいにてせんそあり。 かれをこそ、いつしかなれとまうししに、これはにさいにならせたまふ。 せんれいなし。 ものさわがしともおろかなり。 さるほどに、おなじきしちぐわつにじふしちにち、しやうくわうつひにほうぎよなりぬ。 おんとしにじふさん。 つぼめるはなのちれるがごとし。 たまのすだれ、にしきのちやうのうち、みなおんなみだにむせばせおはします。 やがてそのよ、かうりうじのうしとら、れんだいののおく、ふなをかやまにをさめたてまつる。 ごさうそうのよ、えんりやくこうぶくりやうじのだいしゆ、がくうちろんといふことをしいだして、たがひにらうぜきにおよぶ。 いつてんのきみほうぎよなつてのち、ごむしよへわたしたてまつるときのさほふは、なんぼくにきやうのだいしゆ、ことごとくぐぶして、ごむしよのめぐりに、わがてらでらのがくをうつことありけり。 まづしやうむてんわうのごぐわん、あらそふべきてらなければ、とうだいじのがくをうつ。 つぎにたんかいこうのごぐわんとてこうぶくじのがくをうつ。 ほくきやうには、こうぶくじにむかへて、えんりやくじのがくをうつ。 つぎにてんむてんわうのごぐわん、けうだいくわしやう、ちしようだいしのさうさうとてをんじやうじのがくをうつ。 しかるを、さんもんのだいしゆ、いかがおもひけん、せんれいをそむいて、とうだいじのつぎ、こうぶくじのP80うへに、えんりやくじのがくをうつあひだ、なんとのだいしゆ、とやせまし、かうやせましと、せんぎするところに、ここにこうぶくじのさいこんだうじゆ、くわんおんばう、せいしばうとて、きこえたるだいあくそうににんありけり。 くわんおんばうはくろいとをどしのはらまきに、しらえのなぎなた、くきみじかにとり、せいしばうはもよぎをどしのよろひき、こくしつのおほだちもつて、ににんつとはしりいで、えんりやくじのがくをきつておとし、さんざんにうちわり、「うれしやみづ、なるはたきのみづ、ひはてるとも、たえずとうたへ」とはやしつつ、なんとのしゆとのなかへぞいりにける。 「きよみづえんしやう」(『きよみづでらえんしやう』)S0109さんもんのだいしゆ、らうぜきをいたさばてむかひすべきところに、こころぶかうねらふかたもやありけん、ひとことばもいださず。 みかどかくれさせたまひてのちは、こころなきさうもくまでも、みなうれへたるいろにこそあるべきに、このさうどうのあさましさにたかきもいやしきも、きもたましひをうしなつて、しはうへみなたいさんす。 おなじきにじふくにちのうまのこくばかり、さんもんのだいしゆおびたたしうげらくすときこえしかば、ぶし、けんびゐし、にしざかもとにゆきむかつてふせぎけれども、ことともせず、おしやぶつてらんにふす。 またなにもののまうしいだしたりけるやらん、「いちゐん、さんもんのだいしゆにおほせて、へいけつゐたうせらるべし」ときこえしかば、ぐんびやうだいりにP81さんじてしはうのぢんどうをかためてけいごす。 へいじのいちるゐみなろくはらにはせあつまる。 いちゐんもいそぎろくはらへごかうなる。 きよもりこうそのーときはいまだだいなごんのうだいしやうにておはしけるが、おほきにおそれさわがれけり。 こまつどの、「なにによつて、ただいまさるおんことさふらふべき」としづめまうされけれども、つはものどもさわぎののしることおびたたし。 されどもさんもんのだいしゆろくはらへはよせずして、そぞろなるせいすゐじにおしよせて、ぶつかくそうばういちうものこさずみなやきはらふ。 これはさんぬるごさうそうのよのくわいけいのはぢをきよめんがためとぞきこえし。 せいすゐじはこうぶくじのまつじたるによつてなり。 せいすゐじやけたりけるあした、「くわんおんくわけうへんじやうちはいかに」と、ふだにかいて、だいもんのまへにぞたてたりける。 つぎのひまた、「りやくこふふしぎちからおよばず」と、かへしのふだをぞうつたりける。 しゆとかへりのぼりければ、いちゐんもいそぎろくはらよりくわんぎよなる。 しげもりのきやうばかりぞ、おんおくりにはまゐられける。 ちちのきやうはまゐられず。 なほようじんのためかとぞみえし。 しげもりのきやう、おんおくりよりかへられたりければ、ちちのだいなごんのたまひけるは、「さてもいちゐんのごかうこそおほきにおそれおぼゆれ。 かねてもおぼしめしより、おほせらるるむねのあればこそ、かうはきこゆらめ。 それにもなほうちとけたまふまじ」とのたまへば、しげもりのきやうまうされけるは、「このことゆめゆめおんけしきにも、おんことばにもいださせたまふべからず。 ひとにこころつけがほに、なかなかあしきおんことなり。 これにつけても、よくよくえいりよにそむかせたまはで、ひとのためにおんなさけをほどこさせましまさば、しんめいさんぽうかごP82あるべし。 さらんにとつては、おんみのおそれさふらふまじ」とてたたれければ、「しげもりのきやうはゆゆしうおほやうなるものかな」とぞ、ちちのきやうものたまひける。 いちゐんくわんぎよののち、ごぜんにうとからぬきんじゆしやたち、あまたさぶらはれけるに、「さてもふしぎのことをまうしいだしたるものかな。 つゆもおぼしめしよらぬものを」とおほせければ、ゐんぢうのきりものにさいくわうほふしといふものあり。 をりふしごぜんちかうさぶらひけるが、すすみいでて、「てんにくちなし、にんをもつていはせよとまうす。 へいけもつてのほかにくわぶんにさふらふあひだ、てんのおんぱからひにや」とぞまうしける。 ひとびと、「このことよしなし。 かべにみみあり。 おそろしおそろし」とぞ、おのおのささやきあはれける。 (『とうぐうだち』)S0110さるほどに、そのとしはりやうあんなりければ、ごけいだいじやうゑもおこなはれず。 けんしゆんもんゐん、そのーときはいまだひがしのおんかたとまうしける。 そのおんはらに、いちゐんのみやのごさいにならせたまふのましましけるを、たいしにたてまゐらさせたまふべしときこえしほどに、おなじきじふにんぐわつにじふしにち、にはかにしんわうのせんじかうぶらせたまふ。 あくればかいげんありて、にんあんとかうす。 おなじきとしのじふぐわつやうかのひ、きよねんしんわうのせんじかうぶらせたまひしわうじ、とうさんでうにてとうぐうにたたせたまふ。 とうぐうはおんをぢろくさい、しゆしやうはおんをひさんざい、いづれもぜうもくにあひかなはず。 ただしくわんわにねんに、いちでうのゐんしちさいにてごそくゐあり。 さんでうのゐんじふいつさいにてとうぐうにたたせたまふ。 せんれいなきにしもあらず。 しゆしやうはにさいにておんゆづりをうけさせたまひて、わづかごさいとまうししにんぐわつじふくにちに、おんくらゐをすべりて、しんゐんとぞまうしける。 P83いまだおんげんぶくもなくして、だいじやうてんわうのそんがうあり。 かんかほんてう、これやはじめならん。 にんあんさんねんさんぐわつはつかのひ、しんていだいこくでんにしてごそくゐあり。 このきみのくらゐにつかせたまひぬるは、いよいよへいけのえいぐわとぞみえし。 こくもけんしゆんもんゐんとまうすは、にふだうしやうこくのきたのかた、はちでうのにゐどののおんいもうとなり。 またへいだいなごんときただのきやうとまうすも、このにようゐんのおんせうとなるうへ、うちのごぐわいせきなり。 ないげにつけてしつけんのしんとぞみえし。 そのころのじよゐじもくとまうすも、ひとへにこのときただのきやうのままなりけり。 やうきひがさいはひしとき、やうこくちうがさかえしがごとし。 よのおぼえ、ときのきらめでたかりき。 にふだうしやうこくてんがのだいせうじをのたまひあはせられければ、ときのひと、へいくわんばくとぞまうしける。 「てんがののりあひ」(『てんがののりあひ』)S0111さるほどにかおうぐわんねんしちぐわつじふろくにち、いちゐんごしゆつけあり。 ごしゆつけののちも、ばんきのまつりごとをしろしめされければ、ゐん、うち、わくかたなし。 ゐんぢうにちかうめしつかはれけるくぎやうてんじやうびと、じやうげのほくめんにいたるまで、くわんゐほうろく、みなみにあまるばかりなり。 されどもひとのこころのならひにて、なほあきたらで、「あつぱれ、そのひとのうせたらば、P84そのくにはあきなん。 そのひとのほろびたらば、そのくわんにはなりなん」など、うとからぬどちは、よりあひよりあひ、ささやきけり。 いちゐんもないないおほせなりけるは、「むかしよりだいだいのてうてきをたひらげたるものおほしといへども、いまだかやうのことはなし。 さだもりひでさとがまさかどをうち、らいぎがさだたふむねたふをほろぼし、ぎかがたけひらいへひらをせめたりしにも、けんじやうおこなはれしこと、わづかじゆりやうにはすぎざりき。 いまきよもりが、かくこころのままにふるまふことこそしかるべからね。 これもよすゑになつて、わうぼふのつきぬるゆゑなり」とはおほせなりけれども、ついでなければおんいましめもなし。 へいけもまたべつしててうかをうらみたてまつらるることもなかりしに、よのみだれそめけるこんぼんは、いんじかおうにねんじふぐわつじふろくにちに、こまつどののじなん、しんーざんみのちうじやうすけもり、そのときはいまだゑちぜんのかみとて、しやうねんじふさんになられけるが、ゆきははだれにふつたりけり。 かれののけしき、まことにおもしろかりければ、わかきさぶらひどもさんじつきばかりめしぐして、れんだいのや、むらさきの、うこんのばばにうちいでてたかどもあまたすゑさせ、うづらひばりをおつたておつたて、ひねもすにかりくらし、はくぼにおよんでろくはらへこそかへられけれ。 そのときのごせつろくはまつどのにてぞましましける。 ひがしのとうゐんのごしよより、ごさんだいありけり。 いうはうもんよりじゆぎよあるべきにて、ひがしのとうゐんをみなみへ、おほひのみかどをにしへぎよしゆつなるに、すけもりあそん、おほひのみかどゐのくまにて、てんがのぎよしゆつにはなつきにまゐりあふ。 おんとものひとども、「なにものぞ、らうぜきなり。 ぎよしゆつなるに、のりものよりおりさふらへおりP85さふらへ」といらでけれども、あまりにほこりいさみ、よをよともせざりけるうへ、めしぐしたるさぶらひどもも、みなにじふよりうちのわかものどもなれば、れいぎこつぽふわきまへたるものいちにんもなし。 てんがのぎよしゆつともいはず、いつせつげばのれいぎにもおよばず、ただかけやぶつてとほらんとするあひだ、くらさはくらし、つやつやだいじやうのにふだうのまごともしらず、またせうせうはしつたれども、そらしらずして、すけもりのあそんをはじめとして、さぶらひどもみなむまよりとつてひきおろし、すこぶるちじよくにおよびけり。 すけもりあそん、はふはふろくはらへかへりおはして、おほぢのしやうこくぜんもんにこのよしうつたへまうされければ、にふだうおほきにいかつて、「たとひてんがなりとも、じやうかいがあたりをばはばかりたまふべきに、さうなうあのおさなきものにちじよくをあたへられけるこそゐこんのしだいなれ。 かかることよりして、ひとにはあざむかるるぞ。 このことてんがにおもひしらせたてまつらでは、えこそあるまじけれ。 いかにもしてうらみたてまつらばや」とのたまへば、しげもりのきやうまうされけるは、「これはすこしもくるしうさふらふまじ。 よりまさ、みつもとなどまうすげんじどもにあざけられてもさふらはんは、まことにいちもんのちじよくにてもさふらふべし。 しげもりがこどもとてさうらはんずるものが、とののぎよしゆつにまゐりあうて、のりものよりおりさふらはぬことこそかへすがへすもびろうにさふらへ」とて、そのときことにあうたるさぶらひども、みなめしよせて、「じこんいごなんぢらよくよくこころうべし。 あやまつててんがへぶれいのよしをまうさばやとおもへ」とてこそかへされけれ。 P86 そののちにふだう、こまつどのにはかうとものたまひもあはせずして、かたゐなかのさぶらひの、きはめてこはらかなるがにふだうのおほせよりほか、よにまたおそろしきことなしとおもふものども、なんば、せのををはじめとして、つがふろくじふよにんめしよせて、「らいにじふいちにち、てんがぎよしゆつあるべかんなり。 