齋藤尚彦。 TOYOTA自動車同好会/開発者インタビュー

TOYOTA自動車同好会/開発者インタビュー

齋藤尚彦

で初公開された「GRヤリス」(写真:木谷宗義) 2015年、トヨタは大きな組織変更を行った。 事業ごとに独立採算制とする「カンパニー制」を採ったのである。 その中でトヨタ最小のカンパニーが「GRカンパニー」だ。 ほかのカンパニーと違うのは、作りの考え方である。 東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら GRカンパニーの友山茂樹プレジデントは「われわれはマニュファクチュアである以前に『レース屋』です。 ワークス体制(TOYOTA GAZOO Racing)でモータースポーツ活動を行い、そこで得たノウハウや知見/人材を車両開発に直接的に投下していくのが、われわれのクルマ作りの基本となります」と語る。 狙うはWRC「ダブルタイトル」獲得 そんなTOYOTA GAZOO Racingのモータースポーツ活動は、ニュルブルクリンク24時間耐久レース(2007年〜)、WEC(FIA世界耐久選手権:2012年〜)、WRC(FIA世界ラリー選手権)の3カテゴリーがメインだが、その中でもWRCの歴史は古い。 トヨタとラリーの関係は、1957年に豪州一周ラリーにトヨペット・クラウンで参戦したのが始まりだ。 その後、1973年にWRCが設立された当初から参戦を行い、1999年にF1参戦を理由に撤退するまでに、4回のドライバータイトルと3回のマニュファクチャラーズタイトルを獲得している。 その後、豊田章男社長は2015年にWRC復活を宣言。 2017年、18年ぶりに「TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team」として復活を遂げた。 2020年シーズンも「ヤリスWRC」での参戦が発表されている、日本人ドライバーの勝田貴元選手も参戦(写真:) ラリーカーとしては異例となる短期間で開発されたヤリスWRCは、初年度からその実力を発揮し、2018年はマニュファクチャラーズタイトルを獲得。 2019年はオット・タナック選手がドライバーズタイトルを獲得したが、マニュファクチャラーズタイトルはあと一歩の所で逃してしまった。 もちろん、2020年シーズンの目標はダブルタイトルである。 ちなみにWRCを戦うヤリスWRCは、ベース車に対し大きく手を加える部分もあるが、レギュレーションによって手を入れられない部分も多い。 つまり、ベース車両の素性が、ラリー車の性能を左右する部分も多いということだ。 2017年のフィンランドラリー取材の際に、GRカンパニーエグゼクティブ・アドバイザー(当時)の嵯峨宏英氏は、次のように語っている。 「ベース車の課題の1つは『重いこと』。 チーム代表のトミ・マキネンに言われたのは『頑丈すぎるよね』でした。 軽ければ戦闘力は上がるので、次期モデルは軽くて頑丈なクルマにする必要があるでしょう。 現時点でそれができていないのは認識しており、次のモデルにつなげていきたい」 さらにTOYOTA GAZOO Racing World Rally Team唯一の日本人エンジニアである川村倫隆氏は「ラリーカーと市販車の共通性は38%(その中の8%が改修を実施)です。 当然、ベース車の素性が上がれば、そのパーセンテージは上がります。 そのために、すべての情報はトヨタにフィードバックしています。 それをやらなければこのプロジェクトの意味がありません」と言う。 今回、東京オートサロン2020で世界初公開された「GRヤリス(別名:ヤリスGR-FOUR)」は、ズバリWRCの知見/ノウハウを盛り込んで開発されたロードカーだ。 「失われた20年」を取り戻すために 開発コンセプトは「Strong Sport Car」で、具体的には「次期WRCホモロゲモデル」「素のままでローカルラリーを勝てる実力を備える」「誰でも買えるスポーツモデル」という3つのキーワードが掲げられた。 開発の陣頭指揮を執る齋藤尚彦氏はこのように語る。 東京オートサロン2020では1986年に登場したトヨタ初のスポーツ4WDである「セリカ GT-FOUR」も展示された(写真:木谷宗義) 「まず、トヨタはスポーツ4WDの『技術』も『技能』も失っていたため、ゼロから学ぶ必要がありました。 われわれは失われた20年を最短で取り戻すために、モータースポーツから学ぶ開発を選択しています。 強いクルマ作りはWRカーの開発を行うTMR(トミ・マキネン・レーシング)から、市販車では考えられない評価はレーシングドライバー/ラリードライバーから学びました」「GRヤリスは、1999年に生産終了した『セリカGT-FOUR』以来20年ぶりの復活となる『スポーツ4WD』です。 トヨタにとって非常に重要なミッションを任されたものの、開発時は生みの苦しみを嫌というほど味わいました」 モリゾウこと豊田章男社長が運転訓練に「スープラ(80系)」を用いていたことは有名だが、実はAWDの運転訓練はセリカGT-FOURではなくスバル「インプレッサWRX STI(GRB)」で行っていた。 豊田社長は「ラリーの練習に励んでいた経験から、スバルのすばらしいAWD技術を肌で感じてきました」と語るが、その裏を返すと「セリカGT-FOURでは通用しない」と感じていたのだろう。 齋藤氏は「これはトヨタのエンジニアにとっては非常に悔しい出来事でした。 しかし、われわれにスポーツAWD作りのノウハウがないので仕方ないですよね……。 この悔しさも開発の糧となっています」と語る。 そこで、現時点で明らかになっていることを中心に解説していきたい。 3ドアのワイドボディに大径タイヤを装着 5ドアボディよりもドアの枚数が少ないことによる軽量化に加えて、WRCのレギュレーション「ホイールハウス改造の規則」に対して有利に働くそうだ。 ただ、単純にドアの枚数を減らしたのではなく、ボディラインも異なり、全高もノーマルの1500-1530mmに対して1460mmと低められる。 ちなみにフェンダーは、トレッド拡大(何と86よりもワイド!)と大径タイヤを収めるためにワイド化されており、全幅は1805mmだ。 エクステリアは、ベースのヤリスにはない3ドアボディだ。 最大の特徴は、シフトレバーの前につく、前後駆動力配分を調整するドライブモードスイッチだ。 また、JBL製オーディオシステムや予防安全パッケージ(トヨタ・セーフティ・センス)、大人が乗っても似合うインテリアコーディネートなど、日本のコンパクトスポーツハッチが苦手としていた部分に関しても抜かりはない。 パワートレインはWRカーと同じく1. 6Lターボながら、GRヤリス用に開発された直列3気筒を搭載する。 専用ブロック/ヘッド、ボールベアリングターボ、排気バルブ大径化などモータースポーツ由来の技術を数多く採用することで、272ps/370Nmのハイパフォーマンスとクラス最軽量/最小サイズを両立している。 「ラリーカーをお手本にチューニングを行い、低回転域のトルクとレスポンスに注力しており、気難しさはないのに速いユニットに仕上がっています」と齋藤氏は言う。 「GRヤリス」は全車に6速MTを採用(写真:トヨタ自動車) トランスミッションは、欧州向けに設定される6速MTをベースに、GRヤリス用に改良。 素早いシフト操作での正確性に加えて、ダイレクトなフィールにもこだわったそうだ。 また、シフトアップ/ダウン時にエンジン回転数を合わせる「iMT制御」も採用される。 AWDシステムはセンターデフを用いず、リアにシンプル/軽量にこだわったハイレスポンスカップリング(電子制御多版クラッチ式)を採用。 前後駆動配分は100:0〜0:100までアクティブに変更されるが、3つのドライブモード(ノーマル 60:40、スポーツ 30:70、トラック 50:50)がセレクト可能。 WRCレギュレーションに合わせた専用フロアを採用 プラットフォームは、フロント周りがノーマルのヤリス用となる「GA-B」だが、リアセクションは1クラス上の「GA-C」をドッキングした専用品だ。 ちなみにWRCのレギュレーションに「エンジンの搭載位置はクランクセンターから25mmの範囲でしか動かせない」とある。 