いづくにてもまちうけたてまつり、せんぐみずゐじんどもがもとどりきつて、すけもりがはぢすすげ」とこそのたまひけれ。 つはものどもかしこまりうけたまはつてまかりいづ。 てんがこれをばゆめにもしろしめされず、しゆしやうみやうねんおんげんぶく、ごかくわんはいくわんのおんさだめのために、しばらくごちよくろにあるべきにて、つねのぎよしゆつよりはひきつくろはせたまひて、こんどはたいけんもんよりじゆぎよあるべきにて、なかのみかどをにしへぎよしゆつなるにゐのくまほりかはのへんにて、ろくはらのつはものども、ひたかぶとさんびやくよき、まちうけたてまつり、てんがをなかにとりこめまゐらせて、ぜんごよりいちどに、ときをどつとぞつくりける。 せんぐみずゐじんどもが、けふをはれとしやうぞいたるを、あそこにおつかけ、ここにおつつめ、さんざんにりようりやくして、いちいちにみなもとどりをきる。 ずゐじんじふにんのうち、みぎのふしやうたけもとがもとどりをもきられてげり。 そのなかにとうくらんどのたいふたかのりがもとどりをきるとて、「これはなんぢがもとどりとおもふべからず、しゆのもとどりとおもふべし」と、いひふくめてぞきつてげる。 そののちはおんくるまのうちへも、ゆみのはずつきいれなどして、すだれかなぐりおとし、おうしのむながいしりがいきりはなち、かくさんざんにしちらして、よろこびのときをつくり、ろくはらへかへりまゐりたれば、にふだう、「しんべうなり」とぞのたまひける。 P87 されどもおんくるまぞひには、いなばのさいづかひ、とばのくにひさまるといふをのこ、げらふなれども、さかざかしきものにて、おんくるまをしつらひ、のせたてまつて、なかのみかどのごしよへくわんぎよなしたてまつる。 そくたいのおんそでにておんなみだをおさへさせたまひつつ、くわんぎよのぎしきのあさましさ、まうすもなかなかおろかなり。 たいしよくくわん、たんかいこうのおんことはあげてまうすにおよばず、ちうじんこう、せうぜんこうよりこのかた、せつしやうくわんばくのかかるおんめにあはせたまふこと、いまだうけたまはりおよばず。 これこそへいけのあくぎやうのはじめなれ。 こまつどのこのよしをききたまひて、おほきにおそれさわがれけり。 そのーときゆきむかうたるさぶらひども、みなかんだうせらる。 「たとひにふだういかなるふしぎをげぢしたまふといふとも、などしげもりにゆめばかりしらせざりけるぞ。 およそはすけもりきくわいなり。 せんだんはふたばよりかうばしとこそみえたれ。 すでにじふにさんにならんずるものが、いまはれいぎをぞんぢしてこそふるまふべきに、かやうのびろうをげんじて、にふだうのあくみやうをたつ。 ふけうのいたり、なんぢひとりにありけり」とて、しばらくいせのくにへおひくださる。 されば、このだいしやうをば、きみもしんもぎよかんありけるとぞきこえし。 P88 「ししのたに」(『ししのたに』)S0112これによつて、しゆしやうおんげんぶくのおんさだめ、そのひはのびさせたまひて、おなじきにじふごにち、ゐんのてんじやうにてぞおんげんぶくのおんさだめはありける。 せつしやうどのさてもわたらせたまふべきならねば、おなじきじふにんぐわつここのかのひ、かねせんじをかうぶらせたまひて、おなじきじふしにちだいじやうだいじんにあがらせたまふ。 やがておなじきじふしちにち、よろこびまうしのありしかども、よのなかはなほにがにがしうぞみえし。 さるほどにことしもくれぬ。 かおうもみとせになりにけり。 しやうぐわついつかのひ、しゆしやうおんげんぶくあつて、おなじきじふさんにち、てうきんのぎやうがうありけり。 ほふわうにようゐんまちうけまゐらさせたまひて、うひかうぶりのおんよそほひ、いかばかりらうたくおぼしめされけん。 にふだうしやうこくのおんむすめ、にようごにまゐらせたまふ。 おんとしじふごさい、ほふわうおんいうじのぎなり。 めうおんゐんどの、そのころはいまだないだいじんのさだいしやうにてましましけるが、だいしやうをじしまうさせたまふことありけり。 ときにとくだいじのだいなごんじつていのきやう、そのじんにあひあたりたまふ。 またくわざんのゐんのちうなごんかねまさのきやうもしよまうあり。 そのほかこなかのみかどのとうぢうなごんかせいのきやうのさんなん、しんだいなごんなりちかのきやうもひらにまうさる。 このだいなごんはゐんのごきしよくよかりければ、P89さまざまのいのりをはじめらる。 まづやはたにひやくにんのそうをこめて、しんどくのだいはんにやをしちにちよませられたりけるさいちうに、かはらのだいみやうじんのおんまへなるたちばなのきへ、をとこやまのかたより、やまばとみつとびきたつて、くひあひてぞしににける。 はとははちまんだいぼさつのだいいちのししやなり。 みやてらにかかるふしぎなしとて、ときのけんぎやう、きやうせいほふいんこのよしだいりへそうもんしたりければ、これただごとにあらず、みうらあるべしとて、じんぎくわんにしてみうらあり。 おもきおんつつしみとうらなひまうす。 ただしこれはきみのおんつつしみにはあらず、しんかのつつしみとぞまうしける。 それにだいなごんおそれをもいたされず、ひるはひとめのしげければ、よなよなほかうにて、なかのみかどからすまるのしゆくしよより、かものかみのやしろへ、ななよつづけてまゐられけり。 ななよにまんずるよ、しゆくしよにげかうして、くるしさにすこしまどろみたりけるゆめに、かものかみのやしろへまゐりたるとおぼしくて、ごほうでんのみとおしひらき、ゆゆしうけだかげなるおんこゑにて、 さくらばなかものかはかぜうらむなよちるをばえこそとどめざりけれ W006 だいなごんこれになほおそれをもいたされず、かものかみのやしろに、ごほうでんのおんうしろなる、すぎのほらにだんをたて、あるひじりをこめて、だぎにのほふをひやくにちおこなはせられけるに、あるときにはかにそらかきくもり、いかづちおびたたしうなつて、かのおほすぎにおちかかり、らいくわもえあがつて、きうちうすでにあやふくみえけるを、みやうどどもわしりあつまりて、これをうちけす。 さてかのげほふおこなひけるひじりをつゐしゆつせんとす。 「われたうしやにひやくにちさんろうのこころざしあつて、P90けふはしちじふごにちになる。 まつたくいづまじ」とてはたらかず。 このよしをしやけよりだいりへそうもんまうしたりければ、ただほふにまかせよと、せんじをくださる。 そのーときじんにんしらづゑをもつてかのひじりがうなじをしらげて、いちでうのおほちより、みなみへおつこしてげり。 しんはひれいをうけずとまうすに、このだいなごん、ひぶんのだいしやうをいのりまうされければにや、かかるふしぎもいできにけり。 そのころのじよゐぢもくとまうすは、ゐん、うちのおんぱからひにもあらず、せつしやうくわんばくのごせいばいにもおよばず、ただいつかうへいけのままにてありければ、とくだいじ、くわざんのゐんもなりたまはず、にふだうしやうこくのちやくなんこまつどの、そのーときはいまだだいなごんのうだいしやうにてましましけるが、ひだんにうつりて、じなんむねもり、ちうなごんにておはせしが、すはいのじやうらふをてうをつして、みぎにくははられけるこそ、まうすはかりもなかりしか。 なかにもとくだいじどのは、いちのだいなごんにて、くわそくえいゆう、さいかくいうちやう、けちやくにてましましけるが、へいけのじなんむねもりのきやうに、かかいこえられたまひぬるこそゐこんのしだいなれ。 さだめてごしゆつけなどもやあらんずらん」と、ひとびとささやきあはれけれども、とくだいじどのはしばらくよのならんやうをみんとて、だいなごんをじしてろうきよとぞきこえし。 しんだいなごんなりちかのきやうののたまひけるは、「とくだいじ、くわざんのゐんにこえられたらんはいかがせん。 へいけのじなんむねもりのきやうにかかいこえられぬるこそ、ゐこんのしだいなれ。 いかにもしてへいけをほろぼし、ほんまうをとげん」とのたまひけるこそおそろしけれ。 ちちのきやうは、このよはひでは、わづかP91ちうなごんまでこそいたられしか。 そのばつしにて、くらゐじやうにゐ、くわんだいなごんにへあがつて、、たいこくあまたたまはつて、しそく、しよじう、てうおんにほこれり。 なにのふそくあつてかかかるこころつかれけん、ひとへにてんまのしよゐとぞみえし。 へいぢにもゑちごのちうじやうとて、のぶよりのきやうにどうしんのあひだ、そのーときすでにちうせらるべかりしを、こまつどののやうやうにまうして、くびをつぎたまへり。 しかるにそのおんをわすれて、ぐわいじんもなきところに、ひやうぐをととのへ、ぐんびやうをかたらひおき、あさゆふはただいくさかつせんのいとなみのほかは、またたじなしとぞみえたりける。 ひんがしやまししのたにといふところは、うしろみゐでらにつづいて、ゆゆしきじやうくわくにてぞありける。 それにしゆんくわんそうづのさんざうあり。 かれにつねはよりあひよりあひ、へいけほろぼすべきはかりごとをぞめぐらしける。 あるよ、ほふわうもごかうなる。 こせうなごんにふだうしんせいのしそく、じやうけんほふいんもおんともつかまつらる。 そのよのしゆえんに、このよしをおほせあはせられたりければ、ほふいん、「あなあさまし。 ひとあまたうけたまはりさふらひぬ。 ただいまもれきこえて、てんがのおんだいじにおよびさふらひなんず」とまうされければ、だいなごんけしきかはつて、さつとたたれけるが、ごぜんにたてられたりけるへいじを、かりぎぬのそでにかけてひきたふされたりけるを、ほふわうえいらんあつて、「あれはいかに」とおほせければ、だいなごんたちかへつて、「へいじたふれさふらひぬ」とぞまうされける。 ほふわうもゑつぼにいらせおはしまし、「ものどもまゐつてさるがくつかまつれ」とおほせければ、へいはうぐわんやすよりつとまゐつて、「P92あああまりにへいじのおほうさふらふに、もてゑひてさふらふ」とまうす。 しゆんくわんそうづ、「さてそれをば、いかがつかまつるべきやらん」。 さいくわうほふし、「ただくびをとるにはしかじ」とて、へいじのくびをとつてぞいりにける。 ほふいん、あまりのあさましさに、つやつやものもまうされず。 かへすがへすもおそろしかりしことどもなり。 さてよりきのともがらたれたれぞ。 あふみのちうじやうにふだうれんじやう、ぞくみやうなりまさ、ほつしようじのしゆぎやうしゆんくわんそうづ、やましろのかみもとかぬ、しきぶのたいふまさつな、へいはうぐわんやすより、そうはうぐわんのぶふさ、しんへいはうぐわんすけゆき、ぶしにはただのくらんどゆきつなをはじめとして、ほくめんのものどもおほくよりきしてげり。 「うがはかつせん」(『しゆんくわんのさた うがはいくさ』)S0113そもそもこのほつしようじのしゆぎやうしゆんくわんそうづとまうすは、きやうごくのげんだいなごんがしゆんのきやうのまご、きでらのほふいんくわんがにはこなりけり。 そぶだいなごんは、さしてゆみやとるいへにはあらねども、あまりにはらあしきひとにて、さんでうのぼうもんきやうごくのしゆくしよのまへをば、ひとをもやすくとほされず、つねはちうもんにたたずみ、はをくひしばり、いかつてこそおはしけれ。 かかるおそろしきひとのまごなればにや、このしゆんくわんも、そうなれども、こころもたけく、おごれるひとにて、よしなきむほんにもくみしてげるにこそ。 しんだいなごんなりちかのきやう、P93ただのくらんどゆきつなをめして、「こんどごへんをば、いつぱうのたいしやうにたのむなり。 このことしおほせつるものならば、くにをもしやうをもしよまうによるべし。 まづゆぶくろのれうに」とて、しろぬのごじつたんおくられたり。 あんげんさんねんさんぐわついつかのひ、めうおんゐんどの、だいじやうだいじんにてんじたまへるかはりに、こまつどの、げんだいなごんさだふさのきやうをこえて、ないだいじんになりたまふ。 