つまり、ベース車のエンジンの搭載位置が重要となるが、「GA-Bでなければこのパッケージは成立しなかった」(齋藤氏)とのことだ。 また、WRCのレギュレーションに「ボディの1番低い部分にサイドシルの平行線を落としたところが基準面となり、そこを基準に一定の範囲でサスペンション取り付け点を決定できる」とあるが、GRヤリスはそこも有利に働くよう、専用フロアになっている。 加えて、より軽量/低重心のためにボンネットとドアはアルミ製、ルーフはCFRP製(ローコストカーボン)の「マルチマテリアルボディ」を採用する。 さらに、バッテリーをリアに配置することで、重量配分の適正化も実施された。 サスペンションは、フロント:ストラット/リア:ダブルウィッシュボーンを採用。 ブレーキは、対向ブレーキキャリパー(フロント:4ポッド、リア:2ポッド)+大径ローター(フロント:2ピース、リア:ドラムインディスク)が奢られる。 クルマ作りは「高い目標」と「課題の明確化」のためにトヨタのさまざまなカンパニーと連携しながら開発を進める「クロスファンクションチーム」で行われたという。 具体的に言うと、商品企画は「GRカンパニー」が担当するが、エンジン・駆動系は「パワートレインカンパニー」、ブレーキ制御は「先進技術開発カンパニー」、シャシー/ボディ/実験などは「コンパクトカーカンパニー」が行っている。 モリゾウこと豊田社長は、次のように語る。 「86はラリーでもレースでも私の大事な相棒です。 スープラもその名にふわさしいクルマとして復活させることができましたが、心の中には『トヨタが自ら作るスポーツカーが欲しい』と言う想いがありました」 「GRヤリスは『勝つためにトヨタが一から作ったスポーツカー』です。 これまでのトヨタ車は一般ユーザーのためのクルマを造り、それをレースに使えるように改造してきましたが今回は違います。 初めからレースに勝つため、普段お客さまが乗るクルマとはどうあるべきか? そんな発想で開発したのがGRヤリスなのです」 応答性のよさは「ランエボ」並み 筆者は、世界初公開に先駆け、GRヤリスのプロトタイプに試乗することができた。 ターマック(富士スピードウェイ内のモビリタ)では市販に限りなく近いプロトタイプだったが、グラベル(ダートの特設コース)では、現行ヴィッツのボディにGRヤリスのコンポーネントが組み合わされた初期のテスト車両に、開発中のラリー用パーツ(強化クラッチ、クロスミッション、サスペンション)と、ラリータイヤが装着された仕様だった。 エンジンは、小排気量ターボながらもターボラグはなく、低回転から湧き出るフラットなトルク特性とレスポンスのよさ、そしてレッドゾーン(7000rpm)までストレスなく回る気持ちよさを備える。 試乗車は本調子ではなかったようで、スペックほどのパフォーマンスは感じなかったものの、アクセルを踏んだときの応答性やツキのよさは、2. 6速MTは、ストロークこそやや長めだが、軽いタッチでカチッと決まるフィーリングは、横置きMTで最良の仕上がりと言っていい。 フットワークは、「軽さは正義」であることを実感。 重量は非公表だが、前後オーバーハングが短いメリットが生きているようで、体感上は1200kgを切るイメージ。 ターマックは路面がウエットなうえに、低速かつRがキツい、ジムカーナのようなコースレイアウトだったが、セオリーどおりに走る限りは4WDを感じさせない素直なハンドリングで、リアの安定性も非常に高い。 と言っても、単なる安定志向のハンドリングとは違い、コーナー進入ではドライバーの操作次第でアンダーもオーバーも可能な自在性を備えていた。 ただ、限界がかなり高いので、その姿勢を維持するためにはドライバーの腕も要求される。 ちなみにドライブモードは、「ノーマル:安定方向」「スポーツ:ノーズが入りやすい」「トラック:バランスのよさ」と、各モードの差は非常にわかりやすかった。 数cm単位のコントロールも可能 しかし、今回のウエット路面に関して言うと、どのモードもリアに対してもう少しフロントが粘ってくれると、一体感や安心感はさらに高まると感じた。 また、シートはホールド性やかけ心地などは問題ないものの、ターマックではやや腰高に感じたのが少々気になった。 グラベルでのテスト走行の様子(写真:トヨタ自動車) 一方、グラベルでは、路面のグリップが低いことも相まって、思い切って振り回して走らせることができた。 また、絶対的なスピードは高いはずだが、クルマの動きがスローに感じるぐらいの余裕も感じられた。 ダートを走って1つ気になったのは、ペダルレイアウトだ。 素早い操作時に、アクセル/ブレーキペダルの間隔がやや広いのが気になった。 クルマがよくなると細かいところが気になってくるのだ。 このあたりは衝突安全にも関わるので変更は難しいと思うが、開発陣も認識しているようなので改善を期待したい。 ターマック/グラベル共に短い時間の試乗だったので、今回はその性能の一部を味見した程度にすぎないが、総じて言うとレベルは非常に高い。 基本は安定志向だが、ドライバーの操作でさまざまな顔を見せてくれるうえ、ドライバーが失敗したらその失敗をシッカリ教えてくれる……つまり、「クルマとの対話」がしやすいのだ。 ちなみにまだ章男社長の「合格」をもらっていないそうなので、市販直前まで開発は続くだろう。 価格は396万円〜456万円 GRヤリスは、トヨタが最も苦手とする「少量生産」にチャレンジしたモデルでもある。 スポーツカー継続のために86はスバル、スープラはBMWとタッグを組んだが、GRヤリスはトヨタで自社生産される。 齋藤氏は「スポーツカーの開発/生産は特別なことではなく、現地現物を基本とし、ムリ/ムダ/ムラをなくす『TPS(トヨタ生産方式)』を愚直にやることがいちばん大事でした」と語っている。 生産は元町工場のスポーツカー専用ライン「GRファクトリー」を新設。 タクトタイム600秒、ベルトコンベアのない特別なラインで1台ずつ丁寧に生産される。 東京オートサロン2020では「GRヤリス」の公開とともに2020年のWRC参戦体制が発表された(写真:トヨタ自動車) WRカーのホモロゲーションを取得するには、ベースとなるモデルが「連続した12カ月間に2万5000台を生産すること」が必要となる。 トヨタ関係者の中には「特殊なモデルだから」と心配する人もいるようだが、世界でも数少ないモータースポーツ直系のスポーツ4WDへの期待は高い。 2万5000台は、あっという間に売り切ってしまうだろう。 まさに「令和の4WDスポーツ」の誕生だ。 GRヤリスを購入することは、トヨタのWRC活動に間接的に協力することになる。 筆者もその1人になりたいと思っている。 外部サイト.

次の

【WRC前提の3ドア】トヨタGRヤリス・プロトタイプ 新開発1.6L 3気筒ターボ 前編(AUTOCAR JAPAN)

齋藤尚彦

WRC降臨モデルを手ごろに 予告映像がインターネット上を賑わせたあと、12月15日に富士スピードウェイで開催されたTGRF(トヨタ ガズー レーシング フェスティバル)で、まだカモフラージュされた状態ながら、いよいよその姿を現したGRヤリス。 そのプロトタイプ車両を、グラベルとターマックのふたつのステージでテストした! このGRヤリスには大きな使命がある。 まずひとつは、WRCマシンのホモロゲーション車両としての役割。 WRCで使われるWRカーは市販車に対して非常に改造範囲が広いとはいえ、ベース車の素性が戦闘力に大きく関わってくる。 車重、前後バランス、サスペンション取り付け位置、空力特性……と、さまざまな点で優れたベース車両が必要なのだ。 その点で現行モデルは車重が30kg重く、空力やサスペンションストロークの点でも妥協を強いられているという。 GRヤリスは年間25000台という生産台数をクリアしてホモロゲーションを取得し、WRCで勝てるマシンの土台となることがひとつ目の大きな使命なのである。 時期WRカーは、さらなるポテンシャルアップを遂げるはず もうひとつが「WRC降臨モデル」を「素の状態でローカルラリーに勝てるポテンシャル」を持つものとして、しかも「誰でも買えるスポーツカー」として世に出すことだ。 