やがてだいきやうおこなはる。 だいじんのだいしやうめでたかりき。 そんじやにはおほひのみかどのうだいじんつねむねこうとぞきこえし。 いちのかみこそせんどなれども、ちちうぢのあくさふのごれい、そのおそれあり。 ほくめんはしやうこにはなかりけり。 しらかはのゐんのおんとき、はじめおかれてよりこのかた、ゑふどもあまたさふらひけり。 ためとし、もりしげ、わらはよりいまいぬまる、せんじゆまるとて、これらはさうなききりものにてぞありける。 とばのゐんのおんときも、すゑより、すゑのりふしともに、てうかにめしつかはれてありしが、つねはてんそうするをりもありなんどきこえしかども、これらはみなみのほどをふるまうてこそありしか。 このときのほくめんのともがらは、もつてのほかにくわぶんにて、くぎやうてんじやうびとをもことともせず、げほくめんよりしやうほくめんにあがり、しやうほくめんよりてんじやうのまじはりをゆるさるるものもおほかりけり。 かくのみおこなはるるあひだ、おごれるこころどもつきて、よしなきむほんにもくみしてげるにこそ。 なかにもこせうなごんにふだうしんせいのもとにめしつかはれけるもろみつ、なりかげといふものあり。 もろみつはあはのくにのざいちやう、なりかげはきやうのもの、じゆつこんいやしきげらふなり。 こんでいわらは、もしはかくごしやなどにてもやP94ありけん、さかざかしかりしによつて、つねはゐんへもめしつかはれけるが、もろみつはさゑもんのじよう、なりかげはうゑもんのじようとて、ににんいちどにゆきへのじようになりぬ。 ひととせしんせいことにあひしとき、ににんともにしゆつけして、さゑもんにふだうさいくわう、うゑもんにふだうさいけいとて、これらはしゆつけののちも、ゐんのみくらあづかりにてぞさふらひける。 かのさいくわうがこにもろたかといふものあり。 これもさうなききりものにて、けんびゐし、ごゐのじやうまでへあがりて、あまつさへあんげんぐわんねんじふにんぐわつにじふくにち、つゐなのぢもくに、かがのかみにぞなされける。 こくむをおこなふあひだ、ひほふひれいをちやうぎやうし、じんじやぶつじ、けんもんせいけのしやうりやうをもつたうして、さんざんのことどもにてぞありける。 たとひせうこうがあとをへだつといふとも、をんびんのまつりごとをおこなふべかりしに、かくこころのままにふるまふあひだ、おなじきにねんのなつのころ、こくしもろたかがおとと、こんどうはんぐわんもろつねをかがのもくだいにふせらる。 もくだいげちやくのはじめ、こくふのへんにうがはといふやまでらあり。 をりふしじそうどもがゆをわかいてあびけるを、らんにふしておひあげ、わがみあび、ざふにんばらおろし、むまあらはせなどしけり。 じそういかりをなして、「むかしよりこのところは、くにがたのもののにふぶすることなし。 せんれいにまかせて、すみやかににふぶのあふばうとどめよや」とぞまうしける。 「もくだいおほきにいかつて、「せんせんのもくだいは、ふかくでこそいやしまれたれ。 たうもくだいにおいては、すべてそのぎあるまじ。 ただほふにまかせよ」といふほどこそありけれ、じそうどもはくにがたのものをつゐしゆつせんとす。 くにがたのものどもは、ついでをもつてらんにふせんと、うちあひ、P95はりあひしけるほどに、もくだいもろつねがひざうしけるむまのあしをぞうちをりける。 そののちはたがひにきうせんひやうぢやうをたいして、いあひ、きりあひ、すこくたたかふ。 よにいりければ、もくだいかなはじとやおもひけんひきしりぞく。 そののちたうごくのざいちやうらいつせんよにん、もよほしあつめて、うがはにおしよせ、ばうじやいちうものこさずみなやきはらふ。 うがはといふは、はくさんのまつじなり。 このことうつたへんとて、すすむらうそうたれたれぞ。 ちしやく、がくみやう、ほうだいばう、しやうち、がくおん、とさのあざりぞすすみける。 しらやまさんじやはちゐんのだいしゆ、ことごとくおこりあひ、つがふそのせいにせんよにん、おなじきしちぐわつここのかのひのくれがたに、もくだいもろつねがたちちかうこそおしよせたれ。 けふはひくれぬ。 あすのいくさとさだめて、そのひはよせでゆらへたり。 つゆふきむすぶあきかぜは、いむけのそでをひるがへし、くもゐをてらすいなづまは、かぶとのほしをかがやかす。 もくだいかなはじとやおもひけん、よにげにしてきやうへのぼる。 あくるうのこくにおしよせて、ときをどつとぞつくりける。 じやうのうちにはおともせず。 ひとをいれてみせければ、「みなおちてさふらふ」とまうす。 だいしゆちからおよばでひきしりぞく。 さらばさんもんへうつたへんとて、はくさんちうぐうのしんよ、かざりたてまつて、ひえいさんへふりあげたてまつる。 おなじきはちぐわつじふににちのうまのこくばかり、はくさんちうぐうのしんよ、すでにひえいさんひがしざかもとにつかせたまふとまうすほどこそありけれ、ほくこくのかたより、いかづちおびたたしくなつて、みやこをさしてなりのぼり、はくせつくだつてちをうづみ、さんじやうらくちうおしなべて、ときはのやまのこずゑまで、みなしろたへにぞなりにける。 (『ぐわんだて』)S0114だいしゆしんよをば、まらうとのみやへいれP96たてまつる。 まらうととまうすは、はくさんめうりごんげんにておはします。 まうせばふしのおんなかなり。 まづさたのじやうふはしらず、しやうぜんのおんよろこび、ただこのことにあり。 うらしまがこのしつせのまごにあへりしにもすぎ、たいないのもののりやうぜんのちちをみしにもこえたり。 さんぜんのしゆとくびすをつぎ、しちしやのじんにんそでをつらねて、じじこくこくのほつせきねん、ごんごだうだんのことどもにてぞさふらひける。 さるほどにさんもんのだいしゆ、こくしかがのかみもろたかをるざいにしよせられ、もくだいこんどうはんぐわんもろつねをきんごくせらるべきよし、そうもんどどにおよぶといへども、ごさいきよなかりければ、しかるべきくぎやうてんじやうびとは、「あはれとくしてごさいだんあるべきものを。 むかしよりさんもんのそしようはたにことなり。 おほくらのきやうためふさ、ださいのごんのそつすゑなかのきやうは、さしもてうかにちようしんたりしかども、さんもんのそしようによつてるざいせられたまひにき。 いはんやもろたかなどはことのかずにてやはあるべき、しさいにやおよぶべき」とまうしあはれけれども、たいしんはろくをおもんじていさめず、せうしんはつみにおそれてまうさず」といふことなれば、おのおのくちをとぢたまへり。 P97 「ぐわんだて」かもがはのみづ、すごろくのさい、やまぼふし、これぞわがおんこころにかなはぬもの」と、しらかはのゐんもおほせなりけるとかや。 とばのゐんのおんときも、ゑちぜんのへいせんじをさんもんへよせられけることは、たうざんをごきゑあさからざるによつてなり。 「ひをもつてりとす」とせんげせられてこそ、ゐんぜんをばくだされけれ。 さればがうぞつきやうばうのきやうのまうされしは、「さんもんのだいしゆ、ひよしのしんよをぢんどうへふりたてまつて、そしようをいたさば、きみはいかがおんぱからひさうらふべき」とまうされければ、「ほふわう、「げにもさんもんのそしようはもだしがたし」とぞおほせける。 いんじかほうにねんさんぐわつふつかのひ、みののかみみなもとのよしつなのあそん、たうごくしんりふのしやうをたふすあひだ、やまのくぢうしやゑんおうをせつがいす。 これによつてひよしのしやし、えんりやくじのじくわん、つがふさんじふよにん、まうしぶみをささげてぢんどうへさんじたるを、ごにでうのくわんばくどの、やまとげんじなかづかさのごんのせふよりはるにおほせて、これをふせがせらるるによりはるがらうどう、やをはなつ。 やにはにゐころさるるものはちにん、きずをかうぶるものじふよにん、しやし、しよし、しはうへみなにげさりぬ。 これによつてさんもんのじやうかうら、しさいをそうもんのために、おびたたしうげらくすとP98きこえしかば、ぶし、けんびゐし、にしざかもとにゆきむかつて、みなおつかへす。 さるほどにさんもんには、ごさいだんちちのあひだ、ひよしのしんよをこんぽんちうだうへふりあげたてまつり、そのおんまへにてしんどくのだいはんにやをしちにちよみて、ごにでうのくわんばくどのをじゆそしたてまつる。 けちぐわんのだうしには、ちういんほふいん、そのーときはいまだちういんぐぶとまうししが、かうざにのぼりかねうちならし、けいびやくのことばにいはく、「われらがなたねのふたばよりおほしたてたまひしかみたち、ごにでうのくわんばくどのに、かぶらやひとつはなちあてたまへ。 だいはちわうじごんげん」とたからかにこそきせいしたりけれ。 そのよやがてふしぎのことありけり。 はちわうじのごてんより、かぶらやのこゑいでて、わうじやうをさしてなりてゆくとぞ、ひとのゆめにはみえたりける。 そのあしたくわんばくどののごしよのみかうしをあげけるに、ただいまやまよりとつてきたるやうに、つゆにぬれたるしきみひとえだ、たつたりけるこそふしぎなれ。 やがてそのよより、ごにでうのくわんばくどの、さんわうのおんとがめとて、おもきおんやまふをうけさせたまひて、うちふさせたまひしかば、ははうへおほとののきたのまんどころ、おほきにおんなげきあつて、おんさまをやつし、いやしきげらふのまねをして、ひよしのやしろへまゐらせたまひて、しちにちしちやがあひだいのりまうさせおはします。 まづあらはれてのごりふぐわんには、しばでんがくひやくばん、ひやくばんのひとつもの、けいば、やぶさめ、すまふ、おのおのひやくばん、ひやくざのにんわうかう、ひやくざのやくしかう、いつちやくしゆはんのやくしひやくたい、とうじんのやくしいつたい、ならびにしやか、あみだのぞう、おのおのざうりふくやうせられけり。 またごしんぢうにみつのごりふぐわんあり。 おんこころのうちのおんことなれば、P99ひとこれをば、いかでかしりたてまつるべきに、それになによりもまたふしぎなりけることには、しちやにまんずるよ、はちわうじのおんやしろにいくらもありけるまゐりうどどものなかに、みちのくより、はるばるとのぼつたりけるわらはみこ、やはんばかりににはかにたえいりけり。 はるかにかきいだしていのりければ、やがてたつてまひかなづ。 ひときどくのおもひをなしてこれをみる。 はんじばかりまうてのち、さんわうおりさせたまひて、やうやうのごたくせんこそおそろしけれ。 「しゆじやうらたしかにうけたまはれ。 おほとののきたのまんどころ、けふしちにち、わがおんまへにこもらせたまひたり。 ごりふぐわんみつあり。 まづひとつには、こんどてんがのじゆみやうをたすけさせおはしませ。 さもさふらはば、おほみやのしたどのにさぶらふもろもろのかたはうどにまじはつて、いつせんにちがあひだ、てうせきみやづかひまうさんとなり。 おほとののきたのまんどころにて、よをよともおぼしめさで、すごさせたまふおんこころにも、こをおもふみちにまよひぬれば、いぶせきことをもわすられて、あさましげなるかたはうどにまじはつて、いつせんにちがあひだ、あさゆふみやづかひまうさんとおほせらるるこそ、まことにあはれにおぼしめせ。 ふたつにはおほみやのはしどのより、はちわうじのおんやしろまで、くわいらうつくつてまゐらせんとなり。 さんぜんにんのだいしゆ、ふるにもてるにも、しやさんのとき、いたはしうおぼゆるに、くわいらうつくられたらんは、いかにめでたからん。 みつにははちわうじのおんやしろにて、ほつけもんだふかうまいにちたいてんなくおこなはすべしとなり。 このごりふぐわんどもは、いづれもおろかならねども、せめてはかみふたつは、さなくともありなん。 ほつけもんだふかうこそ、いちぢやうあらまほしうはおぼしめせ。 P100ただし、こんどのそしようは、むげにやすかりぬべきことにてありつるを、ごさいきよなくして、じんにん、みやじいころされ、しゆとおほくきずをかうぶつて、なくなくまゐりてうつたへまうすが、あまりにこころうければ、いかならんよにわするべしともおぼしめさず。 