つまり手ごろな値段、そして速くなければならない。 GRヤリスは、ヤリスをベースとしながらボディ形状を大胆に変更。 3ドアの、しかもルーフ後端が低く落ち込んだクーペ的なボディを仕立てた。 3ドアとしたのはリヤホイール周辺のボディワークの自由度を高めるため、全高を下げたのはフロアからの高さが規定されているリヤウイングに風を効率よく当てるためといった具合で、すべてのデザインに理由がある。 軽量化のため前後フードと左右のドア、リヤゲードなどの蓋物はアルミ製に。 そして驚くべきことにカーボンルーフが全車に標準装備とされる。 もちろんコストをかければ何でもできるが、「誰でも買えるスポーツカー」としてそれを実現するために、SMC(シートモールディング・コンパウンド)と呼ばれる短繊維の樹脂で固めるかたちの成形法を用いている。 表面がマーブル模様となるのが特徴だ。 6Lターボ。 これも特徴的なのは直列3気筒だとい うことである。 おそらく3気筒ユニットとしては世界でも最大の排 気量になるが、それでも4気筒としなかったのは軽量・ コンパクト化のため。 WRカーだけではなく、WRC R5車両として市販車に近いかたちでの競技車両としても販売を視 野に入れていることが、その前提にはある。 スペースも狭まるが、3気筒を選択して搭載。 トランスミッションは、こちらも専用の6速MTで、自動ブリッピング機能などを備える電子制御のiMTとなる。 前後駆動力配分は3段階に切り替え可能。 ノーマルが曲がりやすく直進安定性も高い60:40、スポーツがFRライクな30:70、トラックがサーキットでもグラベルでも最速という50:50に設定されている。 これら装備は、オプションか? もしくはグレードを設けるのだろうか ヴィッツの皮を被ったGRヤリスが踊る 前置きが長くなったが、いよいよ走りの印象に触れていこう。 まずグラベルで現行ヴィッツの外観で艤装したテスト車に乗って得た最初の印象は、とにかく軽快だということ。 クルマが小さく、軽く、剛性感が高いから、操作に対するレスポンスがきわめて鋭いのだ。 エンジンも、やはりパワフルなのはもちろんアクセル操作に対するツキがよく、それがマシンコントロール性の高さにも貢献している。 3気筒のネガはまったく感じられず、低回転域から回転、トルクの出方ともども非常にスムーズなことにも感心させられる。 そして4WDシステムは、切り替えればハッキリとその差がわかるほど、クルマのキャラクターを変化させられる。 挙動は各モードのコンセプトそのままで、ノーマルは非常に安定していて走りやすく、スポーツに切り替えればリヤを思い切り振り出す走りが、より簡単にできるようになる。 それでいて前輪にもしっかり駆動力が伝わっているから、最後の最後で安定性が担保されるという印象だ。 トラックの50:50が一番速いというと意外と思われるかもしれない。 しかし走らせてみると、リヤが流れた状態でも確かなトラクションがかかってフロントが引っ張り、リヤも流れ過ぎない絶妙な姿勢を作りやすい。 一方、ターンインで姿勢を作るのに、ややオーバーアクション気味な操作が必要なのは気になった。 安定性が高いとも言えるので難しいところではあるけれど。 とはいえグラベルで乗ったのはギヤボックスやデフなどが市販スペックとは異なる仕様だったので、市販時にはまた違った印象になるのだろう。 少量生産でも利益を出し、 スポーツカーをつくり続ける使命 ターマックは富士スピードウェイのモビリタで、パイロンを並べた広場に水をまいたところで走らせただけ。 しかも筆者のテスト中はトランスファーもしくはリヤデフがオーバーヒートして肝心な4WDシステムがほとんど機能していない状況だったので、挙動云々については多くを細かく語ることはできない。 それでも言えるのは、ボディやステアリングまわりなどの剛性感がきわめて高いレベルにあり、またシフトフィールをはじめとする手の触れる部分の感触が凄まじく上質だということだ。 回すほどに音が澄んでいき、回転上昇に弾みがつくエンジンのフィーリング、精度感にも圧倒された。 