そのうへかれらにあたるところのやは、すなはちわくわうすゐじやくのおんはだへにたつたるなり。 まことそらごとはこれをみよ」とて、かたぬぎたるをみれば、ひだりのわきのした、おほきなるかはらけのくちほど、うげのいてぞありける。 「これがあまりにこころうければ、いかにまうすともしぢうのことはかなふまじ。 ほつけもんだふかういちぢやうあるべくは、みとせがいのちをのべてたてまつらん。 それをふそくにおぼしめさばちからおよばず」とて、さんわうあがらせたまひけり。 ははうへこのごりふぐわんのおんこと、ひとにもかたらせたまはねば、たれもらしぬらんと、すこしもうたがふかたもましまさず。 おんこころのうちのことどもを、ありのままにごたくせんありければ、いよいよしんかんにそうて、ことにたつとくおぼしめし、「たとひいちにちへんしとさぶらふとも、ありがたうこそさぶらふべきに、ましてみとせがいのちをのべてたまはらんとおほせらるるこそ、まことにありがたうはさぶらへ」とて、おんなみだをおさへておんげかうありけり。 そののちきのくににてんがのりやう、たなかのしやうといふところを、えいたいはちわうじへきしんせらる。 さればいまのよにいたるまで、はちわうじのおんやしろにて、ほつけもんだふかう、まいにちたいてんなしとぞうけたまはる。 かかりしほどに、ごにでうのくわんばくどのおんやまふかるませたまひて、もとのごとくにならせたまふ。 じやうげよろこびあはれしほどに、みとせのすぐるはゆめなれや、えいちやうにねんになりにけり。 P101ろくぐわつにじふいちにち、またごにでうのくわんばくどの、おんぐしのきはにあしきおんかさいでさせたまひて、うちふさせたまひしが、おなじきにじふしちにち、おんとしさんじふはちにて、つひにかくれさせたまひぬ。 おんこころのたけさ、りのつよさ、さしもゆゆしうおはせしかども、まめやかにことのきふにもなりぬれば、おんいのちををしませたまひけり。 まことにをしかるべし。 しじふにだにみたせたまはで、おほとのにさきだたせたまふこそかなしけれ。 かならずちちをさきだつべしといふことはなけれども、しやうじのおきてにしたがふならひ、まんどくゑんまんのせそん、じふぢくきやうのだいじたちも、ちからおよばせたまはぬしだいなり。 じひぐそくのさんわう、りもつのはうべんにてましませば、おんとがめなかるべしともおぼえず。 「みこしぶり」(『みこしぶり』)S0115さるほどにさんもんには、こくしかがのかみもろたかをるざいにしよせられ、もくだいこんどうはんぐわんもろつねをきんごくせらるべきよし、そうもんどどにおよぶといへども、ごさいきよなかりければ、ひよしのさいれいをうちとどめて、あんげんさんねんしんぐわつじふさんにちのたつのいつてんに、じふぜんじごんげん、まらうど、はちわうじ、さんじやのしんよをかざりたてまつて、ぢんどうへふりあげたてまつる。 さがりまつ、きれづつみ、かものかはら、ただす、うめただ、やなぎはら、とうぼくゐんのへんに、じんにん、みやじ、しらだいしゆ、P102せんだうみちみちて、いくらといふかずをしらず。 しんよはいちでうをにしへいらせたまふに、ごじんぼうてんにかかやいて、にちぐわつちにおちたまふかとおどろかる。 これによつてげんぺいりやうけのたいしやうぐんにおほせて、しはうのぢんどうをかためて、だいしゆふせぐべきよしおほせくださる。 へいけにはこまつのないだいじんのさだいしやうしげもりこう、そのせいさんぜんよきにて、おほみやおもてのやうめい、たいけん、いうはう、みつのもんをかためたまふ。 おととむねもり、とももり、しげひら、をぢよりもり、のりもり、つねもりなどは、にしみなみのもんをかためたまふ。 げんじにはたいだいしゆごのげんざんみよりまさ、らうどうにはわたなべのはぶく、さづくをさきとして、そのせいわづかにさんびやくよき、きたのもん、ぬひどののぢんをかためたまふ。 ところはひろし、せいはすくなし、まばらにこそみえたりけれ。 だいしゆぶせいたるによつて、きたのもん、ぬひどののぢんよりしんよをいれたてまつらんとするに、よりまさのきやうさるひとにて、いそぎむまよりとんでおり、かぶとをぬぎ、てうづうがひして、しんよをはいしたてまつらる。 つはものどももみなかくのごとし。 よりまさのきやうより、だいしゆのなかへししやをたてて、いひおくらるるむねあり。 そのつかひはわたなべのちやうじつとなふとぞきこえし。 となふそのひのしやうぞくには、きちんのひたたれに、こざくらをきにかへしたるよろひきて、しやくどうづくりのたちをはき、にじふしさいたるしらはのやおひ、しげどうのゆみわきにはさみ、かぶとをばぬいで、たかひもにかけ、しんよのおんまへにかしこまつて、「しばらくしづまられさふらへ。 げんざんみどのより、しゆとのおんなかへげんざんみどののまうせとざふらふ」とて、「こんどさんもんのごそしよう、りうんのでうもちろんにさふらふ。 ごさいだんちちこそ、よそにてもゐこんにおぼえさうらへ。 しんよいれたてまつらんP103こと、しさいにおよびさふらはず。 ただしよりまさぶせいにさふらふ。 あけていれたてまつるぢんよりいらせたまひなば、さんもんのだいしゆは、めだりがほしけりなど、きやうわらんべのまうさんこと、ごにちのなんにやさふらはんずらん。 あけていれたてまつれば、せんじをそむくににたり。 またふせぎたてまつらんとすれば、ねんらいいわう、さんわうにかうべをかたぶけてさふらふみが、けふよりのち、ながくゆみやのみちにわかれさふらひなんず。 かれといひ、これといひ、かたがたなんぢのやうにおぼえさふらふ。 ひんがしのぢんどうをばこまつどののおほぜいにてかためられてさふらふ。 そのぢんよりいらせたまふべうもやさふらふらん」と、いひおくりたりければ、となふがかくいふにふせがれて、じんにん、みやじ、しばらくゆらへたり。 わかだいしゆ、あくそうどもは、「なんでふそのぎあるべき。 ただこのぢんよりしんよをいれたてまつれや」といふやからおほかりけれども、ここにらうそうのなかに、さんたふいちのせんぎしやときこえしつのりつしやがううん、すすみいでてまうしけるは、「このぎもつともさいはれたり。 われらしんよをさきだてまゐらせて、そしようをいたさば、おほぜいのなかをうちやぶりてこそ、こうたいのきこえもあらんずれ。 なかんづくこのよりまさのきやうは、ろくそんわうよりこのかた、げんじちやくちやくのしやうとう、ゆみやをとつても、いまだそのふかくをきかず。 およそはぶげいにもかぎらず、かだうにもまたすぐれたるをのこなり。 ひととせこんゑのゐんございゐのおんとき、たうざのごくわいのありしに、『しんざんのはな』といふだいをいだされたりけるに、ひとびとみなよみわづらはれたりしを、このよりまさのきやう、P104 みやまぎのそのこずゑともみえざりしさくらははなにあらはれにけり W007 といふめいかつかまつてぎよかんにあづかるほどのやさおのこに、いかんがときにのぞんでなさけなうちじよくをばあたふべき。 ただしんよかきかへしたてまつれや」と、せんぎしたりければ、すせんにんのだいしゆ、せんぢんよりごぢんまで、みなもつとももつともとぞどうじける。 さてしんよかきかへしたてまつり、ひんがしのぢんどう、たいけんもんよりいれたてまつらんとしけるに、らうぜきたちまちにいできて、ぶしどもさんざんにいたてまつる。 じふぜんじのみこしにも、やどもあまたいたてけり。 じんにん、みやじいころされ、しゆとおほくきずをかうぶつて、をめきさけぶこゑはぼんでんまでもきこえ、けんらうぢじんもおどろきたまふらんとぞおぼえける。 だいしゆしんよをばぢんどうにふりすてたてまつり、なくなくほんざんへぞかへりのぼりける。 「だいりえんしやう」(『だいりえんしやう』)S0116ゆふべにおよんでくらんどのさせうべんかねみつにおほせて、ゐんのてんじやうにて、にはかにくぎやうせんぎありけり。 さんぬるほうあんしねんしんぐわつにしんよじゆらくのときは、ざすにおほせて、せきさんのやしろへいれたてまつらる。 またほうえんしねんしちぐわつにしんよじゆらくのときは、ぎをんのべつたうにおほせて、ぎをんのやしろへいれたてまつらる。 こんどもほうえんのれいたるべしとて、ぎをんのべつたうごんのだいそうづちようけんにP105おほせ、へいしよくにおよんでぎをんのやしろへいれたてまつらる。 しんよにたつところのやをば、じんにんしてこれをぬかせらる。 むかしよりさんもんのだいしゆ、しんよをぢんどうへふりたてまつることは、さんぬるえいきうよりこのかた、ぢしようまではろくかどなり。 されどもまいどにぶしにおほせてふせがせらるるに、しんよいたてまつることは、これはじめとぞうけたまはる。 「れいしんいかりをなせば、さいがいちまたにみつといへり。 おそろしおそろし」とぞおのおののたまひあはれける。 おなじきじふしにちのやはんばかり、さんもんのだいしゆ、またおびたたしうげらくするときこえしかば、しゆしやうはやちうにえうよにめして、ゐんのごしよほふぢうじどのへぎやうがうなる。 ちうぐう、みやみやは、おんくるまにたてまつりて、たしよへぎやうげいありけり。 くわんばくどのをはじめたてまつて、だいじやうだいじんいげのけいしやううんかく、われもわれもとぐぶせらる。 こまつのおとどは、なほしにやおうてぐぶせらる。 ちやくしごんのすけぜうしやうこれもりは、そくたいにひらやなぐひおうてぞまゐられける。 およそきんちうのじやうげ、きやうぢうのきせん、さわぎののしることおびたたし。 されどもさんもんには、しんよにやたち、じんにんみやじいころされ、しゆとおほくきずをかうぶりたりしかば、おほみやにのみやいげ、かうだう、ちうだう、すべてしよだう、いちうものこさずみなやきはらつて、さんやにまじはるべきよし、さんぜんいちどうにせんぎす。 これによつてだいしゆのまうすところ、ほふわうおんぱからひあるべしときこえしほどに、さんもんのじやうかうら、しさいをしゆとにふれんとて、とうざんすときこえしかば、だいしゆにしざかもとにおりくだつて、みなおつかへす。 へいだいなごんときただのきやう、P106そのときはいまださゑもんのかみにておはしけるが、しやうけいにたつ。 だいかうだうのにはにさんたふくわいがふして、「しやうけいをとつてひつぱり、しやかぶりをうちおとし、そのみをからめて、みづうみにしづめよ」などぞまうしける。 すでにかうとみえしとき、ときただのきやう、だいしゆのなかへししやをたてて、「しばらくしづまられさふらへ。 しゆとのおんなかへまうすべきことのさふらふ」とて、ふところよりこすずりたたうがみとりいだし、ひとふでかいてだいしゆのなかへおくらる。 これをひらいてみるに、「しゆとのらんあくをいたすは、まえんのしよぎやうなり。 めいわうのせいしをくはふるは、ぜんぜいのかごなり」とこそかかれたれ。 これをみて、だいしゆひつぱるにもおよばず、みなもつとももつともとどうじて、たにだににおり、ばうばうへぞいりにける。 いつしいつくをもつて、さんたふさんぜんのいきどほりをやすめ、こうしのはぢをものがれたまひけんときただのきやうこそゆゆしけれ。 さんもんのだいしゆは、はつかうのみだりがはしきばかりかとおもひぬれば、ことわりをもぞんぢしけりとぞ、ひとびとかんじあはれける。 おなじきはつかのひ、くわざんのゐんごんぢうなごんただちかのきやうをしやうけいにて、こくしかがのかみもろたかをけつくわんせられて、おはりのゐどたへながさる。 おととこんどうはんぐわんもろつねをばきんごくせらる。 またさんぬるじふさんにちしんよいたてまつしぶしろくにんごくぢやうせらる。 これらはみなこまつどののさぶらひなり。 おなじきにじふはちにちのよのいぬのこくばかり、ひぐちとみのこうぢよりひいできたつて、きやうぢうおほくやけにけり。 をりふしたつみのかぜはげしくふきければ、おほきなるしやりんのごとくなるP107ほのほが、さんぢやうごちやうをへだてて、いぬゐのかたへすぢかへにとびこえとびこえやけゆけば、おそろしなどもおろかなり。 あるひはぐへいしんわうのちぐさどの、あるひはきたののてんじんのこうばいどの、きついつせいのはひまつどの、おにどの、たかまつどの、かもゐどの、とうさんでう、ふゆつぎのおとどのかんゐんどの、せうぜんこうのほりかはどの、これをはじめて、むかしいまのめいしよさんじふよかしよ、くぎやうのいへだにもじふろくかしよまでやけにけり。 そのほかてんじやうびと、しよだいぶのいへいへはしるすにおよばず。 はてはたいだいにふきつけて、しゆしやくもんよりはじめて、おうでんもん、くわいしやうもん、だいこくでん、ぶらくゐん、しよしはつしやう、あいたんどころ、いちじがうちに、みなくわいじんのちとぞなりにける。 いへいへのにつき、だいだいのもんじよ、しつちんまんぽうさながらちりはひとなりぬ。 そのあひだのつひえいかばかりぞ。 ひとのやけしぬることすひやくにん、ぎうばのたぐひかずをしらず。 これただごとにあらず。 さんわうのおんとがめとて、ひえいさんより、おほきなるさるどもが、にさんぜんおりくだり、てんでにまつびをともいて、きやうぢうをやくとぞ、ひとのゆめにはみえたりける。 だいこくでんはせいわてんわうのぎよう、ぢやうくわんじふはちねんにはじめてやけたりければ、おなじきじふくねんしやうぐわつみつかのひ、やうぜいのゐんのごそくゐはぶらくゐんにてぞありける。 ぐわんきやうぐわんねんしんぐわつここのかのひ、ことはじめあつて、おなじきにねんじふぐわつやうかのひぞつくりいだされたりける。 ごれんぜいのゐんのぎよう、てんきごねんにんぐわつにじふろくにち、またやけにけり。 ぢりやくしねんはちぐわつじふしにちに、ことはじめありしかども、いまだつくりもいだされずして、ごれんぜいのゐんほうぎよなりぬ。 ごさんでうのゐんのぎよう、えんきうしねんしんぐわつじふごにちにつくりいだされて、ぶんじんしをたてまつり、P108れいじんがくをそうして、せんかうなしたてまつる。 いまはよすゑになつて、くにのちからもみなおとろへたれば、そののちはつひにつくられず。 P109 平家物語 巻第二 総かな版(元和九年本) 「ざすながし」(『ざすながし』)S0201ぢしようぐわんねんごぐわついつかのひ、てんだいざすめいうんだいそうじやう、くじやうをちやうじせらるるうへ、くらんどをおつかひにて、によいりんのごほんぞんをめしかへいて、ごぢそうをかいえきせらる。 すなはちしちやうのつかひをつけて、こんどしんよだいりへふりたてまつししゆとのちやうぼんをめされけり。 かがのくににざすのごばうりやうあり。 こくしもろたかこれをちやうはいのあひだ、そのしゆくいによつて、だいしゆをかたらひそしようをいたさる。 すでにてうかのおんだいじにおよぶべきよし、さいくわうほふしふしがざんそうによつて、ほふわうおほきにげきりんありけり。 ことにぢうくわにおこなはるべしときこゆ。 めいうんはゐんのごきしよくあしかりければ、いんやくをかへしたてまつて、ざすをじしまうされけり。 おなじきじふいちにち、とばのゐんのしちのみやかくくわいほつしんわう、てんだいざすにならせたまふ。 これはしやうれんゐんのだいそうじやうぎやうげんのおんでしなり。 あくるじふににち、せんざすしよしよくをもつしゆせらるるP110うへ、けんびゐしににんをつけて、ゐにふたをし、ひにみづをかけて、すゐくわのせめにおこなはるべきよしきこゆ。 これによつて、だいしゆなほさんらくすときこえしかば、きやうぢうまたさわぎあへり。 おなじきじふはちにちだいじやうだいじんいげのくぎやうじふさんにんさんだいして、ぢんのざにつき、さきのざすざいくわのことぎぢやうあり。 はちでうのちうなごんながかたのきやう、そのときはいまださだいべんのさいしやうにて、ばつざにさぶらはれけるが、すすみいでてまうされけるは、「ほつけのかんじやうにまかせて、しざいいつとうをげんじて、をんるせらるべしとはみえてさふらへども、せんざすめいうんだいそうじやうはけんみつけんがくして、じやうぎやうぢりつのうへ、だいじようめうきやうをくげにさづけたてまつり、ぼさつじやうかいをほふわうにたもたせたてまつる。 おんきやうのし、おんかいのし、ぢうくわにおこなはれんことは、みやうのせうらんはかりがたし。 げんぞくをんるをなだめらるべきか」と、はばかるところもなうまうされたりければ、たうざのくぎやう、みなながかたのぎにどうずとまうしあはれけれども、ほふわうおんいきどほりふかかりければ、なほをんるにさだめらる。 だいじやうのにふだうもこのことまうさんとて、ゐんざんせられたりけれども、ほふわうおんかぜのけとて、ごぜんへもめされたまはねば、ほいなげにてたいしゆつせらる。 そうをつみするならひとて、どえんをめしかへし、げんぞくせさせたてまつり、だいなごんのたいふふじゐのまつえだといふぞくみやうをこそつけられけれ。 このめいうんとまうすは、かけまくもかたじけなく、むらかみのてんわうだいしちのわうじ、ぐへいしんわうよりろくだいのおんすゑ、こがのだいなごんあきみちのきやうのおんこなり。 まことにぶさうのせきとく、てんがP111だいいちのかうそうにておはしければ、きみもしんもたつとみたまひて、てんわうじ、ろくしようじのべつたうをもかけたまへり。 されどもをんやうのかみあべのやすちかがまうしけるは、「さばかりのちしやの、めいうんとなのりたまふこそこころえね。 うへにはじつげつのひかりをならべ、したにくもあり」とぞなんじける。 にんあんぐわんねんにんぐわつはつかのひ、てんだいざすにならせたまふ。 おなじきさんぐわつじふごにちごはいだうあり。 ちうだうのほうざうをひらかれけるに、しゆじゆのちようほうどものなかに、はういつしやくのはこあり。 しろいぬのにてつつまれたり。 いつしやうふぼんのざす、かのはこをあけてみたまふに、わうしにかけるふみいつくわんあり。 でんげうだいし、みらいのざすのみやうじを、かねてしるしおかれたり。 わがなのあるところまではみて、それよりおくをばみたまはず、もとのごとくまきかへしておかるるならひなり。 さればこのそうじやうも、さこそはおはしけめ。 かかるたつときひとなれども、ぜんぜのしゆくごふをばまぬかれたまはず、あはれなりしことどもなり。 おなじきにじふいちにち、はいしよいづのくにとさだめらる。 ひとびとやうやうにまうされけれども、さいくわうほふしふしがざんそうによつて、かやうにはおこなはれけるなり。 けふやがてみやこのうちをおひいださるべしとて、おつたてのくわんにん、しらかはのごばうにゆきむかつておひたてまつる。 そうじやうなくなくごばうをいでつつ、あはたぐちのほとり、いつさいきやうのべつしよへいらせおはします。 さんもんには、せんずるところ、われらがかたきは、さいくわうほふしふしにすぎたるものなしとて、かれらふしがみやうじをかいて、こんぽんちうだうにおはしますじふにじんじやうのうち、こんぴらだいじやうのP112ひだんのみあしのしたにふませたてまつり、「じふにじんじやう、しちせんやしや、じこくをめぐらさず、さいくわうほふしふしがいのちをめしとりたまへや」と、をめきさけんでしゆそしけるこそ、きくもおそろしけれ。 おなじきにじふさんにちいつさいきやうのべつしよより、はいしよへおもむきたまひけり。 さばかりのほふむのだいそうじやうほどのひとのおつたてのうつしがさきにけたてられて、けふをかぎりにみやこをいでて、せきのひがしへおもむかれけんこころのうち、おしはかられてあはれなり。 おほつのうちでのはまにもなりぬれば、もんじゆろうののきばのしろじろとしてみえけるを、ふためともみたまはず、そでをかほにおしあててなみだにむせびたまひけり。 さんもんにはしゆくらうせきとくおほしといへども、ちようけんほふいん、そのときはいまだそうづにておはしけるが、あまりになごりををしみたてまつり、あはづまでおくりまゐらせて、それよりいとまこうてかへられけるに、そうじやうこころざしのせつなることをかんじて、ねんらいこしんぢうにひせられたりし、いつしんさんぐわんのけつみやくさうじようをさづけらる。 このほうはしやくそんのふぞく、はらないこくのめみやうびく、なんてんぢくのりうじゆぼさつよりしだいにさうでんしきたれるを、けふのなさけにさづけらる。 さすがわがてうはそくさんへんぢのさかひ、じよくせまつだいとはいひながら、ちようけんこれをふぞくして、ほふえのたもとをしぼりつつ、みやこへかへりのぼられけん、こころのうちこそたつとけれ。 さるほどにさんもんにはだいしゆおこつてせんぎす。 「そもそもぎしんくわしやうよりこのかた、てんだいざすはじまつて、ごじふごだいにいたるまで、いまだるざいのれいをきかず。 つらつらことのこころをあんずるに、P113えんりやくのころほひ、くわうていはていとをたて、だいしはたうざんによぢのぼりて、しめいのけうぼふをこのところにひろめたまひしよりこのかた、ごしやうのによにんあとたえて、さんぜんのじやうりよきよをしめたり。 みねにはいちじようどくじゆとしふりて、ふもとにはしちしやのれいげんひあらたなり。 かのぐわつしのりやうぜんは、わうじやうのとうぼく、だいしやうのいうくつなり。 このじちゐきのえいがくもていとのきもんにそばだちてごこくのれいちなり。 だいだいのけんわうちしん、このところにだんぢやうをしむ。 まつだいならんがらんに、いかでかたうざんにきずをばつくべき。 こはこころうし」とて、をめきさけぶといふほどこそありけれ、まんざんのだいしゆ、のこりとどまるものもなく、みなひがしざかもとへおりくだる。 (『いちぎやうあじやりのさた』)S0202じふぜんじごんげんのおんまへにて、だいしゆまたせんぎす。 「そもそもわれらあはづへゆきむかつて、くわんじゆをばうばひとどめたてまつるべし。 ただしおつたてのうつし、りやうそうしあるなれば、さうなうとりえたてまつらんことありがたし。 いまはさんわうだいしのおんちからのほか、またたのみたてまつるかたなし。 まことにべつのしさいなく、とりえたてまつるべくは、ここにてまづひとつのずゐさうをみせしめたまへ」と、らうそうどもかんたんをくだいてきねんしけり。 ここにむどうじぼふしじようゑんりつしがめしつかひけるつるまるといふわらはあり。 しやうねんじふはつさいになりけるが、しんじんをくるしめ、ごたいにあせをながいて、にはかにくるひいでたり。 「われじふぜんじごんげんのりゐさせたまへり。 まつだいといふとも、いかでかわがやまのくわんじゆをば、たこくへはうつさるべき。 しやうじやうせせにこころうし。 さらんにとつては、われこのふもとにあとをとどめてもなににかはせん」とて、さうのそでをかほにおしあてて、さめざめとなきければ、P114だいしゆこれをあやしみて、「まことにじふぜんじごんげんのごたくせんにておはしまさば、われらしるしをまゐらせん。 いちいちにもとのぬしにかへしたまへ」とて、らうそうどもしごひやくにん、てんでにもつたるじゆずどもを、じふぜんじごんげんのおほゆかのうへへぞなげあげたる。 かのものぐるひはしりまはり、ひろひあつめてすこしもたがへず、いちいちにみなもとのぬしにぞくばりける。 だいしゆしんめいのれいげんあらたなることのたつとさに、みなたなごころをあはせてずゐきのかんるゐをぞもよほしける。 「そのぎならば、ゆきむかつてうばひとどめたてまつれや」といふほどこそありけれ、うんかのごとくにはつかうす。 あるひはしがからさきのはまぢにあゆみつづけるだいしゆもあり。 あるひはやまだやばせのこしやうにふねおしいだすしゆともあり。 これをみてさしもきびしげなりつるおつたてのうつし、りやうそうし、ちりぢりにみなにげさりぬ。 だいしゆこくぶんじへまゐりむかふ。 せんざすおほきにおどろかせたまひて、「およそちよくかんのものは、つきひのひかりにだにあたらずとこそうけたまはれ。 