おそらくこれなら、何気ないふだん使いのときにも満足感、高いに違いない。 振り返れば2007年に販売を終了したMR-Sが最後になるだろ うか。 トヨタは共同開発の86やGRスープラを発売はしたものの 、とにかく長い間、自社開発のスポーツカーは持っていなかった。 つまり開発チームは、技術もノウハウもまったく足りないなか、しかも限られた時間で、この使命を果たさなければならなかったのだと、開発責任者の齋藤尚彦氏は振り返る。 そこで得られたデータを縦割り組織でではなく、チームを横断したかたちで活用してすぐに開発に反映させていくクロスファンクショナルチームで具現化していくという手法が取られたという。 まさにレーシングガレージが作ったスポーツカーのようだが、齋藤氏によれば、これは「従来のトヨタ自動車という大会社、大組織では無理なことで、カンパニー制を採用したことで小回りが効くようになったからこそ可能だった」という。 小規模生産ながら、それをクリアできる体制ができたからこそ、GRヤリスは世に出ることとなった。 トヨタとしては、先に書いたように手ごろな価格でこのクルマを出し、しかも継続して楽しんでもらえるような仕掛けもさまざま考えているようだから、この後の発表も楽しみに待ちたい。 とにかくこのクルマ、走ることが好きな人なら、大いに期待して待っていて間違いない1台だと断言しよう!

次の

斎藤明彦

齋藤尚彦

WRC降臨モデルを手ごろに 予告映像がインターネット上を賑わせたあと、12月15日に富士スピードウェイで開催されたTGRF(トヨタ ガズー レーシング フェスティバル)で、まだカモフラージュされた状態ながら、いよいよその姿を現したGRヤリス。 そのプロトタイプ車両を、グラベルとターマックのふたつのステージでテストした! このGRヤリスには大きな使命がある。 まずひとつは、WRCマシンのホモロゲーション車両としての役割。 WRCで使われるWRカーは市販車に対して非常に改造範囲が広いとはいえ、ベース車の素性が戦闘力に大きく関わってくる。 車重、前後バランス、サスペンション取り付け位置、空力特性……と、さまざまな点で優れたベース車両が必要なのだ。 その点で現行モデルは車重が30kg重く、空力やサスペンションストロークの点でも妥協を強いられているという。 GRヤリスは年間25000台という生産台数をクリアしてホモロゲーションを取得し、WRCで勝てるマシンの土台となることがひとつ目の大きな使命なのである。 時期WRカーは、さらなるポテンシャルアップを遂げるはず もうひとつが「WRC降臨モデル」を「素の状態でローカルラリーに勝てるポテンシャル」を持つものとして、しかも「誰でも買えるスポーツカー」として世に出すことだ。 つまり手ごろな値段、そして速くなければならない。 GRヤリスは、ヤリスをベースとしながらボディ形状を大胆に変更。 3ドアの、しかもルーフ後端が低く落ち込んだクーペ的なボディを仕立てた。 3ドアとしたのはリヤホイール周辺のボディワークの自由度を高めるため、全高を下げたのはフロアからの高さが規定されているリヤウイングに風を効率よく当てるためといった具合で、すべてのデザインに理由がある。 軽量化のため前後フードと左右のドア、リヤゲードなどの蓋物はアルミ製に。 そして驚くべきことにカーボンルーフが全車に標準装備とされる。 もちろんコストをかければ何でもできるが、「誰でも買えるスポーツカー」としてそれを実現するために、SMC(シートモールディング・コンパウンド)と呼ばれる短繊維の樹脂で固めるかたちの成形法を用いている。 表面がマーブル模様となるのが特徴だ。 6Lターボ。 これも特徴的なのは直列3気筒だとい うことである。 おそらく3気筒ユニットとしては世界でも最大の排 気量になるが、それでも4気筒としなかったのは軽量・ コンパクト化のため。 WRカーだけではなく、WRC R5車両として市販車に近いかたちでの競技車両としても販売を視 野に入れていることが、その前提にはある。 スペースも狭まるが、3気筒を選択して搭載。 