いかにいはんや、じこくをめぐらさず、いそぎおひくださるべしと、ゐんぜんせんじのなりたるに、すこしもやすらふべからず。 しゆととうとうかへりのぼりたまふべし」と、はしちかくゐいでてのたまひけるは、「さんだいくわいもんのいへをいでて、しめいいうけいのまどにいつしよりこのかた、ひろくゑんじうのけうぼふをがくして、けんみつりやうしうをまなびき。 ただわがやまのこうりうをのみおもへり。 またこくかをいのりたてまつることもおろそかならず。 しゆとをはぐくむこころざしもふかかりき。 りやうじよさんしやうさだめてせうらんしたまふらん。 みにあやまつことなし。 むじつのつみによつて、をんるのぢうくわをかうむれば、よをもひとをもかみをもほとけをも、P115うらみたてまつるかたなし。 まことにはるばるとこれまでとぶらひきたりたまふしゆとのはうしこそ、しやうじやうせせにもほうじつくしがたけれ」とて、かうぞめのおんころものそでをしぼりもあへさせたまはねば、だいしゆもみなよろひのそでをぞぬらしける。 すでにおんこしさしよせて、「とうとうめさるべうさふらへ」とまうしければ、せんざすのたまひけるは、「むかしこそさんぜんのしゆとのくわんじゆたりしか。 いまはかかるるにんのみとなつて、いかでかやんごとなきしゆがくしや、ちゑふかきだいしゆたちにかきささげられてはのぼるべき。 たとひのぼるべきなりとも、わらんづなどいふものをしばりはいて、おなじやうにあゆみつづいてこそのぼらめ」とて、のりたまはず。 ここにさいたふのぢうりよ、かいじやうばうのあじやりいうけいといふあくそうあり。 たけしちしやくばかりありけるが、くろかはをどしのよろひの、おほあらめにかねまぜたるを、くさずりながにきなし、かぶとをばぬいで、ほふしばらにもたせつつ、しらえのなぎなたつゑにつき、だいしゆのなかをおしわけおしわけ、せんざすのおんまへにまゐり、だいのまなこをみいからかし、せんざすをしばしにらまへたてまつて、「そのおんこころでこそ、かかるおんめにもあはせたまひさふらへ。 とうとうめさるべうさふらふ」とまうしければ、せんざすおそろしさに、いそぎのりたまふ。 だいしゆとりえたてまつることのうれしさに、いやしきほふしばらにはあらず、やんごとなきしゆがくしやどもがかきささげたてまつてのぼるほどに、ひとはかはれどもいうけいはかはらず、さきごしかいて、こしのながえも、なぎなたのえも、くだけよととるままに、さしもさがしきひがしざか、へいぢをゆくがごとくなり。 P116 だいかうだうのにはに、おんこしかきすゑて、だいしゆまたせんぎす。 「そもそもわれらあはづにゆきむかつて、くわんじゆをばうばひとどめたてまつりぬ。 ただしちよくかんをかうむりてをんるせられたまふひとを、くわんじゆにもちひまうさんこと、いかがあるべかるらん」とひやうぢやうす。 かいじやうばうのあじやりいうけい、またさきのごとくすすみいでてせんぎしけるは、「それわがやまはにつぽんぶさうのれいち、ちんごこくかのだうぢやう、さんわうのごゐくわうさかんにして、ぶつぽふわうぼふごかくなり。 さればしゆとのいしゆにいたるまでならびなく、いやしきほふしばらまでも、よもつてかろしめず。 いはんやちゑかうきにして、さんぜんのしゆとのくわんじゆたり。 とくぎやうおもうしていつさんのわじやうたり。 つみなくしてつみをかうむりたまふこと、さんじやうらくちうのいきどほり、こうぶくをんじやうのあざけりにあらずや。 このときわれらけんみつのあるじをうしなつて、すはいのがくりよ、ながくけいせつのつとめおこたらんこと、こころうかるべし。 せんずるところ、いうけいちやうぼんにしようぜられ、きんごくるざいにもおよび、かうべのはねられんこと、こんじやうのめんぼく、めいどのおもひでなるべし」とて、さうがんよりなみだをはらはらとながしければ、すせんにんのだいしゆも、みなもつとももつともとぞどうじける。 それよりしてこそ、いうけいをばいかめばうとはいはれけれ。 そのでしゑけいりつしをば、ときのひとこいかめばうとぞまうしける。 P117 「いちぎやうあじやり」だいしゆせんざすをば、とうだふのみなみだに、めうくわうばうにいれたてまつる。 ときのわうざいをば、ごんげのひともまぬかれたまはざりけるにや。 むかしたうのいちぎやうあじやりは、げんそうくわうていのごぢそうにておはしけるが、げんそうのきさきやうきひになをたちたまへり。 むかしもいまも、だいこくもせうこくも、ひとのくちのさがなさは、あとかたもなきことなりしかども、そのうたがひによつて、くわらこくへながされさせたまふ。 くだんのくにへはみつのみちあり。 りんちだうとてごかうみち、いうちだうとてざふにんのかよふみち、あんけつだうとてぢうくわのものをつかはすみちなり。 されば、かのいちぎやうあじやりはだいぼんのひとなればとて、あんけつだうへぞつかはされける。 しちにちしちやがあひだ、つきひのひかりもみずしてゆくところなり。 みやうみやうとしてひともなく、かうほにせんどまよひ、しんしんとしてやまふかし。 ただかんこくにとりのひとこゑばかりにて、こけのぬれぎぬほしあへず、むじつのつみによつて、をんるのぢうくわをかうむりたまふことを、てんだうあはれみたまひて、くえうのかたちをげんじつつ、いちぎやうあじやりをまもりたまふ。 ときにいちぎやうみぎのゆびをくひきり、ひだんのたもとにくえうのかたちをうつされけり。 わかんりやうてうに、しんごんのほんぞんたるくえうのまんだらこれなり。 P118 「さいくわうがきられ」(『さいくわうがきられ』)S0203さるほどにさんもんのだいしゆ、せんざすとりとどめたてまつたること、ほふわうきこしめして、いとどやすからずおぼしめしけるところに、さいくわうほふしまうしけるは、「むかしよりさんもんのだいしゆは、はつかうのみだりがはしきうつたへつかまつること、いまにはじめずとはまうしながら、こんどはもつてのほかにくわぶんにさふらふ。 よくよくおんぱからひさふらふべし。 これらをおんいましめさふらはずは、こののちはよがよでもさふらふまじ」とぞまうしける。 ただいまわがみのほろびうせんずることをもかへりみず、さんわうだいしのしんりよにもはばからず、かやうにまうしてしんきんをなやましたてまつる。 ざんしんはくにをみだるといへり。 まことなるかな。 さうらんしげからんとすれども、あきのかぜこれをやぶり、わうじやあきらかならんとすれども、ざんしんこれをくらうすとも、かやうのことをやまうすべき。 しんだいなごんなりちかのきやういげきんじゆのひとびとにおほせて、ほふわうやませめらるべしときこえしかば、さんもんのだいしゆは、さのみわうぢにはらまれて、ぜうめいをたいかんせんもおそれなりとて、ないないゐんぜんにしたがひたてまつるしゆともありなどきこえしかば、せんざすはとうだふのみなみだに、めうくわうばうにおはしけるが、だいしゆふたごころありとききたまひて、「またいかなるうきめにかあふべきやらん」と、こころぼそげにぞのたまひける。 されどもP119るざいのさたはなかりけり。 さるほどにしんだいなごんは、さんもんのさうどうによつて、わたくしのしゆくいをばしばらくおさへられけり。 そもないぎしたくはさまざまなりしかども、ぎせいばかりで、このむほんかなふべしともみえざりければ、さしもたのまれたりつるただのくらんどゆきつな、このことむやくなりとおもふこころやつきにけん、ゆぶくろのれうにとておくられたりけるぬのどもをば、ひたたれ、かたびらにたちぬはせ、いへのこ、らうどうどもにきせつつ、めうちしばだたいてゐたりけるが、つらつらへいけのはんじやうするありさまをみるに、たうじたやすうかたぶけがたし。 もしこのこともれぬるほどならば、ゆきつなまづうしなはれなんず。 たにんのくちよりもれぬさきにかへりちうして、いのちいかうどおもふこころぞつきにける。 おなじきにじふくにちのさよふけがたに、にふだうしやうこくのにしはちでうのていにまゐつて、「ゆきつなこそまうすべきことあつて、これまでまゐつてさふらへ」と、あんないをいひいれたりければ、にふだう、「つねにもまゐらぬもののさんじたるはなにごとぞ、あれきけ」とて、しゆめのはんぐわんもりくにをいだされたり。 「まつたくひとづてにはまうすまじきことなり」といふあひだ、にふだう、さらばとて、みづからちうもんのらうにぞいでられたる。 「よははるかにふけぬらんに、いかにただいまなにごとぞ」とのたまへば、「ひるはひとめのしげうさふらふあひだ、よにまぎれてまゐつてさふらふ。 このほどゐんぢうのひとびとのひやうぐをととのへ、ぐんびやうもよほされしことをば、なにとかきこしめされてさふらふやらん」。 にふだう、「いさとよ、それはほふわうのやませめらるべきP120ごけつこうとこそきけ」と、いとこともなげにぞのたまひける。 ゆきつなちかうよりこごゑになつて、「そのぎではさふらはず。 いつかうたうけのおんうへとこそうけたまはりさふらへ」。 にふだう、「さてそれをばほふわうもしろしめされたるか」。 「しさいにやおよびさふらふ。 しつじのべつたうなりちかのきやうのぐんびやうもよほされさふらひしにも、ゐんぜんとてこそめされしか。 やすよりがとまうして、しゆんくわんがかくまうして、さいくわうがとふるまうて」など、ありのままにはさしすぎていひちらし、わがみはいとままうすとていでければ、そのときにふだうおほごゑをもつてさぶらひどもよびののしりたまふことおびたたし。 ゆきつななまじひなることまうしいでて、しようにんにやひかれんずらんとおそろしさに、ひともおはぬにとりばかまし、おほのにひをはなちたるここちして、いそぎもんぐわいへぞにげいでける。 そののちにふだう、ちくごのかみさだよしをめして、「たうけかたぶけうどするむほんのともがらこそ、きやうぢうにみちみちたんなれ。 いそぎいちもんのひとびとにもふれまうせ。 さぶらひどももよほせ」とのたまへば、はせまはつてひろうす。 うだいしやうむねもり、さんみのちうじやうとももり、とうのちうじやうしげひら、さまのかみゆきもりいげのいちもんのひとびと、かつちうきうせんをたいしてさしつどふ。 そのほかさぶらひどももうんかのごとくにはせあつまつて、そのよのうちににふだうしやうこくのにしはちでうのていには、つはものろくしちせんきもあるらんとぞみえし。 あくればろくぐわつひとひのひなり。 いまだくらかりけるに、にふだうしやうこくあべのすけなりをめして、「ゐんのごしよへまゐり、だいぜんのだいぶのぶなりをよびいだいて、きつとまうさんずることはよな、P121しんだいなごんなりちかのきやういげ、きんじゆのひとびと、このいちもんほろぼしててんがみだらんとするむほんのくはだてあり。 いちいちにからめとつて、たづねさたつかまつりさふらふべし。 それをばきみもしろしめさるまじうさふらふとまうすべし」とぞのたまひける。 すけなりいそぎゐんのごしよにはせまゐり、のぶなりをまねいてこのことまうすに、いろをうしなふ。 やがておんまへへまゐりてこのよしかくとそうもんまうしければ、ほふわう「ああはや、これらがないないはかりしことのもれきこえけるにこそ。 さるにても、こはなにごとぞ」とばかりおほせられて、ふんみやうのおんぺんじもなかりけり。 すけなりいそぎはしりかへつて、このよしかくとまうしければ、にふだう、「さればこそゆきつなはまことをまうしたれ。 ゆきつなこのことつげしらせずは、じやうかいあんをんにてやはあるべき」とて、ちくごのかみさだよし、ひだのかみかげいへをめして、たうけかたむけうどするむほんのともがら、いちいちにからめとるべきよしげぢせらる。 よつてにひやくよき、さんびやくよき、あそこここにおしよせおしよせからめとる。 にふだうしやうこくまづざつしきをもつて、なかのみかどからすまるのしんだいなごんのしゆくしよへ、「きつとたちよりたまへ。 まうしあはすべきことのさふらふ」と、のたまひつかはされければ、だいなごんわがみのうへとはつゆしらず、あはれ、これはほふわうのやませめらるべきごけつこうのあるを、まうしなだめられんずるにこそ。 おんいきどほりふかげなり。 いかにもかなふまじきものを」とて、ないきよげなるほういたをやかにきなし、あざやかなるくるまにのり、さぶらひさんしにんめしぐして、ざつしきうしかひにいたるまで、つねよりもなほひきつくろはれたり。 そもさいごとはP122のちにこそおもひしられけれ。 にしはちでうちかうなつてみたまへば、しごちやうにぐんびやうどもみちみちたり。 「あなおびたたし、こはなにごとなるらんと、むねうちさわがれけれども、もんぜんにてくるまよりおり、もんのうちへさしいつてみたまへば、うちにもつはものどもひまはざまもなうぞなみゐたる。 ちうもんのくちにはおそろしげなるものども、あまたまちうけたてまつり、だいなごんをとつてひつぱり、「いましむべうさふらふやらん」とまうしければ、にふだうれんちうよりみいだしたまひて、「あるべうもなし」とのたまへば、さぶらひどもじふしごにん、ぜんごさうにたちかこみ、だいなごんのてをとつて、えんのうへへひきあげたてまつり、ひとまなるところにおしこめたてまつてげり。 だいなごんはゆめのここちして、つやつやものもおぼえたまはず。 ともにありつるさぶらひども、おほぜいにおしへだてられて、ちりぢりになりぬ。 ざふしきうしかひいろをうしなひ、うしくるまをすてて、みなにげさりぬ。 さるほどに、あふみちうじやうにふだうれんじやう、ほつしようじのしゆぎやうしゆんくわんそうづ、やましろのかみもとかぬ、しきぶのたいふまさつな、へいはうぐわんやすより、そうはうぐわんのぶふさ、しんへいはうぐわんすけゆきも、とらはれてこそいできたれ。 さいくわうほふしこのよしをきいて、わがみのうへとやおもひけん、むちをうつていそぎゐんのごしよへまゐる。 ろくはらのつはものども、みちにてゆきあひ、「にしはちでうどのよりめさるるぞ。 きつとまゐれ」といひければ、「これはそうすべきことあつて、ゐんのごしよへまゐる。 やがてこそかへりまゐらめ」といひければ、「につくいにふだうめが、なにごとをかP123そうすべかんなるぞ」とて、しやむまよりとつてひきおとし、ちうにくくつてにしはちでうどのへさげてまゐる。 ひのはじめよりごんげんよりきのものなりければ、ことにつよういましめて、おんつぼのうちにぞひつすゑたる。 にふだうしやうこくおほゆかにたつて、しばしにらまへ、「あなにくや、たうけかたぶけうどするむほんのやつがなれるすがたよ。 しやつここへひきよせよ」とて、えんのきはへひきよせさせ、ものはきながら、しやつらをむずむずとぞふまれける。 「もとよりおのれらがやうなるげらふのはてを、きみのめしつかはせたまひて、なさるまじきくわんしよくをなしたび、ふしともにくわぶんのふるまひをするとみしにあはせて、あやまたぬてんだいざするざいにまうしおこなひ、あまつさへたうけかたぶけうどするむほんのともがらにくみしてげるなり。 ありのままにまうせ」とこそのたまひけれ。 さいくわうもとよりすぐれたるだいかうのものなりければ、ちともいろもへんぜず、わろびれたるけしきもなく、ゐなほり、あざわらつてまうしけるは、「ゐんぢうにちかうめしつかはるるみなれば、しつじのべつたうなりちかのきやうのぐんびやうもよほされさふらふことにも、くみせずとはまうすべきやうなし。 それはくみしたり。 ただし、みみにあたることをものたまふものかな。 たにんのまへはしらず、さいくわうがきかんずるところにては、さやうのことをば、えこそのたまふまじけれ。 そもそもごへんは、こぎやうぶきやうただもりのちやくしにておはせしが、じふしごまではしゆつしもしたまはず。 こなかのみかどのとうぢうなごんかせいのきやうのへんにたちいりたまひしをば、きやうわらんべはれいのたかへいだとこそいひしか。 しかるをほうえんのころ、かいぞくのちやうぼんさんじふよにんからめしんぜられたりしP124けんじやうにしほんしてしゐのひやうゑのすけとまうししをだに、ひとみなくわぶんとこそまうしあはれしか。 てんじやうのまじはりをだにきらはれしひとのしそんにて、いまだいじやうだいじんまでなりあがつたるやくわぶんなるらん。 もとよりさぶらひほどのものの、じゆりやうけんびゐしにいたること、せんれい、ほうれいなきにしもあらず。 なじかはくわぶんなるべき」と、はばかるところもなういひちらしたりければ、にふだうしやうこくあまりにはらをすゑかねて、しばしはものをものたまはず。 ややあつてにふだうのたまひけるは、「しやつがくびさうなうきるな。 よくよくきうもんしてことのしさいをたづねとひ、そののちかはらへひきいだいて、かうべをはねよ」とぞのたまひける。 まつうらのたらうしげとしうけたまはつて、てあしをはさみ、さまざまにしていためとふ。 さいくわうもとよりあらそはざりけるうへ、がうもんはきびしかりけり。 はくじやうしごまいにきせられて、そののちくちをさけとて、くちをさかれ、ごでうにしのしゆしやかにして、つひにきられにけり。 ちやくしかがのかみもろたかはけつくわんぜられて、をはりのゐどたへながされたりしを、おなじきくにのぢうにんをぐまのぐんじこれすゑにおほせてうたせらる。 じなんこんどうはんぐわんもろつねをば、ごくよりひきいだいて、ちうせらる。 そのおととさゑもんのじようもろひら、らうどうさんにんをもおなじうかうべをはねられけり。 これらはみないふかひなきもののひいでて、いろふまじきことをのみいろひ、あやまたぬてんだいざするざいにまうしおこなひ、くわはうやつきにけん、さんわうだいしのしんばつみやうばつをたちどころにかうむつて、かかるうきめにあへりけり。 P125 「こげうくん」(『こげうくん』)S0204しんだいなごんはひとまなるところにおしこめられて、あせみづになりつつ、「あはれこれはひごろのあらましごとの、もれきこえけるにこそ。 たれもらしぬらん。 さだめてほくめんのともがらのなかにぞあるらん」なんど、おもはじことなうあんじつづけておはしけるところに、うしろよりあしおとのたからかにしければ、すはただいまわがいのちうしなはんとて、もののふどものまゐるにこそとおもはれければ、さはなくして、にふだういたじきたからかにふみならし、だいなごんのおはしけるうしろのしやうじを、さつとひきあけていでられたり。 そけんのころものみじからかなるに、しろきおほくちふみくくみ、ひじりづかのかたなおしくつろげてさすままに、もつてのほかにいかれるけしきにて、だいなごんをしばしにらまへて、「そもそもごへんは、へいぢにもすでにちうせらるべかりしを、だいふがみにかへてまうしうけ、くびをつぎたてまつしはいかに。 しかるにそのおんをわすれて、なんのゐこんあつてか、たうけかたぶけうどはしたまふなるぞ。 おんをしるをもつてひととはいふぞ。 おんをしらざるをばちくしやうとこそいへ。 されどもたうけのうんめいいまだつきざるによつて、これまではむかへたんなり。 ひごろのあらましのしだい、ぢきにうけたまはらん」とのたまへば、だいなごん、「まつたくさることさふらはず。 いかさまにもP126ひとのざんげんにてぞさふらふらん。 よくよくおんたづねさふらふべし」とまうされければ、にふだういはせもはてず、「ひとやある、ひとやある」とめされければ、さだよしつとまゐりたり。 「 さいくわうめがはくじやうとつてまゐれ」とのたまへば、もつてまゐりたり。 にふだうこれをとつて、おしかへしおしかへしにさんべんたからかによみきかせ、「あなにくや、このうへをばなにとかちんずべかんなるぞ」とて、だいなごんのかほにさつとなげかけ、しやうじをちやうどひきたてていでられけるが、なほはらをすゑかねて、つねとほかねやすとめす。 なんばのじらう、せのをのたらうまゐりたり。 「あのをのことつて、にはへひきおとせ」とのたまへども、これらさうなうもしたてまつらず、「こまつどののごきしよく、いかがさふらはんずるやらん」とまうしければ、にふだう、「よしよし、おのれらは、だいふがめいをおもんじて、にふだうがおほせをばかるうしけるござんなれ。 このうへはちからおよばず」とのたまへば、これらあしかりなんとやおもひけん、たちあがり、だいなごんのさうのてをとつて、にはへひきおとしたてまつる。 そのときにふだうここちよげにて、「とつてふせてをめかせよ」とぞのたまひける。 ににんのものども、だいなごんのさうのみみにくちをあてて、「いかさまにもおんこゑのいづべうさふらふ」と、ささやいてひきふせたてまつれば、ふたこゑみこゑぞをめかれける。 そのてい、めいどにて、しやばせかいのざいにんを、あるひはごふのはかりにかけ、あるひはじやうはりのかがみにひきむけて、つみのきやうぢうにまかせつつ、あはうらせつがかしやくすらんも、これにはすぎじとぞみえし。 P127せうはんとらはれとらはれて、かんはうにらぎすされたり。 てうそりくをうけ、しうぎつみせらる。 たとへば、せうが、はんくわい、かんしん、はうゑつ、これらはみなかうそのちうしんたりしかども、せうじんのざんによつて、くわはいのはぢをうくとも、かやうのことをやまうすべき。 しんだいなごんは、わがみのかくなるにつけても、しそくたんばのせうしやうなりつねいげ、をさなきものどものいかなるうきめにかあふらんと、おもひやるにもおぼつかなし。 さばかりあつきろくぐわつに、しやうぞくをだにもくつろげられず、あつさもたへがたければ、むねもせきあぐるここちして、あせもなみだもあらそひてぞながれける。 さりともこまつどのはおぼしめしはなたじものをとはおもはれけれども、たれしてまうすべしともおぼえたまはず。 こまつのおとどは、れいのぜんあくにさわぎたまはぬひとにておはしければ、はるかにひたけてのち、ちやくしごんのすけぜうしやうこれもりを、くるまのしりにのせつつ、ゑふしごにん、ずゐじんにさんにんめしぐして、ぐんびやうどもをばいちにんもぐせられず、まことにおほやうげにておはしたれば、にふだうをはじめたてまつて、いちもんのひとびと、みなおもはずげにぞみたまひける。 おとどちうもんのくちにて、おんくるまよりおりたまふところへ、さだよしつとまゐつて、「などこれほどのおんだいじに、ぐんびやうをばいちにんもめしぐせられさふらはぬやらん」とまうしければ、おとど、「だいじとはてんがのことをこそいへ。 かやうのわたくしごとを、だいじといふやうやある」とのたまへば、ひやうぢやうをたいしたりけるつはものども、みなそぞろいてぞみえたりける。 そののちおとど、だいなごんをばいづくにおきたてまつたるやらんと、ここかしこをひきあけひきあけP128みたまふに、あるしやうじのうへに、くもでゆうたるところあり。 ここやらんとてあけられたれば、だいなごんおはしけり。 なみだにむせびうつぶして、めもみあげたまはず。 「いかにや」とのたまへば、そのときみつけたてまつて、うれしげにおもはれたるけしき、ぢごくにてざいにんどもが、ぢざうぼさつをみたてまつるらんも、かくやとおぼえてあはれなり。 「なにごとにてさふらふやらん。 けさよりかかるうきめにあひさふらふ。 さてわたらせたまへば、さりともとこそふかうたのみたてまつてさふらへ。 へいぢにもすでにちうせらるべかりしを、ごおんをもつてくびをつがれまゐらせ、あまつさへじやうにゐのだいなごんまでへあがつて、としすでにしじふにあまりさふらふごおんこそ、しやうじやうせせにもはうじつくしがたうさふらへども、こんどもまたかひなきいのちをたすけさせおはしませ。 さだにもさふらはば、しゆつけにふだうつかまつり、いかならんかたやまざとにもこもりゐて、ひとすぢにごせぼだいのつとめをいとなみさふらはん」とぞまうされける。 おとど、「ささふらへばとて、おんいのちうしなひたてまつるまでのことはよもさふらはじ。 たとひささふらふとも、しげもりかうてさふらへば、おんいのちにはかはりまゐらせさふらふべし。 おんこころやすうおぼしめされさふらへ」とて、ちちのぜんもんのおんまへにおはして、「あのだいなごんうしなはれんことは、よくよくごしゆゐさふらふべし。 