トランスミッションは、こちらも専用の6速MTで、自動ブリッピング機能などを備える電子制御のiMTとなる。 前後駆動力配分は3段階に切り替え可能。 ノーマルが曲がりやすく直進安定性も高い60:40、スポーツがFRライクな30:70、トラックがサーキットでもグラベルでも最速という50:50に設定されている。 これら装備は、オプションか? もしくはグレードを設けるのだろうか ヴィッツの皮を被ったGRヤリスが踊る 前置きが長くなったが、いよいよ走りの印象に触れていこう。 まずグラベルで現行ヴィッツの外観で艤装したテスト車に乗って得た最初の印象は、とにかく軽快だということ。 クルマが小さく、軽く、剛性感が高いから、操作に対するレスポンスがきわめて鋭いのだ。 エンジンも、やはりパワフルなのはもちろんアクセル操作に対するツキがよく、それがマシンコントロール性の高さにも貢献している。 3気筒のネガはまったく感じられず、低回転域から回転、トルクの出方ともども非常にスムーズなことにも感心させられる。 そして4WDシステムは、切り替えればハッキリとその差がわかるほど、クルマのキャラクターを変化させられる。 挙動は各モードのコンセプトそのままで、ノーマルは非常に安定していて走りやすく、スポーツに切り替えればリヤを思い切り振り出す走りが、より簡単にできるようになる。 それでいて前輪にもしっかり駆動力が伝わっているから、最後の最後で安定性が担保されるという印象だ。 トラックの50:50が一番速いというと意外と思われるかもしれない。 しかし走らせてみると、リヤが流れた状態でも確かなトラクションがかかってフロントが引っ張り、リヤも流れ過ぎない絶妙な姿勢を作りやすい。 一方、ターンインで姿勢を作るのに、ややオーバーアクション気味な操作が必要なのは気になった。 安定性が高いとも言えるので難しいところではあるけれど。 とはいえグラベルで乗ったのはギヤボックスやデフなどが市販スペックとは異なる仕様だったので、市販時にはまた違った印象になるのだろう。 少量生産でも利益を出し、 スポーツカーをつくり続ける使命 ターマックは富士スピードウェイのモビリタで、パイロンを並べた広場に水をまいたところで走らせただけ。 しかも筆者のテスト中はトランスファーもしくはリヤデフがオーバーヒートして肝心な4WDシステムがほとんど機能していない状況だったので、挙動云々については多くを細かく語ることはできない。 それでも言えるのは、ボディやステアリングまわりなどの剛性感がきわめて高いレベルにあり、またシフトフィールをはじめとする手の触れる部分の感触が凄まじく上質だということだ。 回すほどに音が澄んでいき、回転上昇に弾みがつくエンジンのフィーリング、精度感にも圧倒された。 おそらくこれなら、何気ないふだん使いのときにも満足感、高いに違いない。 振り返れば2007年に販売を終了したMR-Sが最後になるだろ うか。 トヨタは共同開発の86やGRスープラを発売はしたものの 、とにかく長い間、自社開発のスポーツカーは持っていなかった。 つまり開発チームは、技術もノウハウもまったく足りないなか、しかも限られた時間で、この使命を果たさなければならなかったのだと、開発責任者の齋藤尚彦氏は振り返る。 そこで得られたデータを縦割り組織でではなく、チームを横断したかたちで活用してすぐに開発に反映させていくクロスファンクショナルチームで具現化していくという手法が取られたという。 まさにレーシングガレージが作ったスポーツカーのようだが、齋藤氏によれば、これは「従来のトヨタ自動車という大会社、大組織では無理なことで、カンパニー制を採用したことで小回りが効くようになったからこそ可能だった」という。 小規模生産ながら、それをクリアできる体制ができたからこそ、GRヤリスは世に出ることとなった。 トヨタとしては、先に書いたように手ごろな価格でこのクルマを出し、しかも継続して楽しんでもらえるような仕掛けもさまざま考えているようだから、この後の発表も楽しみに待ちたい。 とにかくこのクルマ、走ることが好きな人なら、大いに期待して待っていて間違いない1台だと断言しよう!

次の