そのゆゑはせんぞしゆりのだいぶあきすゑ、しらかはのゐんにめしつかはれまゐらせしよりこのかた、いへにそのれいなきじやうにゐのだいなごんにへあがつて、あまつさへたうじ、きみぶさうのおんいとほしみ、かうべをはねられんことしかるべうもさふらはず(す)。 ただみやこのほかへいだされたらんに、P129ことたりさふらひなんず。 きたののてんじんは、しへいのおとどのざんそうにて、うきなをさいかいのなみにながし、にしのみやのだいじんは、ただのまんぢうのざんげんによつて、うらみをせんやうのくもによす。 おのおのむじつなりしかども、るざいせられたまひにき。 これみなえんぎのせいだい、あんわのみかどのおんひがこととぞまうしつたへたる。 しやうこなほかくのごとし。 いはんやまつだいにおいてをや。 けんわうなほおんあやまりあり、いはんやぼんにんにおいてをや。 すでにめしおかれぬるうへは、いそぎうしなはれずとも、なにのおそれかさふらふべき。 けいのうたがはしきをばかろんぜよ、こうのうたがはしきをばおもんぜよとこそみえてさふらへ。 ことあたらしきまうしごとにてさふらへども、しげもりかのだいなごんがいもうとにあひぐしてさふらふ。 これもりまたむこなり。 かやうにしたしうまかりなつてさふらへば、まうすとやおぼしめされさふらふらん。 いつかうそのぎではさふらはず。 ただきみのため、くにのため、よのため、いへのためのことをおもつてまうしさふらふ。 ひととせこせうなごんにふだうしんせいがしつけんのときにあひあたつて、わがてうにはさがのくわうていのおんとき、うひやうゑのかみふぢはらのなかなりをちうせられてよりこのかた、ほうげんまでは、きみにじふごだいのあひだ、おこなはれざりししざいを、はじめてとりおこなひ、うぢのあくさふのしがいをほりおこいて、じつけんせられたりしことなんどまでは、あまりなるおんまつりごととこそぞんじさふらへ。 さればいにしへのひとも、しざいをおこなへば、かいだいにむほんのともがらたえずとこそまうしつたへてさふらへ。 このことばについて、なかにねんあつて、へいぢにまたよみだれて、しんせいがうづまれたりしをほりおこし、かうべをはねておほぢをわたされさふらひき。 ほうげんにまうしおこなひしことの、いくほどもなくて、はやP130みのうへにむくはれにきとおもへば、おそろしうこそさふらへ。 これはさせるてうてきにてもさふらはず、かたがたおそれあるべし。 ごえいぐわのこるところなければ、おぼしめさるることはあるまじけれども、ししそんぞんまで、はんじやうこそあらまほしうはさふらへ。 さればふそのぜんあくは、かならずしそんにおよぶとこそみえてさふらへ。 しやくぜんのいへにはよけいあり、せきあくのかどにはよあうとどまるとこそみえてさふらへ。 いかさまにもこんやかうべをはねられんことは、しかるべうもさふらはず」とまうされたりければ、にふだうげにもとやおもはれけん、しざいをばおもひとどまりたまひけり。 そののちおとどちうもんにいでて、さぶらひどもにのたまひけるは、「おほせなればとて、あのだいなごんうしなはんこと、さうなうあるべからず。 にふだうはらのたちのままに、ものさわがしきことしたまひて、のちにはかならずくやみたまふべし。 ひがごとしてわれうらむな」とのたまへば、ひやうぢやうをたいしたりけるつはものども、みなしたをふるつておそれをののく。 「さてもけさつねとほかねやすが、あのだいなごんになさけなうあたりたてまつたることこそ、かへすがへすもきくわいなれ。 などしげもりがかへりきかんずるところをば、はばからざりけるぞ。 かたゐなかのさぶらひは、みなかかるぞとよ」とのたまへば、なんばもせのをも、ともにおそれいつたりけり。 おとどはかやうにのたまひて、こまつどのへぞかへられける。 さるほどにだいなごんのさむらひども、いそぎなかのみかどからすまるのしゆくしよにかへりまゐつて、このよしかくとまうしければ、きたのかたいげのにようばうたち、こゑごゑにをめきさけびたまひけり。 「せうしやうどのをP131はじめまゐらせて、をさなきひとびとも、みなとられさせたまふべきよしうけたまはりてさふらへ。 いそぎいづかたへもしのばせたまふべうもやさふらふらん」とまうしければ、きたのかた、「いまはこれほどになつて、のこりとどまるみとても、あんをんにてなににかはせんなれば、ただおなじひとよのつゆともきえんことこそほいなれ。 さてもけさをかぎりとしらざりつることのかなしさよ」とて、ひきかづいてぞふしたまふ。 すでにぶしどものちかづくよしきこえしかば、かくてはぢがましう、うたてきめをみんも、さすがなればとて、とをになりたまふによし、はつさいのなんし、ひとつくるまにとりのつて、いづちをさすともなくやりいだす。 さてしもあるべきことならねば、おほみやをのぼりに、きたやまのへんうんりんゐんへぞおはしける。 そのへんなるそうばうにおろしおきたてまつり、おくりのものどもは、みみのすてがたさに、みないとままうしてかへりにけり。 いまはいとけなきひとびとばかりのこりゐて、またこととふひともなくしておはしけるきたのかたのこころのうち、おしはかられてあはれなり。 くれゆくかげをみたまふにつけても、だいなごんのつゆのいのち、このゆふべをかぎりなりと、おもひやるにもきえぬべし。 しゆくしよにはにようばうさぶらひおほかりけれども、ものをだにとりしたためず、かどをだにおしもたてず。 むまやにはむまどもおほくなみたちたれども、くさかふものいちにんもなし。 よあくればむまくるまかどにたちなみ、ひんかくざにつらなつて、あそびたはぶれまひをどり、よをよともしたまはず。 ちかきあたりのものどもは、ものをだにたかくいはず、おぢおそれてこそきのふまでもありしに、よのまにかはるありさま、じやうしやひつすゐのP132ことわりはめのまへにこそあらはれたれ。 「たのしみつきてかなしみきたる」とかかれたる、かうしやうこうのふでのあと、いまこそおもひしられけれ。 「せうしやうこひうけ」(『せうしやうこひうけ』)S0205たんばのせうしやうなりつねは、そのよしもゐんのごしよほふぢうじどのにうへぶしして、いまだいでられざりけるに、だいなごんのさぶらひども、いそぎゐんのごしよにはせまゐり、せうしやうどのをよびいだしたてまつり、このよしかくとまうしければ、せうしやう、「これほどのこと、などやさいしやうのもとより、いままでつげしらせざるらん」とのたまひもはてぬに、さいしやうどのよりとておつかひあり。 このさいしやうとまうすは、にふだうしやうこくのおんおとと、しゆくしよはろくはらのそうもんのわきにおはしければ、かどわきのさいしやうとぞまうしける。 たんばのせうしやうにはしうとなり。 「なにごとにてさふらふやらん。 けさにしはちでうのていより、きつとぐしたてまつれとさふらふ」と、のたまひつかはされたりければ、せうしやうこのことこころえて、きんじゆのにようばうたちをよびいだしまゐらせて、「ゆふべなにとなうものさわがしうさふらひしを、れいのやまぼふしのくだるかなんど、よそにおもひてさふらへば、はやなりつねがみのうへにまかりなつてさふらひけるぞや。 ゆふさりだいなごんきらるべうさふらふなれば、なりつねとてもどうざいにてぞさふらはんずらん。 いまいちどごぜんへさんじて、P133きみをもみまゐらせたくさふらへども、かかるみにまかりなつてさふらへば、はばかりぞんじさふらふ」とまうされたりければ、にようばうたちいそぎごぜんへまゐつて、このよしそうもんせられたりければ、ほふわうけさのぜんもんのつかひにはやおんこころえあつて、「これらがないないはかりしことのもれきこえけるにこそ。 さるにてもいまいちどこれへ」とごきしよくありければ、せうしやうごぜんへまゐられたり。 ほふわうおんなみだをながさせたまひて、おほせくださるるむねもなく、せうしやうもまたなみだにむせんで、まうしあげらるることもなし。 ややあつてせうしやうごぜんをまかりいでられけるに、ほふわううしろをはるかにごらんじおくつて、「ただまつだいこそこころうけれ。 これがかぎりにてまたもごらんぜぬこともやあらんずらん」とて、おんなみだせきあへさせたまはず。 せうしやうごぜんをまかりいでられけるに、ゐんぢうのひとびと、つぼねのにようばうたちにいたるまで、なごりををしみ、たもとにすがり、なみだをながし、そでをぬらさぬはなかりけり。 しうとのさいしやうのもとへいでられたれば、きたのかたはちかうさんすべきひとにておはしけるが、けさよりこのなげきをうちそへて、すでにいのちもきえいるここちぞせられける。 せうしやうごしよをまかりいでられけるより、ながるるなみだつきせぬに、いまきたのかたのありさまをみたまひて、いとどせんかたなげにぞみえられける。 せうしやうのめのとにろくでうといふをんなあり。 「われおんちにまゐりはじめさぶらひて、きみをちのなかよりいだきあげたてまつり、おほしたてまゐらせしよりこのかた、つきひのかさなるにしたがつて、わがみのとしのゆくをばなげかずして、P134ひとへにきみのおとなしうならせたまふことをのみよろこび、あからさまとはおもへども、ことしはにじふいちねん、かたときもはなれまゐらせさぶらはず。 ゐんうちへまゐらせたまひて、おそういでさせたまふだに、こころぐるしうおもひまゐらせさぶらひつるに、つひにいかなるうきめにかあはせたまふべきやらん」とてなく。 せうしやう、「いたうななげいそ。 さてさいしやうおはすれば、さりともいのちばかりをば、こひうけたまはんずるものを」と、やうやうになぐさめのたまへども、ろくでうひとめもはぢず、なきもだえけり。 さるほどににしはちでうどのよりつかひしきなみにありしかば、さいしやう、「いまはただいでむかつてこそ、ともかうもならめ」とていでられければ、せうしやうもさいしやうのくるまのしりにのつてぞいでられける。 ほうげんへいぢよりこのかた、へいけのひとびとは、たのしみさかえのみあつて、うれへなげきはなかりしに、このさいしやうばかりこそ、よしなきむこゆゑに、かかるなげきをばせられけれ。 にしはちでうちかうなつて、まづあんないをまうされたりければ、せうしやうをばもんのうちへはいれらるべからずとのたまふあひだ、そのへんなるさぶらひのもとにおろしおき、さいしやうばかりぞ、もんのうちへはまゐられける。 いつしかせうしやうをば、ぶしどもしはうをうちかこんで、きびしうしゆごしたてまつる。 せうしやうのさしもたのもしうおもはれつるさいしやうどのにははなれたまひぬ。 せうしやうのこころのうち、さこそはたよりなかりけめ。 さいしやうちうもんにゐたまひたれども、にふだういでもあはれず。 ややあつてさいしやう、げんだいふのはんぐわんすゑさだをもつてまうされけるは、「のりもりこそよしなきものにしたしうなつて、かへすがへすP135くやしみさふらへども、かひもさふらはず。 あひぐせさせてさふらふものの、このほどなやむことのさふらふなるが、けさよりこのなげきをうちそへて、すでにいのちもたえさふらひなんず。 のりもりかうてさふらへば、なじかはひがごとせさせさふらふべき。 せうしやうをばしばらくのりもりにあづけさせおはしませ」とまうされければ、すゑさだまゐつてこのよしをまうす。 にふだう、「あはれれいのさいしやうがものにこころえぬよ」とて、とみにへんじもしたまはず。 ややあつてにふだうのたまひけるは、「しんだいなごんなりちかのきやういげきんじゆのひとびと、このいちもんほろぼしててんがみだらんとするくはだてあり。 すでにこのせうしやうはかのだいなごんがちやくしなり。 うとうもなれ、したしうもなれ、えこそまうしゆるすまじけれ。 もしこのむほんとげなましかば、ごへんとてもおだしうてやはおはすべきといふべし」とのたまへば、すゑさだかへりまゐつて、さいしやうどのにこのよしをまうす。

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